キミの歌が聴きたい   作:オオサンショウウオさん

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3話 女子会・先輩

 

 

早乙女蘭華が高専に入学して早一か月──。

 

同性の同級生ができた事で、硝子の機嫌は良かった。何せ同じ一般からの入学で、他のクズ二人と比べたら天と地ほどの差があるくらい純粋な子だったからだ。

 

「蘭華ってさ、呪術師になるの?」

 

クズ(悟と傑)二人が任務で居ない時はこうして二人きりの場合が多い。硝子は実戦向きな能力ではないし、蘭華もまだ呪力というものを理解していても使えるわけではない。硝子の場合、その能力故に高専にいなければならないと言うのがほとんどだが。

 

「えっと……どうだろう? 夜蛾先生はならなくてもいいって言ってたけど……」

「へぇ〜ヤガセンにそんな事言われたんだ」

「卒業したら呪術とは関係ない生活に戻るのもいいだろう、って」

「ふーん……じゃあ、他になりたい物は?」

「なりたいものか……歌手とか?」

 

蘭華の力は未だ不明のまま。解明するまでは蘭華自身の為にも、不用意に高専の外には出したくないというのが夜蛾の本音である。悟は実家で色々調べたみたいだが有益な情報は無く、地道に調べていくしかないだろう、と夜蛾は考えていた。

 

「いいじゃん歌手。蘭華ならなれるよ」

「そうかな?」

 

硝子の言葉に蘭華は満更でもない表情だった。

 

「そういやさ、歌、いつからやってるの?」

 

硝子は頬杖をつきながら聞いた。

 

「小さい頃からだよ。私、あんまり小さい頃の記憶は無いんだけどそれだけは覚えてるんだ〜」

「ふーん、そっか。そりゃあ上手いわけだ」

「えへへ……あっ! 硝子ちゃんも一緒にどう!?」

「え?」

「硝子ちゃん綺麗だし、気も合うし、一緒にユニット組んでみたいって思ってたの!」

 

思いもよらない蘭華の言葉に硝子は目を見開く位驚いていた。

 

「無理無理。カラオケにはたまーにいくけど、歌そんなに上手いわけじゃないし、足引っ張るだけだって」

「そっか〜……残念……でも、カラオケ今度一緒に行こうね!」

「おっけ〜」

 

そんな話を二人でしていると、教室の扉が勢いよく開かれた。

 

「おっつ〜!」

「や、ただいま」

 

悟と傑が手に袋を持って入ってきた。

 

「二人ともおかえり!」

「お土産はよ」

 

二人を出迎える蘭華に対し、硝子は二人に目線も送らず袋にのみいっていた。

 

「硝子お前出迎えくらいしろよな……ま、いいや。これお土産ね」

「ん、何これ?」

「よく分からねーけど、お前らが食えそうなもん買ってきた」

 

袋の中身はご当地のお土産という感じのお菓子やらが入っていた。金に物を言わせたという悟の金銭感覚の異常さが目立つ。

 

「私のはハーブティーだ。確か、カモミールだったかな? ストレスとか、喉にも良いらしい」

 

傑は一瞬だけ蘭華に目線を送りながら話す。

呪術師とは、常に死との隣り合わせである。怪我もしやすいし、昨日まで隣に居た人が居なくなることも良くある。ストレスも溜まりやすい業界だ。

 

「へぇ、珍しく気ぃ使ってるじゃん。ウケる」

「私たちの事を何だと──」

「クズ」

「……」

 

間髪入れずに言われた傑は言い返す言葉も見つからなかった。

 

「もう、硝子ちゃん! そこはありがとうって言おうよ」

「ん、ありがと」

 

蘭華に叱られた硝子は二人に向かってお礼を口にする。

 

「何故蘭華の言葉には素直に従うんだい、キミは……」

「は? 当たり前じゃん。こーんな純粋な子、囲っとくのが普通だし」

「硝子ちゃんやめてよ〜」

 

硝子は蘭華を抱き寄せウリウリと頭を撫でる。余りにも早い手のひら返しに傑は苦笑いしていた。

 

「傑だけじゃなくて、俺にも礼くらい言えよ」

 

蚊帳の外にされていた悟は何処か不貞腐れながら椅子に座る。その様は何処か小さな子供の様だ。

 

「あっ! 違うよ! 悟くんにもちゃんとお礼言ったつもりだったんだけど……!」

 

ふーん、とそっぽを向く悟に蘭華はあたふたしながら身振り手振りで伝える。

 

「保育士みたい」

「プッ」

 

硝子の言葉に傑は思わず吹き出した。確かに、拗ねている子供をあやす保育士に見えなくもない。

 

「それにしてもさ、五条の奴よく蘭華を認めたよね。最初バカにしてたのに」

「さぁ……ソレに関しては私も知らない内に仲良くなっていた、としか」

「あの五条がねぇ……」

 

仲を深めた出来事は気になったが、悟が少しだけ性格が丸くなった様に感じていた傑はまぁ、良いことには違いないね。と口にした。

 

 

 

 

 

 

「硝゛子゛ぉ゛!!蘭゛華゛ぁ゛!!」

 

一年生の教室にドタバタと入ってくる巫女装束の人物が一人。

 

「わわっ! 歌姫さん!? ど、どうしたんですか?」

 

庵歌姫(いおり うたひめ)。呪術高専四年の生徒であり、蘭華たちの先輩に当たる人物だ。

巫女装束と黒髪が特徴的な少女である。呪術師には珍しい普通の感性の持ち主の歌姫は後輩二人を可愛がっていた。

 

歌姫は二人に勢いよく抱きつき、その拍子に机に置かれていたファッション雑誌などが床に落ちる。顔を上げた歌姫は慰めてと言わんばかりの雰囲気と顔つきだった。

 

「またクズ共になんかやられたんですか?」

「聴いてくれる!? あの二人、私が任務でちょっと手こずった事を聞いたらしくて、ずっとイジってくるのよ! 主に五条が!!」

 

どうどう、と宥めながら硝子が聞くと、歌姫は溜め込んでいた鬱憤を晴らす様に語りだす。

 

『えー? 歌姫そんな階級の奴に手こずったの? マジ?』

『やめないか悟。先輩と偶々相性の悪い呪霊だったかもしれないじゃないか』

『相性が悪かったって言ったって階級が下の奴に手こずる訳ないじゃーん!』

『フッ、それは確かに』

『うっっさいわね! 偶々よ! ていうか敬語使いなさいよ! わ た し は 先輩!』

『イジイジイジイジ』

『チクチクチクチク』

『あああああああああああ!!!』

 

笑顔で歌姫をいじり倒す様子が容易に頭に浮かんだ二人はポンポンと優しく肩に手を置いて歌姫を慰めた。

 

「なんで今年の一年は良い子とクズが半々なのッ……!!」

 

歌姫の心からの叫びだった。高低差が激しすぎると。

 

「このままだと私、優しさと悪意で風邪をひいてしまうわ!!」

 

ぐしゃぐしゃと髪を掻き乱しながら歌姫は叫ぶ。

 

「あはは……歌姫先輩も大変そう」

 

蘭華は自分が言っても改善しないだろうな、とあの二人を思い浮かべた。むしろそれをネタに自分がいじられそうとも。

 

「んじゃ、歌姫先輩のストレス発散に今日何処か行きません?」

 

硝子は床に落ちた雑誌を拾い、パラパラと捲るとあるページに目をつけた。

 

「あ、これ……さっき言ってたスイーツのカフェだよね?」

「そ。蘭華も良いなって言ってたし丁度いいじゃん」

「行くぅ! 行くわ! 行きましょう二人とも!」

 

歌姫はパァと笑顔になった。なんとも感情表情が豊かな先輩である。

 

「ついでに服とかも見ませんか? 私、歌姫先輩に似合いそうな服見つけたんです!」

「え? わ、私に?」

 

キラキラと目を輝かせながら蘭華はうんうんと頷く。

 

「じゃあカフェ行った後は歌姫先輩のファッションショーって事で」

「え!? ちょ、ちょっと硝子……?」

「良いね硝子ちゃん! 歌姫先輩の巫女服以外の姿見てみたいし!」

「蘭華まで!?」

 

悪ノリしている硝子とすっかり乗り気の蘭華。二人が楽しそうにしていたので歌姫はしょうがないか、と諦めた。

 

「しょうがないわね……その代わり、あんたたちの服は私が選ぶわ!」

「いいんですか? ありがとうございます!」

「ふふ、任せなさい蘭華。バッチリ選んだげるから!」

 

 

 

その後、服を一通り見回った三人はカフェで談笑していた。洋服の入った袋がいくつかあり、側から見れば普通の女子高生だった。

 

「あ、五条くんから返信きたよ」

 

パフェを囲った三人の楽しそうな自撮りを送ってやろう、と歌姫が発案し、蘭華が撮影したものだ。

 

『誘えよパフェ食いたかった』

 

この後には怒りマークの絵文字が多数並んでおり、彼が本気で行きたがっている事が想像できる。

 

「ふん、ざまーないわ! オホホホホ」

 

それを歌姫は愉快そうに笑う。

 

「こんなキャラだっけ、パイセン」

「ホントに五条くんがストレスだったんだね……」

 

ヒソヒソと聞こえないように硝子と蘭華は話す。

 

「あー、少しスッキリしたわ。ありがとね」

「ど、どういたしまして?」

 

弄られた仕返しが出来て歌姫は満足気だった。

 

「あ、この店シュークリームもおすすめなんだ……二人に買って帰った方がいいかな?」

 

蘭華は目に入った看板を見て呟く。歌姫はえぇ〜と文句を言いたげな表情になった。

 

「蘭華、あんたの優しさがアイツらをつけ上がらせるのよ……悪いことは言わないわ。辞めておきなさい」

「え!? そこまでですか?」

「確かに、蘭華は結構あの二人甘やかしてるよね」

「そ、そうなの?」

「自覚無かったんだ、ウケる」

 

クズ二人が喧嘩をして偶々通りかかった蘭華が転び怪我をした時や、蘭華が買って置いといたプリンを悟が勝手に食べて知らんぷりしていた時も、蘭華は本気で怒る様な事はなく、叱る程度だった。

 

「優しいのも罪なのよ、蘭華」

 

がっしりと肩を掴まれながら言う歌姫に、蘭華は、は、はい。と言いながら頷くしかなかった。

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