東方有無録   作:印鑑

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第五十二話目だった筈。
ゆっくり読んでいってね!


再びの人里~常識人と喧嘩腰の妖怪

「…ぐぅ~っ…」

 

「…。」

 

「…g「五月蝿い♪」…ちっ…」

 

 

…オッス!オラ紀流!

今現在俺達は、月明かりを頼りに(霊夢いわく)人里への道を進んでいる所だ!

紫の腹減ったアピールを幽香さんが止めてくれたぜ!

 

 

「何であの夜雀を食べちゃいけなかったのよ!?」

 

「…食べるも何も…光景が悲惨になりそうだったんで…」

 

「人は殺生しなきゃ生きていけないのよ、紀流!

お腹が空いたら満腹になるまで食べる、これが幻想郷のルールなの!!」

 

「…紫、そんなルール守ってると太るわよ。」

 

「あ…」

 

 

紫は口をつぐみ、不安そうに視線を自らのお腹に落とした。

…心配しなくとも、食べてなきゃ太らんぞ?

 

 

「…ほら、三人共。人里が見えてきたわよ。」

 

 

少々顔を赤らめた紫が指差す方向には、確かに人里独特の木造の建物が見えた。

神社から、結構遠くまで飛んできたんだな…

 

 

「え、本当?はぁ…あんたと来たくなかったんだけどな…」

 

「じゃあ、紀流と来たかったわけ?」

 

「?」

 

「そっちの方が気が休まらないわよ…

一日中人里でさまよってた奴と一緒に行くなんて…」

 

 

霊夢と紫が何か話し合っているが、よく聞こえない。

まあ、こちらにとって重要な話なら聞こえる様に話してくれるだろうから良いか。

幽香さんの方に視線を移すと、彼女は人里を見つめながら何やら呟いていた。

 

 

「人里…ねぇ…

あの子も人里に住んでるんだったわね…」

 

「あの子?」

 

「『幻想郷縁記』を書いた子よ…

そう言えばまだお礼をしてなかったわ…」

 

 

月をバックにした幽香さんの顔がどんどん黒くなっていく気がするけど影のせいだよね!

…そうこうしている間に、俺達は人里の入り口に到着した。だが…

 

 

「…?」

 

 

…何かがおかしい。まず、人の気配が全くない。

昼間あれだけ賑やかな人里の事だ、たとえ夜だろうと多少は繁盛するだろう。

しかし、今は…

 

 

「…静かすぎないか…?」

 

「…そうね。けど、別に変わった事じゃ無いわ。」

 

「え?」

 

「今夜が今夜だからねぇ…」

 

 

幽香さんの言葉を引き取るようにして、紫が話を続ける。

 

 

「今夜の月は狂ってる。だから、妖怪達が人里を襲う確率も高くなるの。

人間達は、それを察知して隠れただけ。」

 

「察知?そんな事が出来るのか?」

 

「人間が直接察知する事は出来ない。

けど、それを伝えてくれる者がいたとしたら?」

 

「それって…?」

 

 

紫の謎めいた言葉に俺が首を捻っていると、何故か霊夢が怒鳴って背中を押してきた。

 

 

「何で三人揃って立ち止まってるのよ!

さっさと先に進みなさいっ!!」

 

「は?いや、だって人里はここに…」

 

「何処にあるってのよ!?」

 

 

霊夢の意味不明な言動に困り果てている俺の頭を、不意に幽香さんが叩いた。

 

 

「あなたには人里が見えている。私にも、あいつにも。

そして、博麗の巫女には見えていない。」

 

「…つまり?」

 

「私達は妖怪だから、人里が見えている。

あなたは『能力』を使って人里を見ている。」

 

 

幽香さんがそこまで言った所で、やっと俺は全てを把握した。

 

 

「…人里自体が、何かの能力で覆われているって事か?」

 

「ご名答よ、紀流。」

 

 

俺は再び人里を見る。人気が全く無い事以外は、前来た人里と全く同じだ。

…一体、誰が人里をすっぽり覆うなんて面倒臭い事をわざわざするんだか…

 

 

「ちょっと、聞いてるn…むぐっ!?」

 

 

霊夢が怒鳴ろうとした瞬間、紫が霊夢の口を押さえた。

言葉を発せなくなった霊夢は無言で怒りを爆発させていたが、やがて静かになる。

 

 

「…聞こえる?」

 

「…んっ…!」

 

「あ、ごめんごめん♪」

 

「ぷはぁっ…聞こえるわよ。

まるで誰かが喧嘩してるみたいな声ね。」

 

「声?」

 

 

耳をすませてみると、確かに遠くから声が聞こえてくる。

霊夢の言った通り、まるで誰かが言い争っているかのような声だ。

 

 

「…何だ?」

 

「ちょっと行ってみましょうか。

このままここでもたもたしているのもつまらないし。」

 

「そうと決まれば、さっさと行くわよ!」

 

 

一人でずんずんと歩いていく霊夢を追うようにして、俺達三人も声の方向に向かう。

人里の外を沿うようにして進んでいくにつれ、次第に声がはっきりしてきた。

 

 

「…何度言っても同じだ!」

 

「…そこを何とか…」

 

 

どうやら、言い争っているのは二人の女性の様だ。

…一方の声をつい最近聞いた気がするのは気のせいかな?

 

 

「…げっ!あいつらって…」

 

「どうした?」

 

 

霊夢が急に立ち止まったので、俺は少し横にずれて霊夢の前を見た。

そこにいたのは…

 

 

「幽々子様のお腹を満たす為です!どうか…」

 

「お前がなんと言おうと、ここには最初から何も無い!!

分かったか?分かったら早く帰れっ!!!」

 

「…妖夢…早く…食べ物を…」

 

 

…青い服を着た謎の女性、冥界にある「白玉楼」の主「西行寺(さいぎょうじ) 幽々子(ゆゆこ)」、

そしてその従者の「魂魄(こんぱく) 妖夢(ようむ)」だった。

 

 

「…は?」

 

 

俺はその光景を見て、思わずその場で固まった。

何しろ妖夢は半泣き状態で謎の女性と言い争っており、幽々子はその横で倒れているのだ。

咄嗟に状況が理解出来ない。わけが分からん。

 

 

「…ねえ紫。どうする?

面倒そうだから放っておく?」

 

「そうねぇ…どうしましょうか…」

 

 

霊夢と紫が悩んでいるのを無視し、俺は三人の方へ向かう。

まあ、このまま待っていても何も始まらないだろうし。

 

 

「妖夢~、何やってんだ~?」

 

 

そう話しかけながら、俺は妖夢の肩を叩いた。

…それが間違いだった。

 

 

「わひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「うぉう!?」

 

 

いきなり妖夢が滅茶苦茶な叫び声をあげたかと思うと…

 

 

「何奴だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

…腰に差していた二本の刀の内の一本を瞬時に抜き放ち、俺に斬りかかってきた。

目の前に迫ってくる銀色の閃光に度肝を抜かれた俺は、思わずスペルを発動してしまう。

 

 

「千刃『サウザーブレード』!!!」

 

「ぐうっ!?」

 

 

抜き身一閃、俺は何とか妖夢の刀を弾き飛ばす事に成功する。

刀は空中を二・三回転した後に俺の視界から外れ、見えなくなった。

 

 

「な…なかかなかやるなっ…!」

 

「妖夢、俺だって!紀流 祠弥だよ!!」

 

「え…紀流さん…?」

 

 

もう一本の刀を抜こうとしていた妖夢を必死になって止めた所、やっと気づいてくれたようだ。

 

 

「…申し訳ありません…つい、取り乱してしまいました…」

 

「いや、急に話しかけた俺も悪かったよ…」

 

 

妖夢は赤面し、頭を下げる。

何だろう、凄い罪悪感があるんだけど…俺が悪いんだから当然か。

 

 

「あの…私の楼観剣は何処に…」

 

「あ、吹っ飛ばしちまったからな。えーっと…」

 

 

軽く周りを見回してみたが、全く見当たらない。

そこまで遠くに飛んでいってるとは考えにくいんだがな…?

尚も刀の行方を探していると、また妖夢が声を出した。

 

 

「うっ!?」

 

「どうした、妖夢?」

 

「あ…あわ…わわわ…っ!!」

 

 

妖夢は真っ青になって俺の後ろを凝視している。

その顔があまりにも歪んでいたのが気になったので、俺も振り向こうとしたが…

 

 

「ふ…振り向いちゃ駄目ですっ!」

 

「…何でだ?」

 

「紀流さんの後ろに…!」

 

「だから何だっt…」

 

 

その瞬間、俺は後ろから殺気を感じた。

冷たくて平たく、そして長い物が俺の首筋を行ったり来たりしている。

…この感触に当てはまる物を、俺は一つだけ知っていた。

そして、こんな事をする可能性がある人物も。

 

 

「…なあ、妖夢。落ち着いて俺の質問に答えてほしい。」

 

「…はい…?」

 

「今、俺の後ろでは何が起こっている?

誰が何をしているんだ?」

 

「…えぇっと…

緑色の髪の女性が、紀流さんに私の刀を笑いながら向けています…」

 

 

…やっぱりそうか。

殺気の正体が分かった俺は、ゆっくりと後ろを振り返る。

そこに立っていたのは、俺の予想通りの人物。

 

 

「…幽香さん、怖いから首筋に刀を這わせないで下さい。

いつ斬られるか不安でしょうがないです。」

 

「フフ、それが良いんじゃない♪」

 

 

全身から禍々しいオーラを放出している幽香さんだった。

右手に刀を構えその先端を俺に向けながら、顔に満面の笑みを浮かべている。

 

 

「丁度、私の前に使い勝手の良さそうな刀が落ちてきたからねぇ。

これを使わない手はないと思ったのよ♪」

 

「普通、目の前に凶器があったからって直ぐに使おうとしないだろ…」

 

 

話している内に、だんだんと幽香さんの纏っていたオーラが消えていった。

…相変わらず、刀は構えたままだが。

 

 

「…祠弥、いつまで固まってるの?

まさか、殺されると思ってるんじゃないでしょうね?」

 

「そんな事言ったら危険よ、霊夢。

あいつならやりかねないわ。」

 

「…五月蝿いわねぇ…

紀流、ちょっとそこ退きなさい。」

 

 

霊夢と紫の会話に少し苛つきながら、幽香さんは腕を振って俺を退かせる。

言われるがままに横に避けると、幽香さんは右手に持っていた刀を不意に投げ上げた。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

地べたに倒れている幽々子を除いて、その場にいた全員の視線が刀に集まった。

投げた当の本人は冷静そのものであり、固まっている妖夢に一言。

 

 

「銀髪、そこを絶対に動かないでね♪」

 

「「は、はいっ!」…分かった…」

 

 

…あれ、今別の人の声がしたような…

そんな事は全く気にせず、幽香さんは右腕を上げて落ちてきた刀の先端を指先でつまんだ。

…what?

 

 

「なん…だと…?」

 

「…指で刀をつまんだ…」

 

「ですって…!?」

 

 

結界チーム、息ぴったりです。俺はびっくりしたけど。

その姿勢を数秒間保った後、幽香さんは瞬時に妖夢を見据え…

 

 

「それ♪」

 

 

そのまま、豪腕を振り下ろした。

幽香さんの手から離れた刀は真っ直ぐ宙を飛び、妖夢の腰の鞘に収まった。

この間、僅かコンマ数秒。

 

 

「…ほぇ…」

 

 

妖夢は情けない声をあげ、その場にぺたんと座り込んでしまった。

…どんだけ投げが精密なんだよ…

 

 

「…お、おい、そこの人っ!

駄目じゃないか、人に向かって刀を投げたりしちゃあ…」

 

 

刀が鞘に収まってしばらくした後、今まで黙りこくっていた謎の女性が口を開いた。

話し方からして、どうやら幽香さんに怒っているみたいだが…

 

 

「そんなルールがあるの?」

 

「ルール以前に、世の中の常識で考えろっ!!」

 

「常識ねぇ。私、世間知らずだから、そういうこと良く分からないのよ~♪」

 

「…何だと…っ!

いい度胸だ!私が世の中の常識をじっくりと教えてやるっ!!」

 

「へぇ…大層な勇気ね。

良いわよ。常識を私に教えてみなさい♪」

 

 

…何だ何だ、この状況は!?

今にも戦いが勃発しそうになってるんだが!?

 

 

「…私は風見 幽香。あなたは?」

 

 

幽香さんが相手に名乗り出る様に仕向けたので、俺は改めて謎の女性を見る。

群青色のワンピース。スカートには細かい切れ込みが入っており、独特の模様を生み出している。

長い銀髪に、服と同じく群青色の首席(?)帽子。てっぺんには赤いリボンつき。

…うーむ、不思議な人だ。

 

 

「私の名は『上白沢(かみしらさわ) 慧音(けいね)』。

今は人里の守り人をしている。」

 

「あ、そう。

じゃ、覚悟しなさい♪」

 

 

幽香さんは左腕をあげ、笑いながら傘を前に構えた。

それを見て、上白沢さんも軽く腰を落とす。

 

 

「…喧嘩っ早いな、幽香さんは…」

 

「あんたも似たり寄ったりよ。」

 

「…貴方とあいつ、改めてピッタリなチームね。」

 

「えぇっ…」

 

 

…睨み合った二人を無視し、様々な話が飛び交う中…

 

 

「…妖夢ぅ~…」

 

「「…!」」

 

 

…幽々子の腹の音を合図に、静かな戦闘が開始された。




幻花の超人チームの特徴・喧嘩っ早い←new!
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