東方有無録   作:印鑑

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使命は死命〜運命を決する戦い、開幕

「…いきなり『退治』ってどういう事だよ…」

 

「そのままの意味として捉えてくれればいいわ。」

 

 

…オッス!オラ紀流!

今現在俺は『八雲(やくも) (ゆかり)』と名乗る人に退治宣言された所だ!

何でだよ…俺何かしたっけ?

俺の心に浮かんだ疑問を、魔理沙が代わりに喋ってくれる。

 

 

「何で祠弥が退治されなきゃならないんだぜ!?」

 

「…そうね。そこにいる人間は幻想郷にとって『危険分子』だから…とでも言えば良いかしら?」

 

「…俺が危険分子だって?」

 

 

危険分子って…これまた酷い呼び名だな。

咲夜からの『例の人間』呼ばわりの方が少しましに思えてくるぜ…

 

 

「祠弥の何処が危険分子なんだよ!普通の人間だぞ!?」

 

「彼自身も、自分の事をやたら強調して『普通の人間』と呼んでいますからね。」

 

 

…一応フォローしてくれてるのか?悪口にも聞こえるような…まあいいか。

俺は紫を見据え、口を開く。

 

 

「この二人が言っているように、俺はいたって普通の人間だ。

そんな俺が何で『危険分子』なんだ?」

 

「…別に、私は貴方そのものを危険分子と見なしているわけじゃない。

私が危険視しているのは、貴方の『能力』の方よ。」

 

「俺の能力?」

 

「そう。貴方の持つ能力。それを私は退治しに来たの。」

 

「…能力を、退治?」

 

 

何を言ってるんだこいつは?全く話についていけないんだが…

しかも能力だけ退治って、そんな事が可能なのか?

 

 

「…私は幻想郷の賢者。この世界を『見守る』のが私の使命にして宿命。

同時に、この世界を『守る』のも同じく使命。」

 

 

紫はそう言うと、俺の目を見つめてくる。

その両目の中に一瞬だけ冷たい物が見えたような気がして、俺は全身に鳥肌が立った。

…あの目…完全に『敵』を見る目だな…

 

 

「…紫、こんな所で何してるの?」

 

「…霊夢。」

 

 

聞き慣れた声がしたので振り返ってみると、そこには霊夢が立っていた。

おそらく、『西行妖』の封印に成功したのだろう。

霊夢は紫に向かって話す。

 

 

「…いつも寝てる筈のスキマ妖怪が、どうしてわざわざ来たわけ?

続けざまに『異変』でも起こったの?」

 

「…ええ、そうよ。」

 

「はぁ!?本当に起こっちゃったわけ!?

何が原因なのよ…。」

 

「正確に言えば、『起ころうとしている』かしらね。

そしてその元凶は…

 

 

紫は言葉を切り、俺の方を指差す。

 

 

…そこにいる『普通の人間』よ。」

 

「…祠弥が?何寝ぼけた事言ってんの?

一度顔を洗って、頭から水を被ってきた方がいいんじゃない?」

 

「私はいたって正気。貴方も分かっているでしょう、霊夢。」

 

「…そうとは思えないけどねぇ。」

 

 

霊夢は首を捻り、考えるようなポーズをする。

 

 

「…別に、私の考えを理解してもらおうとは思って無いわ。

貴方達にはただ黙って見ていてほしいのよ。」

 

 

紫はそう言うと、傘を持っていない方の腕を軽く振る。

その手の動きに合わせ、再び目だらけの裂け目が出来たかと思った次の瞬間。

 

 

「…ぐがっ!?」

 

「…たとえ私が、何をしてもね。」

 

 

…その裂け目から出てきた道路標識(!?)が、俺の腹にクリーンヒットした。

その痛みに力が抜け、思わず地面に膝をつく。いきなり何なんだよ…

俺の文句を代弁するかのように、魔理沙が紫に抗議する。

 

 

「…お前…何やってるんだぜ!?」

 

「貴方達と同じ事よ。私はただ単に『異変』を解決しようとしているだけ…

起こる『前』に解決しようとしているだけよ。」

 

「紫…!」

 

「…霊夢。私が今回ここに来た目的はこの人間を『退治』するためだけ。

…だけど、邪魔をするなら話は別。貴方がこの人間をかばいだてするのなら、容赦はしない。」

 

「何だか凄く不愉快な事を喋りますね。」

 

 

咲夜が冷静な声で自分の率直な意見を述べる。

すると、紫は咲夜の方を向いて笑った。

 

 

「貴方は確か…前に異変を起こした吸血鬼の館のメイドさんだったかしら?」

 

「よくご存知ですね。」

 

「…あの異変は一瞬で終わってしまったし、見ていてあまり面白い物では無かったわ。

人間が吸血鬼に勝てたのが、ちょっと意外だったけれどね。」

 

「…それは、お嬢様を侮辱されているのですか?」

 

「どうかしらね?」

 

「…っ!」

 

 

普段冷静な咲夜が、珍しくキレている。

何せ自分の主人の事をからかわれたんだからな…怒るのは当然だろう。

…雲行きが怪しくなってきたな。しょうがない、ここは役に徹するとするか。

俺はゆっくりと立ち上がり、紫に向かって話しかける。

 

 

「…おいおい、さっきから俺を『退治』するとか言ってるけどさあ…

本当に倒せるのかなぁ?」

 

「…何ですって?」

 

 

紫の目付きが鋭くなり、俺を睨み付けてきた。

俺は負けずとにらみ返してやる。

 

 

「貴方みたいな普通の人間が、幻想の賢者の私にそんな台詞を吐くなんてね…

随分な自信家か、それとも只のお馬鹿さんかしら?」

 

「両方とも入ってると思うけど?」

 

「あら、そう…」

 

 

紫は傘を閉じ、横にあった裂け目に放り込む。

裂け目は傘を完全に呑み込み、その口を閉じた。

 

 

「…じゃあ貴方の自信がどこまで持つか、少し試させてもらおうかしら。」

 

「望む所だ。」

 

 

俺と紫は五メートル程離れて向き合う。

やがて周りの空気が揺れ始め、桜の花びらがより一層激しく舞う様になった。

 

 

「…祠弥!?あんたまさか紫と戦うつもりなの!?

止めなさい!みすみす死にに行くような物よ!!」

 

「…そいつはヤバい奴だ…面と向かって対峙しているわけじゃ無い私にだって分かる。

一人で戦うなんて無謀過ぎるぜ…。」

 

 

霊夢と魔理沙が必死に止めようとするが、俺はその声を無視して咲夜に話しかける。

 

 

「咲夜、お前はどうしたい?正直に言ってくれ。」

 

「…お嬢様を侮辱した仕返しを、たっぷりとしてやりたいです。」

 

「お、偶然だな。俺も同意見だ。

もしかしたら、俺とお前の意見が一致したのって初めてなんじゃないか?」

 

「…そうかもしれませんね。」

 

「そりゃあ良かった。…さ、て、と。」

 

 

俺は咲夜から目を反らし、再び紫の方を見る。

 

 

「どうすんの?俺を『退治』するの?しないの?」

 

「勿論、させてもらうわ。」

 

「「祠弥!?」」

 

 

二人の声が飛ぶが、無視。我関せず。

…無視でもしないと心が折れそうだからな…くそっ。

 

 

「…じゃあ、容赦無しで行くわよ。」

 

 

紫はそう言いながら指を鳴らす。すると新しい裂け目が空中に二つ現れ、中から誰かが出て来る。

二人の内の一人には見覚えがある。忘れたくても忘れられない場所であった、猫耳の少女だ。

もう一人の方は、白い着物に青い布がかかった服と、二ヶ所が尖っている帽子を被った女性。

…狐みたいな尻尾がわしゃわしゃと生えているが、突っ込んだら負けなのか?

 

 

「よう、また会ったな。」

 

「あ、誰かと思ったら猫嫌いの人間じゃない!」

 

「…(ちぇん)、知り合いなのか?」

 

「前(ついさっき)会ったんですよ(らん)様!

凄く猫嫌いなんです!」

 

「…猫嫌いと言う事は、橙の事も嫌いというわけか。

自分の式神を嫌われては、あまり嬉しい気持ちはしないな。」

 

「…そんな事言ったって…」

 

 

俺が呑気に会話している間、霊夢と魔理沙はパニックになっていた。

 

 

「祠弥相手に三人がかりですって!?

魔理沙、止めるわよ!」

 

「分かってるぜ!」

 

「無駄だと思います。あの『八雲』と名乗った女性は既に、結界を張っていますからね。」

 

「…あんたのせいよ。」

 

「…霊夢?」

 

「あんたが止めなかったから祠弥は…!」

 

 

霊夢は激昂し、咲夜に殴りかかろうとする。

それを紀流はたった一言叫ぶだけで止めてしまった。

 

 

「霊夢!もしも咲夜を殴るんなら、俺がやられちまった時にしてくれ!

俺だって咲夜にそそのかされたみたいなもんだからな!」

 

「…っ!」

 

 

霊夢は拳を止め、咲夜を睨み付けたまま渋々下がる。

最後に、霊夢はこう聞いた。

 

 

「…本当に、殴らなくて済むんでしょうね?」

 

「当然だ!安心して見てろ!」

 

「…。」

 

「…祠弥…」

 

「…殴られたくは無いですね。」

 

「はあっ!?」

 

 

咲夜の失言により危うく霊夢が爆発しそうになるが、魔理沙が何とか押し止めている。

…あの調子なら大丈夫だろうな。俺はそう思い、紫達の方に意識を戻す。

 

 

「…もう心残りは無い?」

 

「お陰さまでな。紅拳『界王拳(十倍)』!!!」

 

 

俺は界王拳を限界まで上げ、相手の攻撃に備える。

界王拳を見ても紫は顔色一つ変えずに、こう言った。

 

 

「…少しは楽しめそうね。」

 

「だろ?」

 

 

異世界にある白玉楼。たった今、そこで一人の人間の運命を決める戦いが始まった。

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