キミの歌が聴きたい 作:オオサンショウウオさん
「てことで、新入生の歓迎会を始めまーーす!!!」
パン、パン。ドンドンパフパフ。
クラッカーを何個も鳴らす悟はやはりテンションがいつもより高い。その頭に大きなたんこぶと胸に清掃当番と書かれたワッペンが付けられている事には誰も触れなかった。
「イェーイ!」
以前、悟たちの誕生日で使った三角のパーティー帽子、本日の主役と書かれたゼッケン。新入生二人が立っている黒板には"超" 新入生歓迎会 come!! と大きく書かれていた。
「テンションたけ〜」
「全く……」
硝子は悟を見てカラカラと笑い、歓迎会に呼ばれた夜蛾も呆れながら見ていた。
「んでは! 七海ぃ建人くん! 一言どうぞっ!」
「……は?」
「さぁさぁ張り切って言っちゃってぇ!」
パーティー帽子を無理矢理被せられ、テンションの高い悟に絡まれ建人のテンションはだだ下がりである。しかし、一応善意で歓迎してくれているなら応えないわけにもいかないだろう、と内心大きなため息を吐く。
「……七海です。これから呪術師として先輩方に少しでも早く追いつけるよう努力します。ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします……以上です」
「硬いねぇ! じゃあ次灰原雄くん!」
「はい!! 頑張ります!」
「うーん普通! でも元気だからヨシ!」
二人の自己紹介が終わると、次は在校生組の番だ。
「じゃあ改めまして! 俺五条悟ね。んでこっちが……」
「私は夏油傑。分からないことがあれば聞いてくれて構わないよ」
教室の後ろに固められた机に腰掛けにこりと笑みを浮かべながら傑は言う。
「私は家入硝子、怪我したら治してあげる。でもめんどいからあんまり怪我しないでね」
硝子は椅子に座ってひらひらと手を振る。いつもの癖でタバコを吸おうとするが、夜蛾が隣で目を光らせていたのを思い出し、やめた。
「えっと、私は──「こいつは早乙女蘭華、ほぼ
蘭華も流れに乗って自己紹介をしようとしたが、悟が遮って勝手に蘭華の紹介を終わらせる。ゲラゲラと笑いながら言う姿はまさに子供だった。
「うん、やっぱり楽しそうな人たちだね!」
「……そうかな」
「つーわけで、お前らパン買ってこい」
「は?」
悟が笑顔で二人に向けて言うと、建人は眉間に皺を寄せていた。
「は? じゃねーよ。後輩っつったらセンパイにパン買ってくるモンなんだろ? だから、パン。俺甘いやつね!」
「私は焼きそばパンでいいよ」
悟の何処から仕入れてきたか分からない謎の後輩についての
「あだっ!」
「いたっ!」
ゴン、と鈍い音が鳴り、二人は痛みに堪えるようにその場にしゃがみ込んだ。
「いい加減にしろお前ら」
夜蛾のゲンコツは重く、暫く痛むものらしい。蘭華や硝子は食らった事が無い為大袈裟なリアクションしてるのかと思っていたが、傑は本当に痛いよと苦笑いしながら語った為、うわー痛そうと遠巻きに見ていた。
と言っても、大体夜蛾のゲンコツが落ちる時は二人がバカな事をやった結果の所謂自業自得という奴なので可哀想とは思わなかった。
「そろそろ歓迎会は終わりだ。七海と灰原は後で職員室に来なさい。悟、お前は壁の修繕。傑はそれの監視をしろ」
「ぶーぶー!」
「えー……」
「分かったな?」
ブーイングをしていた二人は夜蛾の圧を受け口にチャックをし、渋々頷く。
「蘭華、硝子。すまんが教室の後片付けを頼む。私も新入生たちの案内を終えたら手伝おう」
「わ、分かりました」
「はーい」
教室を出る夜蛾の後をついて行く新入生二人と、お前のせいだぞ、いや君のせいだろと罪をなすりつけ合うクズ二人が居なくなった教室は静かなものだった。
「じゃあ……片付けよっか?」
「しゃーない、やるか」
苦笑いしながら蘭華がそう言うと、硝子も手を組んで上に伸ばした後、面倒くさそうに言った。
「ん、メールだ」
黒板を綺麗に消していた蘭華はポケットに入れていた携帯が震えたことに気づき、作業を止めて確認する。そこには明日、事務所の方に来てください。大事な話があります。とだけ書かれていた。
「どしたの?」
「硝子ちゃん、あのね……事務所の人から明日大事な話があるって……」
「ふーん……もしかしてデビューとか?」
「えぇ!? そんな、デビューなんてまだ早いよ〜……レッスンには行ってるけど」
硝子が冗談っぽくデビューと言うと、蘭華は照れながらそれはないと否定する。硝子は冗談っぽく言ったが、蘭華の歌やレッスンを頑張っているのを知っていたので、半分くらいは本気で言っていたりする。
(本当にデビューしたらサインもらおっかな)
携帯を見つめながら表情をコロコロと変える蘭華を見ながら硝子はタバコに火をつけるのだった。
♪
「──デビュー、ですか!?」
歓迎会から数日後。事務所に呼び出された蘭華は目の前の社長の言葉に目を見開き驚いていた。
「うん。実を言うと、君のデビューはもっと早く決まっていた。私が少し忙しくて遅れてしまったんだ」
すまないね。社長は申し訳なさそうに謝り、蘭華は首をブンブンと横に振る。
「い、いやいや! 全然、社長が気にする様な事じゃないですよ! その……本当にデビューできるんだって言う驚きが凄くて……」
「ハハ、うん。普通はそうなるよね。でも、早乙女蘭華……君の才能はそのままにしておくには惜しいと彼が強く言っていてね」
社長の隣に立つ男、冴島はポリポリと頬を掻きながら少し恥ずかしそうにしていた。
「それほどまでの原石なら、早々にデビューをさせて場数を踏ませた方がいいと決まったんです」
「君もレッスンをして力をつけ始めた頃合いだ。新人アイドルとして芸能界に踏み入れる良い機会だろう」
聞かされる言葉を一つ一つ飲み込み、胸の高鳴りが止まらない蘭華は知らず知らずのうちに緩む頬を手で抑える。
「それで、デビューシングルの話だけど……」
社長はそう言うと机から紙を数枚取り出して蘭華に見せた。
「候補はこれ。君の好きなモノを選んでくれ」
「こ、こんなに……!」
「冴島くんが君の為にと伝を使って作詞の方たちに連絡を取って作ったんだよ」
蘭華は曲のタイトルから歌詞を一つ一つ目を通す。これを、自分が歌う……。
(え、選べない……!)
どれも良いな、歌ってみたいな、と蘭華の心を揺らす歌詞ばかりで、それに加えて自分のデビューを飾る物として考えると余計に選べなくなってしまった。
「ハハ、まぁ、急いで決める必要はないさ。君の大切なデビュー曲だ。誰かと相談して決めてもいいし、自分だけで決めても良い」
「社長、誰かと決める、というのは……」
守秘義務という言葉がある。アイドルとしてデビューする以上、守らなければならない約束のようなものだ。イベントの情報や、CDの制作状況、売り上げ、そんな情報を外部に漏らさないよう事務所に入る時に契約書を書かされている。
「これぐらい構わないよ。ウチはまだ小さい事務所だし、彼女の同学年の友人たちにどんな曲が好まれるか知れる機会でもある」
君のその
「すみません……一回、友達と相談しても良いですか?」
「あぁ、勿論。でも、出来れば一週間以内には返事が欲しい。あまり長引かせたら機会を逃してしまうからね」
「分かりました!」
「うん、良い返事だ。じゃあ、今日はもう帰ってくれて構わないよ」
「はい!」
社長がにこりと笑みを浮かべそう言うと、蘭華は頭を下げて事務所から出て行った。
「君も、だよ冴島くん」
蘭華が帰った後、自分の席にてパソコンを付けた冴島に社長は声を掛ける。
「は? いや、ですが……」
時間を見てもまだ昼前……業務終了の時間とは程遠い。
「君、最近
「わ、分かりました……」
渋々、と言った表情で頷く冴島に社長は働くのが好きだねぇと溢す。
「何か引き継ぎがあれば言っておいてくれ、私がやっておこう」
「いえ、特にはありません」
「そうか。じゃあお疲れ様」
「はい。お先に失礼します……」
冴島がそう言って帰宅する。
「やれやれ、手間取ったが漸く始められそうだ」
社長はぎしり、と椅子を鳴らしながら一人きりになった事務所でふぅ、と溜息を吐く。
「楽しみだね、本当に──」
窓の外を見ながら笑みを浮かべた社長の額には、特徴的な縫い目があった。