東方有無録   作:印鑑

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第六十三話目です。
ゆっくり読んでいってね!


いざ、決戦の地へ〜受け兵団・攻め妖怪・攻め人間?

「そー…れっ♪」

 

「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」

 

「…。」

 

 

…オッス!オラ紀流!

今現在、俺の目の前では幽香さん無双が行われている所だ!

幽香さんは平和的解決を模索する気が微塵もなかった事が判明したぜ!

 

 

「負けるなー!何としてでもここは死守するんだ!!

全員総攻撃ーっ!!!」

 

「馬鹿な事言わないで下さいよ!

あんな化け物に突進していったら命がいくつあっても足りません!!」

 

「そーだそーだ!

命令ばっかしてないでお前も戦えー!!」

 

「仮にも司令官だろーっ!?

お前だけ敵前逃亡なんて私達は絶対に許さないからなー!」

 

「司令官、もう三分の一ぐらいの兵士が吹っ飛んじゃいました…

このままだと全滅は免れないかと…」

 

「…くっそぉ…こうなったら私が直々に…」

 

「あら、あなたがここのリーダーみたいね。

じゃ、さよなら♪」

 

「え、ちょっと待…」

 

 

幽香さんはリーダー格(らしき)兎兵士を見つけると、軽く傘を振るって吹き飛ばした。

兎兵士は空中で激しく回転した後、ボキッという音と共に竹の壁に叩きつけられる。

 

 

「わー!司令官さーん!!」

 

「し…死んでる…」

 

「いや、気絶してるだけだよ…」

 

「けど、司令官が倒されちゃったって事は…」

 

「「「……って事は……。」」」

 

「♪」

 

「に…逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」

 

「こらー!負傷者を置いてくなー!!」

 

「…あはは…♪」

 

 

蜘蛛の子を散らした様に逃げまどう兵士達を見て、幽香さんは愉悦の笑みを浮かべる。

まるで飛び立つ鳥を追っかけでもしているかの様な表情だ。これは酷い。

 

 

「…幽香さん…」

 

「けど、このままじゃあ逃げられちゃうわね…

紀流、ちょっとそこで構えてなさい。」

 

 

俺が何も言えない間に、幽香さんは兵士達を見据える。

そして体を前に倒す事もなくそのままの姿勢で加速し、兵士達の前に瞬時に回り込んだ。

 

 

「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」

 

「逃がすとでも思った?それっ!」

 

 

幽香さんは傘を構え、怯えきった兵士達に向かって光弾を数発放つ。

光弾は兵士達に行き着く事なく爆発したが、兵士達に回れ右をさせるにはそれで十分だった様だ。

 

 

「反転だ、反転しろっ!!!」

 

「駄目です!戻ったらあいつの仲間に攻撃されます!」

 

「しかも兵士二人が人質にとられてるんだぞ!」

 

「…えぇい、今目の前にいる化け物より恐ろしい奴がいるもんか!

回れ右と同時に武器構え!敵を倒しつつ、人質になった兵士を救出するぞ!!」

 

「何でお前が命令してるんだよ!」

 

「一応私が『副』司令官だからだ!!!」

 

「「「…。」」」

 

「…文句なら後でたっぷりと聞いてやるから…」

 

「「「……。」」」

 

「…人参奢るかr「よっしゃ行くぞー!」…はぁ…」

 

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 

 

兵士達は回れ右して俺の方を見据え、槍だの薙刀だのを持って突進してきた。何故こうなる。

さて、どうするかな…吹っ飛ばすのは物騒だし、かと言ってこのままじゃ串刺しだし…

…閃いた!

 

 

「そー…れっ!!!」

 

 

俺は両腕に力を込め、気絶している二人を上空に力一杯投げ上げる。

 

 

「なっ!?」

 

「あいつ、人質を投げ上げたぞ!?」

 

「何て酷い奴なんだ…!」

 

 

仕方がないとは言え、酷い言われようだな…だがこれで此方の準備は整った!

後は…

 

 

「幽香さん、上昇してくださいっ!!!」

 

「…えっ?」

 

「良いから早くっ!」

 

「…っ!」

 

 

紀流の言葉に気圧される様に幽香は気を高め、一気に急上昇する。

それを紀流は横目で確認すると、兵士達に両手を向けた。

 

 

「気をつけろ、何か仕掛けてくるぞっ!」

 

「知ったことかぁ!それより早く串刺しにすれば問題なしっ!」

 

「「「喰らえぇぇぇぇぇぇっ!!!」」」

 

 

兵士達が紀流に向けて無数の切っ先を突き出した瞬間。

紀流は突き出していた両手を引っ込めて額の横に両手を構え…

 

 

「『太陽拳』!!!」

 

 

その額から、強烈な光を放った。

 

 

「ぐうっ!?」

 

「くそっ、目眩ましとは卑怯な…っ!」

 

「み…見えない…」

 

 

兵士達は思わず持っている物を手放し、両手で目を押さえる。

一気に総崩れになった兵士達に向かって紀流は超高速で突進していき、スペルを発動した。

 

 

「千刃『サウザーブレード』!」

 

 

紀流は紫色の剣を右手に纏い、兵士達の上を飛びながら槍や薙刀の切っ先を切り落としていく。

切っ先を全て切り落とし終わると、直ぐに元の場所に戻って投げ上げた二人を受け止めた。

この間、わずか数秒。

 

 

「ふう…っ…」

 

 

紀流は二人をしっかりと抱えた後、兵士達の方に向き直る。

兵士達はここに来て、やっと数人が目眩ましから回復したという状況であった。

 

 

「おのれ~、目にもの見せてやる…

って、あれ…!?」

 

「私の槍の先っぽがないっ!」

 

「こっちの薙刀もだ!」

 

「あっ、お前のも無いぞ!」

 

「ええい、うろたえるなお前達!

切っ先が切り落とされただけで、まだ目眩まししか喰らっていないだろう!!」

 

「…あのですね副司令官、

いくら光が強烈だったって言っても、私達の目が眩んでいたのは精々数秒程度だったんですよ?」

 

「それがどうしたんだ!」

 

「そんな短時間の間に、あいつは私達の武器を全部使用不可能にしたんですよ?

竹林の外側を警備していたのは約百人。その内三分の一は戦闘不能。

つまり今この場にいるのは約七十人程度となるわけです。」

 

「だから何だと言うんだ!!

ごちゃごちゃ言ってないでさっさと本題に入れっ!!!」

 

「ちょっと、副司令官だからってその言い方は無いんじゃない?」

 

「あんまり調子に乗るなーっ!」

 

「…ごめん、気合いを入れすぎた。

で、結局何が問題なんだ?」

 

「…わずか数秒間で七十人の兵士を武装解除出来る奴に勝てると思いますか?」

 

「「「あ…」」」

 

 

兵士達は一斉に顔を見合せ、そして前を見る。

そこには『数秒で七十人の兵士を武装解除出来る奴』が気まずそうな顔をしながら浮いていた。

兵士達は暫くの間その顔を凝視していたが、やがて誰からともなく後退りを始める。

 

 

「…た…退却…」

 

 

サブリーダー(らしき)兵士も、流石に耐えきれなくなって退却命令を出そうとしたのだが…

 

 

「あなたがサブリーダーの様ね。」

 

「…え"っ…」

 

「よっと。」

 

 

いつの間にかサブリーダー(らしき)兵士の後ろに幽香は回り込んでおり、

手刀を一発打ち込んで黙らせてしまった。

悲鳴すらあげずに倒れた兵士を一瞥した後、幽香はその場で固まっている兵士達に視線を写し…

 

 

「…で、サブリーダーのサブは誰なの?」

 

 

まだまだ暴れたりない様子で、兵士達をぐるりと眺め回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「煙がここからでも見えるなんて…一体何が来たんだ?」

 

「さっきの兵士が『風見 幽香』が来たって言ってただろう!?

君もぐずぐずしてないで、さっさと姫様の護衛につけっ!!」

 

「え、でも見学ツアーh「そんな下らない事考えてる暇があったら足を動かせ!!!」…。」

 

 

一方此方は永遠亭前。

てゐが大慌てで妹紅に指示を出している中、霊夢と紫は爆発のあった方向を見つめていた。

 

 

「風見 幽香が来たって事は…」

 

「ほぼ…いや100%、祠弥も一緒にいるでしょうね。」

 

 

霊夢の呟いた一言に、後ろで聞いていた魔理沙は不思議そうな顔をした。

 

 

「なあ霊夢、何で祠弥がいるって言い切れるんだ?」

 

「祠弥だから…としか言えないわね。」

 

「いくらパートナーが『自分勝手』で『我が儘』でも、決して別れず一緒にいる。

そういう人間なのよ、紀流は。」

 

「…自分勝手と我が儘を強調するなよ…まあ確かにそうかもしれないけどさ…」

 

 

魔理沙が呆れながらも納得していると、後ろから荒い息混じりの声が聞こえてきた。

 

 

「すみま…せん…

師匠がお呼びですので、早く中に入ってもらえませんか!?」

 

「…そういえば、私達の目的は師匠だったわね。」

 

「じゃあ、とっとと黒幕の顔を拝ませてもらいましょう♪」

 

「…倒そうとしないで下さいよ?」

 

「この二人に言っても無駄だと思うぜ?」

 

「「え?」」

 

「…いや、何でもない。」

 

 

そんな話をしつつ、四人は永遠亭の入り口へと歩を進めていく。

やがて、彼女達の後ろでゆっくりと門が閉じられていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これが、永遠亭までの道を示した地図です…」

 

「へぇ…そんな物があるのだったら、最初から出せば良かったのに♪」

 

「出す暇どころか話し合いすらしようとしなかった幽香さんが悪いと思うんですが…」

 

 

…えーっと、現在の状況を整理するとだな…

兎耳の兵士達に対する幽香さん無双(戦意を喪失させたのは俺だが)が終了しました。

兵士達は幽香さんの威圧に押されておしくらまんじゅう状態です。

 

 

「…随分と複雑な道程ねぇ…

ねえ、何でこんなに入り組んだ場所を作ったわけ?」

 

「…そりゃあ、お前みたいな化け物から永遠亭を守る為だろ…」

 

「馬鹿っ、余計な事言うな!」

 

「…?」

 

 

ひそひそと何かを話し合っている兵士の方へ、幽香さんはすたすたと歩いていく。

通り道にいた何人かの兵士達の腰が砕けた事も我関せず、幽香さんはその兵士に話しかける。

 

 

「ちょっと、そこのあなた?」

 

「ひいっ!?」

 

「あなたよね、今喋っていたのは?」

 

「は…はい…」

 

 

…幽香さん、兵士さんの目が死んでいる事に気がついてあげて下さい。

後周りの兵士達が十メートルぐらい引いている事にも気がついてあげて下さい。可愛そうです。

 

 

「一つ訊きたいのだけれど、

今私と紀流ががいる場所はこの地図で言うと何処に位置しているの?」

 

「ひっ…って、え?」

 

「教えてくれる?」

 

 

至って普通の質問に、話しかけられた兵士さん含め全員が安堵のため息をもらした。

 

 

「…何だ、そんな事か…」

 

「…全く、驚かされちゃったよ…ねぇ?」

 

「…うんうん…」

 

 

凄く安心した表情だな…

まあさっきまでの幽香さんはフリーザを背に重ね合わせても違和感ゼロ状態だったから当然か。

 

 

「成る程、ここね。

えーっと、という事は目的地はここから見て…こっちね。」

 

「はい、そうですが…?」

 

「よし…

紀流、ちょっとそこ退きなさい。」

 

「え?」

 

「良いから早く。」

 

 

幽香さんは右手に持った傘を横に振り、俺に下がっている様に言ってきた。

何だか良く分からんが、とりあえず引いておくk…

 

 

「それっ!」

 

「え、まだ下がってな…ってちょっとぉ!?」

 

 

瞬間、俺の眼前に幽香さんレーザー閃く。

俺が咄嗟に避けたそのレーザーは、後ろにそびえていた竹の壁を容易く焼き切った。

 

 

「…まさか一層しか突き破れないなんて…

でも、これで良いわね。」

 

「『良いわね』じゃあ無いですよ!

折角地図なんてもらったんですから、ちゃんと入り口から入りましょうよ!!」

 

「だって入り口はここの反対側よ?」

 

「俺達は飛べるんですよ!?」

 

「だから?」

 

「だからちゃんと入り口から入るんですよ!!!」

 

「…。」

 

「…何ですかその目は…」

 

 

幽香さんは不満全開の目で俺を見下ろしてきた後、小さく微笑む。

…何だろう、生命の危機が迫ってきてる様な気がするけど気のせいかな?

 

 

「紀流も、口が達者になってきたわね…」

 

「へ?」

 

 

あれ、本当に気のせいだったな…

腹どころか目でも突かれるんじゃないかと警戒してたんだが…

 

 

「行きましょ、紀流。」

 

「あ、はい…」

 

 

おっと、その前に確認したい事があった。

俺は兵士達の方を向き、一番近くにいた兵士さんに話しかける。

 

 

「あの。」

 

「…はい、何ですか?」

 

 

…警戒されてるな…ま、しょうがないか。

 

 

「兵士達は大丈夫ですか?」

 

「…大丈夫ではありませんよ。

まあ、死人は出ていませんけどね。あなたが運んできた二人も気絶しているだけですし。」

 

「それを聞いて安心しました。では。」

 

 

さて、さっさと幽香さんを追うとするか…

俺は竹林に入っていった幽香さんを追って、兵士達の視界から消えた。

 

 

「…はぁ…怖かったぁ…」

 

「あの幽香って奴を、てゐさんが要注意妖怪に指定していたのも頷けるねー。」

 

「けど、あいつと一緒にいた奴は一体何者なんだろう…

一緒にいたわりには、そこまで好戦的でも無かったし…」

 

「確か『紀流 祠弥』って人だったと思うよ。

異変の元凶を倒した人間らしいから、もっと物凄い奴かと想像してたけど…」

 

「何かなよなよしい男の子だったね。

もしかしたら私達よりも痩せてたんじゃない?」

 

「実力はとんでもなかったけどなー。

多分目潰し喰らって無くても、とても目なんかじゃ追えないレベルのスピードだったと思うよ。」

 

「最早次元が違うね…」

 

「人は見かけによらない、と。」

 

「さ、怪我人を介抱しよう。」

 

「「「おー!」」」

 

「…ところでさぁ、サブリーダーのサブは結局誰だったの?」

 

「いや、そんな階級無いだろ…」

 

「…ごめん、それ私…」

 

「「「いたの!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此方です。」

 

「ふうん、中も結構広いじゃない。」

 

「襖だらけなのが気になるけどな…」

 

 

永遠亭内部。

そこには、左右を無数の襖に挟まれた廊下が無限とも言える程に伸びていた。

そんな中、一行は一つだけ開いている襖を目指して進んでいく。

 

 

「しかし、本当に広い屋敷だなー。

普段住んでる奴なんて精々二・三人なんだから、もう少し狭くても良いんじゃないか?」

 

「普段住んでない私に言われても困るな…

あ、ここです。どうぞお入り下さい。」

 

 

てゐは開いている襖の前で止まり、霊夢達に入る様に促す。

 

 

「この中に『師匠』がいるわけね?」

 

「はい、恐らくは…」

 

「…おい、何で疑問系なんだ?」

 

「だって師匠は忙しいからね…兵士達に指示を出してるかもしれないし…」

 

「てゐ、私はいるわよ。遠慮せずに入ってきなさい。」

 

 

不意に部屋の中から、凛とした女性の声が響いてきた。

霊夢達が思わず身を固くする中、紫は静かに口を開いて声の主に問う。

 

 

「…貴方が『師匠』?」

 

「はい、その通りです。」

 

「私達が部屋に入っていっても、兵士達に槍を構えさせるなんて事はしないわよね?」

 

「当然ですよ…普通客人にそんな事は致しません。

それとも、何か心当たりがあるのですか?」

 

「いや、そこの兎が…」

 

「…てゐが何か?」

 

「私達を連れてくる時n「さぁ、どうぞお入り下さいっ!!!」じゃあ、遠慮なく。」

 

 

強引に話を立ち切ったてゐの声に従い、まず紫が部屋の中に入る。

 

 

「ちょっと紫!?」

 

「霊夢、早く行けよー。」

 

「霊夢が入らないなら、先に私達が入らせてもらうわよ。

咲夜、来なさい。」

 

「承知致しました。」

 

「じゃ、お先っ!」

 

「魔理沙、あまりはしゃぎすぎないでよ…私が恥ずかしいから。」

 

「分かってるってー♪」

 

「…ちょっと、何で私が最後なのよ!?」

 

 

アリスを追って前に出てきた魔理沙を押し退ける様に、霊夢も部屋の中に入ろうとする。

当然、魔理沙がそれを黙って見過ごす筈も無く…

 

 

「あ、霊夢!私が先だぞ!!」

 

「あんたが私より先に入るな!」

 

「何だよ!別に良いだろっ!!

というか、レミリアや紫は良いのに何で私は駄目なんだよ!!!」

 

「何となく気に食わないからよ!

とにかく、私が先っ!!」

 

「五月蝿い!大体お前が入らないでぼーっとしてるのがいけないんだぜ!!

自分勝手も程々にしろよな!!!」

 

「ほら、折角仲良しなんだから喧嘩は駄目よ~♪

最後に私と妖夢が入るから、二人同時に入ったら良いじゃない~。

ほら、とんっ♪」

 

「「わっ!?」」

 

「さ、妖夢♪」

 

「あ、はい。お邪魔します。」

 

 

霊夢と魔理沙を軽く押して部屋に入れた後、幽々子と妖夢が入る。

てんでわんや(正確には霊夢と魔理沙のみだが)の八人が入室したのを確認すると、

てゐは後ろを向き、静かに襖を閉めた。

 

 

「では、改めて。

今宵はよくぞ、この永遠亭まではるばる足を運んで下さいました。

私はここで医者稼業を営んでいる、『八意(やごころ) 永琳(えいりん)』と申します。」

 

 

師匠改め永琳はそう名乗り、軽く頭を下げる。

その身に纏っている服は、上半身の服は右側が赤・左側が青・

下半身のスカートは色合いが上半身の左右逆、それぞれに星座が描かれているという異質な物。

長い銀髪を三つ編みにし、前髪は真ん中で二つに分けている。

 

 

「…。」

 

「「「…。」」」

 

 

彼女の全身から放たれている妖気が部屋に充満していく中、

それを全く気にせずに紫は笑顔で前に進み出、永琳に手を差し出した。

 

 

「貴方が『師匠』なのね。会えて嬉しいわ♪

私は八雲 紫。」

 

「…宜しくお願いします。」

 

 

紫の声と握手で警戒をある程度解いたのか、彼女の放っている妖気は少し弱まる。

永琳は暫く紫の顔を見つめた後、躊躇いがちに話し出した。

 

 

「八雲 紫…幻想郷の賢者と呼ばれている大妖怪ですね。

今回はこの様な『異変』を引き起こしてしまい、誠に申し訳ございません。」

 

「良いのよ、弾幕と異変は幻想郷の華って言うものね♪」

 

「…紫、そんな言葉聞いた事無いんだけど。」

 

「今作ったのよ♪」

 

「あっそ…」

 

「ふふふ。ところで永琳さん?

貴方は『誰かから誰かを守る為に』今回の異変を起こしたのよね?」

 

「…ええ、その通りです。」

 

「一体貴方は『誰』から『誰』を守ろうとしたの?

そして、どうやって守るつもりだったの?」

 

「…私達は『月の民』から『姫様』をお守りする為に、古代の月と現在の月を入れ換えたのです。

そうすれば双方の行き来は不可能になり、月の民は侵入する事は出来ないと考えました。

ですが、今宵に限って何故か夜は止まってしまったのです。当然、月も動きません。

これは月の民側から何かしらの術をかけているのでは無いかと思った矢先に…」

 

「…月が破壊された、ってわけね。」

 

「…はい。

やけにお詳しいですね。」

 

「そりゃあそうよ。夜を止めたのは私と紫だし、月を破壊したのは私の知り合いだもの。」

 

「なっ!?」

 

 

霊夢が何気無く言った一言を聞いた瞬間、永琳の顔つきが変わった。

 

 

「…貴方の言う知り合いとは、一体何者なんです?」

 

「え、そこの兎から聞かされてないの?祠弥の事。」

 

「祠弥と言うのは…まさか『紀流 祠弥』の事ですか!?」

 

「えぇっ、あの人間が!?

確かにあいつは月に向かってよく分からない光線を放っていましたが…

…まさか、そのまま破壊するなんて…何て強引な…」

 

「それが彼の特徴なのよね~。

頑張って頑張って頑張って、絶対無理だと思われている事だってやってのけちゃうのよ~。」

 

「は、はぁ…」

 

 

指をぴんと立てた幽々子の説明を、永琳は今一理解出来ない様で首を傾げている。

魔理沙はその様子を横目で見ていたが、やがてふと思い出した様に霊夢の方を向く。

 

 

「…で、この場合どうなるんだ、霊夢?

私達は『月が可笑しくなった』異変を解決しようとしていた訳だが、

こいつらによるとその異変は祠弥がとっくのとうに解決しちまってるらしいじゃないか。」

 

「ええ、そうよ。」

 

「考えたくないけど、骨折り損のくたびれ儲けだったって事?」

 

「ま、そうなるわね。」

 

 

まさか、とでも言いたげなアリスに、霊夢はあっさりと真実を告げる。

…落胆が大きかったのは、むしろ魔理沙の方だったが。

 

 

「まじかよ…おのれ祠弥…私に無駄な徒労をさせやがって…

次会ったら問答無用で弾幕勝負だぜ!」

 

「あなたじゃ勝てないでしょ?

ね、咲夜。」

 

「無駄な恨みを買う様な発言には返答しかねます。」

 

「…良いぜ。レミリア、祠弥の前にまずお前から倒してやるからな!!」

 

「…私はパス。もうへとへとよ…」

 

「お嬢様、私はどうすれば宜しいでしょうか?」

 

「そうねぇ。

勝利後のティータイムの準備をしていてくれれば良いわ。」

 

「かしこまりました。」

 

「止めて!ここで喧嘩なんて始めないで!!

永遠亭が壊れる!」

 

「大丈夫よ。魔理沙だって子供じゃ無いんだし、口ではああ言っているけど…」

 

「「………。」」

 

「…何もしない、筈よ。」

 

「『筈』じゃ困るんですよ!」

 

「はいはい、喧嘩は駄目よ~♪」

 

 

幽々子が二人の仲裁に入り、双方を宥める。

その間にも、永琳と紫・霊夢の会話は続いていた。

 

 

「…つまり、もう『異変』は解決したも同然って事でしょ?

月は元の月に戻ってるし、夜が止まってるのだって私と紫が術を止めれば済む話だし…」

 

「霊夢、夜を止めているのは私達だけじゃないわよ。

幽々子だって止めているし、魔理沙やレミリアだって止めている。」

 

「そんな大人数で夜を止めていたのですか…

成る程、私一人ではどうしようも無かったわけですね…」

 

「誰かが私達の術に干渉しようとしていたのは何となく感じていたけれど、

流石は『師匠』ね。夜を止めていたのが私達だけだったら破られていたかもしれない。

けれど、夜を止めているのは私達だけじゃ無いのよ…」

 

「そんなの魔理沙達に頼んで、術を解除してもらえば済む話じゃない…あ。」

 

「…気づいたみたいね。

そうよ。紀流はともかく、『あいつ』も恐らく夜を止めている。」

 

「ではその者に頼んで、夜を止めるのを止めてもらう様に頼むと言うのは…」

 

「無理な相談でしょうね。だってあいつ…」

 

 

 

 

 

「お帰り下さいって言われて、はいそうですかって大人しく帰る奴じゃ無いもの…」

 

 

紫が最後の言葉を言い終えると同時に、屋敷全体に大爆発音が響き渡る。

その余韻がまだ消えない内に襖が勢いよく開き、兎耳の少女が駆け込んできた。

少女の顔を見ていち早く反応したのは、他ならない妖夢。

 

 

「あー!あなたは…っ!!」

 

「…あなた達は…先程の…

って今はそれどころじゃないっ!師匠、大変です!!」

 

「鈴仙、一体何があったの?

…まあこんな状況下で起こった事なんて、一つしか考えられないけどね。」

 

「…お察しの通り、風見 幽香と紀流 祠弥が現れました…」

 

「「「!!!」」」

 

 

幽香と紀流の名前が出た事で、部屋内にいた全員の注目が鈴仙に集まる。

鈴仙はその場の空気に急かされる様にして話を続けた。

 

 

「風見 幽香の攻撃力は凄まじく、兎達に持たせている武器では歯が立ちません…

既に竹林周辺の兎達は突破され、遂にこの永遠亭まで…」

 

「分かったわ。

私も直ぐに行くから、それまで何とか門の前で食い止めて!」

 

「その事なのですが…風見 幽香は門の方から攻めてきたのでは無く…」

 

「…え?」

 

「…竹の壁を突き破り、裏の庭園の方角から攻めてきたのです!」

 

「なっ…!姫様…っ!!」

 

 

永琳は鈴仙が開けた襖から飛び出し、廊下の奥に向かって高速で飛んでいった。

その様子を一同は呆然とした様子で見ていたが、やがて紫が口を開く。

 

 

「私は幻想の賢者として、この異変の結末を見届ける義務があるわ。

貴方達は、どうする?」

 

 

紫の問いに最初に答えたのは、腰に手を当てた魔理沙だった。

 

 

「当然、私は見物させてもらうぜ。

義務とかは無いけど、苦労してここまで来たんだから見る権利ぐらいはある筈だろ?」

 

「私もそうするわ。

この異変の運命は私にも読めない…だからこの目で直接確認しないと気が済まない。

良いわよね、咲夜。」

 

「お嬢様の命ずるがままに。」

 

「私も見るわ~。

紀流が戦っている所を見た事が無いのは、ここにいる人達の中では私だけだもの~♪」

 

「満場一致、ね。じゃあ、行くわよ!」

 

「「「おーっ!!!」」」

 

 

異変を解決する為に結成された四組の人妖タッグは、競い合う様に部屋の外に出ていく。

部屋の中に残されたのは、鈴仙と妹紅、そしててゐの三人。

 

 

「…なあ、私は雇われ人だから雇い主の命令には逆らえない。

けど、今は緊急事態だ。」

 

「…分かった。師匠には私から言っておくよ。」

 

「そうと決まれば、早く行きましょう!」

 

「よし!はぁっ!!」

 

 

妹紅は気合いと共に炎を壁に向かって撃ち出し、壁に大穴を開けて外に出られる様にした。

煙が晴れるのも待たずに鈴仙と妹紅は外に飛び出し、永琳達が飛んでいった方向へと飛ぶ。

 

 

「…お願いだ、何とか間に合ってくれ…輝夜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あなたが『黒幕』の『えいりん師匠』ね?」

 

「…だったらどうするの?」

 

「消す♪」

 

「ちょ…」

 

 

永遠亭の裏に作られた、四季折々の植物が植えられている庭園。

その上空には、邪悪な笑みを顔全体に浮かべながら永琳を見下ろしている妖怪と、

不安をそのまま人の形にしたかの様な人間が浮かんでいた。

 

 

ー現在の時刻ー

 ー 丑の刻 ー 1:00 ー




やっとこさ最終局面だ(白目)
次回からバトル中心の話が最後まで続きます。
感想、意見、アドバイス等々募集中です。
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