東方有無録   作:印鑑

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スキマ妖怪の猛攻~死の果て、哀しみの先に

「どりゃあぁぁっ!」

 

「…藍。橙。」

 

「はいっ!紫様に攻撃なんてさせないわよー!てゃぁぁぁ!!」

 

「その意気だぞ、橙!はぁぁぁぁっ!!」

 

 

オッス!オラ紀流!

今現在、俺は三対一の無謀すぎる戦いに挑もうとしている所だ!

一対一でも勝ち目が薄いのに三人ともなるとなぁ…絶望的だろう。

だが、俺は逃げるわけにはいかない!喧嘩を売った張本人のプライドにかけて!!

そして、咲夜が霊夢に殴られないようにするためにも!

 

 

「退くことは…出来ないんだよ!!」

 

 

藍と橙の二人が、激しく回転しながら弾幕をまんべんなくばらまいてくる。回りすぎだろ…

俺は十倍界王拳の力を生かし、飛んでくる弾幕を瞬時に見切って避けていく。

 

 

「な!?私と橙の弾幕を避けているだと!?」

 

「藍様…。何だか目が回って来ましたぁ…うぷ…」

 

「何だって!?大丈夫か、橙!?

辛いなら、無理して戦わなくてもいいんだぞ!?」

 

「…藍様ぁ…っ…」

 

 

…何か、随分と過保護だな…

まあ「式神」とか言ってたし、よっぽど大事なんだろう。

それにしても…

 

 

「紫様!橙の調子が悪いので、後は頼みます!」

 

「…藍?」

 

「紫様は幻想の賢者です!あんな人間ごときにはやられないと私と橙は信じています!」

 

「…すみません、紫様~…」

 

「橙!もういいから喋るな!

…頑張って下さい!私は橙を寝かせてきます!!では!!!」

 

 

…何で帰っちまうんだよ…おい…

紫もそれは予想外だったらしく、ポカンとした顔をしている。

…やがて彼女は俺の視線に気づき、表情を改める。

 

 

「…よくあの二人の戦意を喪失させられたわね。」

 

「は?勝手に帰っただけだろ?」

 

「…普段ならああなる前に相手は負けているのに…」

 

 

あ、そうなのか…俺って良くやった方なんだ…へぇ…。

この時、俺は「もしかしたら勝てるんじゃないか」等と失礼な事を考えていた。

 

 

「…まあ、いいわ。今度は私が相手になってあげる。」

 

「分かった。何時でも良いぞ。」

 

「そう…」

 

 

紫はそう呟いて右手を上げる。その手には、例のごとくスペルカードが握られていた。

遂に来るか…さあ、幻想の賢者のスペルを見せてみろ!

 

 

「…結界『光と闇の網目』!」

 

 

紫はスペルを発動し、両手を前にかざす。

するとその手から赤と青の巨大な弾幕が発射され、俺に向かって飛んで来る。

密度は大した事無いな。よし、避けてやr…

 

 

「…ふふ。」

 

 

俺が避ける為に動きだそうとした瞬間、紫が微笑と共に軽く腕を振った。

たちまち俺の視界が例の目玉裂け目で埋まったかと思うと…

 

 

「はっ!!」

 

 

その裂け目の一つ一つから、それぞれ赤と青のレーザーが放たれた。

…待て待て待て待て!そんなのありかよ!!避けられる気がしないぞ…

そうか、避けられないなら…

 

 

「…消してみな!波符『かめはめ波』!」

 

 

俺が放った光線は見事レーザーにぶつかり、相殺する事に成功した。

だが…

 

 

「…相殺出来るのがレーザー1本だけってどういう事だよ!?」

 

 

紫のスペルのパワーは俺の想像を遥かに超えており、

俺はただひたすら避けるだけになってしまった。反撃なんぞ出来るもんじゃ無い。

 

 

「あら?余裕の表情が消えたわね。」

 

 

紫は笑いながら赤と青の弾幕を撃ち続ける。

…流石だ…あいつはまだ全然本気じゃ無いってのに、全てにおいてこちらを上回ってやがる。

こっちは限界まで界王拳のパワーを上げてるってのによ!

仕方無い…出来ればしたくなかったんだが…

 

 

「散弾『トラップシューター』!」

 

「ん?」

 

 

俺はスペルを発動し、緑色の気弾をそこらじゅうに撒き散らす。

当然、紫の弾幕に対抗しようなんて考えていない。俺の本当の目的は…

 

 

「『瞬間移動』!」

 

 

一瞬だけでもいいから紫の気を逸らす事なんだよ!

俺は瞬間移動で紫の後ろに回り込み、攻撃体勢に入る。

…流石の賢者さんも、まだ気づいて無いな!今だぁ!

俺の拳の一撃が紫に突き刺さると思われた瞬間。

 

 

「…ごぼっ!?」

 

 

…背中に激痛が走った。意識が飛びそうになるのを必死にこらえ、後ろを振り向くと…

 

 

「やった!止まった!」

 

「よく紫様を守ったな、橙!!」

 

「…お前…ら…」

 

 

先程帰った筈の二人が、俺の真後ろに立って笑っていた。

…成る程、罠か…まんまと引っかかっちまったぜ…

 

 

「よく来たわね、二人共。」

 

「「当然の事です!!!」」

 

 

藍と橙が元気よく答える。マジかよ…一対一ってわけじゃ無かったんだな…

…甘かったのは俺だったか。

紫が振り向き、俺を見下ろしてくる。

 

 

「どうかしら?私の『式神』達の攻撃は?」

 

「おかげさまで、大いに効いてるよ…」

 

「…だそうよ。良かったわね、二人とも。」

 

「やったー!私の攻撃が効きましたよ、藍様!」

 

「良かったなぁ、橙…グス。」

 

「え!?何で泣いてるんですか藍様!?

何処か痛いんですか!?」

 

「…仲良いな。」

 

「…ええ、おかげさまでね。」

 

 

紫はそう言いつつ、一度しまった傘を再び裂け目から出し、その先端を俺に向ける。

もう一方の手には新たなスペルカード。あ、終わったな…

 

 

「…フン、幻想の賢者に退治されるんなら本望かもな…。」

 

 

この絶体絶命のピンチの中俺の口から出てきた言葉は命乞いでは無く、称賛の言葉だった。

紫は一瞬驚いた様な表情をするが、直ぐに笑ってこう返してきた。

 

 

「まあ、嬉しい事言ってくれるじゃないの。魍魎『二重黒死蝶』!」

 

 

紫がスペルを発動すると、俺の周りを黒い蝶が舞い始めた。

…そういえば、黒い蝶が出ると誰か死ぬって言ってたような…そしてこの場合それは…

 

 

「…じゃあね。『普通の人間』。」

 

 

あ あ 、 お れ な ん だ 。

黒い蝶が襲いかかってくる。その蝶が俺の体に触れたのか、触れなかったのか。

とにかくその時点で、俺の意識はもう無かった。

 

 

「…今度こそ死んだな、俺も。」

 

 

死を呼ぶ黒蝶が、一人の人間の体を覆い尽くした。

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 

魔理沙は理解出来ていなかった。

たった今、目の前で知り合いが消えた事に。

 

 

「…?」

 

 

咲夜も理解出来ていなかった。

たった今、自分の気持ちを肩代わりしてくれた人間が負け、消された事に。

 

 

「あ…」

 

 

そして、それは霊夢も同じ事だった。

いや、彼女の場合は少し違う。頭で理解はしているのだ。だが…

その頭は、その事を全力で否定しようとしている。

 

 

「…嘘…よね…?」

 

 

そうだ。そんな事があるはずがない。

どうせまた、ちゃっかり生きているのだろう。

そして、笑いながらまた戦いを始めるんだろう。

 

 

「…これで、幻想郷は守られた。

私の使命も果たされた…。」

 

 

…ねえ、何で帰ろうとしてるの?まだ終わって無いでしょ!?

その程度じゃ祠弥は死なない。なのに何で?

ああ、そうか。そう言うことか!

…祠弥は死んだんだ。

 

 

「…霊夢?」

 

「…ねえ魔理沙。祠弥が死んだなんて無いわよね?」

 

「え…?」

 

「…そうね、あの馬鹿がいなくなっちゃうわけ無いわよね。そうよね。」

 

 

霊夢が魔理沙に話しかけていると、咲夜が無言で横に立った。

 

 

「…。」

 

「何よ、咲夜。」

 

「…殴って良いですよ。」

 

「…?」

 

 

咲夜が何を言っているのか理解出来ない。自分を殴れって?ハハハマゾじゃあるまいし…

それにあんたを殴るっていうことは…

 

 

「…嘘つき。」

 

「…は?」

 

「祠弥が死ぬわけ無いじゃない!!!あいつのしぶとさを忘れたの!?

どんなに相手との差があっても祠弥はいつもいつも…」

 

「…無駄に余裕ぶって戦ってた、か?」

 

「そうよ…今日だってそれと同じ…」

 

 

言葉が続かない。早く次の言葉を探さないと。

そうでもしないと、心の中に生まれた恐ろしい考えに呑み込まれそうだ。

…「祠弥が死んだ」という考えに。

 

 

「嘘…嘘…嘘…!!」

 

「…博麗の巫女。私も認めたくはありません。

ですが…」

 

「ウルサイ。ウソヲツクナ。ソンナコトガ…」

 

「…いい加減にしろ、霊夢!」

 

「っ!?」

 

 

咲夜を攻めている霊夢に、魔理沙の一喝が入る。

 

 

「私だって信じたく無いさ!祠弥が死んだなんて!!

けど、あいつはもういないんだぜ!!!」

 

 

そう大声で叫ぶ魔理沙の目には、涙が溜まっていた。

その声と涙に気圧され、霊夢は思わず黙る。

 

 

「…弔い合戦だ。」

 

「「…え?」」

 

「祠弥の弔い合戦だよ!今ここで、おっ始めてやろうぜ!!」

 

 

魔理沙の提案に、二人の内のどちらも反対しなかった。

 

 

 

 

 

…ここは何処だ?俺は一体全体どうなったんだ!?

まさか、死んだ…のか!?くそ…まだ生きたかったのに…

 

 

「…これで最後よ。あんたは誰!?」

 

「紀流 祠弥です…」

 

 

…あれ?霊夢?何だこれ、走馬灯か?

 

 

「…マジシャン?」

 

「れっきとしたウィッチだぜ。」

 

 

あ、魔理沙だ…最初は箒で突っ込んで来たんだっけ。

 

 

「…貴方なら…あるいはお嬢様を…」

 

「は?お嬢様?」

 

 

咲夜…か。そういえば背中に乗ってきたりしたな…意味もなく。

その後も、幻想郷に来てからの様々な出来事が目の前を通っていった。

…やがて、最後の出来事。これさえ見れれば…

 

 

「…弔い合戦だ。」

 

「「え?」」

 

 

…弔い合戦?何の事だ?

 

 

「…祠弥の弔い合戦だよ!今ここで、おっ始めてやろうぜ!」

 

 

そうか…俺はそんなに…大切に思われていたのか。

そういえば、俺が死んじまったら咲夜が殴られるんじゃ無かったか?それはいかんな…

あと紫から、三人を助けなきゃいけないし。

 

 

「…だけど、俺が行った所で…。」

 

 

十倍界王拳も効かない、スペルのパワーも足りない…

こんな俺が行って、何になるんだろうか。

 

 

「…けど。」

 

 

霊夢達を、ここに来させるわけにはいかない。

でもどうやって?それが分からない。情けない。悔しい、虚しい。

…哀しい。

 

 

「…っ…」

 

 

紀流は、幻想郷に来てから初めて『涙』を流した。

それで、十分だった。

 

 

 

 

 

「…な!?」

 

「「「!?」」」

 

 

急に、大気が揺れ始めた。

まるで、空気中で地震が起こっているかのように。

 

 

「な…何だぜ?」

 

「…これは…まさか!?」

 

 

紫はある「可能性」に気づく。普通なら、馬鹿馬鹿しい意見として早々に却下されるだろう。

だが、今回は…否定しきれない。

やがて、大気の揺れは治まった。

 

 

「…一体何だったんでしょうか…?」

 

「…来る。」

 

「霊夢?」

 

「誰か来る!!」

 

 

霊夢がそう言い終わらない内に、変化は起こった。劇的な変化が。

その場にいる全員の前で突如空間が引き裂かれ、大きな裂け目が出来る。

そして、そこにいたのは…

 

 

「…まだ終わって無いぞ、紫。」

 

「祠弥…!?」

 

 

青髪青眼となり、髪の毛が逆立った「普通の人間」だった。

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