キミの歌が聴きたい   作:オオサンショウウオさん

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あけましておめでとう御座います。次話くらいから壊玉・玉折編に入ると思います


11話 未来への贈り物

 

 

元旦が終わり、数日──初詣やおせちを一緒に食べたいつもの面々+歌姫は教室に集まっていた。教室内には正月らしい装飾が所々飾られており、後ろの空いている棚にはその時に撮った顔に黒いマルやバツを付けた蘭華たちの写真が置かれていた。

鏡餅などが置かれっぱなしな所を見るとまだまだ正月気分が抜けていないことを感じさせられる。本当はここに冥冥も居る予定であったが、残念ながら任務の為不在である。

 

「あ、そうだ。私、みんなに聞いてみたい事があったの!」

 

ふと、蘭華は思い出したかのように手を叩く。

 

「みんなには、夢ってあるの?」

「夢だぁ〜?」

 

蘭華の問いに悟がつまらなそうな顔で聞き返す。

 

「うん! 五条くんや夏油くん、硝子ちゃんも、歌姫先輩も才能があって呪術高専(ココ)に来たって言うのは分かるけど……夢とか、そういうの持ってるのかな〜って」

「夢か……あまり考えた事は無かったな」

 

傑は顎に手を当て、考える。『弱者生存』それがあるべき姿だと、傑は信じていた。だが、それが傑自身の夢か? と問われると否である。あくまでこれは論理思考で、そこに傑の意思は存在していない。将来どうしたいか、は未定のまま。

 

「私も、考えた事ないや」

 

硝子も自分の夢について考えた事はあまりなく、反転術式による治療も自分ができるからやっている。という作業感が否ない。将来的に医師免許でも取ろうかな? と最近思ってはいるが、夢というより目的だろう。

 

「俺、今日の晩飯はステーキが良い」

「悟……それは夢じゃなくて願望だよ」

「似たようなもんじゃね?」

 

悟は心底どうでも良さそうにあくびをしていた。そして、正月を思い出したのか餅も食いてえと溢す。

 

「そうね……私は、将来は教職に就くのも悪くないと思っているわ」

 

この中で明確に将来の事を考えて居たのは歌姫だった。二級術師として日々任務にあたっている歌姫だが、一級術師の冥冥(めいめい)に同行したりしていると、自分との実力の違いや、伸び悩む階級にこのままで良いのだろうか、と考える事も少なくない。術師は職業柄、身内の死が多く万年人手不足。そこで考えたのが後任の育成だった。歌姫の言う教職とは、高専教師の事だ。

 

「さっすが歌姫先輩。将来の事ちゃんと考えてんだ」

 

硝子は感心したように頷く。硝子とは反対に、悟は半笑いでえー? と声を漏らす。

 

「歌姫が教師ぃ? 無理でしょ。弱いし」

「強さだけが教師になれる条件じゃないのよ! あと敬語!」

 

歌姫がうがー! と吠え、悟がケケケと悪魔のように笑う。

 

「ねぇ! みんなが夢を見つけて、叶えたら開ける、タイムカプセル作ろうよ!」

「何だそれ?」

「あぁ、悟は知らないのか。タイムカプセルというのは、未来の自分に宛てた手紙を入れたり、当日の……例えば今日の新聞を入れたりして、未来で開けて懐かしみ、楽しむものさ」

「ふーん……何か面白そうだな」

 

傑の説明を聞いた悟は興味深そうに呟く。こういったイベントには目がない悟はどんな物か想像を膨らませていた。

 

「タイムカプセル……小学生の時に埋めたかな? あんまり覚えてないけど」

「へぇ〜、懐かしくていいんじゃない?」

「ですよね! 高専って、同級生も少ないし、その……命に関わる仕事が多いから、何か記念に残したりできたらいいなって思ってて」

 

今日見ていた人が明日には居ない。呪霊に襲われる人たちは増え続けており、呪術師の人数が足りなくなってきている現状、そういった悲しい出来事は多い。そう授業で聞いた蘭華は前々から何か記念に残しておきたいと思っていた。

 

「うん。やろうか、タイムカプセル。学生っぽくて良いじゃないか」

「いつ開けるとか決めとく?」

「えーっと……どうしよう、十年とか?」

「長くね? 俺忘れそうだわ」

「まぁ、埋める時期が遅いけど、元々これくらいの年数じゃないかい?」

「じゃあ、決まりね! 十年後の、今日!」

「2016年の一月か……」

「よっしゃ、早速穴掘ろうぜ! グラウンドで良いよな! 隅の方ならバレねーだろ!」

 

悟はやる気満々のようで、もう腕まくりをしている。

 

「待つんだ悟。穴を掘る前に物を入れる箱と、中身を決めないと」

「んーと、硬くて丈夫な箱だよね……」

「適当な硬い箱みたいな呪物なら家にあるぜ?」

 

悟が実家の物置を思い出しながら提案する。

 

「いや、呪いが籠ったモノは辞めておこう。私たちが知らないヤツが勝手に掘り起こしてしまう可能性がある。例えば夜蛾先生とかね」

「そっか。なら食堂とかで菓子の缶とかパクって来ようぜ!」

「パクるって……そこは普通に貰おうよ、五条くん」

「蘭華、お前真面目かよ! ゴミになんだから許可なんか要らねーだろ!」

 

悟の言葉に一瞬確かに、と納得しかけたがやっぱり黙って持ち出すのはダメと首を振る。

 

「箱はそれでいいとして、中身は何入れる? 無難に将来の自分に対する手紙とか?」

「手紙なんてつまんねーよ硝子。もっとさ、面白い物入れようぜ!」

「ふーん、例えば?」

 

硝子が聞くと悟は無言で口角を上げる。その顔を見た面々は嫌な予感がした。

 

「んなの決まってんだろ、今自分が一番大切にしてるモン!」

 

思ったより普通な提案に少し安心したが、一人だけ内心穏やかではなかった。

 

「今一番か……すぐには思いつかないな」

「タバコとか?」

「硝子、それは流石に……」

「ハハ、冗談ですよ歌姫先輩」

 

(どうしよう、今一番大切にしてる物って言えば……)

 

蘭華は最近数年の運を使い果たしてしまったとも言えるような物が当たった。それは、シェリルのサインである。CDを買うと応募券がもらえ、購入制限されている蘭華は何としてでも欲しいと夜な夜なお祈りをしながら応募し、それが当選したと聞いた時には思わず大声で叫んでしまった。当然、何事かとやってきた硝子たちに事情を話すと、あぁ、良かったね。と生暖かい目で見られた。

 

めちゃくちゃ凄いことなんだよ! と熱弁しても名前は知っていてもそこまで興味はない三人に凄さが伝わらず、いつか分かってもらうんだ。と蘭華はその時胸の内で決心した。

 

──ふと、蘭華は悟と目が合った。

 

その顔は腹立たしいくらいニヤついており、「どうすんのお前、どうすんの?」と声に出さずとも顔で語っていた。

 

「蘭華ぁ、お前、何入れんの?」

「え!? ど、ドウシヨウカナー」

「そういやさ〜、お前最近めちゃくちゃ大切にしてるモン、あったよなぁ」

「そ! そんな物アッタカナー……」

「シェリルだっけ? そいつのサイン、入れようぜ!」

 

悟は自身と目を合わせないようにしている蘭華に向けて清々しい程の笑顔で言った。

 

「あーあー! 聞こえません!」

「俺たちも大事なモン入れるんだぞ? お前だけ違う物入れたら変だろ」

「で、でもサインは別だよ!」

「んなの紙に同じの描けばいいだろ? 俺が描いてやんよ」

「全然価値が違うんだけど!」

 

サインの価値を全く理解していない悟は首を傾げながら言う。

 

「ちょっと五条! 蘭華を虐めるんじゃないわよ!」

「虐めてねーし。てか歌姫居たの?」

「居たわよ、最初から!!」

「ふーん。分かんなかったわ、弱いし」

 

キレた歌姫は逃げた悟と共に教室を飛び出していった。その様子をあちゃー、と言いながら蘭華は見送るしか無かった。

 

「あれ、悟と歌姫先輩は?」

「えーっと、今教室から出ていっちゃった……」

 

アハハ、と蘭華が笑うと傑は呆れていた。

 

「まぁいいや……その内戻ってくるだろうし……それより、キミはもう何を入れるか決めたかい?」

「わ、私はまだかなー! 夏油くんは?」

 

何故か焦る蘭華を不思議に思う傑だったが、まぁいいか。と流す事にした。

 

「私は──」

 

傑が答えようとした時、ドタバタと外から音が聞こえてきた。

 

「おーい! 箱パクってきたぜー!」

 

傑たちが視線を移すと、悟が両手でクッキーの缶を持ちながら笑顔で入ってきた。歌姫の姿はない。

 

「おかえり悟。いい箱を持ってきたね」

「へへッ、だろ?」

「五条、歌姫先輩は?」

「ん? 撒いてきたけど? そのうち戻ってくんだろ」

「ご、五条くん……」

 

硝子の問いに何事も無かったかのように受け流す悟はそんな事より、と缶を机に置く。

 

「んじゃ、ここに物入れようぜ!」

「あー、私今持ってないから取ってくるわ」

「私も、部屋に置いてあるから取りに行かないと」

「そっか。待ってるから早く取ってこいよ〜。蘭華、お前は?」

「わ、私も取ってくるね!」

 

そうして、三人は教室から出て各々の自室へと戻る。残った悟は早く持ってこねーかな、とあくびをしながら待っていた。

 

「ハー、ハー……五条!!」

 

三人が出ていってから数分後、肩で息をしながら鬼の形相をした歌姫が帰ってきた。

 

「おっせーぞ歌姫〜。他の三人ここに入れるモン取りに行ったからお前も行ってこいって」

「はぁ!? あ、あんたねぇ……!」

 

悪びれる様子もなく携帯を触っている悟に歌姫はまた怒りが噴火しそうになったが、他の三人を待たせる訳には行かないと己に言い聞かせる。

 

「入れるモンねーなら別にいいけど?」

「ぐ……今取りに行くわよ!! 後敬語使いなさい!」

 

そうして歌姫も居なくなり、教室には悟一人だけになった。暇になった悟はふと、この場にいない人間の事を思い出した。

 

「あ、そうだ。冥さんの分、何入れるか聞いとくか」

 

連絡先をスクロールし、通話を押す。

 

『もしもし』

「あ、冥さん? 今大丈夫そ?」

『大丈夫だよ。任務は終わったからね。それにしても珍しいね、キミから掛けて来るなんて』

「いや〜今さ〜、みんなでタイムカプセル埋めよう! ってやってんだけど冥さんの分何入れようかって思って」

『タイムカプセルか……そうだね──』

 

──お金で頼むよ。

 

生粋の守銭奴である冥冥は迷う事なくそう言った。

 

「……ちなみにいくら?」

『フフ……キミの気持ちで頼むよ』

「はぁ……わかったよ、冥さんの名前書いて袋に入れとくわ」

『ありがとう、五条くん。あぁ、それと一ついいかな。早乙女蘭華についてだけど』

「あ? 蘭華?」

 

冥冥から出された名前に悟は怪訝な顔で返す。

 

『彼女の事、キチンと見ておかないとダメだよ』

「ハァ? どういう意味それ」

 

意味深な言い方に悟の頭上に?マークが浮かぶ。

 

『最近、上層部辺りがキナ臭くてね。彼女……蘭華は立場上、狙われやすい。術師にも、呪詛師にもね』

「ふーん……てか冥さん蘭華と仲良かったっけ?」

『いいや? そこまで深い仲ではないよ。でも彼女の歌には金の匂いがした』

 

金になりそうな芽を守れ……と、つまりはそう言いたかったらしい。悟も夜蛾から呪霊の動きが活発になっている事を聞いていたので、冥冥の言葉もあながち間違いではないか、と思う。

 

『それじゃあね。蘭華にはよろしく言っておいてくれ五条くん』

「はいはい。言っとくよ」

 

(唾付ける気満々じゃんこの人。まぁ金に正直って所が信用できるか……あー、めんどくせ)

 

財布からポケットマネーを缶に入れた悟は他が戻って来るのを待つ。

 

「あれ、私が最初か」

 

小さな袋を片手に傑が戻ってきた。

 

「おっせ〜ぞ傑〜!」

「ごめんごめん」

「傑は何入れんの?」

 

片手で収まる中身が見えない小さな袋を見つつ悟が問いかけると、傑は少しだけ口角を上げた。

 

「今話したら楽しみが無くなるじゃないか。秘密だよ」

「そっかー、そういう楽しみ方なんだよな、コレ」

 

カランコロン。悟の私物と冥冥の分が入れられた箱が机に置かれる。

 

「ん?……この封筒は?」

「冥さんの。さっき電話した」

「へぇ、そうなのか……何となく中身が分かる気がする」

 

薄い封筒の中身を察する傑も缶の中に持ってきたモノを入れた。

 

「持ってきたよ〜」

 

硝子と歌姫も各々入れるものを片手に帰ってきた。歌姫はまだ五条を睨んだままだが。

 

「硝子、蘭華は?」

「あー……なんか部屋でドタバタしてたし遅れて来るんじゃない?」

「はぁ……あんたが余計な事言うからよ五条」

「俺のせいかよ」

「何を言ったんだい?」

「別に、シェリル? って奴ののサイン埋めるだろ? って聞いただけ」

 

悟がそう言うと硝子と傑はうわぁとでも言いたげな顔をしていた。

 

「悟……彼女がシェリル・レーゲンにどれだけ憧れているか知っているだろう?」

「知ってるっつの。あの部屋(グッズまみれの部屋)掃除したの俺と傑だし」

「それならさ〜、シェリルのサインがめちゃくちゃ大事な物って分かるじゃん」

「サインなんて誰が描いても一緒だろ。俺が同じの描いてやるって言ったらキレてたけど」

「えぇ……」

 

一年を通して世間知らずのボンボンという称号を脱却できたと本人は思っていたが、まだまだ知らないことは多いようだ。

 

「おまたせ〜! って、あれ? 私が最後?」

 

そうこうしていると、他の三人より大きな紙袋を抱えた蘭華が戻ってきた。少し髪が乱れているのは、部屋で少し暴れたからだろう。

 

「多くね?」

 

悟の指摘に他も頷く。

 

「……あんた、それ全部は入らないわよ」

 

クッキー缶と袋を見比べた歌姫は呆れながら言うと、蘭華は少しはにかみながら紙袋を見る。

 

「ごめんなさい! アレも入れようってなってたらつい……」

「五条、もっと大きい缶は無かったの?」

 

硝子が問いかけると悟はいーや、と首を振る。

 

「まぁ、入る奴だけ入れればいいさ」

「……そ、そうだよね! よし、私の分も入れるよ!」

 

みんなから背を向けてガサゴソと袋の中を漁った後、蘭華も缶の中に物を入れた。

 

「おっしゃ! んじゃ、グラウンド行こうぜ!」

 

缶の蓋をがガムテープで巻こうとする悟を見て蘭華はあっ! と声を漏らす。そして、その後パシャリとフラッシュが焚かれた。

 

「うおっ! おい蘭華ぁ! 写真撮るなら言えよ!」

「えへへ、ごめんね! 最後にこの写真も入れようと思って」

 

集合写真を撮ろうとしたのか、急いでシャッターを押した蘭華の近くでフラッシュを浴びた悟が笑顔でインスタントカメラを構えた蘭華に近寄ると、カメラをひったくる。

 

「お前も至近距離で撮ってやる」

「わっ! や、やめてよ五条くん!」

「うっせ! 喰らえ! 」

 

パシャパシャとフラッシュを焚きながら追いかける悟と悲鳴をあげて逃げる蘭華。傑はその様子を見て小さく笑うと、蘭華の撮った写真を手に取る。

 

「ハハ、ピントがずれまくりだ」

 

かろうじて輪郭だけ映る傑たち三人と、目を見開く悟が映っていた。

 

「じゃあ、私たちは先に行っておこう。どうせすぐ来るだろうし……」

 

写真を入れ、ガムテープで封をした傑は歌姫たちに声を掛けた。

 

「はぁ……ホンットに五条はガキね」

「仕方ないですよ歌姫先輩。五条はクズだから」

 

先導する女子二人にガキ、クズで表される悟に傑もハハハ、とわざとらしい笑いをしながら後に続いた。

 

 

 

 

 

──その後、グラウンドの隅にタイムカプセルを埋めた五人は10年後にまたここで開けよう。そう約束した。

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