キミの歌が聴きたい   作:オオサンショウウオさん

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10話 高鳴る・オモイ

 

「──成程。私の呪霊を蘭華の護衛に」

 

歌姫に手を引かれて教室に戻ってきた蘭華は、教室に居たゲームをしている悟と傑、雑誌を読んでいた硝子たち三人に夜蛾に言われた事を話した。

 

「そ。夏油の呪霊が護衛についてれば、蘭華が高専の外に居ても比較的安全だし、それにあんたたちも蘭華の夢、応援してるんでしょ?」

「まーそりゃあねぇ」

「えぇ、否定するつもりはありません」

 

硝子と傑は肯定的だった。

 

「俺はどっちでもいい。てか興味ねー」

 

悟はぐでっとソファーに寝そべってゲームをしながら言う。最近の流行りはモンスターを狩る系のアレらしい。

 

「ねぇ、夏油って呪霊常に出しといても負担ないの?」

 

紫煙を漂わせながら硝子は問いかける。

 

「あぁ、戦闘でもしない限りはほとんどないと言ってもいい。歌姫先輩の言う通り、護衛に付けるならぴったりだと思う」

「ふふん。じゃあ決まりね! あー! 夏油の術式はこういう時に便利ね〜……どっかのサングラスと違って」

 

大音量でゲームをしている悟を冷やかな目で見ながら傑の術式をわざとらしく褒める。

 

「あぁん!? 聞こえてんぞ、歌姫ェ!」

「あら〜、そんなに大きな音で遊んでるからてっきり聞こえていないのかと……ってかいい加減先輩を付けなさいよ! 少しは歳上を敬う心とか持ったらどうなの!?」

「はーん? 敬うの意味調べてこいよ。歌姫を敬う理由が何処にあんだよ」

 

まるで水と油のように毎回口喧嘩に発展する悟と歌姫を放っておき、傑と硝子は蘭華を手招きする。

 

「止めた方がいいよね?」

「どうせ歌姫先輩が負けるから大丈夫さ。悟の性格の悪さを舐めない方がいいよ」

「あんたも大概じゃん、ウケる」

「私はまだ気遣いができてるだろう……悟ほど酷くはないつもりだ」

「……ほんとに止めなくて大丈夫かなぁ」

 

あわあわと喧嘩する二人を蘭華は見ていたが、二人に大丈夫と言われて距離を取った。

 

「それで、話を戻すけどキミは本気でアイドルを目指すつもりかい?」

「……うん。私、シェリルさんみたいに、歌でみんなを幸せにしたい! みんなと呪術師になる事も考えてたけど……私には呪術の才能、あんまり無いみたいだし……アハハ」

 

自嘲気味に笑う蘭華を見て、傑と硝子は苦笑いを浮かべた。

 

「そっか。まぁ、蘭華ならなれるよ。なんたって私の親友だからね」

「硝子ちゃん……ありがとう」

「呪術の才能があろうが無かろうが、キミは私たちのクラスメイトで……友達だ。目指す先は違えど、それで私たちの仲が引き裂かれる事は無い」

「ヒュー、夏油キザっぽ〜い」

「え? そうかな?」

 

傑は思いを口にしたまでだ、と言ったが側から見ればキザなセリフを言っていた。傑が塩顔の体格の良いイケメンだから違和感があまり無いのだろう。蘭華は傑の言葉に少しだけ照れていた。

 

「じゃあさっさとヤガセンに言ってこいよ。んで、傑! ゲームの続きしようぜ!」

「ご、ごめんね五条くん! 今から夏油くんと行ってくるから……」

「悟、戻ってきたら私の防具作りからだよ」

「おう、それまで納品クエやっとくわ」

「……何の話?」

「あぁ、ゲームの話だよ。すまないね」

 

蘭華と傑は談笑をしつつ教室から姿を消した。残ったのは悟、硝子、歌姫の三人。

 

「はぁ……これで良かったの?」

「バッチリです、歌姫先輩」

 

蘭華たちの足音が聞こえなくなったのを確認した歌姫は疲れた表情で硝子を見る。

 

 

歌姫があの時、蘭華に声を掛けたのは偶然では無い。硝子たちの差し金だ。夜蛾にスカウトの話をしに行った蘭華の帰りが遅く、どうしたのかと心配していた所、あそこに居るぞ。と悟が言いながら指さす先で落ち込んでいる様子の蘭華を発見。

 

硝子は迎えに行こうとしたが、傑がそれを制止する。

 

「待って。硝子が行っても……いや、私たちが行っても、彼女は本音を話さないと思う」

 

約一年間、傑が蘭華と過ごしてきた中で見てきた彼女の性格や態度。純粋で、前向きで、何処にでもいる様な女子高生……呪術師になるにはお世辞にも向いているとは言えないくらい、優しく、気遣いができる蘭華が素直に自分たちに悩みを打ち明けるとは思えなかった。きっと、笑って誤魔化すだろう。

 

「何で?」

 

硝子は少しムスっとした顔で傑を見つめる。

 

「彼女の事なら、君の方がよく分かってるだろう?」

 

諭すようにそう言うと、硝子は深くため息を吐いた。

 

「……はぁ〜……分かってるよ。分かってるんだけどね。悩むなら相談くらいして欲しいじゃん」

「そんなの、ほっときゃいいだろ硝子」

 

悟はゲームを側に置き、グッと凝りをほぐしていた。

 

「悟」

「あのさぁ、相談しないくらいの悩みなら放置して良くね? わざわざ出向くまでもねーだろ」

 

悟が不思議そうにそう言うと、硝子は呆れて……というか引いていた。

 

「うーわ、クズらしい回答」

「んだとコラ!」

「……ちょっと五条騒ぎすぎ。廊下まで声聞こえてるわよ」

 

吠える悟の声を聴いて教室に顔を覗かせたのは先輩の歌姫だった。五条を見る目はとても嫌そうだ。

 

「あれ、歌姫先輩何してるんですか?」

「任務終わりに夜蛾先生に用事があったからちょっとね……蘭華は?」

 

歌姫はクズ二人に視線を合わせないようにキョロキョロと教室内を見るが、その姿はない。首を傾げる歌姫に、硝子は訳を話す。

 

「──なるほどね。それで、誰が行くかって話をしてたの」

 

まぁ確かに、あの子はこの三人に悩みとか言わなそうね、気を遣って。歌姫は腕を組んで分かるわ、と頷く。

 

「あ、歌姫が行けば良くね?」

 

またゲームをし始めていた悟は歌姫の方すら見ずに言う。その不躾な態度に歌姫の額にピキリ、と青筋が増える。

 

「確かに、この中だと歌姫先輩に行ってもらうのが一番良いか」

「ちょっと夏油、五条」

「硝子。逆にこれ以上の適任はいるかい?」

 

そう言われると硝子は言い返せない。冥冥という先輩も居るが、蘭華とは挨拶をした後あまり会っていないし、遊びに行く仲で、信頼できる歌姫が適任か……と納得した。

 

「分かったわ。かわいい後輩の為だもの! 先輩が一肌脱いであげる」

「歌姫先輩頼もし〜」

「ほら、さっさと行けよ歌姫〜」

五条(あんた)なんかに指示されなくても行くわよ!?」

 

……こうして行く前に一悶着あったが、これがあの時歌姫があの場に居た理由である。

 

 

 

 

 

 

「……傑と蘭華か? 何の用だ」

「すみません。彼女の事で少し」

 

傑がそう言うと夜蛾は険しい表情になる。

 

「蘭華にはもう言ったが、許可は出来んぞ」

「えぇ、分かっています。でも、それは護衛がいない場合でしょう?」

「……お前がやるとでも言うのか?」

「まぁ、私が……というよりは私の使役する呪霊が、ですけどね」

 

腕を組み沈黙する夜蛾。強面の彼がそうするとその顔を見慣れていても緊張してしまう。ごくり、と蘭華は固唾を飲む。

 

「あの、夜蛾先生!」

「どうした、蘭華」

「私、今まで自分の立場とか、深く考えた事無くて……でも、みんなに迷惑かけてるなって言うのは感じてました」

「蘭華、それは違うよ」

「ううん……違わないよ夏油くん……五条くんと夏油くんは最強だし、硝子ちゃんは反転術式使えるし、歌姫先輩も、冥冥さんも頼りになるし……私だけ、曖昧な力で、特別な力があるって言われて……みんなから与えられるだけで良いのかなって」

 

いつも笑顔で、前向きだと思っていた少女の吐露に、傑は目を見開くほど驚く。

 

「……」

「みんなに迷惑掛けるくらいなら諦めよう……最初はそう考えてたんです。でも──運命は自分の手で切り拓くものだって、憧れの人が言ってたのを思い出したんです」

 

夜蛾は真っ直ぐ自分の目を見つめる少女に強い覚悟が宿っている事を感じ取った。何かを成し遂げたいという強い意志を。

 

「お願いします夜蛾先生! 私は、シェリルさんみたいになりたいんです!」

 

蘭華は真っ直ぐ頭を下げる。続いて傑も、頭を下げた。

 

「私からもお願いします。彼女に、夢を追わせてあげてください」

 

二人の想いを受けた夜蛾は暫しの沈黙の後、口を開いた。

 

「……いいだろう」

「ほんとですか!?」

 

やったー! と、喜びながら傑とハイタッチをしている蘭華を見て夜蛾はごほん、とわざとらしい咳をする。

 

「──ただし! 条件がある!」

「じょ、条件……?」

「蘭華、お前が卒業までに成果が出ず、燻るようなら、夢を追いかけるのを即刻辞めて呪術師になれ」

 

夜蛾の条件を聞いた蘭華はあれ、と思い聞き返す。

 

「で、でも夜蛾先生……卒業したら呪術と関係ない生活を送ってもいいって言ってませんでした?」

「あくまでそれはお前自身がその道を選ぶなら支援する、という話だ。芸能界はただでさえ、呪いが発生しやすい場所……そこに行くと言うのならば、それなりの覚悟をしてもらうぞ」

「……わかりました。頑張ります!」

 

気持ちを引き締めるようにグッと拳を握りしめている蘭華を見て傑は前向きだな、と思っていた。

 

「それと蘭華。これから外出する際にはこの呪骸(チョメ)を持ち歩け」

 

手渡されたソレを見て蘭華は首を傾げた。小さなキーホルダーサイズのアヒル型の所謂きもかわいいと呼ばれそうなモノ。

 

(かわいい……)

「これは……呪骸(じゅがい)ですか?」

 

ぬいぐるみを見つつ傑は夜蛾に問いかける。

 

呪骸とは呪いを内包する自立可能な無生物の総称である。内包されている呪力は術師から与えられ、それが底を尽きると動かなくなるが、蘭華に渡されたものはほぼ動くことはなく、緊急時の為にあるので呪力の消費はほぼない。

 

傀儡呪術学(かいらいじゅじゅつがく)という夜蛾の術式があってこそ生み出されたモノだ。ちなみに狙ってかわいい系のモノを作っているわけではない。

 

「そうだ。そいつには持ち主に危険が迫った時、私に連絡が来るようにしてある」

 

よく見ると、夜蛾の側にも色違いのアヒルのぬいぐるみが置かれていた。

 

「……成程、私の呪霊と合わせて二重の防犯という事ですか」

「結果としてそう言う事になる」

 

なんだ、最初から夜蛾先生もそのつもりだったのか。と傑は小さく呟いた。なんだかんだ彼も生徒に甘いらしい。

 

「話は終わりか?」

「あ、はい! 終わりです!」

「そうか……なら、傑に話があるから蘭華、お前は教室に戻りなさい」

「分かりました!」

 

蘭華は職員室のドアの前でありがとうございました! と元気よく言うとにやけ顔のまま出て行った。直後、廊下を走る足音が聞こえ、夜蛾は溜め息を吐く。

 

「全く……」

「ハハ、それだけ嬉しかったんですよ。彼女にとって」

「ふぅ……今回は多めに見るとしよう」

 

今頃教室で硝子たちと騒いでるんだろうな、と傑はその光景が目に浮かぶ。

 

「それで、話とは?」

 

わざわざ自分だけを残した辺り、面倒な事だろう。

 

「悟にも後で伝えるつもりだが……どうも最近、呪霊の動きが活発になっている」

「呪詛師たちですか?」

「原因は不明だ。だが、去年と比べると明らかに行方不明者の数も増えている」

「ふむ……それで、私たちは何をすれば?」

「活発になっている場所の調査をしてもらう。いけるか?」

「分かりました。任せてください」

「こちらでも手は回しておく。何か異変があればすぐ知らせろ、いいな?」

「はい」

 




良いお年を!
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