東方有無録   作:印鑑

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そもそも歌が聞こえない~by紀流

「あー、すっきりしたわ♪」

 

「…そいつは良かったな、幽香さん…」

 

 

オッス!オラ紀流!

今現在俺達は静けさを取り戻した森の中を飛行している所だ!

え、元から静かだって?五分程前には(誰とは言わないが)悲鳴が鳴り響いてましたよ?

 

 

「…けど、もう少し遊んでても良かったかも…」

 

「あそこで止めてあげて正解だったと思います。」

 

 

…幽香さん…あれだけやってまだ足りないのか…?

俺が止めた時には、相手が発狂してた程だったのに…

 

 

「はぁ…。」

 

 

俺は改めてその時の事を思いだし、大きな溜め息をつく。

すると何故か幽香さんが反応し、咎める用な目でこちらを見てきた。

 

 

「何で何もしていないあなたが溜め息をつくわけ?

状況からして、私がするべきだと思うんだけど。」

 

「…溜め息ぐらい自由にさせて下さいよ…」

 

 

…イレイザーキャノンを撃って相手の動きを止めた事は「何かした」に入らないのか?

そのお陰であなたはリグルを後ろから叩きのめせたんじゃないんですかね?

 

 

「…何?何か文句があるの?」

 

「特にありません。」

 

「ふーん…それ。」

 

 

幽香さんは、また傘を俺の鳩尾に刺そうとする。

それを俺は冷静に見極め、慌てずに手を使って軽くいなした。

 

 

「あら、やるじゃない。」

 

「あれだけ突っつかれてれば、自然と動作を覚えますよ…」

 

「そう…♪」

 

 

幽香さんは納得した表情で笑う。何に納得したのかは分からないが。

…相変わらず、不思議な人だ。

 

 

「…あんた達、いい加減こっちを手伝ってよ~…」

 

 

後ろから聞こえてくる疲れきった声。その主は霊夢だ。

背中に、幽香さんの攻撃で気絶してしまった紫を背負っている。

 

 

「博麗の巫女、私達があなたを手伝う義理は無いわ。

それに、そいつのパートナーはあなたでしょう?」

 

「…気絶させたのはあんたなんだから、責任とってよ…」

 

「原因を作ったのはそいつよ。

ね、紀流?」

 

「…。」

 

 

可哀想だが、紫。今回はお前の自業自得だ。

…まあ、結局は手伝うんだけどね。

 

 

「…霊夢、交代だ。」

 

「ありがとう紀流…」

 

 

霊夢は心底疲れきった顔で紫を降ろし、俺に渡した。

うわ、重い…と言うとでも思っていたのか?凄く軽いんだな、これが。

 

 

「何で交代しようなんて言ったんだ?

紫はそこまでの重荷じゃ無いだろうに。」

 

「…直ぐに分かるわよ。」

 

 

霊夢がそう言った瞬間、俺は急に数メートル程落下した。

今まで何も背負っていない用な軽さだった紫が、いきなり数十キロ程の体重になったのだ。

 

 

「おぉう!?」

 

「…ね。」

 

 

霊夢は疲労感全開の表情で腕を回している。

…肩からバキバキボキボキ聞こえるけど気のせいだよね!

 

 

「…何だ、この現象。」

 

「そんなもんじゃすまないわ。

…もっともっと酷くなってくわよ。」

 

 

霊夢がそう話している内にも、背中はどんどん重くなっていく。

…子なきじじい…ゲフンゲフン。

 

 

「…ええい、降りろぉ!!!」

 

 

俺は体を振って紫を振り払おうとするが、紫は離れるどころか益々強くしがみついてくる。

…あのさあ、完全に狸寝入りだよな?

 

 

「…えぇぃ!超…サイヤ人っ!!!」

 

 

俺は超サイヤ人になるが、それでも離れる様子はない。

…もう重さが数百キロ…いや、数トンを超えた。

 

 

「…紀流?何で止まってるの?」

 

 

いつまで経っても進もうとしない俺に苛立ったのか、幽香さんが話しかけてきた。

幽香さんは訝しげな顔をしていたが、俺の背中にある物を見て全てを察したらしい。

 

 

「…幽香さん?」

 

「…。」

 

 

幽香さんは俺の呼びかけには答えず、俺の肩に乗っている紫の顔に手を伸ばすと…

…何の躊躇もなく、光弾を撃ち込んだ。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「あ、やっと起きたのね。

さっさと降りなさい、先に進む障害になるから♪」

 

 

そう幽香さんは言い放つと、紫の顔を掴んで俺から引き離した。

…紫が何の抵抗もしなかったのが気になるが。

 

 

「…紫、また気絶してるわ…」

 

 

幽香さんに首根っこを掴まれてぶらさがっている紫の顔を見て、霊夢は呆れながら言った。

やっぱり、さっきまで起きてたのか。

 

 

「ちょうど良いや。幽香さん、紫を持っておいてくれよ。」

 

「何で私が持たなきゃいけないの?

地面に『置い』とけば…「止めて!」ほら、本人もそう言ってるし。」

 

 

目を覚ました紫は暴れるが、幽香さんは離そうとしない。

その顔には、俺を傘で刺す時と同じ表情が浮かんでいる。楽しんでいるな、あれ。

 

 

「は…離し…」

 

「♪」

 

 

…また暴走し始めたな…しょうがない、止めるか。

二人の方に飛ぼうとした瞬間、今まで暴れていた紫が急に暴れるのを止めて口を開いた。

 

 

「…ねえ、何か聞こえない?」

 

 

…え、何が?

 

 

「…本当ね。だけどそれがどうしたの?」

 

 

幽香さんはそう言いながらも、紫を離して周りをキョロキョロと見回す。

まるで、何かの音の出所を探すかのように。

 

 

「…霊夢、貴方にも聞こえるでしょう?」

 

「ええ、聞こえるわよ?

こんなに大きな音なんだから、聞こえない方がおかしいでしょ…」

 

 

…あのー、霊夢さん。

俺、見事なまでに何も聞こえないんですが。どういう事だ?

それが言い出せずに黙っていると、急に三人の行動に異常が現れた。

 

 

「…あれ!?月が消えた!?」

 

 

霊夢が意味不明な事を口走ったので、俺は思わず空を見上げる。

…さっきまでと変わらず、見事なまでに煌々と光輝いているんだが。

 

 

「霊夢、何を言って…」

 

「…え!?霊夢、どこにいるのっ!?

真っ暗で何にも見えない!」

 

「ちっ、何よこの現象は…

一寸先どころか一ミリ先が闇じゃないの。」

 

 

…紫と幽香さんもかよ…一体何が起こってるんだ…

目を開けたまま「見えない」と言っている三人を前にして、俺が途方に暮れていると…

 

 

「ふふーん♪見事に大成功ね♪」

 

「…!?」

 

 

突然この場の雰囲気にそぐわない、陽気な声が上から聞こえてくる。

俺が声の聞こえてきた方を見上げると、木の枝に誰かが座っているのが目に入った。

 

 

「人間が二体…儲け物ね!」

 

 

ピンク色の髪に、袖口が白の茶色いブラウスとスカート。

羽のようなものが付いた茶色い丸帽子も気になるが、彼女の背中の一対の翼が俺の目を特に惹いた。

 

 

「さーて、今日の獲物をちょっと拝見…」

 

 

あれ?今あいつ「獲物」って言ったような…気のせいだろうか…

いや、幾らなんでもここまで「気のせい」が続く筈はない!

 

 

「何で何も見えないのよっ!!!」

 

「…あらら、無様だなぁ。

人間も妖怪も、視覚を奪われると弱いねぇ。」

 

 

彼女は紫を見据え、じたばたしている彼女を嘲った。

今の発言から推測するに、どうやら三人の不可解な行動の原因は彼女にあるらしい。

 

 

「紀流~。何処にいるの?」

 

「祠弥、あんたは大丈夫~?」

 

「…紀流…祠弥…?」

 

 

幽香さんと霊夢の発した俺の名前を疑問に思ったのか、彼女は周りを見回した。

そりゃそうだ、誰かの名前だって事は分かっても、それが誰かまでは分からないからな…。

…まあ、この場に男俺しかいないけど。

 

 

「はーい、無事ですよー。」

 

「!?何だ、こいつか…」

 

 

ある作戦を考えついた俺は、わざと二人の呼びかけに答える事にした。

案の定、例の彼女はそれに反応して俺を見る。

 

 

「…男か…空を飛ぶ人間の男なんて初めて見るな…」

 

「三人ともー、そこから動くなよー。

下手に動くと危ないからなー。」

 

 

俺はわざと目を合わせないようにし、見えていないふりをする。

その演技が効をそしたらしく、彼女は全く怪しまずにこちらに近づいてきた。

 

 

「…うーん、まだ子供か…

まあ人間は二人いるし、その位は我慢しようっと。」

 

「…!」

 

 

「我慢」のワードを聞き、遂にこいつの目的が分かった。俺と霊夢を喰う気だ!

…この状況を打破する方法は…閃いた!

 

 

「人間の子供が二人…何日くらい持つかな?」

 

「…さあな!」

 

「え!?」

 

 

相手が驚いて硬直した所を見計らい、俺は即座に腕を上げ…

 

 

「宇撃『ビッグバンアタック』!」

 

 

…完全に油断しきっていた彼女に向かって、青い気弾を撃ち込んだ。

 

 

 

 

 

「…いてて…何でぇ…?」

 

「何でも何もあるか!喰われそうになったら抵抗するだろ!!」

 

「そうじゃ無くて…」

 

 

俺達は今、さっき撃ち落とした妖怪「ミスティア・ローレライ」を囲んで立っている。

…幽香さんは背中を踏みつけているが。

 

 

「…折角のヒトネギだったのに…痛い!」

 

「じゃあ、私とこいつが葱ってわけ?

冗談じゃないわ♪」

 

「貴方に言われたく無いわね。」

 

 

…幽香さんと紫の仲が悪いのにはもう慣れた。

さて、そんな事よりも…

 

 

「えーっと、ミスティア…だっけ?」

 

「…何?」

 

「君さあ、三人に何をしたの?」

 

「…鳥目にしたのよ。私の歌でね。」

 

 

…は?歌で鳥目?意味が分からん。何を言ってるんだこの子は…

 

 

「…成る程、さっき聞こえてたのはあんたの歌だったのね。」

 

「?」

 

 

霊夢が納得した様に首を振ったが、俺にはさっぱり分からない。

幽香さんと紫も「ああ、成る程」と納得した表情を浮かべた。

 

 

「…私の歌で鳥目にさせて、おろおろした所で人間だけをさらうつもりだったのに…

何であなたは見えてるのよ…痛たたたたたっ!?」

 

「五月蝿い♪」

 

「…うーむ…」

 

 

ミスティアが怒った様に俺を指差してきたので、俺は考えを巡らせてみる。

…俺だけが彼女の「歌」の影響を受けなかった…しかし俺には歌なんて聞こえ…

 

 

「あ。分かった。」

 

 

俺の頭に電流走る。似たような事があった事を思い出したのだ。

あれは確か…プリズムリバー…達の時だったな。

 

 

「祠弥、何が分かったの?」

 

「俺が鳥目にならなかった理由。

…ミスティア、君の能力って何だい?」

 

「…能力?

『歌で人を惑わせる程度の能力』だけど?」

 

 

…どうやら、俺の考えは正しかったようだ。

 

 

「鳥目にならなかったのもしょうがないさ。

俺の能力は『相手の能力を無効化する程度の能力』だからな。」

 

「えっ!?

…じゃあ、私の歌は…」

 

「すまん、全く聞こえなかった。」

 

「…orz」

 

…彼女はがっかりした顔になって、頭を地面に打ち付けた。

何だろう、このデジャブ感は?

 

 

「…じゃあ紀流、私達はあなたにはどう見えてたの?」

 

「目を見開きながらじたばたしてる様にしか見えなかった。

実に滑稽だったよ…」

 

 

そこまで言った所で、俺は背中に物凄い殺気を感じた。

 

 

「…滑稽…ねぇ♪」

 

「!?」

 

 

完璧な笑顔の幽香さん、降臨。何で怒ってるんですかぁ!?

…って言うかこのままだとぶっ殺される!!!

 

 

「逃げるんだぁ…」

 

「どこ行くの♪」

 

 

…地獄のおいかけっこ、始まり始まりぃぃぃ!!!

 

 

 

 

 

「「「何なの、あの二人は…」」」

 

 

…二体の妖怪と一人の人間の意見が一致したのは言うまでもない。

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