明けぬ夜、止まりし時間~人間と妖怪による異変
「いやー、綺麗な満月だな。
寸分の狂いもない完璧な真円だ。」
オッス!オラ紀流!
今現在俺は神社の縁側に座って月を眺めている所だ!
ここまで綺麗な月を見たのって、レミリアの異変以来じゃないか?
いや、月の満ち欠けは二十五日位だったから、今までも何回か見ているはず…あれ?
「祠弥、何を一人でぶつぶつ言ってるの?」
俺が「何故満月をまともに見た記憶が薄いのか?」を考えていると、後ろから声がする。
ふと後ろを向くと、お茶と団子をお盆に乗っけた霊夢がいた。
「今日の満月に対する評価。」
「で、点数は?」
「満点。文句なし。」
「あっそ。お茶飲む?」
…おいおい、随分とドライな返答だな…もう慣れたが。
俺はお盆からお茶を取り、一口すする。うん、おいしい。
「さーて、団子でも食うか…」
俺は綺麗に盛られている団子に手を伸ばす。
すると、横に座っていた霊夢が軽く腕を振って、団子へと伸びていた俺の手を弾いた。
「駄目よ。これはお供え用なんだから。」
「…じゃあお前の口の中にあるものは何だ?」
「自分用。」
「俺の分は?」
「無いわ。」
…さいですか。分かった分かった、俺は大人しく草でも食んでるよ…
俺はお茶をすすりつつ、再び満月を見上げる。横の気配からして、おそらく霊夢もだろう。
「綺麗な満月ね~。」
「あーそーだなー。」
俺は不満を隠そうともせず、あからさますぎる喋り方をする。
ガキっぽい?承知の上だ。
「…そんなに団子食べたかったの?
心配しなくても、団子程度なら幾らでも作れるわよ。
…ただしあんたにも手伝ってもらうけどね。」
「…遠慮しておきます。」
「手伝ってもらう」という単語が出た瞬間、俺は全力で「別にいらない」意思を見せる。
だって霊夢の「手伝ってもらう」は「全部やれ」と同じ意味なんだぞ…
「冗談よ。好きに取りなさい。」
「…どうも。」
はぁ…何で最初から分けてくれないのかな…もしかして俺は遊ばれてるのか?
まあ、良いか。俺は率直な感想を述べる。
「団子に満月…まさに『お月見』って感じだな。」
「そうね。後は酒があれば…」
「月見酒、ってか?」
「そうそう。じゃ、早速…」
「あら、お酒ならここにあるわよ?」
「「!?」」
突如、真横から聞こえてきた声。少なくとも霊夢の声では無い。
俺は咄嗟に右、つまりは霊夢の方を向いた。
本来ならば霊夢の顔が見える筈の場所には…
「随分と楽しそうね、お二人さん♪」
スキマから上半身だけを出している女性、八雲 紫が酒瓶を持って笑っていた。
…何か服が全体的に白くなってるような…まあいいか。
普通の人なら真っ青になって失神する所だが、俺と霊夢はそうはならない。
「何だ、紫か…驚かすなよ。」
「あらら、冷たいわねぇ。折角お酒を持ってきてあげたのに…」
「あんたは普通に玄関から入ってくるとかは出来ないわけ?」
霊夢は不満をぶちまけながらも紫が差し出した盃を受け取り、口の前で傾ける。
こちらに漂ってくる匂いからして、結構強い酒なんだろう。
「紀流も一杯どう?」
「悪いな、今日は結構だ。」
俺の場合、飲んでも酔うということは無いが…
飲みすぎで腹を壊したりしたら(霊夢にとって)厄介だからな。
「それは残念。」
「全く…祠弥は酒付き合いが悪いのよね…
おかげで酒の旨さが半減よ。」
「いつもお前の愚痴を聞いてやってるじゃないか。」
「五月蝿いわねぇ…。
あんただけ何にも飲んでないのも何か癪だから、水でもとってきなさい。」
「…何だそりゃ。」
…今日も霊夢は我が道を突っ走っている、っと。俺が着いていけん。
俺は面倒臭いと思いながら立ち上がり、台所に向かった。
「…さて、紫?今日は何の用?」
「…どういう事かしら?」
「ちょっと考えたら分かるわよ。普通あんたが満月程度で私の神社に来るわけない。
大体の場合は…」
霊夢は一旦言葉を切り、大きな溜め息をつく。
自分で言った「大体の場合」が面倒事である事を十分に理解しているからだ。
「…『異変』…でしょ?」
「大・正・解♪」
紫が微笑んだのを見て、霊夢は二回目の溜め息をついた。
「…『異変』ですか。」
「そうよ、咲夜。
今まさに、この幻想郷で『異変』が起こっている。」
同時刻、霧の湖の畔に佇む紅魔館。
その主の部屋で会話をしている者がいた。
「何がどういった風に異変なんです?
人間である私には理解しかねるのですが。」
「まあ、咲夜が気づかないのも無理はないわね。
今回の異変によって生じた目に見える変化は微々たる者…人間にはあまり影響しない。」
一方には『咲夜』と呼ばれたメイド服姿の女性、『十六夜 咲夜』。
もう一方には椅子に座った翼の生えた少女、『レミリア・スカーレット』。
「レミリアお嬢様のおっしゃった『微々たる変化」とは、
今宵の月が僅かに欠けている事と関連性がある事なのでしょうか?」
「…毎度毎度、あなたの観察眼には驚かされるわね。
まさにその通りよ。」
「恐縮です。」
「…月が欠けると、何かいけないのか?
三日月や半月だってあるのに…」
「能天気ねぇ…あなた達人間には影響ないかもしれないけど、
私達妖怪にとっては史上最悪の大異変なのよ。」
「ふーん。」
「…全く信用してないわね。」
ここは魔法の森の中の、ある一軒家。
いつもなら人気がないその家に、今夜は珍しく人の気配がする。
真剣な面持ちで話し込んでいる金髪少女、『アリス・マーガトロイド』。
そして彼女の話をつまらなそうに聞き流している、帽子を被った少女『霧雨 魔理沙』の二人だ。
「そもそもさぁ、月が欠けてるっていってもほんのちょっとだろ?
別に気にする事ないぜ。」
「…月の光が妖怪に及ぼす影響は大きい。
それにこのままだと…」
「…おい、何だよ。思わせ振りだな…」
魔理沙が身を乗り出したのを見て、アリスは内心で思った。
「本当にこんな単純な人間を頼って良いのか」と。
「…人間達への被害が出る、ですか?」
「ええ、そうよ~。
妖怪達は結構イライラしているから。」
「と、言いますと?」
冥界に建つ屋敷、白玉楼。桜の木が無数に立ち並んでいるが、
今は桜の季節ではないため花は咲いておらず、ただ静かに佇んでいる。
「え~っと…『異変解決は本来なら人間の仕事、
何故ここまで大きな異変が起こっている中動かないのか』ってね。」
「…うわぁ、理不尽ですね。」
その屋敷の庭でのんびりした口調で話し続けるピンク髪の女性、『西行寺 幽々子』。
そしてその横に立って彼女と会話をしている銀髪少女、『魂魄 妖夢』。
この二人も、異変に気づいていた。
「勿論、全員が全員そうじゃないのよ~?
ただ、少し『短気な』妖怪さん達もいるからね~。」
「はぁ。」
「それに万が一妖怪さん達が人間を殺しちゃったら、
私にも少なからず火の粉がかかるし…」
「幽々子様は、幽霊の管理を任されていますもんね。」
「そうそう。」
「…で、妖怪達の怒りを鎮めるために異変を解決しろと。」
「祠弥!?「紀流!?」いつからいたの!?」
俺が後ろから話しかけると、霊夢と紫が同時に振り向いた。
どれだけ話し込んでたんだよ…
「霊夢が『今日は何の用?』っていった辺りから。」
「…ほぼ最初っからじゃない…」
「あまりにも気づかれなさすぎて正直悲しかったんだが。」
「フフフ、最初から聞いてくれてたなら話が早いわ。
紀流、あなたも来なさい。」
…そう言うと思ったぜ。良いだろう、行ってやろうじゃないk…
「駄目よ。祠弥は神社にいなきゃ。」
「えぇ…つまんねぇなぁ…」
「霊夢、何で紀流を神社に釘付けにしておこうとするの?
私を倒した事もあるんだし、十分な戦力になるんじゃない?」
「…神社を無人にしたく無いんだけど。」
「盗まれる物なんて無いだろ…」
俺がつい口走ってしまった一言を霊夢は見逃さず。
「…何ですって、紀流?」
俺、大ピンチ。異変の前に退治されそうなんですが!?
「まあまあ霊夢、盗まれたら取り返せば良いじゃない♪
そもそも博麗の巫女から物を盗もうなんて考える人、いないでしょう?」
「…それもそうね。」
…紫さん、助かったぜ…流石は幻想の賢者だ!
「じゃ、行きましょう。
けど、本当に夜が明ける前に解決出来るのかしらね…」
「…『夜が明けるまでに』じゃなく…
何としても『今夜までに』解決するのよ。」
霊夢の疑問に答えた紫の声は、予想以上に重かった。
その声を聞いて、俺の気持ちは引き締まる。
…どうやら今回の異変、一筋縄じゃあいかないみたいだな…面白い。
「…そうと決まれば、チーム名を決めなきゃね♪」
「「は?」」
紫の口調の豹変ぶりに、俺と霊夢は不意を突かれてしまった。
…チーム名って…スポーツをしてるんじゃないんだぞ…
「…『幻想の結界チーム』っていうのはどう?」
「随分と提案が早いわね…」
「こんな時の為に、前々から考えてたのよ♪」
…後に「永夜異変」と呼ばれる事となるこの異変。
その異変を解決したのは、人間と妖怪のタッグペア。
「どう?文句無いでしょう?」
「そのまんますぎると思うんだけど。」
博麗の巫女・『博麗 霊夢』&幻想の賢者・『八雲 紫』のペア、
『幻想の結界チーム』。
「妖怪退治は私の仕事!
面白い、行ってやるぜっ!」
「…単純ねぇ…」
普通の魔法使い、『霧雨 魔理沙』&七色の人形使い、『アリス・マーガトロイド』のペア、
『禁断の詠唱チーム』。
「じゃあ咲夜、留守番頼んだわよ。」
「お一人で外出されるのは許可しかねます。
この私もレミリアお嬢様と共に。」
「咲夜はついてこなくても良いわよ!」
「お嬢様お一人では何かと不安ですので。」
紅魔館の主、『レミリア・スカーレット』&完璧なメイド『十六夜 咲夜』のペア、
『夢幻の紅魔チーム』。
「妖夢、出発するわよ~。」
「分かりました。
しかし、あてがあるのですか?」
「そこら辺に飛んでる人達を当たっていけば大丈夫よ~。」
「…。」
悲劇の亡霊嬢、『西行寺 幽々子』&半人半霊の庭師、『魂魄 妖夢』のペア、
『幽冥の住人チーム』。
…そしてもう一チーム、最も強い輝きを放ったペアがいた。
「…紫、霊夢。盛り上がってる所悪いんだが…
そのチーム名、俺の要素ゼロじゃないか?」
「「あ。」」
紫と霊夢が「今気づいた」ような顔で俺の顔を見てきた。
…もしかして、俺って蛇足ですか?そうなんですね?
「…俺、やっぱり残るわ…」
「き、紀流…大丈夫よ。何とか考えるから…」
頭を捻って考えている紫を横目に、霊夢は別にどうでも良いような表情だ。
「紫、別にチーム名なんてどうでもいいでしょ…」
「あら、そうかしら?
チーム名って、結構大事だと思うけど?」
「「「!?」」」
俺達が咄嗟に振り向いた先に立っていた人物。
「「あなたって…確か…」」
「久しぶりね、二人とも♪」
そう、人里の先に広がっている向日葵畑に住む、危険度・人間有効度共に最悪の妖怪。
その名も…
「…風見 幽香…
花ばかり弄ってるあなたが何の用かしら?」
「こんな面白そうな夜なのよ?
おちおち眠ってなんていられないわ。」
紫と幽香。一見親しげそうに話しているが、
その間に何か形容しがたい物があるのを俺は感じた。
「博麗の巫女を誘って、久しぶりに大暴れしようと思ってたんだけど。」
「残念、霊夢には既に私という先客がいるのよ。
だから諦めて帰りなさい♪」
「…わざわざここまで来たのに?冗談じゃないわ。」
二人の距離は三メートル、二メートルと近づいていく。こいつはヤバイな…
そう考えた俺は、反射的に二人の妖怪の間に割って入る。
「…まあまあ、ここは仲良く…」
「あら、紀流。いたの。」
「…ずっといましたが。」
どうやら、幽香さんは俺の存在に気づいていなかったらしい。酷い酷い…
幽香さんは前と変わらぬ目つきで俺を一瞥した後、突然俺の頭を掴んできた。
「…な!?」
「面倒だから、もうあなたで良いわ。
どうせ組む妖怪なんていないんでしょう?」
「ちょっと待て、それってどういう…痛い!」
…こうして、『幻花の超人チーム』が結成された。
「…これで紀流もチームが組めたわね。
…可哀想に…」
「紫!ぶつぶつ言ってる暇があったら夜を止めるのを手伝いなさいよ!
あんたが持ち込んだ異変でしょ!?」
「はいはい。」
ー魔を感じ、幻を打ち破る四人の人間ー
「じゃ、一暴れしてやるか!」
「…本当に大丈夫かしら…」
ー魔を遣い、幻を無効化する四体の妖怪。そしてー
「ついてこなくていいって言ってるでしょう!?」
「お嬢様に何かあった場合、迷惑を被るのは私です。」
ー魔を使い、幻を粉砕する妖怪とー
「妖夢~。お弁当は持った~?」
「…遊びに行くのでは無いんですよね?」
ー魔を使わず、己の身だけで幻を消滅させる人間ー
「…じゃあ、準備は良い?」
「いつでもオッケーよ、霊夢♪」
「…ほら。あんたも何かしなさい。」
「その前に離し…痛い!!」
ー十人は、夜を止める。