「ではまず最初に、幻想郷に来た動機は?」
「あ、転生でs…ってちょっと待てー!?」
「はい?」
「はいじゃねえ!!」
オッス!オラ紀流!
今現在俺は、蕎麦屋の中で取材されそうになっている所だ!
何で俺はやたら面倒な人に捕まるんだ!?そこまで挙動不審じゃ無いだろ!?
「…へっくし!
おかしいですね、何故いきなりくしゃみが出たんでしょう?
紀流さんの持ってきた向日葵が出す花粉のせいでしょうか…」
…全く…面倒なこった。
買い物の途中だし、無視してさっさとこの店を出よう…
俺は立ち上がって店を出ようとするが。
「紀流お兄ちゃん!食べ物を残しちゃ駄目だよ!」
フランに腕を掴まれ強引に席に引き戻されました。
何気なくフランの手元を見ると、大量に盛られていた蕎麦は完全に無くなっている。
どれだけ腹の許容量があるんですかね、この子は…?
「残すとバチが当たるよ!」
「どんなバチが当たるんだ?」
「え…えっと…」
フランはしばらくあたふたした後、思いついたように口を開いた。
「…咲夜に怒られるよ!」
「それはお前限定じゃないのか?」
「お姉様もだよ!」
「…。」
いや、俺には関係無いじゃん。
そもそも俺はそこまで大食いじゃないからな…とてもじゃないが、全部は食べられません。
「…。」
…蕎麦屋の大将さん、そんな目で見ないで下さい。別に不味いから食べないんじゃ無くて…
「あやや?どうやら紀流さんは蕎麦がお好きでは無いようですね。
それとも不味いから食べないんですかぁ?」
「おめ…そんな事あるわけ無いだろ。
それとあややって…」
「…それは本当かい、あんちゃん?」
「え!?こんなに美味しいのに!?
何で紀流お兄ちゃんはこれが嫌いなのっ!?」
…あのー、俺が喋ってるのを無視して勝手に話を進めないでほしいんですがね。
俺は蕎麦が嫌いなわけじゃないっ!!俺は腹の許容量が少ないだけだ!!!
そう思って口に出しても三人は全く聞いてくれず、遂には…
「紀流お兄ちゃんが蕎麦を全部食べるまで、私は紀流お兄ちゃんを外に出さないよっ!」
「仕方がない!あんちゃんを納得させる事の出来る、究極の蕎麦を作ってやるぜ!」
どうやってそんな結論にまで行き着いたんだ!?俺はもう腹一杯なんだって!
…こうなったら元を絶つしかないな。この会話の元は誰だ!
…あ、俺だった…
「さぁ、紀流お兄ちゃん!残さず食べなきゃ!!」
「…はいはい。」
俺は観念し、再び箸を手にとって蕎麦をすすり始める。
…うん、美味しいんだよ。でもいかんせん腹が…
「…紀流お兄ちゃん、箸が止まってるよ。」
「やっぱり苦手なんですか?」
「…」
すみません、これは拷問か何かですか?凄くイラつくんですが。
俺はその感情を無理矢理に押し殺し、黙って蕎麦を食べ続ける。
「「「…。」」」
…三人の無言の圧力を、背中に受け続けながら。
~紀流食事中~
「…ごちそうさまでした。」
「まいどありっ!!」
食べはじめてからおおよそ五分。ようやく大量の蕎麦が全て俺の腹に収まった。
…吐きそうなんだが…。
「残さず食べたから、紀流お兄ちゃんにバチは当たらないよ♪」
「そいつはめでたいこった…」
フランの言葉に少々上の空で答えていると、例の女性が心配そうな顔で話しかけてきた。
「どうしたんですか、紀流さん?
少し顔色が悪いようですけど?」
分かった。確信犯だな、お前は。
…言っておくが、俺だって人間だから怒ったりするんだぜ?
それを了承した上で、俺を怒らせたんだよな?よし分かった、受けてたとう。
「…どうやら、命知らずの馬鹿みたいだな…。」
「馬鹿?一体全体、誰の事でしょうか?」
「お前だよ。そこの変な帽子を被ったお前。」
「え…フラン?」
「お前じゃない!」
フランが涙目になったので、俺は慌てて否定した。
…っていうか、変な帽子を被っている自覚はあるんだな…おっといけない。
俺は女性に向き直り、自分の口に任せるがまま話を続ける。
「俺の名前を知っていて、尚且つ新聞記者ときたもんだ。
俺が結構強い事は承知してんだろ?」
「ええ、知っています。
何しろ紅魔館の主や、幻想の賢者を倒した人物ですからね。
弱いと考える方がどうかしていますよ。」
「そこまで分かってるのに、何で俺に喧嘩を売るんだい?」
「喧嘩を売るとは人聞きの悪い…」
「それなりの覚悟はあるんだよな?」
平和な蕎麦屋の雰囲気は一転、一瞬で険悪化した。
女性は笑いながら俺に受け答えしているが、目は笑っていない。
「…つまり、何が言いたいんです?」
「俺にぶっ飛ばされる覚悟は出来てるのかって事だ。」
「あやや、物騒ですね。
…天狗に喧嘩を売るとは…あなた、底抜けの馬鹿ですか?」
「果たしてどっちが馬鹿なんだか…」
「…紀流お兄ちゃん、言い過ぎだよ…」
自分でも言っている事が理不尽かつ滅茶苦茶なのは分かっている。
だけど俺は不愉快なんだ。イライラしてるんだ!
………。
「…子供っぽすぎる…」
「はい?」
「いや、我ながらガキだなーと。
ごめんなさい。」
「えっ…?」
わけが分からず困惑している新聞記者さん。
そらそーだ。喧嘩に発展しそうになったと思えば、いきなり相手のテンションが下がったのだから。
「紀流お兄ちゃん、何でいきなり謝ったの?
…後、何で怒ってたの?」
「…はぁ…」
俺のテンションは最低になり、今まで何となくなっていた「超サイヤ人」も解けてしまった。
その時、俺の予想外の出来事が起こる(本来なら容易く予想出来た事だが)。
「か…髪の毛が水色から黒に変わったぁ!?」
大将、唖然。
「おぉっ!!それが噂の『超サイヤ人』なんですね!!!」
新聞記者さん、歓喜。
…というか逆だ。これが普通だ。
「しかし、『超』がつくわりには地味ですねぇ…
これじゃあ写真を撮っても、見栄えが微妙だな…」
「おい…」
新聞記者さーん。さっきのが超サイヤ人なんですよー。
俺はそう言おうと口を開くが、新聞記者さんは聞く耳持たずだ。
「まあ、ここは私のテクニックでどうにかしましょう…
あ、すいません、自然な感じでリラックスしてくださーい。」
「…。」
「どうしたんですか?笑ってくださいよ、紀流さん。」
「紀流お兄ちゃん、もしかして緊張してるの~?」
フランはにやけながら俺をからかってくる。うぜぇ…
そもそも、俺の最高のリラックス顔は笑顔じゃなく真顔なんだが。
「ほら、にこーっ♪」
「顔を掴むな!お前のパワーは洒落にならん!!!」
「紀流さん、力を抜かなきゃ駄目ですよ~。
顔の部分が影になっちゃうじゃ無いですかぁ。」
「俺に顔を引き裂かれて死ねと?」
「笑えばいいんですよ。」
…この野郎…その笑顔込みでウザさ100倍怒り爆裂だぞ…
可愛ければ全てが許されると思っているのか?おい!?
「しぶといな~…紀流お兄ちゃん、さっさと諦めて笑えばいいのっ!!
笑うだけだよ?簡単だよ!?」
「笑いたくないのに何で笑わなきゃいけないんだ!」
「笑う所だからだよっ!!!」
俺は顔を掴んでくるフランを何とか引き離そうとするが、流石吸血鬼。半端じゃないパワーだ。
もう諦めるか…
「分かったよ!笑えばいいんだろ、笑えば!!!」
「そう来なくちゃ!」
俺がそう言ったのを聞いて、ようやくフランは離れてくれた。
新聞記者さんは「やっとその気になったか」とでも言いたげな顔でカメラを構える。野郎…
…さて、笑うか…自然に…リラックスして…
「早く~。」
「大丈夫ですって紀流さん!シャッターチャンスは逃しませんよ!!!」
「あんちゃん!とびっきりの笑顔を見せてくれよ!」
…仕方がない…見せてやろう、超一般人の最高のスマイルを!!!
「…ニヤ。」
俺は笑った。今までの人生の中で最高のスマイルをした。
そして訪れる静寂。誰も何も言わない。まるで時間が止まっているようだ。
「「「「…。」」」」
皆、何もしない。
…頼む…誰でも良いからこの微妙すぎる空気を変えてくれ…!
「…っ…」
俺の願いは、どうやら天に届いたようだ。
「あは…あははははははははははははっ!!!」
「…。」
最悪の形で。
突如、店の出入り口から響いた馬鹿笑い。
その声の主は。
「それが紀流さんのww全開の笑顔ですかwww」
銀髪おかっぱ頭、二本の刀を差している少女。
俺は「偶然」にも、その顔をした少女を良く知っている。
そう、彼女は…
「あははははははは…」
「…良く来たな妖夢さん♪」
「はっ!?超サイヤj…」
…白玉楼の庭師、魂・魄・妖・夢さんでしたー♪
「また会えて嬉しいぜ、妖夢さん♪」
「…じゃあ何で殴るんですかぁ…」
「感謝の気持ちですよ♪」
「…超サイヤ人の状態で殴る事ないじゃないですか…」
俺の全力の笑顔を大笑いしやがった妖夢に制裁を加えた後。
店内は騒然(色んな意味で)としていた。
「また髪の毛の色が変わった!?」
「これは…シャッターチャンスですね!」
紀流の超サイヤ人化に驚いている者。
「紀流お兄ちゃん…怖いよ…」
紀流の出しているオーラに怯えている者。
とにかく、様々だった。
「…で、妖夢?何でここに来たんだ?」
「…あなた、これを酒屋に忘れて行きましたよね?」
そう言って妖夢が取り出したのは、俺が買った野菜の袋。
…そう言えば、すっかり忘れてたな…
「ちょっと中身を拝見させてもらったんですがね。
まだ少し足りない物があったようだったので…」
妖夢がそこまで言ったところで、またもや知っている顔が店に入ってきた。
「すみません、知り合いがこの店に来ていませんか…っているじゃないか。」
「勝手な行動は慎んでほしいものです。」
大きくて立派な九本の尻尾がついた女性と、メイド服を着た女性。
この二人を忘れられるわけがない。
「藍さんか…どうしたんですか?」
「どうしたんですかって…妖夢がいきなりどこかに行ってしまったから、
咲夜と協力して探していただけだぞ。」
「あ、人間。
それにフランお嬢様ではないですか。」
「さ、咲夜!?」
フランが咲夜の存在に気づき、思わず身構えた。
「フランお嬢様、私は別に怒ってはいませんよ?
無事で何よりです。」
「え…?」
「お屋敷を勝手に抜け出した事には怒っていますがね。」
「あぅ…」
また咲夜の説教か…ここで始めるなよ…
「あの、続けていいですか?」
「どーぞ。」
「それでですね…誠に勝手ながら、袋にあったメモを頼りに
残りの品物を買わせて頂きました。」
「え、マジで?」
ふと店の外を見ると、酒瓶十本と米俵一俵が置いてあった。
…霊夢、俺に米俵ごと米を買わせようとしてたのか…
「私が
「おいおい妖夢、咲夜がいたから良かったようなものの…」
「提案したのは私なんですよ?」
…妖夢、どや顔止めろ。
まあ、とにかく…
「…三人とも、感謝するぞ。」
「これでさっきのはチャラですよ?」
「はいはい。」
まだ根に持ってたのか…ははは…
こうして、波乱の蕎麦屋騒動は無事終結?した。
「…ネタにしたい事が多すぎますね…
紀流さん本人には全く取材出来ませんでしたし…」
…少し納得していない人もいたようだが。
「…。」
「祠弥~、待ちくたびれたわよ~。私、昼ご飯も食べられなかったのよ?」
…えーっと、全てが終わって博麗神社に帰ってきました。全部直ってるって凄いな…
そしたら全身から怒りのオーラを放っている霊夢さんがお出迎え。
あなたはいつから界王拳が使えるようになったんですか?
「…あんたに買ってくるように頼んだ食料の中には、今日の昼ご飯用のも含まれてたんだけど。」
「…色々ありましてですね…」
「ふん、まあ良いわ。夜まで帰ってこなかったら『退治』ものだったわね。」
「以後、気をつけます…。」
霊夢は呆れたような目で俺を見た後、踵を返して神社の中に戻った。
よし、これで俺もやっと休める…
だが、神社の中からひょっこりと顔を出した霊夢の言葉が俺を終わらせる事になる。
「そう言えば祠弥、私の服は?」
「あ"…」
…すっかり忘れていました。
「…忘れていまs「よし退治ね。」わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺の命運は尽きました。逃げよう。
…ちなみに、今日の新聞の一面は…
『新築された博麗神社の上空に、謎の飛行物体出現か!?』
…だったとのこと。