白玉楼での激闘から一日。
幻想郷を覆っていた大雪はたちまち溶け、春がやって来た。
博麗神社に生えている無数の桜の木も僅か一日で満開になり、花弁が舞っている。
その木の下で行われているのは…
「…異変解決と言えば宴会!宴会と言えばー?」
「「「「「酒ー!!!」」」」」
「…。」
オッス!オラ紀流!
異変を解決した一日後に直ぐ宴会…すっごくハードだな…
…まあいいか。楽しもう!酒だ、酒!!
「紀流~。これ飲む~?」
「幽々子か…よし、一杯頂こうか。」
「どうぞ~。」
幽々子にお酒をついでもらう。うん、良い香りだ…
…あれ?俺って未成年だったような…どうでも良い!
「飲まないの~?」
「あ、うん…」
「…幽々子様、未成年者にお酒を勧めるのはいけませんよ?」
「あら、妖夢~。」
俺が酒を飲もうとすると、前戦った剣士さんの妖夢が止めようとする。
…手に盃を持ちながら。
「お前も飲んでるじゃないか…」
「私は未成年ではありませんからね?」
「その外見で?」
「…見かけで人を判断しないで下さい。」
「嬉しそうね、妖夢~♪」
「はいはい…」
妖夢は幽々子のからかいを軽く受け流し、盃を傾けてお酒を飲む。
…いい飲みっぷりだな…よし、俺も…
「ぐーっと…あれ!?」
「どうしたの~?」
「いや、酒が消えたんだが…」
「へえ、ワインもいいけど日本酒も美味しいわね。」
俺が声のした方を向くと、背中に翼の生えた少女と傘を差した女性が立っていた。
一緒に今回の異変を解決した十六夜咲夜、
そして前の異変の黒幕のレミリア・スカーレットだ。
「久し振りね、紀流。前の宴会以来かしら?」
「そうだな。」
「…お嬢様、何故わざわざ他人の物を飲むのですか?」
「楽だからよ。」
「傘を引っ込めますよ?」
「…ちょ、殺す気!?」
「必要によっては。」
…相変わらず無礼だな、おい…
レミリアと咲夜のやり取りを聞いていると、幽々子が気づいて歩いてきた。
「紀流~?その人は誰~?」
「ああ、会ったこと無いのか…」
俺が紹介しようとするとレミリアが一歩踏み出し、俺を押し退けて自己紹介した。
…どんだけふんぞりかえってんだお前は…
「私はレミリア・スカーレット。夜を統べる吸血鬼の王女にして、
前の異変の首謀者よ。」
「可愛い吸血鬼さんね~♪」
「なっ!?」
「可愛い」と言われたレミリアは真っ赤になり、必死に反論する。
うん、可愛い。
「侮辱するなっ!この私が「可愛い」ですって!?そんなわけ…」
「はいはい、皆お嬢様の恐ろしさは分かっていますよ。」
「…咲夜…」
酷い受け流し方だな…レミリアが可哀想だ。
さて…酒はどこかなっと。まだ一口も飲んでないぞ…
そんな事を考えていると、いきなり俺の盃に酒が注がれ始めた。
「え!?」
俺は慌ててバランスをとり、お酒が溢れないようにする。
一体どっから…出所は直ぐに分かった。
「紫…その裂け目から注ぐなよ…ビビるから…」
「フフ、よく溢さなかったわね。」
俺の目の前に裂け目が現れ、一人の女性が出てくる。
先日俺と激戦を繰り広げた大妖怪、八雲 紫だ。
「…まさか、まだ俺を『退治』しようとしてるのか…?」
「そんなわけないでしょ。
まあ、今のところはね…」
「…。」
「嘘嘘、冗談よ。どうしたの?
折角の宴会だっていうのに、浮かない顔をして…」
「…まだ酒を飲んで無いからな…んぐっ…」
俺は紫の質問に答えながら、ゆっくりと酒を喉に流し込んでいく。
喉が焼けるぜ…こういう酒を濁酒って言うんだろうか…
「今日はお前一人なのか?」
「いえ、藍と橙も一緒よ?橙があそこで妖精といて、藍は…」
紫は言葉を切り、辺りを見回して藍を探す。
俺も探してみると、十数メートル先で誰かと話している姿が目に入った。
その話相手は…
「…咲夜、妖夢と何か喋ってるな。」
「よく見つけられたわね。」
「いや、あの尻尾があるんだぞ…」
「それもそうね。」
面白そうなので、俺は三人の方に行ってみることにした。
三人は額を突き合わせ、何やら真剣に話し込んでいる。
「…幽々子様の食費は馬鹿になりませんからね…
いくら言い聞かせても『幽霊だから太らないわよ~』の一点張りですし…」
「それを言うなら紫様だって似たようなものです。
昼まで起きてこないかと思えば、夜中に『お腹空いたから何か作って』とか…」
「お二方はその程度で済むんですか…
私は昼はメイド長として妖精メイド達の指揮を取り、
夜は『起きた』お嬢様のお相手をしなければいけないんですよ…」
…何だこの愚痴大会…酒入ってんのか?
随分と苦労してるんだな…三人とも。
「何か大変そうだな。」
「「「ひゃっ!?」」」
唐突に話しかけた為だろうか、三人は一斉に普段の彼女達からは想像できない声を出した。
…どれだけビビってんだよ。
「…脅かさないで下さいよ。てっきり幽々子様が来たかと…」
「あら~、私がどうかしたの?妖夢。」
「なっ!?」
妖夢が振り返ると、幽々子が笑いながら立っていた。
…一体いつからいたんだ…俺も全く気がつかなかったぞ…
「あ、あの…」
「言いたい事があるなら、私に面と向かって言えばいいのに~。
聞いてあげるから、ちょっとこっち来なさい♪」
幽々子はそう言い、妖夢の腕を掴んで引きずっていった。黒い笑いと共に。
…無事で帰って来れるのか?妖夢。
二人の方に向き直ると、いつの間にか咲夜だけになっていた。
「あれ?藍は?」
「あの式神なら突如地面に開いた裂け目に呑み込まれましたよ。
死んだような目をしていました。」
「(生きて帰って来いよ…)」
妖夢と藍の二人に対し、俺は思わずそう願ってしまった。
「あ!紀流お兄ちゃんだ!!めーりん、早く早く!!」
「分かりました…あまり急かさないで下さいよ…」
また聞き覚えのある声がしたので振り向くと、フランと美鈴が走ってきた。
成る程、フランの傘は美鈴が差しているのか。
「紀流お兄ちゃん!フランと遊ぼー!!」
「…弾幕ごっことか言うなよ?」
「…え~!つまんない!!」
…流石に連日で命懸けの戦闘はちょっとな…死ぬ(ガチで)。
「じゃあ…じゃあ…」
「何だ?」
「スペルカードバトル!」
「大して変わらないって!!」
俺がそう指摘すると、フランはがっかりして座り込んでしまった。
ちょっと言い過ぎたな…
「またいつか…な?」
そう提案すると、途端にフランの顔が輝く。
「うん、約束だよ!
破ったらフラン怒るからね!!」
「分かってるって。」
俺はフランにそう答えた後、辺りを回ってみる事にした。
妖精達は紅魔館の人達とカラオケ大会みたいなのをしており、今はチルノが歌っている。
曲は…
「いまぁ~~~わぁぁぁたしのぉぉぉぉぉぉ~~ねがぁぁぁぁぃごぉぉぉとがぁぁぁぁぁぁ…」
「うまいよー!チルノちゃん!」
「幻想一ですよー♪」
「不思議な歌い方なのだー。」
…何でお前がそんな曲を…そして…
「「本当に上手いのか?」かしら?」
パチュリーとハモったぜ…
「あら、やっぱりあなたもそう思う?」
「うむ。」
「歌って結構評価しづらいのよね…私自身あまり歌わないし…」
確かにそう見えるな。
と言うかパチュリーが歌っている光景が想像できない…
「祠弥!」
「うおっと!?」
俺がチルノの歌を聞いていると、いきなり誰かに腕を引っ張られた。
慌てて後ろを振り返ると…
「魔理沙か…びっくりさせんなよ…」
「すまんすまん。とりあえず、霊夢が呼んでるから、あいつの所まで行こうぜ!」
そう魔理沙は言うと、俺を一本の桜の木の下に連れてきた。
根元で霊夢が酒を飲んでいたが、魔理沙が来たのに気づいてこちらに向かってくる。
「どう、祠弥?宴会は?」
「お陰様で楽しませてもらってるよ。」
「それは良かったわ。」
霊夢は笑いながら続ける。
「結局、今回も祠弥に美味しい所全部持ってかれちゃったわね…」
「しょうがないぜ。あれは凄かったな…『超サイヤ人』だっけ?」
「無意識の内になってたからな…」
実を言うと、俺は自分が超サイヤ人になっていたのに全く気がつかなかった。
霊夢達に髪の毛が青いって言われて初めて気づいたぜ…
嬉しすぎて死ぬかと思った。うん。
…まあ、俺は「サイヤ人」じゃ無いけどな…
「…けどまだ青か…体が無意識に制御かけてんのか?
まだ二十倍界王拳もマスターしてないからかな…うーん…」
「祠弥?どうしたんだ?」
「いや、何でもない。
で?どうして俺を呼んだんだ、霊夢?」
「…ちょっと、確かめたい事があるのよ。」
「?」
そう霊夢は言うと、俺の方に歩いてきて…
…ぎゅっと抱き締めてきた。
予想外の行動に俺は面食らうが、直ぐに疑問をぶつける。
「…どうしたんだ、いきなり…霊夢?」
「…祠弥よね?あなた、本当に祠弥よね?」
「え?」
お前は何を言ってるんだ…後何で泣いてるんだ?
「俺は正真正銘、紀流 祠弥だが…」
「…良かった…!」
そう言うと、霊夢はさらに強く抱き締めてきた。
「…昨日、あなたが消えてからずっと不安だったの…
もしかしたら今の祠弥は幻で、本当は死んじゃったんじゃないかって…!」
「…おいおい、随分と物騒な想像だな…
心配無いさ。俺は確かに、この幻想郷で生きてるぞ。」
「…っ…」
霊夢はもう何も言わず、ただ泣きながら俺を抱き締めていた。
…心配かけてたんだな…反省。
「…ありがとう、祠弥。
これからも宜しくね。」
「こちらこそ、霊夢。」
「ふふ…」
霊夢は微笑んだ後、俺から離れた。
「良かったな、霊夢。祠弥が本物で。」
「ええ。」
「さあさあ、何時までも辛気くさい顔してないで楽しもうぜ!!」
「「そうだな!」ね!」
「…お、祠弥!ちょうど良い所に!」
俺が気合いを入れていると、チルノが話しかけてきた。
「…チルノ?どうしたんだ?」
「今カラオケ大会やってるんだけどさー、だれもあたいに挑戦して来ないのよ!
そこで!あたいよりサイキョーの祠弥!あんたに挑戦権をあげるわ!!」
「…え?」
「おっ、面白そうじゃないか!紀流、受けてやれよ!!」
「…魔理沙?」
「おーい皆ー!!!祠弥が歌うぞー!!!」
「「「「「え!?」」」」」
魔理沙の大声に皆反応し、ゾロゾロと集まってくる。
…止めろ!そんな期待に満ちた目で俺を見るな!
「はい祠弥、マイク!」
「…お、おう…」
チルノが出したマイクを俺は無意識に受けとる。
「…なあ、これって伴奏ないのか?」
「「「私達に任せて!」」」
声のした方には、プリズムリバー三姉妹がいた。
「私達が伴奏してあげるから、存分に歌っていいよ!」
「殆どの曲は出来るよー!」
「あ、そう…」
ここまでされたら歌うしかない!!
俺はマイクを口元に持っていきながら、何を歌うか考える。
…よし!これに決めた!息を吸い、歌い始める。
「さあてめえら!覚悟しやがれ…」
「「「「「!?」」」」」
歌い始めてから思った。
何 故 こ れ に し て し ま っ た し 。
だが、もう後には引けない!歌いきってやる!
「このベジータ様が…たっぷりと料理してやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
普通の人間の叫びが、幻想郷の空に響き渡った。