「…暗いんだが。」
「祠弥、夜なんだから暗いのは当たり前よ。」
「いや、そういう意味じゃ無くて…
あの二人が。」
「…ああ。」
オッス!オラ紀流!
今現在俺達は、月が欠けちまった原因を探る為に飛んでいる所だ!
勿論あては(少なくとも俺には)全く無いぜ!
「…紫と幽香さんって、昔何かあったのか?」
「さあ…ね。けどどっちも一応、強大な力を持つ妖怪だし…
お互いに敵視してるのかもね。」
紫と幽香さんの後ろを飛びながら、俺と霊夢は声を潜めて話す。
…後二人が出しているオーラが半端では無いんだが…周りを飛んでる妖精が引いてるよ…
「それにしても、何も出てこないわね。
妖精って昼間しか活動しないわけ?」
…いや、あなたと紫の威圧感が半端なさすぎるんですよ。
俺が心の中でそんな事を考えた瞬間、前を飛んでいた二人がいきなり急停止した。
「「!?」」
俺と霊夢は不意を突かれたが、何とかその場に止まる事に成功。
…早速、霊夢が文句を並べ立てた。
「ちょっと!人が後ろを飛んでるんだから合図も無しに止まるな!」
「…五月蝿いわよ、博麗の巫女。
前に障害物がある時に止まって何が悪いの?」
「障害物って…何も無いじゃな「人を障害物扱いするな!!」…。」
霊夢の声を遮り、いきなり聞こえてきた誰かの声。
聞こえてきた方角から察するに、どうやら幽香さん達の前にその「障害物」はあるようだ。
前が見える位置に移動すると…
「…私を無視し続けたんだから、それなりの覚悟は出来てるんでしょうね!?」
「虫だけに?」
「…。」
…周りを光る球体で囲まれた「誰か」が気炎を吐いていた。
幽香よりも濃い緑色の髪に、幻想郷に来てからあまり見なかったズボンを履き、
更に「ある人物」を思い出させる黒いマントらしき物を羽織っている少…女だ。
その頭から生えている二本の触覚らしきものを見るに、人間では無いだろう。
「夜の森は私達の場所!
入るなと警告しているのに無視するとは、あなた達は私を何だと思ってるの!?」
「虫。」
まず紫が答える。
…相手の顔が少し歪んだ。
「五月蝿い蝿。」
次に幽香さん。
…おいおい、蝿は酷いだろ…相手がガクッとしたぞ。
「虫。」
さらに霊夢が追い討ち。
…霊夢さん霊夢さん、相手が無表情になってますよ。
「…ん、んっ…
で、そこのあなたは私を何だと思ったの?」
相手が俺を見据えて聞いてきたので、俺は思ったことをズバリ言った。
「セル。」
「「「「は?」」」」
俺以外の全員が、一斉に首を傾げた。
何でセルかって?相手のマントの形状が完全体の羽にそっくりだったからだ。
「違う!私は蝿でも…えーっと…セルでもないっ!!
見て分かる通り、私は蛍だっ!!!」
「見て分からないから蝿って言ったんだけど。」
「…今まであなた達の周りを飛んでいたでしょう!?」
「だから虫って言ったんじゃない。
紀流以外は全員正解よ。」
「…セルも虫と言えば虫なんだが…」
「祠弥、そもそもセルって何?」
俺達が好き勝手喋っていると、遂に相手が爆発した。
「いい加減にしろーっ!!!
私を蚊帳の外扱いするな!!!」
「あ、蚊だったの?」
「ほ・た・る・だ!!!」
「蛍だろうと何であろうと、私にとって五月蝿い奴は全員蝿よ。
さっさとどいてくれない?」
「…この…その口を黙らせてやる!
喰らえ、灯符『ファイヤフライフェノメノン』!!」
幽香の態度に完全にキレた相手はスペルカードを発動した。
すると、彼女の周りを飛び回っていた光の球が拡散して弾幕を撃ち始めた。
「私は『虫を操る程度の能力』を持った蛍の妖怪、『リグル・ナイトバグ』!
私にかかれば、虫でも弾幕を撃てるようになるんだ!!」
そう彼女は言い放ち、自らも波状の弾幕を撃ち始めた。
リグルの標的は勿論幽香。光の球の攻撃と織り混ざり、弾幕は予想以上の密度となっている。
「…フン、虫妖怪ごときが私に戦いを挑むなんて…
今日の狂った月のせいで、虚栄心
そう幽香は吐き捨てると、右手に持った傘の柄を無造作に弄った。
その間にも弾幕はどんどん彼女に向かって接近している。
「避けないなんて本当に馬鹿だな!
あなたは自分の力を過信しすぎたんだ!!」
「幽香さん、避け…!」
リグルが自分の勝ちを確信し、それを察知して紀流が思わず叫んだ瞬間…
「…人間と虫風情が…
揃いも揃って、鬱陶しいのよ!!!」
幽香は傘を剣の如く振った。一瞬だけ、空間を走る光の筋が見えた気がした。
そして、その軌跡の通りに…
「…わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
…空間が連続して爆発した。
その威力は凄まじく、光の球と弾幕を全て消し去った。
更にはリグル本体も激しく吹き飛ばし、地面に叩きつける。
「…あ…あぐ…」
「この程度なの?
これじゃあわざわざ来た意味も無いわ…」
幽香はつまらなそうな顔をすると、地面に叩きつけられているリグルに傘を向けた。
…しかし、その手は何者かに掴まれて高く持ち上げられる。
何事かと横を向くと、顔を真っ赤にした紫がいた。
「…何のつもりよ、紫。」
「何のつもりって…それはこっちの台詞よ!
自分のパートナーに攻撃するって…貴方、どういう神経してるの!?」
「…は?」
幽香が後ろを向くと、冷や汗を大量にかいている人間が目に入った。
その髪は青く変色している。変な奴だ。
「死んでないし、別に良いじゃない。
何でそこまで喚くわけ?」
「…そう言う問題じゃないのよっ!!!」
…何でお前がキレる。紀流がキレるなら分かるが、何故お前が?
その考えが、どうやらそのまま口に出たらしい。紫は更に赤くなる。
「…この…っ…!」
「私はただ単に暴れたいだけ。
人間がどうなろうと、チームが崩壊しようと知った事じゃ無いわ。」
「…あぁ、そう…
どうやら、私と貴方では考えが
「…だから?」
幽香の「どうでもいい」の感情丸出しの声が、遂に紫の自制心を壊した。
「…私はもう貴方には付き合いきれない!!!
霊夢と紀流!こんな自己中妖怪放っておいて、さっさとこの異変を解決するわよ!!!」
「…ちょっと、紫…落ち着きなさいよ…」
霊夢が呆れ顔で宥めようとするが、紫はもう聞いてはいない。
憤怒の表情のまま、森の奥へと飛んでいってしまった。
「…はぁ…全くもう…紫~。待ちなさ~い…」
その後を追うように霊夢も離れていき、二人はあっという間に夜の闇に紛れてしまう。
「…はぁ。」
二人の気配が完全に消えたのを確認すると、幽香は大きな溜め息をついた。
…これだから意思あるものは。相手に不満があると直ぐに激昂して、離れていく。
だから私は花の方が好きなのよ。花は不満も言わないし、怒りもしないし。
「…幽香さん、幽香さーん?」
「何よ!あなたもさっさとどっか行きなさい!思考の邪魔なのよ!!!」
「へぇあぁ!?」
横からしつこく自分の名前を呼ぶ人間に、思わず大声で怒鳴る。
どうやら人間は私の声に盛大にビビったらしく、空中で一回転した。
…むかつく。
「…あのなぁ、俺とチーム組もうって言ったのはそっちだろ?
だからさっきのはちと勝手すぎるんじゃ…」
…ちっ、痛い所を…
「…幽香さんってさ、実は結構素直なんじゃないか?
今だって完全に言葉に出てたし。」
「な…」
「あ、やっぱりそうなのか。」
「この…!」
幽香は相手が人間、それも子供であることも忘れて思わず掴みかかる。
そんな状況でも、紀流はその表情を崩さない。
「あなたごときに…私の性格を判断する権限があるわけ!?」
「俺には無いさ。判断出来るのは幽香さん自身だけ。」
「…~っ!!!」
幽香は紀流を突っ放し、頭を抱えた。
脳内はぐちゃぐちゃになり、彼女はますます混乱する。
「…結局私は何なの?自分勝手で世間知らずな最低の妖怪!?
素直なんてあり得ない。そんなわけないっ!!!」
「じゃ、それで良いじゃないか。」
「は!?」
自分の意見をあっさり認めた紀流に、幽香はまた詰め寄った。
そんな事はお構い無しに紀流は一言。
「自分勝手で世間知らずでサディストで花が好きな、
素直で滅茶苦茶強い妖怪で良いじゃないか。」
「…!」
反論しようとしたが、声は出ない。
…何故なら、その評価は彼女にとって完全に「図星」だったからだ。
「…うん、大当たりよ。」
「だろう?
やはり俺の見立ては正しかった…」
「調子に乗るな。」
どや顔に本能的に苛ついた幽香は、傘を直ぐ様紀流の鳩尾付近を狙って突き刺す。
…全く、無防備ねぇ…あなたの言う「最強の妖怪」が目の前にいるのに。
「おごっ…
幽香さん、鳩尾付近は止めて下さい…」
「鳩尾だから良いんじゃない。
いつ失神するか分からないし♪」
「失神って…」
困り果てた顔をした紀流を見て、幽香はふと不思議に思った。
今の今まで、私は怒っていた筈だ。なのに、何故今は…
「…笑えているのか、でしょう?」
「…また声に出てたのね…はぁ。」
「溜め息と同時の傘は卑怯だって…」
紀流には本当に苛つく。何故、黙っておけないのだろう。
…苛つくが、怒りは沸いてこない。虐めたくはなるが、殺したくはならない。
ああ、分かった。
「…。」
「どうしたんですか幽香さん…
何で俺の顔見たままフリーズしてるんですか?」
「…私にとって、あなたは凄く面倒な存在。」
幽香の結論・こいつ面倒臭い。
「いきなり酷い!?」
幽香の唐突なカミングアウトに、紀流は彼女の予想通りの発言をした。
「…フフ…」
「何がおかしい!?」
「全部。」
「…orz」
また、予想通りの行動だ。
やっぱり、この人間は面白い。弄っていて飽きない。
「…ちょっと~…あなた達~!!!
誰か重要な人を忘れちゃいませんかってんだ!!!」
幽香がふと前を見ると、さっき地面に叩きつけた筈の妖怪がいた。
おそらく、長い会話の間に復活したのだろう。
「…もう、許すもんか!
チームだか何だか知らないが、二人まとめて倒してやるっ!!」
「…ほう?俺と幽香さんのチームを倒すって?」
「そ、そうだ!」
「止めといた方が良いよ~。
俺達はとっても強いんだから。」
…何でこの人間はここまで堂々と「俺達」と言えるの?
何故、当然のように私をカウントしているの?
「だって、チームだし。」
「…。」
…また、言葉に出てしまった。
「ええい!私を無視するなぁ!!」
「ああ、すまんな。じゃあ行くぞ?」
「さて、蝿退治と行きましょう♪」
「蝿じゃないっ!!!」
双方がスペルを発動したのは、ほぼ同時のタイミングだった。
「…。」
「…紫、さっさと行くんじゃないの?」
「…あの自己中妖怪が…他人と協力しようとしてる…
これも狂った月のせいなのかしら?」
「それを木の影から覗き見てるあんたもどうかと思うけど…」
…「紀流 祠弥」と「風見 幽香」。その二人のチームには、不思議な魅力があった。
幻想の賢者が、興味を持つほどに。