キミの歌が聴きたい   作:オオサンショウウオさん

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4話 悟・エンカウンター

 

 

ある日の深夜の出来事である。

 

「あー、何で俺があんな任務行かなきゃ行けなかったんだよ。他の術師で良かったろ……」

 

明らかに自分の実力よりも数段劣り、しかも遠出の任務。五条悟という存在に少しでも嫌がらせをしてやろうと言う呪術界上層部の腐った思惑が見え隠れしていた。それに察せない程鈍くはない悟は今日もまた、ストレスを貯める。

 

「あ?」

 

高専に帰ってきた悟は、グラウンドの隅でライトが付いていたことに気がついた。

 

「何やってんのお前」

「わ、びっくりしたぁ……五条くん、おかえりなさい」

 

かろうじて姿が見えるくらいの光の中で蘭華がメモ帳を片手に何かをやっていた。

 

「んで?」

「え? あ! これはね、夏油くんと硝子ちゃんが教えてくれた呪術に関するメモだよ」

「いや、何やってんのか聞いてんだけど?」

 

怠い任務でストレスが溜まっていた悟が少し苛立ちながら聞くと、蘭華は慌てだす。

 

「えっと、少しでも呪力に付いて学ばないとなって思って……私、ただでさえ何にも使えないから時々夜にこっそりやってるんだ。寮だと遅くまで起きてたらバレちゃいそうだし、此処ならいいかなって……」

 

結果は出てないけどね。と蘭華は自嘲して笑う。

 

「んなの聞けばいいじゃん、傑とか硝子に」

「……五条くんも、夏油くんも、硝子ちゃんも私と違って忙しいし、私なんかに時間を割いてもらうのは気が引けて……」

 

(ハッ、無駄な努力だな)

 

六眼で見ずとも分かる。やろうとする努力はまぁ評価できる物だが、何の成果も得られていないならそれは無駄な時間だ。

 

「いや意味ねーから、それ」

「え?」

 

ため息と共に悟がそういうと蘭華は不思議そうに首を傾げた。

 

「だから、わざわざこんな時間にやる意味なんてねーし、そもそもお前呪力の量もほぼねーからやっても無駄って事」

 

歌だけ歌ってろよ。とまでは言わなかったが、悟の口にした言葉はほぼ本心だ。蘭華が高専に居るのはその歌の特異性故に、悪用されては行けないという判断の元だ。蘭華を戦わせようだなんて誰も思ってはいない。

 

「そ、そうなんだ……でも! 知ってる方が良いよね? ほら、この(とばり)とか!」

 

メモを指差しながら蘭華は言う。帳とは、外から中を視認できないようにする術だ。呪術師としての素養がない人でも、呪力を扱える人物であれば使用することができるので、最も簡単な結界術と言える。

 

「帳なんて誰でも使えんだし覚える必要なくね?」

 

一般人に見られたところで何か問題あるか? そもそも見えないんだから。と思っている悟にとって、帳とは意味のないものだ。

 

「じゃ、じゃあ私は他に何をすれば……」

 

うじうじと悩む蘭華に悟はまた苛立った。雑魚なんだから、無駄な事はするなと言いたくなるが、更にうじうじされると面倒だと思った故口には出さなかった。

 

「だーかーらー、お前は歌で祓えるんだから歌の練習しとけばいいんじゃねーの?」

「……うん、そうだね」

 

何処か納得していなさそうな蘭華を見て頭をガシガシと掻く。

 

「ったく……一曲につき一回」

「え?」

「それで、お前の知りたい事教えてやるよ」

「でも、五条くん忙しいんじゃ──」

「あー聞こえませーん! ウジウジ悩まれても鬱陶しいからこれは決定事項でーす!」

 

有無を言わさず悟は蘭華にそう言った。それから、蘭華は時々悟の個人授業を受ける様になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て、蘭華」

 

校舎を歩いていた蘭華を誰かが呼び止める。

 

「夜蛾先生?」

 

剃り込みの入った髪に強面の大男が居た。蘭華が夜蛾を見るたび毎回少しだけ驚いてしまうのは内緒である。早く慣れなきゃとは思ってはいるが、悟や傑に怒鳴る姿やゲンコツを落とす姿が印象に残っているのだ。

 

「ちょうど良い。着いてきてくれ」

「え? は、はい」

 

私に用事なんて珍しい事もあるなぁ、と思いながら蘭華は夜蛾の後をついて行く。夜蛾の大きな背中を追って歩く蘭華は年齢差も相まって親子のようだ。

 

「わぷっ……はっ、すみません!」

 

大きな背中だなぁ、と考えながら歩いていた蘭華は夜蛾の足が止まったことに気付かず、背中にぶつかってしまう。急いで謝る蘭華だが、夜蛾は特に気にしてはいないようだった。

 

「着いたぞ」

 

夜蛾が止まったのはグラウンドがよく見える廊下だ。

 

「あの、ここ廊下ですよね? 何かあるんですか?」

「見ろ」

「あ、五条くんたちだ」

 

夜蛾の見つめる先には悟と傑が居た。二人とも何やら話している様だが、ここからではあまり聞こえない。耳を澄ませ、何とか会話を聞こうとしている蘭華に夜蛾は話しかける。

 

「……お前に、任務が来ている」

「え!? わ、私にですか? でも、私って階級なんてまだ無いですよ?」

 

呪術を知ったのは1カ月と少し前。それから少しは呪いというモノに触れた蘭華だったが、ほぼ素人に毛が生えた様なものだ。呪術師には呪霊を祓う力によって階級が当て振られ、上から特級、下が四級。蘭華はその四級ですらない。

 

「……上からの命令でな、どうやらお前の"歌"の力が何処からか漏れたらしい。不明な力の詳細を調査しろ、とな」

「……あの、それと五条くんたちに何の関係が?」

 

現在進行形でドンパチ爆発音が鳴り響くグラウンドに蘭華はたらりと額から汗が流れる。爆発音が鳴るたびに、目の前の夜蛾の眉間の皺が深くなって行くからだ。

 

「呪術師は上の階級の者が下の者に指導をする、というのが習わしだ。あの二人なら実力だけ(・・)は申し分ない……だが、他にも任務がある。どちらかが蘭華の護衛、どちらかがその任務に行く様に言った途端揉め出したらしくてな」

「そ、そうなんですか……」

 

ドカン、パリン──ブチッ!

 

夜蛾の何かが切れる音が聞こえた。

 

「──お前はここで少し待っていろ」

「は、はい!」

 

背筋をピンと伸ばした蘭華の肩をポン、と優しく叩いた後、グラウンドで爆発よりも大きな夜蛾の怒声が響き渡った。

 

「先生! いきなりゲンコツはやめませんか!?」

「そうですよ。私たちは何もしていないでしょう」

 

数分後、頭にたんこぶを付けた二人が夜蛾と共に歩く。

 

「お前らは……ふぅ、片付けは後でやらせる」

 

こめかみを抑えながら夜蛾は溜め息を吐く。

 

「えー」

「そんな」

「黙れ。お前らは任務の詳細をまだ聞いていないと思うが……蘭華の力が上にバレた」

 

ぶーぶーと文句を垂れる二人を黙らせた夜蛾は本題に入る。

 

「へーマジ? どっから?」

 

悟は口角を上げる。その顔は玩具を見つけた子供の様だ。

 

「……それを知ってもどうにもならん。余計な事はするな」

「ですが先生。彼女を利用しようとする輩が現れるかも知れないんですよ? 余計な事と言うのは違うのでは」

 

深入りはするな、とでも言いたげな夜蛾の言葉に傑が反論する。

 

「分かっている……兎に角、今はどちらが任務に行くか。それだけだ」

「答える気無しかよ」

「場所は埼玉にある廃墟。一家心中があった場所であり、そこにいる呪霊の捜査と、蘭華の力の確認。その二つだ」

「階級は?」

「一級か、準一級だろうとの事だ。既に面白半分で入った若者たちの犠牲者も出ている。出発は明日だ」

「おっけー。じゃ、傑、じゃんけんな」

 

悟は笑みを浮かべながら右手を出した。傑も、しょうがないかと思いつつ手を出す。

 

「「じゃーんけーん……」」

 

気の抜けた決め方に夜蛾はこいつらは、と呆れていた。

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