「さて、酒屋はどこかなっと…」
「目と鼻の先にあるというのに、何故気づかないのですか?」
「…あ、本当だ…」
「あはは!あなたの目は節あn…もふっ!?」
「…前はちゃんと見ような。」
オッス!オラ紀流!
…今現在、酒屋の前で妖夢が藍の尻尾に突進した所だ!
ああ、何か気持ち良さそうだな…
「何を放心状態で突っ立っているのですか。
早くここに来た目的を果たされてはどうです?」
「…あ、そうだな。
さっさと酒を買わないと…」
俺は霊夢から渡されたメモを出し、酒の種類を確認する。
「…えーっと…!?」
…は?一升瓶を十本だって?俺にそんな馬鹿力は無いっ!
「はぁ…」
「どうされたのですか、人間?」
「買うように言われた量が多すぎる…こんなに持てないって…」
「…。」
…咲夜さん、何で俺の事をゴミのような目で見下ろしてくるんですか?
何ですか?俺の話におかしい所でも?
「…おい…咲夜?」
「…はぁ…何ですか?」
俺が咲夜に呼び掛けると、彼女は大きなため息をついて首を横に振った。
…ん!?咲夜のため息って見るの初めてじゃない…か!?
「お前さぁ…結構感情が顔に出るようになったな。」
「当たり前でしょう。私は人間ですからね。
そんな下らない事を私に訊ねたかったのですか?」
「…いや、すまん。」
…性格は全く変わって無いな…うん…。
「で、咲夜。お前のその目は何なんだ?」
「…貴方には『超サイヤ人』という力があるのでしょう?
何故それを使わないのですか?」
あ、そういう事ね…納得。
「…確かに良い案だが…町中でなれってのか?」
「人前でなれとは誰も言っていません。
裏路地等で変身した後、戻ってくれば良いではないですか。」
「おま…そんな軽々しく…」
「なら今ここでなりますか?
人里の人間に化け物扱いされることになりかねませんがね。」
「分かったよ…」
…全く…優しいんだか合理的なんだかさっぱり分からんな…
ま、咲夜なりの親切なんだろう。
「…じゃ、直ぐに戻ってくる。」
「はい。」
咲夜にそう告げてから、俺はたまたま近くにあった路地裏へと入る。
しばらく歩いた所で俺は気を高め、『超サイヤ人』に変身した。
「…ふう…人里での買い物は苦労が多いな…
わざわざ隠れて変身しなくちゃいけないとは…」
多分、高校生悟飯も同じような心境だったんだろうな…
そんな事を考えていた俺は、前方から迫ってくる「何か」に気づかなかった。
「…んっ!」
「どぉわぁぁぁっ!?」
次の瞬間、俺は「何か」に飛びかかられ、危うく後ろに倒れそうになる。
…というか尻餅つきました。凄く痛いです。
「…痛って…何なんだよ一体…」
「…紀流…お兄ちゃん…っ!?」
「!?」
…あれ?この声って…どっかで聞いたことあるような…
確か…
「…フラン?」
「や…やっぱり紀流お兄ちゃんだー!!!」
「ちょ、何でこんな所n…ギャァァァァァァ!?」
俺を「お兄ちゃん」と呼ぶこの声。そしてこの締め付け具合。うん、間違いない。
紅魔館の吸血鬼姉妹の妹、「フランドール・スカーレット」だな。
…と言うか離して!骨がバキバキ言ってるから!!
「紀流お兄ちゃん~!!!」
「分かった、会えたのが嬉しいのは分かったから力を緩めてくれぇ!死ぬ!!」
「あ、ごめんなさい…」
「…ぜぇ…ぜぇ…死ぬかと思ったぞ…」
俺を締め付けていた力が無くなったので、俺は荒い息を何度もついた。
しばらくして落ち着いた所で俺は立ち上がり、フランに質問する。
「で、フラン。何でこんな所にいるんだ?」
「紀流お兄ちゃんこそ…いきなり来たと思ったら、髪の毛を青くしたりして!
私、凄くびっくりしたんだよ!?」
「…そいつは失礼。」
あ、そうか。フランは俺の変身を見たことが無かったんだな。
それと、何で俺が謝ってるんだ?
「何で紅魔館に遊びに来てくれないのー!
また遊ぼうって約束したのに!!紀流お兄ちゃんの嘘つきーっ!!!」
「…おい、フラン…?
俺の質問にも…答えてくれない…かな…ぁ!?」
「ひっ!?
…ご…ごめんなさい…」
俺が脅しの意を込めて気を高めると、フランはびくついて涙目になってしまった。
…罪悪感が湧いてくるが今は無視だ!ここで謝ったら意味がない!!
「もう一度だけ聞くぞ、フラン。何でこんな所にいるんだ?」
「…つまんなかったから。だから、咲夜についてきてここまで来たの。
でも、傘を無くしちゃったんだ。」
傘?確かにフランもレミリアも、傘をさしていたが…
それとこれには何の関係性が?
「…あの…いまいちよく分からないんだが…?」
「…分かった。頑張って説明するね…」
~少女説明中~
「…なの。」
「…成る程、理解した。」
取り敢えず、フランが言った事を要約すると。
・紅霧異変の時に俺と会ってからというもの、フランの「外」への憧れは強くなっていった→
→だが宴会の時ぐらいしか外に出るのは許されなかった→宴会以外の時は退屈だった→
→咲夜の買い物にこっそりついていこうと計画→バレずに人里まで来る事に成功→
→見物していたら風で傘が吹っ飛んだ→吸血鬼は日光が弱点なので日陰に逃げ込む(今ここ)
「それからずっと、ここにいたわけ?」
「うん…」
「…おいおい、あんまりレミリアに心配かけるなよ…
俺が偶然この路地に来たから良かったものの、もしも俺がここに来なかったら…」
「夜になったら、家に戻ればいいかなって…」
フランがそう言った瞬間、俺の中で何かが切れた。
「俺の言いたいことはそう言うことじゃないっ!出かける時は、必ず誰かに許可を得てからだ!!
レミリアがお前を心配して、また異変を起こしたらどうする!?」
「え…お姉様が…?」
「ああそうだ!あいつはお前が考えているよりもずっと、お前の事を想っている!!
『フランが人間に何かされた、だから戻ってこないんだ』なんて考えたらどうするんだ!?
お前に責任がとれるのかっ!?」
次に何を言うか考える為に一旦言葉を切った所でフランを見ると、彼女は震えていた。
目を大きく見開いて唇を噛み締めながら、大粒の涙をポタポタと流している。
彼女の涙が地面に吸い込まれたのを見て、初めて俺は言い過ぎてしまった事に気づく。
「…う…うぇぇっ…
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「…あ…いや…フラン…」
「…ごめんなさいごめんなさい許して許して…」
俺がしどろもどろになりながら話しかけるが、フランは泣いたままだ。
…どうする!?こんな時はどうすればいいんだっ!?
ええい!こうなったらやけくそだ!!
「フラン!」
「ひゃぁ!?」
俺の突然の大声に、フランは思わず泣き止んだ。
再び泣き出さないように、俺は息もつかずにその先を言い切る。
「泣かせちまったお詫びとして、俺が人里を一緒に回ってやる!」
「…え、本当にっ!?」
「ああ本当だ!だからもう泣くn…」
俺がそう言い終わるか言い終わらない内に、フランが思いっきり抱きついてきた。
その涙に濡れた顔に、太陽のような笑顔を一杯に広げて。
「嘘じゃ無いんだよね!?ね、ね!?」
「正真正銘、本当だ!」
「わーい!!!紀流お兄ちゃん大好きーっ♪」
フランは益々強く抱きついてくる。体が悲鳴をあげている気がするがどうでもいい。
だって、フランを泣かせたのは俺なんだからな。このくらいは…
「…がぁぁぁぁぁぁっ!!!ギブギブギブギブギブギブッ!!!」
「あ、またやっちゃった…
紀流お兄ちゃん、大丈夫?」
「…大丈夫だ、問題無い…」
「…本当に?」
フランは疑わしそうな目でこちらを見てくる。凄く辛いんだが…
「大丈夫だって!ほら、この通り…」
俺は腕を回したり、腰を捻ったりする。
…耳の中でバキボキ音が何回かしたけど気にすること無いよね!
「…。」
フランは表情を変えず、まだこっちを見ている。
…くそ、まだ疑ってるな…良いだろう。ならばこちらにも考えがある!
俺はフランの腕をひっつかみ、踵を返して大通りに向かって歩き出した。
「え、ちょっと!?」
「うだうだ考えるな!ほら、さっさと行くぞ!!」
…話を無理矢理終わらせる作戦、実行。ああ、我ながらセコい…
「…。」
「あ、人間。一体何をしていたのですか?」
…すっかり忘れてたよ、咲夜の事を…
フランはまだ路地裏に隠れてるから良いものの、もしもバレたら一瞬で送り返されるだろう。
さて、どうしたものか…
「どうしたんですか、人間。何か後ろめたいことでも?」
「あ、いや…何でもない。」
「そうですか。では、私はまだ買うべき物が残っているので。」
「そうか。すまんな、待たせるだけ待たせて…」
俺がそう言った瞬間、たちまち辺りが灰色へと変貌した。
…似たような現象を俺は何度も見たことがある。
「っ!?」
「…人間。」
思わず前を向くと、咲夜がこちらに向かって歩いてきた。
懐に手を入れている。まさか、勘づかれたのかっ!?
「…。」
咲夜は無言のまま、懐から手を出す。思わず身構えた。
しかし、彼女が取り出したのは…
「…傘?」
「ええ、そうです。本来ならばレミリアお嬢様用の傘なんですがね。
フランお嬢様と一緒に人里を回るなら、傘は必要不可欠です。」
「…ありがとうな、咲夜。」
「礼には及びません。ただし…」
咲夜は傘を差し出しながら語尾を少し強める。
普段よりも低い咲夜の声に、俺は思わず鳥肌が立った。
「…もしもお嬢様に何かあった場合…
私は、貴方を許しません。」
「…分かった。」
俺がそう返答したのを聞き、彼女は踵を返して歩き始める。
それと同時に、再び時が動きだした。
俺は路地裏に戻ってフランと合流する。
「…はぁ…良かった…
咲夜に見つかったら、直ぐに家に帰らされちゃうから…
でも、どうするの?私はお日さまの光が…」
「大丈夫だ。傘ならある。」
俺はそう言い、咲夜からもらった傘を広げる。
「あ、傘だっ!やったー!!」
フランは大喜びして、俺の手から傘をひったくった。
そのまま彼女は大通りに飛び出し、俺を手招きする。
「紀流お兄ちゃん!早く行こうよー♪」
「…おう!」
俺が歩いてフランの横に立つと、彼女は俺の手を掴んできた。
「えへへ~。手、繋いでもいい?」
「もう繋いでるじゃないか。」
俺がそう指摘するとフランは顔を赤らめ、元気よく言った。
「じゃ、行こっ!!!」
「よし、出発…っておい!?歩くの速すぎるって!?」
「ほらほら~!のんびり歩いてちゃつまんないでしょ〜♪
急げ急げ~♪」
「…はぁ…」
腕がすっぽ抜けそうになりながら、俺は大きなため息を一つついた。