東方有無録   作:印鑑

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無境幻想曲~普通の『超戦士』(矛盾)

「…。」

 

「「祠弥…!」」

 

「ば…馬鹿な…!?」

 

 

…オッス、「俺」紀流。

何かこの世界に戻ってこれた。理由は分からない。

だが戻って来れたのだ。この際、理由なんてどうでもいい…

 

 

「…貴方…本当に『普通の人間』なの!?」

 

「…。」

 

 

…紫が…何か言ってるな…まあ、関係無いか…。

 

 

「紫様…あいつは!?」

 

「そ…そんな事知らないわよ…!」

 

「…え?」

 

 

藍は直ぐに、自分の主の異変に気づく。

いまいち表現しづらいが、まるで何かに怯えている様なのだ。

 

 

「…紫様?一体どうし…うっ!?」

 

 

藍はその事を紫に訊ねようとするが、突然声が出なくなる。

 

 

「…っ…!?」

 

 

必死に声を出そうとするが、音が全く出てこない。

まるで、喉が潰れたかのように。

 

 

「…藍様?紫様?

…あ!さてはあの人間に何かされてるんですね!?」

 

 

橙はそう決めつけ、人間の方を睨み付ける。

無表情だ。何も考えていない様に見えるが、あいつが紫様と藍様に「何か」したのだ。

…許せない。

 

 

「くそっ!生意気な奴だー!喰らえ、式符『飛翔晴明』!」

 

 

橙はスペルを発動し、星を描く様に高速で走り回る。

すると橙が走った軌跡に添うかの様に弾幕が発生し、紀流に襲いかかった。

 

 

「…。」

 

 

紀流は自分に向かって飛んでくる弾幕を一瞥した後、右手を前に突き出す。

その手には比較的小さな、通常弾幕レベルの緑色の気弾が浮いていた。

 

 

「…フン!」

 

 

紀流は無造作にその気弾を橙の弾幕に向けて押し出し、発射する。

その気弾が弾幕の一つと接触した瞬間…

 

 

 

 

 

…橙が放った大量の弾幕を、全て呑み込む程の大爆発が起こった。

 

 

「きゃあぁ!?」

 

「橙!!」

 

 

爆心に最も近かった橙はたまらず吹っ飛ばされ、そのまま地面に激突しそうになる。

その橙を、何とか声が出せるようになった藍が受け止めた。

 

 

「大丈夫か、橙!?」

 

「…はい。ありがとうございます藍様~…」

 

 

藍は橙の無事を確認すると、爆発を起こした張本人を見据える。

紀流は間近で大爆発が起こったというのに、相変わらず無表情のまま立っていた。

…爆発など無かったかのように。

 

 

「…あの人間…いや、もう人間がどうかも怪しいが…

一体全体何者なんだ?」

 

「…あぁぁぁぁ…!」

 

「「紫様!?」」

 

 

式神二人は、自分達の主の尋常ではない怯えっぷりに酷く驚く。

紫の目線の先にあったのは…

 

 

「…。」

 

 

例の人間、紀流の水色に染まった目だ。

さっきは気がつかなかったが、その目は真っ直ぐに紫を見つめている。

 

 

「…やはり、紫様は何かしらの攻撃を受けているのか…?」

 

「絶対そうですよ!でなきゃあんな風になりませんって!!」

 

「橙も私と同じ考えみたいだな…。」

 

「…藍様と同じ考えなんだー♪」

 

「…。」

 

 

藍と橙のやりとりを、紀流は紫から視線を外して見た。

その瞬間紫は自身を押さえつけていた「何か」から解放され、落ち着きを取り戻す。

 

 

「藍…橙…」

 

「あ、紫様!大丈夫ですか?」

 

「お怪我はありませんかー!?」

 

「…ええ、平気よ。怪我も無いわ。」

 

「紫様…一体、あの者は…」

 

 

藍は、今現在三人に共通しているであろう疑問を紫に訊ねる。

その疑問に、紫は正確に答えられる自信が無かった。

ただ、一つだけ確かな事は。

 

 

「…彼は『化け物』よ。

死から蘇るなんて、化け物以外の何者でも無いわ。」

 

「…俺が『化け物』?違うな。」

 

「っ!?」

 

 

紫が自身の事を「化け物」と評したのを、紀流は静かに否定する。

 

 

「…じゃあ…何者なの…!?」

 

「何度も何度も言ってるじゃないか。

この場にいる人全員が知ってると思うんだけどな…」

 

「…私は知らないわ。」

 

「そうか。じゃあ教えてやる。」

 

 

紀流は紫の要望に答え、改めて自己紹介をする。

 

 

「俺は異変を解決しにやって来た人間…

一度死んだ後転生して、幻想郷にほっぽりこまれた凄くも何とも無い只の一般人…

…『普通の人間』、紀流 祠弥だ。」

 

 

紀流は話し終える。その顔は「何を分かりきった事を」とでも言いたげな表情だ。

 

 

「はあ…やっぱり、『普通』なのね。」

 

 

紫は溜め息を一つつき、もうこれ以上詮索しないことにした。

多分何度聞こうとも、答えは変わらないだろうから。

 

 

「祠弥…いくらなんでもそこまで行くと…」

 

「…『普通』って部分に納得出来なくなるぜ…」

 

「同感です。」

 

 

霊夢達も、紫とほとんど同じ事を考えていた。

「こいつの何処が普通なんだ」と…

 

 

「…さて、続きだ紫。今度は簡単にはやられんぞ?」

 

「参ったわね…どうひっくり返っても、勝てそうに無いわ…

悔しいけどここは一旦…」

 

「紫様!逃げちゃ駄目です!!」

 

 

紫がスキマを開こうとすると、橙が腕を掴んできた。

それを慌てて藍が止め、引き離す。

 

 

「こら、橙!」

 

「…ごめんなさい…でも…」

 

「いえ、橙の言う通りね。私は幻想の賢者。

この世界を作った大妖怪よ。人間ごときに臆してどうする!!」

 

 

紫は自分を奮い立たせ、紀流に向き直る。

紀流はそれを見て戦闘態勢に入った。

 

 

「私は幻想の賢者、八雲 紫…

この幻想郷を守るためにも、私自身の誇りにかけても!

貴方を『退治』させてもらうわ!!罔両『ストレートとカーブの夢郷』!!」

 

 

紫はスペルを発動し、連続して飛ぶ水色の小型弾幕と

交差しながら飛ぶ無数の赤色巨大弾を同時に放って紀流に攻撃を仕掛ける。

襲いかかってくる弾幕を見て、紀流は笑いながらスペルを発動した。

 

 

「そう来なくちゃな!散弾『トラップシューター』!!」

 

 

紀流は腕に気を溜め、下からすくいあげるように降る。

先程よりも大きく、大量の緑色の気弾がその手から放たれて紫のスペルとぶつかりあった。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「そらそらそらそらぁっ!!!」

 

 

二人の弾幕は連続してぶつかり合い、まるで花火大会のような状態になる。

…いや、本物の花火よりも美しいだろう。

 

 

「ハハハ、良いぞ良いぞ!戦いはこうでなくちゃ!」

 

「フフ、私も生まれて初めてよ。こんなに胸が高鳴ってくるのはね!」

 

「生まれて初めてか!そいつは光栄だな!!」

 

 

紀流と紫が繰り広げる激戦。霊夢達はその激しさに圧倒されていた。

 

 

「…ねえ、魔理沙に咲夜。」

 

「…何だぜ?」

 

「何ですか?」

 

「祠弥は、自分の事を『普通の人間』って言って譲らないけど、私に言わせれば…

…祠弥と紫、どっちも『化け物』よ。」

 

「「その通りだな…」ですね。」

 

 

彼女達がこんな会話をしている事など露知らず、『化け物』二人は戦い続ける。

既に両者ともスペルを終了しており、近接戦に移行していた。

 

 

「はあっ!!」

 

「裂け目から手だと!?危なっ!!」

 

「スキマにはこんな使い方もあるのよ♪」

 

 

紫はスキマを最大活用し、予測不可能な打撃を次々と仕掛けていく。

紀流はスキマから飛び出る手に何とか反応するが、防戦一方となってしまっている。

 

 

「流石に的が小さすぎて、対応出来ないかしら?

お望みなら的をもっと大きくしてあげるけど?」

 

「是非ともそうして欲しいねえ!!」

 

「じゃあお望み通りに♪廃線『ぶらり廃駅下車の旅』!!」

 

「…は?何か似たようなテレビb…」

 

 

俺が疑問を口に出そうとした瞬間、俺の横に大きな裂け目ができ…

普通の電車がそのまま走って来ました。

 

 

「…お前は魔法使いかぁぁぁっ!?」

 

「どう?的が大きくなって、捉えやすくなったでしょう?」

 

「限度ってもんがあるだろ!波っ!!」

 

 

俺は気を一瞬だけ放出し、電車の進行方向から咄嗟に退く。

目と鼻の先を電車が通り過ぎていった。怖っ!

 

 

「流石の速さね。じゃあもっと行くわよ!!」

 

「まだ続くのかよ!?」

 

 

再び裂け目が開いたかと思うと、またもや電車が突っ込んできた。

…俺は電車乗ってて死んだんだ、二回も殺されてたまるか!

 

 

「そおぃ!!!」

 

 

俺は両手を突きだし、電車の進行を超強引に止める。

それを見て、紫は驚愕の表情を浮かべた。当然と言えば当然か…

 

 

「な!?受け止めたですって!?」

 

「…返すぜ!波符『かめはめ波』!!!」

 

 

俺はスペルを発動し、万力を込めて電車を裂け目の中に押し返す。

電車が完全に見えなくなった所で、紫は裂け目を閉じた。

…何だよ…紫の所に出てくるんじゃ無いのか…

 

 

「…貴方の強さ、出鱈目ね…」

 

「そう?」

 

「どや顔は止めておいた方が良いわよ。

折角格好良いのに…」

 

「は?」

 

「…まあ良いわ。そろそろ終わらせようと思うんだけど、良いかしら?」

 

「良いぞ?お好きな様に。」

 

「私のとっておきを見せてあげるわ!紫奥義『弾幕結界』!!!」

 

 

紫がスペルを宣言すると無数の裂け目が現れ、弾幕を放ちながら俺の周りを回り始めた。

俺は身構えるが何故か弾幕は飛んでこず、その場で浮いたまま止まっている。

何のつもりだ…?そういえば、こんな技があったような…

 

 

「あら、様子見~?大丈夫かしらねぇ、そんな呑気な考え方で…」

 

 

裂け目の回転が止まった時には、俺の周りをピンクと青の弾幕がびっしりと取り囲んでいた。

 

 

「…成る程、そういう事か…」

 

「逃げ道はもう無いわよ♪それっ!」

 

 

紫の上げた掛け声と同時に、二色の弾幕が一斉に全方位から襲いかかってきた。

俺は高速で動き回って必死に避けるが、何しろ密度が異常+裂け目から無限に出てくるのだ。

何時までも避けていられるわけが無い。流石「紫奥義」…

だが…

 

 

「俺は負けるわけにはいかない!これからも幻想郷で過ごす為に!

そして…咲夜が霊夢に殴られないようにするために!!」

 

「…え?」

 

「まさかこの技を使うはめになるとはな!

…紫、これで最後だ!!完防壁『パーフェクトバリヤー』!!!」

 

 

俺は全身にエネルギーを溜め、一気に解き放つ。

すると俺を中心として紫色の衝撃波が発生し、瞬く間に弾幕を打ち消していく。

その衝撃波はどんどん広がっていき、遂に…

 

 

「そんな!?私の弾幕結界が…!」

 

「逃げ切れはせんぞ、紫ぃぃぃぃぃ!!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

彼女の撃ったスペルもろとも、紫を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

「…うん?」

 

 

どれ程の間、意識が無かったのだろう。紫は自分が横たわっている事に気づく。

慌てて起き上がると、泣きそうな顔になっている式神、藍と目が合った。

 

 

「あ、紫様!お目覚めになりましたか!」

 

「紫様~!良かったぁ…」

 

「藍、橙…私は…」

 

「あんたは祠弥に負けたのよ、紫。」

 

 

紫が声のした方を見ると、博麗の巫女が自分を見下ろしていた。

 

 

「霊夢…」

 

「これで、祠弥が幻想郷にいても文句無いわね?」

 

「…ええ。私の負けよ…

あの人間…紀流は今どこに?」

 

「そこにいるじゃない。」

 

「?」

 

 

霊夢は後ろを指す。紫が首を捻って後ろを見ると…

 

 

「…だから、悪かったって…」

 

「包帯を巻いた腕で戦うのは、あまりにもおろかではありませんか!?

包帯を巻いた私と魔法使いの努力を無駄にする行為に見えますが…。」

 

「咲夜、少し言い過ぎなんじゃ…」

 

 

咲夜が説教モードに入っていた。紀流は正座し、観念したように座っている。

 

 

「…霊夢、あの人間って毎日あんな感じなの?」

 

「そうよ?」

 

「貴方も大変ね…」

 

「結構楽しいけどね。」

 

「皆~♪おまたせお茶よ~。あら、紫じゃない!」

 

「…幽々子。久し振りね。」

 

 

幽々子と紫は軽く挨拶をする。

 

 

「じゃあ、式神さんの分も合わせてもう三個茶のみが必要ね~。

ちょっと待ってて~。」

 

「…ねえ幽々子、貴方は私と紀流の戦いに気づいてたの?」

 

 

幽々子は足を止め、しばらく間をおいてから言う。

 

 

「…何の事?」

 

 

その場にいた全員が、ずっこけた。

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