キミの歌が聴きたい 作:オオサンショウウオさん
12月7日。悟と蘭華の二人は傑と硝子から呼び出された為、食堂へと向かっていた。
「なんだろうね?」
『食堂まですぐ来るべし』
送られてきた硝子のメールにはこれだけしか書かれていなかった。
「俺に聞かれても知らねーって。傑のも似たような文だったしな」
「……ねぇ五条くん、何か怒らせるような事した?」
「はぁ? 何で俺がやらかす前提な訳?」
「最近、また任務で建物壊して夜蛾先生に怒られてたって聞いたよ?」
「……」
二人が雑談をしながら歩いていると、曲がり角に紙で出来た矢印が壁に貼られていた。
『会場はこちら!』
「何だこれ」
悟はセロハンテープで貼られていた矢印を剥がし、それを見て首を傾げる。
「あ! もう、何ですぐ剥がしちゃうの?」
蘭華は悟の行動に呆れながら言う。
「うっせ」
紙をくるくる纏めてゴミ箱に捨てた悟は「あ〜」と残念そうに呟く蘭華を置いて行く。
「誕生日おめでと〜」
「おめでとう、二人共」
慌てて悟と共に食堂へ入った蘭華の耳にパン、パン。と小さな破裂音が聞こえ、それと共に紙吹雪が飛んできた。
「え!? な、なに!?」
食堂には画用紙に描かれた『誕生日おめでとう』
という張り紙と、カラフルなペーパーチェーン、そして鼻つきメガネを付けた硝子と傑だった。
「なんだこれ」
悟が不思議そうにしていると、二人にも鼻つきメガネが付けられた。
「いやいらねーよこんなだせーの!」
嫌がる悟と、すんなりとメガネを掛けた蘭華。悟は今にもゴミ箱に放り投げそうな勢いである。
「ちょっと五条、それ高かったんだから壊さないでよ」
「うそつけ!」
「え、このメガネ高いの!?」
「……蘭華、硝子の嘘だよ。本当は100均」
「夏油バラすの早すぎ〜」
そう、この日は悟と蘭華の誕生日だった。ある日の放課後、雑談をしていた4人は誕生日の話になり、そこで二人の誕生日が一緒だった事が判明。時期も近かったことから誕生日パーティーをやろうと言う話になった。
「てか、こんな飾りとかすんの? 誕生日祝うだけで」
悟は壁に付けられたペーパーチェーンや、飾りを見ながら渡されたカラフルな三角帽子を回していた。
「悟の家ではどう祝って貰っていたんだい? 御三家というからには、盛大に祝っていそうだけど」
「……別に、いつもとあんま変わらねーよ。誕生日だなって確認するだけ」
傑の質問に悟はつまらなそうにそう言った。
「ふーん。なんかでっかい高級店とかで祝うイメージだったわ。あんた当主だし?」
「わ、私もイメージで言ったらそんな感じかも」
硝子が思い描いたのはシャンデリアがあるような高級料理店で高級素材をふんだんに使った料理に囲まれる悟の姿だった。
「古くせー考え持ってる奴らばっかの、しかも御三家だぞ? そんなとこ行かねーって。だから、こうやってパーティー感覚でやったことは無いね」
「そうだったのか……悪いね、知ったのが誕生日間際だったから碌に準備もできなかったよ」
もう少し早く知っていれば、計画も練れて盛大なものができただろうと考える傑に、悟は溜め息を吐く。
「あー、なんて言うか……別に悪くない気分だよ」
そっぽを向きながら悟は言う。
(素直じゃないな)
(素直じゃねー)
硝子と傑は悟の内心を察し、微笑む。
「五条くん、もしかして照れてるの?」
そして隣に居た蘭華は少し赤くなった悟の耳を見た。普段は悟からいじられることが多い蘭華にとって、珍しい反撃のチャンス。悪戯心が動いたのだろう、その顔はニヤニヤしていた。
「はぁ? 照れてねーよ!」
「嘘! こーんなに耳赤いもん!」
「赤くねーよ、視力落ちたか? あ、背も縮んだんじゃね?」
「落ちてないし、縮んでないけど!?」
「まぁまぁ二人共。そこまでにしないか。せっかくの誕生日なんだから」
このままだと面倒な事になると思った傑はすぐさま止めに入り、その間にいつの間にか部屋から消えていた硝子がゴロゴロとカートワゴンを押しながら帰ってきた。
「おー、なんか盛り上がってんじゃん。ケーキ持ってきたよ〜」
「ケーキ!?」
蘭華は悟と傑の間を潜り抜け、硝子の元へと駆けていく。
「じゃーん。どう、凄いっしょ?」
蓋を開けると、そこには色々な種類のケーキが入っており、蘭華はそれを見て目を輝かせる。
「わぁ……! 凄い綺麗なケーキ! 何処のお店の?」
「これは吉祥寺のね──」
「え!? あそこって凄く高いんじゃ……」
「奮発した(夏油支払い)」
「おぉ〜……ね、硝子ちゃんどれにする?」
「んー、蘭華から選びなよ。主役だし」
「うーん……どれにしようかな……」
女子二人が楽しそうにケーキを選んでいるのを悟は何とも言えない表情で見ていた。
「何かケーキに負けた気分だわ」
「ハハハ、ほら、悟も選んできなよ。君も今日の主役だ」
ポンポンと傑が肩を叩くと、悟も頭を掻いた後ケーキを選びに行った。
「これもーらい!」
「……あっ! 私が取ろうとしたのに……!」
「取ったもん勝ちだっつーの! 悔しかったら取ってみろよ」
蘭華が悩みに悩んだ結果、取ろうとしたショートケーキを上から手を伸ばした悟が掻っ攫う。あまりの早技に数秒時間が止まった蘭華は頬を膨らませながら悟を追いかけた。
「術式使うなんてズルいよ!」
「知りませーん、聞きませーん。うお、このケーキ美味いな」
「く、くぅ……!」
素手でケーキを行儀悪く食べる悟に必死に手を伸ばすが、触れるけど触れない。無限のバリアに妨げられた手は届く事なく、蘭華は項垂れた。
「ガキかよ五条、ウケる」
「やれやれ……」
少しは大人しく祝われてくれ。傑はそう思った。
「蘭華〜、五条はほっといて他のケーキ選びなよ〜私らが先に選んじゃうよ?」
硝子の言葉にどんよりとした空気を漂わせながら蘭華が歩いてきた。悟と蘭華の実力はまさにアリ一匹で像に挑むようなもの。結果なんて見るまでもない。
「じゃあ、これにしようかな……」
「おっけ〜。なら私これね」
蘭華が次点の候補にしていたチーズケーキを選ぶと、硝子は店で買った時に自分用に選んでいた甘さが控えめのヨーグルトケーキを手に取る。
「あ、そっか。硝子ちゃん甘いものあんまり好きじゃなかったもんね」
「食べれないことはないけどね。あ、夏油これ」
硝子はケーキが入った箱を立っていた傑に渡す。其処にはポツンと残ったモンブランがあった。
「ん? 硝子。私の分は別に良いと言ったと思うんだけど……」
今回の誕生日は硝子がケーキ担当、傑は食堂で別の準備をする手筈になっており、お金を渡した際に自分の分はいらない。と予め伝えていた。
「一人だけ食べてなかったら虐めてるみたいじゃん。ね、蘭華?」
「うん、そうだよ! 夏油くんも食べようよ、美味しいから!」
蘭華からフォークを渡され、傑はあぁ、そうだね。と頷くと椅子に座ってケーキを食べ始めた。
「傑〜! そのモンブラン俺にも一口くれよ〜」
ショートケーキを食べ終えた悟が傑の背後からのし掛かる。悟は甘いものに目がない。元から甘党だった訳ではなく、術式を使う為に食べていたらいつの間にかなっていたらしい。ケーキをもう少し多く買えば良かったかな? と傑は思った。
「やだよ。これは私の分だ」
「俺、今日、誕生日、主役」
「何でカタコトで言うんだ……仕方ない、半分あげるよ」
自分を指差しながら無邪気に笑う悟を見て傑は呆れ、まぁ、誕生日だしこれくらいの我が儘は良いか、とモンブランを半分に切って皿に乗せる。
「サンキュー! お、モンブランも美味いな」
傑からケーキを貰った悟はパクパクとすぐに食べ始めた。あっという間に無くなり、悟は側に置いていたオレンジジュースを一気飲みする。
「フー、美味かった。後で硝子に店の名前聞いとこ」
どうやら悟はお気に召したようで、これからもその店に買いに行くつもりなのだろう。
「んん! それじゃあ、ケーキも食べ終えたし、私たちから二人にプレゼントを渡そうと思う」
「お二人さん、こっち来な」
「プレゼント?」
「五条くん、誕生日にはプレゼントを貰うんだよ!」
「マジ? ラッキー!」
プレゼントと聞いてはしゃぐ二人の目の前に二つの箱が置かれた。白い箱に赤いリボンが巻かれた如何にもプレゼントですと言いたげなソレを見て悟は早速リボンに手をかける。
「こ、これ……PS2じゃん!」
うひょー! と箱の中身を取り出した悟は少年のように叫んだ。
「本体だけじゃなく、ソフトも買っておいたよ。ほら」
傑が箱の中から日本のソフトを悟に見せる。
「……ドラクエと桃鉄! マジかよ傑!」
高専に入るまで、娯楽という娯楽に触れたことのなかった悟にとって、ゲームという存在は未知のモノだった。ピコピコボタン押して何が楽しいんだよ? 初めはそう思っていたが、傑に誘われ、一緒にプレイし、見事ハマった。
「なぁ! 今から四人で桃鉄やろうぜ! 99年!」
「五条テンション上がりすぎでしょ、ウケる」
「夏油くん、桃鉄って?」
「あぁ、蘭華はあんまりゲームしないんだったね。まぁそれは後で教えるとして、キミもプレゼント、開けて見たらどうだい?」
悟の箱とは違い、少し小さなプレゼントを蘭華は恐る恐る開けてみる。
「あ! ラジカセと……シェリルさんのCDだ!」
シェリル・レーゲンという憧れを見つけた蘭華の部屋には日に日に彼女のグッズが増えてきていた。ポスター、アクリルスタンド、CD、キーホルダー……高専に置いてあったラジカセは型の古いもので、最近寿命が来て蘭華はCDが聞けない、曲を流しながら歌えないことに酷く落ち込んでいた。
「うん、やっぱりコレで合ってたね」
「まぁ蘭華の場合欲しいものが分かりやすすぎたけどね」
プレゼントを貰った二人が喜んでいる様子を見て、傑と硝子はほっと胸を撫で下ろした。
「おい! 早く桃鉄すんぞ! 傑の部屋な!」
「なんで私の部屋……って、もう居ないし」
悟はPS2とソフトを抱えたままドタバタと食堂から出ていく。
「蘭華、私らここの片付け先にしておくからさ、行っといで」
「主役に片付けをさせる訳には行かないからね。プレゼントも部屋に置いてくるといい」
「うん! じゃあ、先に行ってるね!」
プレゼントボックスを腕いっぱいに抱えた蘭華は二人ともありがとう! と笑顔で言い残した後、食堂から出て行った。
その後、傑の部屋に集まった四人は陽が登るまで桃鉄をしていたという──。