リゼ・ヘルエスタ
「せ、せんぱい…」
「あ、リゼさん、どうしたんですか?」
「…あ、あの…」
「?」
「…お、おひるをいっしょに……」
「お昼ですか?」
「…だ、だめですか…だ、だめなら」
「いいですよ。一緒に食べますか」
「い、いいんですか!?あ、ありがとうございます…」
「そんなに畏まらなくてもいいんですよ。リゼさんは王女なんですし」
「だ、だめです!!私は後輩なので!!!」
「別にいいのに…」
そして僕とリゼさんはお互いのお弁当を持って、屋上に移動した。
「今日は誘ってくれてありがとね」
「…い、いえ…」
「リゼさんが誘ってくれなかったら一人で静かに食堂で食べることになってたよ」
「……あ、はい…」
「もしかして僕って話しずらいかな?」
「え、そ、そんなことないですよ!!」
「そう?さっきからリゼさん、あんまり話さないですし、僕って話しずらいのかなぁと思って」
「せ、せんぱいのおはなしがおもしろくて!!!」
「…完全に気を遣わせているね」
「い、いえ、そんなことは!!」
「リゼさんって本当に表情に感情が出やすいよね。トランプとかやったら絶対に勝てる気がするよ」
「…そ、そうですか?」
「うん。でも、リゼさんのそういうところが人から好かれる理由なんだと思うよ。感情豊かってことだしね」
「そうなんですかね…。別に私はそんなに好かれていないと思いますよ」
「案外、自分では分かっていないもんなんですよ」
「?」
「リゼさんに比べて、僕は感情が表に出にくいのでたぶん、話しずらいんじゃないですか。何を考えているか分からないとか友人からも言われますし」
「そ、そんなことないです…」
「…そうなのかなぁ」
僕がちょっと本気で悩んじゃったから、リゼさんが心配そうなこちらで見ているのに気付かなかった。
「わ、わたしは…先輩とこういう風に話せてとても楽しいです!」
「……ありがとう」
「わ、わたしは王女です。多くの人と接してきました。だから人を見る目はかなりあるつもりです。その私が…先輩に夢中なんです!先輩の性格も容姿も仕草から全て…」
「そ、そうなんですか……」
「だから先輩はもっと自分に自信を持ってください!」
「…後輩に励まされるようじゃ、僕もだめだね」
「…せ、せんぱいは…だめじゃないです」
「ありがとね、リゼさん」
リゼさんにこんなところを見せちゃだめだね。もっとしっかりしないと…。
「あの…せんぱいの…たまごやき…」
「欲しいですか?」
「…い、いいですか…?」
「いいですよ」
「そ、それじゃあ…わたしの唐揚げを…」
「ありがとう!」
アンジュ・カトリーナ
「せんぱい!あ、あたし…分かったかもしれないっす!」
「なにが?」
「なんで先輩がモテないのか!」
「アンジュくんは僕に喧嘩を売っているのかな」
「ち、ちがいます!!あたし、真剣に考えたんです!六限の授業中、ずっと考えていたんすから!」
「いや、それはただ先輩を馬鹿にしていただけだろ。それにまず、そんなことを真剣に考えなくていい」
アンジュ・カトリーナ。学内でもかなりの人気を誇っている人で本人は満更でもなさそう。でも、男子生徒というよりも女子生徒からの人気の方がすごい。
「だってそれなりに顔も整っている方で…性格も性悪じゃないのに…なんで全くと言っていい程モテないのかって」
「そんなことより他に考えることあるだろ」
「いや、あたしにとって一番の問題は先輩が全くモテないことであります!」
「なんで敬礼?そろそろテストなんだから、そっちの方を考えた方がいいんじゃない」
「あたしは悪い点を取らないんで」
余裕の笑みを浮かべながら言っているのが余計に腹が立つ。アンジュは頭がいい。覚えがいいらしくテストでは悪い点を取らないと本人は言っていた。
「はぁ……アンジュに彼氏ができないのはそういうところかもな」
「あ!な、なに…言ってんすか!あたしはいつでも恋人なんて出来るんです!!ただ、作らないだけなんです!」
僕も煽っては見たが、本当に不思議だ。アンジュはそれなりにモテるのに…未だに恋人が出来たことがない。本当にこれだけは…ずっと不思議なこと。
「そうかな。ちょっとアンジュにも問題があるんじゃないか?」
「な、なんすか…アンちゃんが悪いって言うんですか!」
「そういうところもあるかなぁ…なんて」
ちょっと煽っただけだけど、アンジュは頬を膨らませてこちらをジト目で見ている。
「さすがにちょっと言い過ぎたな。悪い」
「もうアンちゃん、怒ったよ!」
腕を組んでそっぽ向いてしまったが、こういう時の機嫌の直し方は分かっている。
「チーズケーキ、一個でいい?」
「ううん、ニ個」
「それはちょっとたべす……って分かったよ」
言いかけた途端でアンジュから人を殺しそうなぐらいに鋭い目つきで睨まれていた。これ以上、言ったら本当にやられると思って承諾することにした。
「し、しかたない。アンちゃんは優しいので許してあげますよ」
「これで許されなかったら一体なんのために奢るのか分からないよ」
「可愛い後輩のためなら」
「可愛い後輩は自分で可愛い後輩とは言わないんだよ!」
そんなやり取りをしながらケーキ屋まで二人で向かったのだった。
戌亥とこ
僕は手芸部に所属している。そして今はエプロンを作っていて、針を指にちょっと刺してしまって指から血が出ている。僕は手芸部に所属しているものの、僕は器用な方じゃなくて不器用。
「ほら、貸して」
「す、すいません…」
「先輩はあんまり得意じゃないやから…無理はせいで…」
「で、でも…」
「先輩の分はあたしが作ってあげるから大人しくして」
「は、はい」
これじゃ、どっちが先輩か分かったもんじゃない。僕の後輩の戌亥さんはとっても…しっかりしている。一応、僕が名義上は僕が部長ということになっているけど、副部長の戌亥さんの方が部員からも信頼されている気がする。
「あ、あの…部長、交代しますか?」
「はぁ?」
「…だって、戌亥さんの方が部長に向いていると思いますよ。一応、学年は僕の方が一個上ですが、それぐらいしか差はないですし」
「…先輩はアホ?」
「そのシンプルな悪口はやめてください。僕ってかなりナイーブなのでそういうことかなり響くんです!」
「あんたが…先輩…で…あたしが後輩」
「で、でも…」
「先輩がそんな弱腰でどうするねん!誰がなんと言うてもあんたが先輩であたしが後輩。あんたが部長であたしが副部長。この事実だけは変われへん」
「…そうですけど…」
「も~めんどくさいな。あたしはあんたが部長でええって言うてるの。あたしはあんたに憧れて、手芸部に入ったんだし!」
「え、そうなの?」
「今更、隠しても仕方ないし。あたしはあんたに憧れたの。あんたはもう覚えてへんかもしれへんけど、あたしが一年で部活動体験をしに来た時にあんたがもう部長だった」
確かに僕は二年生から部長をやっていた。ちょっと事情が色々と重なって、僕の世代は僕しかいなくて僕の先輩は誰もいなかった。どうなるとなし崩し的に僕が部長になるしかなかったんだよね。
「元々、あたしはやりたいものもなかったし、帰宅部でもええかなぁって思っとったんや。でも、そないな時に友達から手芸部の体験に一緒に行かないって言われて断る理由もなかったから行った。その部活動体験で小物でも作ってみようってなった時に、あたしはすぐに出来たけど、部長のあんたはいっこもできなくて。ほんまにこの人が手芸部の部長なんかいって思ったけど、あんたはいつでも笑顔やった」
確かに手芸部の部長が不器用なんて誰も思わないだろうしね。
「人一倍、後輩を褒めて、人一倍、頑張っとった。お世辞にも手芸は上手くないし、器用でもない。そやけども、そないなあんたは手芸部の真ん中にいた。どんな時でも笑っていて、頑張っとるけど出来なくて。でも、人に教えるのは人一倍上手くて、そないな頑張っとる、あんたの背中は大きく見えた。あたしはあんたみたいにはいかなくても、あんたみたいになってたいって思った」
戌亥さんは全てが言い終わると僕の方を指差した。
「な、なんですか?」
「あんたはあんたのまんまでええ。あたしはそないなあんたそやし憧れたんだし」
「…わ、わかりました……」
「わかればええ」
「あの…一つだけいいですか?」
「なに?」
「戌亥さんって前から思っていたんだけど、とっても男勝りな性格をしているよね」
それから部室には部長の悲鳴だけが響いていた。
感想があれば