東方有無録   作:印鑑

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第六十一話目である!
ゆっくり読んでいってね!


妖月を砕くか、否か〜兎の壁と炎の壁

「…波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!」

 

 

…幻想郷を妖しく照らす、少しだけ欠けた月。

普通の人間、『紀流 祠弥』はその月を破壊しようと、それに向かって激しい光線を放った。

ただ、皆の身を守りたいという願いの為に。

 

 

「えぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

「ほ…本気で撃ちやがった…!」

 

 

…その「皆」は、紀流の力にただただ驚いているが。

皆が見守って(というか硬直して)いる中で、紀流のスペルと月との距離はどんどん近づいていく。

このまま行けば、両者が接触するのも時間の問題だろう。

 

 

「…いや、ちょっと待てよ?

幾ら祠弥が強いっても、流石に月を破壊する事は出来ないんじゃ…」

 

「…魔理沙…

じゃあ聞くけど…今の紀流を見て、本当に自信を持ってそう言えるの?」

 

「…。」

 

 

魔理沙は何も言えず、黙りこくって再び夜空へと目を移す。

既に青い光線は紀流の腕から離れ、ただ一直線に月へと向かっている。

 

 

「…?」

 

 

…しかし。

撃った当の本人が、ぽかーんとした顔をしているのは何故なんだろうか。

 

 

「あれ、俺は何でかめはめ波の構えをしてるんだ?」

 

「月を破壊しようとしたんでしょう?

あなたにしては、随分と大胆な作戦を決行したものね♪」

 

「ああそうそう、俺は月の魔力を弱めようとして月を破壊しようt…

って、え?」

 

「…え!?」

 

 

紀流が発した間の抜けた声に、いち早く反応したのは勿論霊夢である。

 

 

「あんたまさか、無意識の内にあんなスペルを発動したの!?」

 

「いや意識はあったけど…まさか本当に撃つとは自分でも思ってなかったんだよ…

…というか、このままじゃ月が吹っ飛んじまうんじゃないか!?」

 

 

さっきまで全身から放っていた、あの凄まじい気迫はどこへやら。

人が変わった様におろおろし始めた紀流を見て、その場の全員は危うくずっこけそうになった。

 

 

「全く…何で自分がやらかした事で慌ててるのよ…」

 

「あの人間らしいですね。」

 

「ふふふ、そこが良いんじゃない~♪」

 

「…幽々子様?」

 

 

月が破壊されそうだというのに、何故か場の雰囲気はほのぼのし始めた。

その様子を見て、紀流は益々慌てる。そもそもの元凶は彼だというのに。

 

 

「おいおいおいおい…皆何でそんなに余裕かましてるんだよ!?

霊夢も紫も魔理沙もアリスもレミリアも咲夜も幽々子も妖夢m…おえっ!?」

 

 

錯乱状態に陥っていた紀流を、幽香は鳩尾に傘を突き刺して黙らせる。

 

 

「五月蝿いわよ、紀流。

月を破壊したく無いんだったら、自分の力で何とかしなさい。」

 

「…自分でって…おぇ…どうすれば良いんですか…?」

 

「その位は自分で考えなさいよ。

もう一発撃って相殺するなり遠隔操作するなり、幾らでも方法はあるじゃない。」

 

 

…幽香さん、自分で考えなさいって言った割には結構的確なアドバイスをくれたな。

さて、どうするか…遠隔操作は悟空がピッコロ大魔王にやった要領で出来ると思うが、

その場合処理が面倒だろうし…ま、ここは無難に…

 

 

「ぬんっ!」

 

 

俺は気を高め、両手を引いてかめはめ波の構えをとる。

 

 

「で、どうするの?」

 

 

幽香さんの質問に、俺は簡潔に答えた。

 

 

「ちょっと相殺してきます。瞬動波『瞬間移動…」

 

 

気が最大まで溜まった所で俺は瞬間移動し、空を突き進んでいるかめはめ波の前まで移動する。

一瞬の異空間移動が終わったと同時に、俺は両手のエネルギーを前方に解き放った。

 

 

「…かめはめ波』!!!」

 

 

幻想郷の夜空で、またまた二つのスペルがぶつかり合った。

最も今回は『どちらのスペルも同じ人物が撃ったもの』という、世にも珍しいケースだが。

 

 

「…あれ?」

 

 

…おい待て、予想以上に威力が重くないか!?

俺にはこんな凄まじい威力のかめはめ波を撃てる力があったのk…ぐっ!?

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ…」

 

 

紀流が自分の撃った技の後始末に苦戦しているのを、地上組は呆れた顔で見守っていた。

 

 

「…祠弥、結構苦戦してない?」

 

「おいおい、ちょっと待てよ…

自分の撃ったスペルに競り負けるなんて、笑い話にもならないぜ?」

 

「そうなったら所詮、紀流の力はその程度だったって事よ。」

 

「あんたが言うな。」

 

「はぁっ!?霊夢、それはどういう事!?」

 

「お嬢s「どういう事『なのかしら』!?」…。」

 

 

レミリアは怒りながらも言葉使いを改め、霊夢に突っかかる。

それに対し霊夢は顔をレミリアの方に向けた後、面倒臭そうに喋り始めた。

 

 

「自分のスペルで自分の屋敷破壊したあんたが言うな、って事よ。」

 

「…そ、それとこれとは別でsy…」

 

 

レミリアは慌てて反論しようとするが、横に立っている咲夜の顔を見て口をつぐむ。

…当の本人は、顔色一つ変えていないが。

 

 

「お嬢様、如何なされましたか?」

 

「…。」

 

「まさかとは思われますが、また紅魔館を破壊されよう等とは…」

 

「誰が好き好んで自分の住居をぶっ壊す奴g…破壊する者がいるというの!?

前の異変の時だって、決してわざと破壊したんじゃ無いわよ!」

 

「ふん、どうだか…」

 

「もう霊夢は黙ってっ!」

 

 

紀流を無視して延々と喋り続けている者もいれば、ずっと上空に目を向けている者達もいる。

 

 

「紀流、頑張ってるわね~。」

 

「ったく…さっさと済ませなさいよ…」

 

「あら幽香、貴方も『人を待つ』事が出来る様になったのね♪

それとも紀流だけの限定かしr…ごほっ!?」

 

「五月蝿い。」

 

 

幽香は無表情のまま、何度も紀流にしてきた様に傘を紫の腹に刺す。

服を破るまではいかなかったものの、その凄まじい威力に紫は立ったまま悶絶した。

 

 

「あらら…」

 

「…おぇ…

…さっさと出発したいんなら、手伝ってあげれば良いんじゃない?」

 

「…。」

 

 

幽香は紫の言葉を聞いて、暫くの間その場で佇む。

やがて幽香は紫の顔から目をそらし、再び夜空で自分のスペルと格闘中の紀流を見上げた後…

 

 

「…。」

 

 

地面を蹴り、紀流へと向かって飛び立った。

 

 

「行ってらっしゃ~い。」

 

「さっさと『済ませ』なさいよー♪ふふ…

…全く、素直じゃ無いわねぇ…」

 

「え、どういう事?」

 

「うふふ、何でも無いわよ♪」

 

「?」

 

 

幽々子は首を傾げ、飛び立っていった幽香を見て不思議そうな顔をする。

 

 

「さて、紀流の事はあいつに任せるとして…。」

 

「…私達は私達で、頑張らないとね~。」

 

 

紫と幽々子は意味深な会話を交わした後、不意に目の前に広がっている森に向かって声をあげる。

 

 

「…で、何か用があるわけ?」

 

「お月様見て跳ねる、ちっちゃな兎さん達♪」

 

「…は?」

 

 

霊夢はレミリアから目を離し、頭に?マークを浮かべながら紫の方を見る。

 

 

「ちょっと霊夢!あなたから始めた会話を勝手に終わらせるn…」

 

「私から始めたんだから終わらせるのも私よ。

で、紫。どうしたの、何も無い空間に向かって…」

 

 

霊夢がそう言い終わらない内に、

ガサッという音の後に木々の間から何かが飛び出、紫の前にすっくと立つ。

その顔に覚えがあったのは、今この場にいる者達の中では紫のみである。

 

 

「…流石は幻想の賢者、八雲 紫。

我々の事など、とっくのとうにお見通しであったという事ですか。」

 

「なるべく気配を消そうと努力していたみたいだけど…

どうやら部下達に命令が十分に伝わらなかったみたいねぇ、『因幡 てゐ』。」

 

「あなた達の足音が、良~く聞こえてたわよ~。」

 

「…は?」

 

 

霊夢は紫と喋っている人物を見て、思わず二度見した。

何故ならその頭には、その人物が人間ならばある筈の無い者…

 

 

「霊夢、何ぼーっとしてるの?」

 

「…えっ?ああ…ちょっとね。」

 

 

…大きな『兎の耳』が付いていたからだ。

その兎耳少女改めてゐは紫が発した霊夢の名前を聞き、彼女の方に顔を向けた。

 

 

「ほう…では貴方がかの有名な『博麗の巫女』なんですか。」

 

「そ、そうだけど…

っていうか、私の事を知らなかったの!?」

 

「霊夢、騙されては駄目よ。

レミリアの事を知っている奴が、貴方の存在を知らない筈が無い。」

 

「また『協力してほしい』って言いに来たんでしょ~?」

 

「…!」

 

 

紫と幽々子の発言にていは少し驚いたようだが、やがて笑った。

霊夢と紫と幽々子という、幻想郷の中でもそうそうさる力を持っている者達の前で。

 

 

「ははは…いやぁ、恐れ入りましたね…

ですが、そこまで分かっていらっしゃるなら話が早い。」

 

「…え?」

 

 

霊夢が何も言えない内に、てゐは右手を虚空に突き上げた。

突如、周りからのざわざわ音が一段と大きくなったかと思うと…

 

 

「む、お仲間の兎さん達かしら?」

 

「その通り、で御座いますよ。」

 

 

てゐに似た兎耳の少女達が茂みから現れ、円形の空き地を瞬時に二重に取り囲んだ。

少女達はそれぞれ薙刀や弓矢を構えており、その切っ先は全て中心の八人へと向いている。

 

 

「…へえ、意外と大胆じゃない…」

 

「こうでもしないと、私達と話してくれそうにはありませんでしたからね…」

 

 

無数の刃に狙われていても、紫と幽々子と霊夢は冷静その物である。

…まあ、冷静なのはこの三人だけであり…

 

 

「わぁぁぁぁぁぁ!?何だ何だ何だぁっ!?」

 

「魔理沙落ち着きなさいこういう時こそ落ち着きを保つ事が大切なのよ分かってるでsy(ry」

 

「まずお前が落ち着けっ!」

 

「分かりました、斬れば良いのですね?」

 

「物騒だから止めろ!!!」

 

 

魔理沙とアリス、そして妖夢は大混乱。アリスは正確には大大混乱。

 

 

「咲夜、いつでも動けるようにしておきなさい。」

 

「承知致しました。」

 

 

レミリアと咲夜は戦闘態勢。

咲夜は数十本のナイフを握り締め、兎達を鋭い目で睨み付けている。

 

 

「…うぅ…」

 

「あれ、何だか目眩が…」

 

「ふらふら~っと…」

 

 

そして何故か、咲夜の睨み付けていた方向にいた兎達三名が地面に膝を付いた。

幸い周りにいた兎達がその三人を助け起こし、直ぐに隊列は元に戻ったが。

 

 

「お嬢様、この包囲網を突破するには先程倒れた三人を中心とした攻撃を為されました方が…」

 

「…咲夜、あなた、もう少し人間味を出せないかしら?

合理性第一すぎて、たまにからくり人形なんじゃ無いかと思っちゃうわよ…」

 

「それではいけないのですか?」

 

「…いや、訊いた私が馬鹿だったわ。はあっ!!!」

 

 

レミリアは溜め息をついた後、掛け声と共に体に力を込めて紅い気を吹き荒れさせる。

その強大な妖気に、兎達は思わず数センチ程後ずさった。

レミリアがスペルカードを使おうと懐に手を伸ばしたその時、てゐが前に飛び出て喋り始めた。

 

 

「少し誤解されていらっしゃるようですので訂正しておきますが、

我々は本当に攻撃しようとしているわけではありません。」

 

「だったら何、『協力』してほしいって言いたいの?

生憎、私はあなたみたいな兎の願いを聞き入れてあげられる程暇じゃ無いんだけれどねぇ!?」

 

「私だけの願いではありません!これは師匠と姫様の…」

 

 

てゐの発した新しい単語を、霊夢と紫は聞き逃さなかった。

 

 

「はい、ちょっと一旦ストーップ。

あんた今『姫様』って言ったけど、誰の事?」

 

「私としては、貴方の言う『師匠』も気になるのだけど。」

 

「げっ…」

 

 

てゐは完璧に『やっちまった』とでも言いたげな顔になる。

そこを好機とばかりに、紫は更に突っ込んだ質問をしようとしたのだが。

 

 

「全く…くどくどと五月蝿い奴らだな…」

 

「「「っ!?」」」

 

 

突然、九人と兎達の間に立ち上った『炎の壁』。

それはメラメラと燃え盛り、月明かりを遥かに上回る光を放ちながら揺れている。

 

 

「あっつあ!?」

 

「いや、魔理沙。炎なんだから熱いのは当たり前でしょ…

それにしても熱いわね…」

 

「幽々子様、冷水です。」

 

「あら、ありがと~♪」

 

「何呑気な事言ってるのよ!

この状況は結構…あー…『大ピンチ』なんじゃないの、霊夢!?」

 

「何で私に振るのよ…

で、紫。どうなの、この状況は…っ!」

 

 

目が開けられなくなる程の熱気の中、霊夢は横に立っているであろう紫に問いかける。

だが、紫は何も答えない。ただ、目の前にある炎の壁を睨んでいるだけだ。

 

 

「ちょっと、紫…げほっ!?」

 

「霊夢、あまり口を開かない方が良いわよ。」

 

「そうそう、そうするのが一番さ。」

 

 

不意に聞こえてくる、人を小馬鹿にした様な声。

その声と共に二人の目の前に炎が集まり始め、それは人の形へと近づいていく。

やがて人間の口にあたるであろう場所の炎が揺らめき、そこから声が流れてきた。

 

 

「…火事に巻き込まれた時の対処法。

確か…あ、そうそう。口を布とかで塞いで、姿勢を低くするんだったよな?

そうすれば、少しは楽になるぜ?」

 

「あんた誰よ…がほ…」

 

「顔を見せないの?」

 

 

紫が目の前の炎に訊ねると、炎はまるで人が笑っているかの様に激しく揺れる。

 

 

「ははは、何で見せなきゃならないんだ?

お前達はどうせここで死ぬんだから、見せても意味無いだろ…」

 

「はぁっ!?ふざけんn…ぐっ…」

 

「魔理沙!?」

 

 

熱風を吸い込んで思わず喉を押さえた魔理沙を横目で見る様な仕草をしながら、炎は話を続ける。

 

 

「…冗談だよ、じょーだん。そんな事したら何発の雷が私の頭に落ちる事か…」

 

「『私』って事は、どうやら貴方は女みたいね。」

 

「ねえ、誰の雷が落ちてくるの~?」

 

「それは…おっといけない。危うく、口車に乗せられる所だったな。」

 

「そんなつもり無いわよ~。」

 

「まあ良いや。悪い様にはしないから、私と一緒に来てくれ。

どっちにしろ人間達がそんな状態なんじゃ、逃げる事なんて出来やしないだろ?」

 

 

そう言って、炎は人間組を見渡す。

確かに炎の言う通り、人間達…つまりは霊夢と魔理沙、

更には咲夜さえも立っているのがやっとという状況だ。

 

 

「けど、そこの刀を差してる奴は大丈夫みたいだな。見た目は人間なのに…」

 

「生憎、私は半人半霊ですからね。

この程度ならば、問題はありませんよ。」

 

「あ、そう。けど三人動けなきゃどっちもどっちだろ?」

 

 

得意気に話す炎に、暫くは誰も答えなかった。

しかし。

 

 

「…調子に…乗るなっ!!!」

 

「お、威勢が良いな。誰だ?」

 

 

炎が見据えた先には、右腕に紅い気を纏ったレミリアの姿があった。

レミリアは目を大きく見開き、炎に向かって殺気を放っている。

 

 

「この程度の炎、私にとっては無に等しいわ!!神槍『スピア・ザ・グングニル』!!!」

 

 

レミリアはスペルを宣言し、飛び上がって右手を上に掲げる。

紅い気は右の掌に集束して小さな球体になり、彼女はそれを握り締めて紅い槍を作り出した。

 

 

「さあ、どうする?さっさと炎の壁を引っ込めるか、私のスペルに射抜かれるか…

好きな方を選びな…さいっ!!!」

 

 

最後の言葉と共に、レミリアは右手を力一杯降り下ろす。

槍は炎を吹き飛ばしながら飛び、真っ直ぐ人型の炎の元へ飛んでいく。

 

 

「…ふっ。」

 

 

レミリアの放った槍を見て、炎は口の端っこで笑い…

 

 

「よっと。」

 

 

残り数センチまで引き付けた後、瞬時に体を横に引いて槍を回避した。

スペルは炎の壁を突き抜け、地面に命中して大爆発を起こす。

 

 

「「「うわぁ!?」」」

 

 

…まあ、炎の壁の周りにいた兎達が二、三十人程吹っ飛んだが。

 

 

「…全く…喧嘩売ってどうするんだよ!

益々連れていくのが面倒になるじゃないか!!」

 

 

てゐがあげる怒りの声は、炎の耳には届いていた。

 

 

「分かっているよ…けど仕方がないじゃないか…」

 

「よ…避けた…!?」

 

「…おっと、今はこっちに集中しなきゃな。」

 

 

驚愕するレミリアを見て、炎は呆れ果てた声で喋り始める。

 

 

「おいおい、あんなに攻撃までのモーションが長いんじゃ避けられて当然だろ?

別に吹っ飛ばしたって良かったんだが、なるべく丁重にお連れしてくれって頼まれてるんでね…」

 

「…それは『師匠』に言われた事?それとも『姫様』?」

 

「ま、どっちかって言うと『師匠』だな。」

 

「あら、もう教えてくれるのね~。」

 

「別にお前達に屈したわけじゃあ無い。

人間達も限界に達したみたいだし、そろそろ頃合いかなって思っただけさ。」

 

 

霊夢は紫に肩を支えられてぐたっとしており、魔理沙はアリスに支えられている。

咲夜はまだ意識こそはあるものの、既に片膝を地面に付いていた。

 

 

「何せこれだけの炎に囲まれてるんだ。妖怪にとっては『無に等しい』んだろうけど、

人間ってのは気温の高い所にいつまでもいられないもんなのさ。

私の話術じゃ引き止めてられないと思ってたが、案外食い付きが良くて驚いたよ…」

 

「じゃあ、私がスペルを撃ったのも…!」

 

「…別に計算してたわけじゃ無いけどな。運が良かったのさ。」

 

「…策士ね…」

 

「ほぼ偶然だけどな。」

 

 

紫は炎に話しかけながら、人間三人を横目で見る。

その動作に気づいた炎は、ここぞとばかりに質問を繰り返す。

 

 

「で、一緒に来てくれないか?」

 

「…。」

 

 

紫は黙る。だが、いつまでも黙っていられるわけではない。

人間達三人は、このまま放っておけば死んでしまうかもしれないのだ。

 

 

「…分かったわ。」

 

「そう来なくっちゃあな!」

 

 

そう炎が言うと、あれだけ激しく燃え盛っていた炎の壁は一瞬にして消え去った。

 

 

「今だー!」

 

「「「囲めーっ!!!」」」

 

 

壁の外側にいた兎達が包囲網を狭める中、紫は立っている妖怪(&半霊)四人に話しかける。

 

 

「…異論、無いわよね?」

 

「当然じゃない。誰が好き好んで自分のパートナーを殺すもんですか。」

 

「私のスペルを避けられる様な奴に、逆らうのもあまり得策とは思えないしね。

それに、あいつに付いていけば『師匠』って奴に会えそうだし。」

 

「良いわよね、妖夢?」

 

「私は幽々子様に従うのみです。」

 

 

満場一致、反対無し。紫は、そう判断した。

それと同時に、相手方も同様の判断を下した様で。

 

 

「じゃ、私達の後に付いてきてくれ。

丁度今から行く所には医者がいるから、人間達も元気になるだろうさ。」

 

「それも、偶然?」

 

「流石に考えてたさ。

この事まで偶然だったら馬鹿すぎるだろ…」

 

 

炎は相変わらず顔を見せず、紫に向かって喋っている。

すると今まで状況を見守っていたてゐが炎の脇に立ち、大声で独り言を呟いた。

 

 

「あーあ、師匠は良い顔しないだろうな…」

 

「…え?」

 

「いや、師匠に言われた事忘れたのかい?

『丁重にお連れして』って頼まれたのに、意識朦朧な人間が三人もいるんだよ?」

 

「…た、確かに…

なあ、水持ってないか?」

 

「今更遅い。さ、早く案内するよ。

皆、人間達三人を運ぶのを手伝ってあげなさい。」

 

「「「はーい!」」」

 

 

兎達はわらわらと集まり、霊夢と魔理沙を胴上げの要領で軽々と持ち上げる。

咲夜の事も同じ様にして持ち上げようとするが、咲夜はそれを拒否する様に立ち上がった。

 

 

「…私は結構です。」

 

「咲夜、そこまで意地を張らなくて良いわよ。

いや、張っては駄目。大人しく運ばれていきなさい。」

 

「ですが…」

 

「これは私からの『命令』なのよ?」

 

「…承知致しました。」

 

 

咲夜はしぶしぶと言った感じで横になり、兎達に身を任せる。

その兎達に向かって、レミリアは一言。

 

 

「もしも咲夜を落としたりしてみなさい、

あなた達の命が無くなるわよ。」

 

「「「ひいっ!?」」」

 

「死にたくなかったら、精々丁寧に運ぶ事ね。」

 

「「「は、はいっ!!!」」」

 

「宜しい。」

 

 

兎達がビビったのを確認すると、レミリアは満足そうに頷く。

その様子を見て、てゐは『もうそろそろ良いだろう』と判断した様だ。

 

 

「では、行きましょう。」

 

「おーう!」

 

「…あの、何故ずっと炎を身に纏っているのですか?

そしてあなたは何者ですか?」

 

「ま、そこら辺は追々…」

 

「むっ、思わせ振りですね…」

 

「妖夢、そんなに急く事無いわよ~。

お医者さんの所に着くまでに、ゆっくり教えてもらえば良いじゃない。」

 

「…魔理沙と霊夢、あんな適当な持ち方されて大丈夫かしら…」

 

「落としたらただじゃ済ませないって言ったらどう?」

 

 

皆が自由に喋りながら歩いていく中、紫はふと空を見上げる。

その目線の遥か先にいたのは…

 

 

「ほら、いつまで押し合ってるのよ。」

 

「見てないで手伝って下さい…おうふっ!?

この状況化で良く傘を刺そうと思いましたn…うぐっ…」

 

「♪」

 

 

『幻花の超人チーム』の二人である。

紫は暫く二人を眺めていたが、やがて静かに笑みを浮かべ、そっと呟く。

 

 

「…あの二人なら、大丈夫よね。あいつは紀流の言う事なら聞くみたいだし。」

 

「紫、どうしたの~?先に行っちゃうわよ~♪」

 

「はいはい、今行くわ。」

 

 

紫はそう言うと、顔を幽々子の方へ向けて歩き始める。

やがて、彼女の姿も木々の間へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…幽香さん…ヘルプ…」

 

「え?」

 

 

一方、こちらは幻想郷上空。

紀流はまだ、自分の発動したスペルと競り合っていた。

 

 

「全然押し返せないんですよ…

ちょっとでも気を抜くと、俺もかめはめ波と一緒に吹っ飛ばされそうで…」

 

「なら避ければ良いじゃない。」

 

「そんな事したら月が吹き飛ぶでしょうが!!!」

 

「え、そうしたかったんじゃ無いの?」

 

「…。」

 

 

紀流は黙りこくり、自分を月に叩き込もうとするかめはめ波に集中を戻す。

幽香は腕を組みながら暫くその様子を眺めていたが、やがて腕組みを解いて紀流に手を伸ばすと…

 

 

「…それ。」

 

「わあっ!?」

 

 

そのまま首根っこを掴み、無理矢理自分の方に引き寄せた。

当然、支えを失ったかめはめ波は再び月に一直線に飛び始める。

 

 

「ちょ、幽香さん!?何してるんですかーっ!?」

 

 

紀流はじたばたともがくが、幽香は全く手を離そうとしない。

そうこうしている間にも、かめはめ波はぐんぐんと月に向かっていく。

 

 

「…もう駄目だ…おしまいだ…」

 

「大丈夫よ。」

 

「へ?」

 

「だって、あの月は…」

 

 

その言葉と同時に、何かがひび割れた様な音が空に響き渡った。

最初の方は小さな音だったが、次第にそれは大きく、連続した音となっていく。

そして、音と音の感覚がほぼ無くなったその時…

 

 

「…『偽物』だから。」

 

 

…月一杯に大きな亀裂が入り、次の瞬間に月がガラス細工の如く砕け散った。

 

 

「…うぇ?」

 

 

先程かめはめ波を撃った時よりも更にぽかーんとしてしまった紀流に対し、

幽香は紀流の頭を掴んで無理矢理自分の方を向かせた。

 

 

「今あなたが壊したのは『偽物』。

ほら、やっと本物の月が出てきたわよ。」

 

 

幽香が指差した先には、さっきまでと変わらず輝いている月があった。

それを見て、紀流は益々混乱してしまったが。

 

 

「…あ、本当だー。

今壊した筈なのにー。」

 

「…はぁ…つまり、まやかしの夜はもう終わりって事よ。」

 

「まやかし…?」

 

「やっと、面白くなってきたわね…」

 

 

状況を完全に理解出来ていない紀流を尻目に、幽香はニヤリと笑う。

まだまだ、夜は終わらない。

 

 

 

 

 

―現在の時刻―

 ― 子の三つ ― 0:00 ―




結局、月は砕けました。(偽物だが)
この話での紀流の苦労って一体…大体幽香さんのせいだね、うん。
そしてまだ名前こそ出ていませんが、『喋る炎さん』(おい)登場。勘の良い人なら誰だか分かるはz(ry
感想、意見、アドバイス等々募集中です。

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