東方有無録   作:印鑑

56 / 84
…えーっと…第五十六話目ですね、はい。
またまた長らくお待たせしてしまいましたが、ゆっくり読んでいってね!


とある「従者」と「主」〜赤眼の兎は何見て跳ねる

「妖夢~、吸血鬼らしき人は見えた~?」

 

「幽々子様に何も見えていないのに、私に見えるわけが…」

 

「私は目を瞑ってるのよ?」

 

「…へ?」

 

 

「幻想の結界チーム」と「夢幻の紅魔チーム」が激戦を繰り広げている頃。

その戦いが起こっている森の中を、呑気にてくてく歩いている二人がいた。

 

 

「…幽々子様、何故目を瞑っているのですか?」

 

「勿論、吸血鬼さんを探すためよ~。

妖夢は目で、私は耳と鼻を使ってね。良い考えでしょ?」

 

「…耳はともかく、鼻も使うんですか…」

 

「血の匂いがしないかと思ったのよ~♪」

 

「犬じゃないんですから…

…けど…幽々子様なら出来そうですね…」

 

「え?」

 

 

亡霊お嬢様「西行寺 幽々子」と庭師兼剣士「魂魄 妖夢」。彼女達二人の会話は軽い。

会話だけ聞いていれば、友達同士で買い物でもしているかの様な印象を受けるだろう。

これでも一応、異変を解決しようとしているのだが。

 

 

「今宵の月は何度見ても綺麗ですね。」

 

「ええ。後は欠けていなければ完璧なのに…」

 

「…欠けていると言われても、一目見ただけで気づくのは難しいかと思われます。

そのような事が出来るのは幽々子様程かと…」

 

「ふふ、褒めても何も出ないわよ?

それに妖怪達はかなり初期のタイミングで気づいていたし。」

 

「妖怪でも一瞬で判別するのは難しいのでは?」

 

「そうねぇ…う~ん…むむむむむ…」

 

 

幽々子は目を閉じ、真剣な面持ちになって考え始める。

…一分経っても、幽々子は表情を崩さない。

 

 

「…んんんんん…!」

 

「…幽々子様、もう宜しいでs「お腹空いたわね…」…はいっ!?」

 

 

てっきり自分の質問に対する答えを考えてくれているのかと思っていた妖夢は、

予想外の言葉に思わずこけて地べたに突っ込んでしまう。

 

 

「痛たたたたっ…」

 

「妖夢、大丈夫?

足元に石でも落ちていたの?」

 

「…いえ、幽々子様の言葉に躓きました…」

 

「え?」

 

「…何でもありません。」

 

「そうなの?」

 

「そうです。」

 

「ふうん…」

 

 

幽々子はじっとりとした目付きで妖夢の目を覗きこむ。

そのただならぬ雰囲気に、妖夢は思わず一歩後ろに後ずさる。

 

 

「あ…あの…幽々子様…?」

 

「…。」

 

「…あ…」

 

 

妖夢は何とかして会話を繋げようと、意を決して口を開こうとする。

だが、幽々子はその口を指で軽く押し、彼女に口を閉じさせた。

 

 

「妖夢、もっとリラックスしなさい。

私とあなたの仲なんだから、そんなに堅苦しくならなくて良いわよ~。」

 

「…いえ、主である幽々子様に馴れ馴れしく話すわけにはいきません。

私にはそのような権限はありませんので。」

 

「え、あなたにとっての私は『自分が仕えている主』に過ぎないの?

…残念ねえ…ぐすっ…」

 

 

幽々子は何処からともなく扇子を取りだし、自身の顔の前で開く。

妖夢からは幽々子の表情が見えない為、てっきり泣いているのではないかと思ってしまうのだ。

…この亡霊、中々の策士である。

 

 

「幽々子様、決してそのような意味では…」

 

「…冗談よ~♪」

 

「あ、やはりそう来ましたか。」

 

「…へ?」

 

 

予想の斜め上を行った妖夢の返答に、幽々子の頭に?マークが浮かぶ。

そんな幽々子に、妖夢は淡々と説明した。

 

 

「薄々そう来るだろうと思っていたので、心の中で準備していたんですよ。」

 

「流石は妖夢ね~。」

 

 

不思議なやり取りをしながら、二人は夜の森の中を進んでいく。

すると、今まで他愛もない話をしていた幽々子が突然口を閉じ、その場に立ち止まった。

 

 

「…幽々子様?どうしたんですか?」

 

「妖夢。森に入った時と比べて、随分と周りの木の雰囲気が変わったと思わない?」

 

「そう…でしょうか…」

 

 

幽々子に言われ、妖夢も辺りの木を眺める。

彼女はそのままの姿勢でじっとしていたが、やがてピンと来た様に目線を上げた。

 

 

「確かに、先程よりも木と木の間が狭い感じがしますね…」

 

「でしょう?

大抵の場合、こういう所には秘密の場所があったりするものなのよ~。」

 

 

幽々子は腕を組み、楽しそうにうんうんと頷く。

それと同時に、彼女のピンク色の髪の毛もふわふわと上下した。

 

 

「月明かりに照らされて、私達は不思議な場所へ誘われていくのよ♪」

 

「…えっと、具体的にどの様な場所なのd…」

 

 

妖夢が口を動かした正にその時、急に二人の視界は開けた。

 

 

「え…!?」

 

「どうやら、私の考えが見事的中したみたいね~♪」

 

 

唐突に二人の前に出現した物。それは…

 

 

「…竹…でしょうか?」

 

「ええ。多分合っていると思うわ。」

 

 

地面に突き刺さっているかの様な竹が無数に集まって形作られている竹林だった。

その竹林と森の間には一本の道が伸びており、二つの場所を分かつ境界線の様になっている。

二人は数秒間、竹林を前にしてその場に根が生えたかの如く立っていたが。

 

 

「…妖夢、あの竹林を見て何か感じる事はある?」

 

 

不意に、幽々子が横に立っていた妖夢に問いかけた。

その質問に対する答えは、直ぐに返ってくる。

 

 

「そうですね…何か、触れてはいけない物を封じ込めているかの様な…

…得体の知れない妖しさが、あの竹林から滲み出ている感じがします。」

 

「私もそう思うわ。

多分あの竹林は、今回の異変に少なからず関わっているのよ。

…今私達が探している『吸血鬼さん』よりも深くね。」

 

「えっ!?」

 

 

幽々子の衝撃的な発言に、妖夢は思わず声を上げてしまう。

その声に幽々子は少しだけ驚いたようだが、一度深呼吸をした後に話を続ける。

 

 

「紫の情報が少し不自然だとは思っていたのよ。

『レミリア・スカーレットが今回の異変に関わっている』って紫は言っていたでしょう?」

 

「あ、はい…」

 

「…でも、よくよく考えてみれば…

紫ならその仮説はかなり早い段階で出していると思うのよね。

そして、その仮説を私達に伝えてくれる筈。」

 

「…ですが、紫さんがそう伝えてきたのはついさっきですよ。」

 

「そこなのよ。それは即ち、ついさっきまではその考えを紫が捨てていたという事になる。

一体何故、紫は一旦捨てた考えを『最も有力な仮説』として行動を開始したのか…。」

 

「たまたま…では?」

 

「…たまたま…ねえ…」

 

 

幽々子は腕を組み、目を閉じて思考し始める。

先程も少し考え込んでいた時があったが、今回は少なくとも「お腹が空いた」とは言わないだろう。

…それ程までに、幽々子の表情は真剣なのだ。

 

 

「…『複数の同じ不確定要素が集まれば、それは一つの確定要素へと変わる』…

多分、誰かに吹き込まれたんでしょうね。」

 

「一体、それは何者ですか?」

 

「そうねぇ…

…『今まで私達の事をずっと付けてきていた子』…とかかしら?」

 

「!?」

 

 

妖夢がびっくりする中、幽々子は後ろの森に向かって話しかける。

 

 

「…結構慎重~に付いてきていたみたいね♪」

 

「…ふ~ん、バレていましたか。流石ですね。」

 

 

そんな声がしたかと思うと、森の中から一人の少女が現れた。

長い薄ピンクの長髪にミニスカート、そして何よりも特徴的な頭の兎耳。

彼女は幽々子の顔から目を逸らす事なく、ゆっくりと幽々子から数メートル離れた場所に立つ。

 

 

「…あなた、お名前は何て言うの?」

 

 

謎の少女と目を合わせたまま、幽々子は静かに問いかける。

少女は暫く黙っていたが、名乗ってもOKと判断したのか自己紹介を始めた。

 

 

「私は『鈴仙・優曇華院・イナバ』と申します。

呼びにくいと思いますので、短くして鈴s…」

 

「じゃあ、『うどんげさん』ね♪」

 

「え…ちょっ…」

 

 

自分の名前を勝手に省略された事に鈴仙は思わず突っ込みたそうな声を出したが、

それを幽々子は完全に聞き流して自らの名を名乗った。

 

 

「私は西行寺 幽々子。で、この子が…」

 

「魂魄 妖夢です。」

 

「…まあ、知っていますけどね…どうも。」

 

 

鈴仙は軽くお辞儀をする。

 

 

「あら、此方こそ宜しくね~♪

ほら、妖夢も。」

 

「あ、はい…宜しくお願いします。

ところで、幽々子様に何のご用があって現れたのですか?」

 

 

妖夢が単刀直入に訊ねると、鈴仙から至極あっさりした答えが返ってきた。

 

 

「…ご用とは他でもありません。

あなた方に『協力』して頂きたく、私はここに馳せ参じたのです。」

 

「…協力?」

 

「どういう事かしら?」

 

「『時間稼ぎ』をしていただきたい、と言った方が分かりやすいでしょうか?」

 

「…『時間稼ぎ』?」

 

 

妖夢が首を傾げたのを見て、鈴仙は言葉を続ける。

 

 

「はい。我々の『術式』が完成するまでの間、妨害する者達を足止めしてほしいのです。

私はそれを伝えるべく、師匠からの命を受けて…」

 

「…ちょっと待ちなさい。」

 

 

鈴仙が発した不自然な単語を幽々子は見逃さず、手を挙げて話を止めさせる。

 

 

「…『術式』って、どういう事?何の術式なの?

あなたは…あなた『達』は何故、それを完成させたいの?何の為にそれを使うの?」

 

「…幽々子様?」

 

 

鈴仙が喋り出さない内に、幽々子は雨あられと質問を浴びせる。

 

 

「あなた達にとって、それを完成させる事に何の得があるの?

それによる幻想郷への影響はどれ程の物?人里に被害が出たりしない…」

 

「…そこまで掘り下げて質問されるとは考えていませんでした。」

 

「え?えぇっ?」

 

 

おどおどしている妖夢に鈴仙は向き直り、優しい口調で説明する。

 

 

「あなたの主は、私が考えていた以上に鋭かったという事ですよ。」

 

「え…一体どういう事なんですか…」

 

「…つまり、彼女は私達二人に『協力』してほしいんじゃなくて…」

 

 

ここで幽々子は一旦言葉を切り、鈴仙を睨みつけた。

その目は鋭く光輝き、直ぐ傍に立っている妖夢が怯む程の殺気が照射されている。

 

 

「…『手を引いて』ほしいのよ。」

 

「その通りです。」

 

「なっ!?」

 

 

妖夢は鈴仙の方を向くが、既にその姿はどこにもない。

それどころか、今まで進んできた筈の森すらも消えてしまっている。

…ただ、視界一杯に大量の竹が乱立しているだけだ。

 

 

「ゆ…幽々子様…!?」

 

 

上下左右360度をいくら見渡しても、妖夢の目には竹以外何も入ってこない。

 

 

「…うぅっ…」

 

 

妖夢は次第に心細くなってくる。いくら剣士であろうと、彼女も人間(半霊だが)なのだ。

彼女の心に不安が広がり始めたまさにその時…

 

 

「妖夢、私は後ろよ。」

 

「へっ!?」

 

 

…今の妖夢が最も聴きたかった声が聞こえてくる。

ほっとして振り向くと、そこには幽々子が真剣な面立ちで立っていた。

…つい数秒前までは、影も形も無かったのにも関わらず。

 

 

「…幽々子様、これは一体…?」

 

「さあね…私にもさっぱり分からないわ…

とにかくお互いに離れないようにしましょう、妖夢。」

 

「承知しました。」

 

 

妖夢は何歩か歩き、言われたように幽々子の傍に立つ。

…命令があったからというよりは、ただ幽々子の傍にいたかったのであるが。

 

 

「幽々子様、どうなさいますか?」

 

「そうねえ…じゃあ…」

 

 

幽々子がそこまで言った瞬間、妖夢は後頭部に何かを突き立てられた様に感じた。

 

 

「くっ…!?」

 

 

その気配に戦慄し、勢いよく後ろを振り向いた妖夢の目に写ったのは…

 

 

「…『さっさとここから帰りましょう』…ね?」

 

「幽々…子…様…っ!?」

 

 

…扇子を妖夢の額に真っ直ぐ向けた、自分の主。

たった今まで、自分の後ろにいた筈の。

 

 

「え…今の今まで後ろに…」

 

「フン、情けない顔ねえ。

まさかあなたがここまでの指示待ち人間だとは思っていなかったわ…」

 

 

幽々子の顔をした「それ」は、妖夢の胸ぐらを掴んで引き寄せた。

妖夢の目前に迫ってきたその者の目は、赤く爛々と輝いている。

 

 

「ぐ…幽…」

 

「ほら、また幽々子様幽々子様幽々子様って…

あなたに自分の意見は無いの?」

 

 

語尾が強くなっていくにつれ、幽々子の目の輝きも増していく。

初めは必死に目を逸らそうとしていた妖夢だったが、次第に体から力が抜けていき…

 

 

「…。」

 

 

遂に、自分で立っている事すら出来なくなってしまった。

その場に膝をついた妖夢を見下ろし、『幽々子』は止めとばかりに口を開いた。

 

 

「あなたみたいな人は…」

 

 

 

 

 

「…従者()()よ。」

 

 

前にいる者の言葉を引き金として、彼女の意識はフェードアウトした。

…いや、正確にはしかけた。

 

 

「妖夢、そんな事無いわよ~。」

 

「「っ!?」」

 

 

何処からかのんびりと響いてくる、二人にとって聞き覚えのある声。

妖夢は自分の精神を総動員し、何とか意識を引き戻して目の焦点を合わせる。

…彼女の目の前には、二人の幽々子がいた。

 

 

「…お…お前…一体どうやって…」

 

「…ここに来たのか?

私の顔を見れば分かるんじゃ無いかしらね~♪」

 

「「…顔?」」

 

 

焦り顔の幽々子と妖夢は、ほぼ同時に笑った顔の幽々子を見る。

彼女の目は…

 

 

「…目を…開いていないっ!?」

 

「その通り♪」

 

 

その時、妖夢の脳裏には幽々子との会話がフラッシュバックしていた。

 

 

 

 

 

「…妖夢~、吸血鬼らしき人は見えた~?」

 

「幽々子様に何も見えていないのに、私に見えるわけが…」

 

「私は目を瞑っているのよ?」

 

「…へ?」

 

 

 

 

 

「…まさか、幽々子様はこれを計算の上で…!」

 

「いえ、妖夢。

皮肉な事だけど、あなたがやられているのを見て私はそれに気がついたのよ。

…見た者を狂わせる、『狂気の目』をね。」

 

「く…!」

 

「…さぁ…てと。」

 

 

幽々子は目を瞑ったまま、もう一人の幽々子に顔を向ける。

顔を向けられた方の幽々子は、顔を見つめたままその場から動かない。

…動けないと言った方が正しいか。

 

 

「覚悟は良いわね、()()()()さん?」

 

「…こ…ここはひとまず…撤退!!!」

 

「…寿命『无寿国への約束手形』。」

 

 

幽々子はスペルを発動すると、手のひらに紫色の光弾を作り出した。

そしてそれを、逃げようと飛び上がった鈴仙に向けて躊躇なく発射する。

 

 

「うっ!?」

 

 

光弾は鈴仙の胸に直撃すると、そのまま体の中に入っていく。

やがて、幽々子の手のひらに青い人魂のような物が現れ…

 

 

「…人に向かってあんな事が言えるなんて…

あなたは…人として失格よ!!!」

 

 

怒りと共に幽々子がそれを握り潰すと、それと同時に鈴仙を中心とした大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…妖夢、大丈夫?」

 

「私は平気です…

えっと…敵は倒せたんですか?」

 

「…残念ながら、逃げられちゃったみたい。

手加減しなければ良かった…」

 

 

今、幽々子はしゃがんで妖夢の容態を伺っている。

その顔は、本当に申し訳なさそうだ。

 

 

「…妖夢をこんなにまでしたのに…!

何で私は手加減なんか…っ!!」

 

「…それは…間違っていません。」

 

「…え?」

 

 

下を向いて悔しさを爆発させている幽々子を見て、妖夢はゆっくりと口を開いた。

 

 

「…幽々子様はあの兎…鈴仙の事を思っていたのでしょう?

彼女にも仲間がいて、帰るべき場所があると。」

 

「…。」

 

 

妖夢はか細い、だがはっきりとした声で言葉を続ける。

 

 

「冥界で死霊達の管理を任されている幽々子様は、この世…いや、あの世も含めて…

誰よりも命の尊さと儚さを知っておられます。

たとえどんな者であろうとも、決して無闇に命は奪われない。それが、私の仕えている主です…」

 

「妖夢…っ!!!」

 

 

幽々子は妖夢に近づき、両手を回して彼女を力一杯抱き締める。

 

 

「…妖夢、本当にごめんなさい…

あなたは誰が何と言おうと、いつまでも私の自慢の従者よ…」

 

「…光栄です、幽々子様。」

 

 

…月が写りこんだ綺麗な両眼を、大粒の涙で濡らしながら。




前半と後半の温度差が半端ではないな…
次回はいよいよ、皆さんお待ちかねの第三戦目です。
最後の一チームも遂に…超(おい)気長に待っててね!
感想、意見、アドバイス等々募集中です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。