東方有無録   作:印鑑

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第六十四話でございます。
ゆっくり読んでいってね!


永遠亭最前線(裏)にて〜天と地、二つの戦い

「…名のある大妖怪と聞いていたのですが、どうやら間違いだった様ですね…」

 

「あら、じゃあ玄関から来れば通してくれたの?」

 

「…客人としての礼儀がなっていれば。」

 

「お客様は神様、って言うでしょ?」

 

「…幽香さん、お客さんは普通他人の家の柵を突き破って入ったりしませんよ…」

 

 

オッス!オラ紀流!

今現在、幽香さんが最後の竹の壁を突き破って永遠亭なる所に着いた所だ!

下から俺達を睨み付けているのが、どうやら黒幕の『えいりん師匠』らしいぜ!

 

 

「一つお聞きいたしますが、貴殿方は何の目的があってこの永遠亭に参られたのですか?」

 

「それは勿論、異変の黒幕を叩き潰すたm「『懲らしめる』為ですよね!?」…ええそうよ。」

 

 

危ない危ない、『叩き潰す』なんて言ったら余計敵対心を煽るはめにからな…

まあ幽香さんが喋ってる時点で無駄な努力だと思うが。

俺が心の中でため息をついている間にも、幽香さんは喋り続ける。

 

 

「いくら幻想郷が全てを受け入れる楽園だとしても、当然『ルール』という物がある。

あなた達はそのルールを踏み越えて騒動を起こしたんだから、罰を受けるのは当然よね?」

 

「…っ…」

 

 

…幽香さんが(自分本意じゃない)正論を言っている…だと…

驚いたな、空から隕石でも降ってくるんじゃないか?

 

 

「…すみません、知らなかったもので…」

 

「全てが『知らなかった』で済むのだったら、幻想郷に博麗の巫女は必要無いのよ?

食い下がり続けるのは止めて、大人しく私と紀流に倒されなさい♪」

 

「…ですよねー。」

 

「え?」

 

「このまま平和的に解決すると良いななんてコンマ一秒でも考えたこの俺が

どうしようも無い大馬鹿野郎だったと言うだけです。」

 

「…えっ…」

 

 

幽香さんの顔が少し歪んだ気がするが、どうせ俺の言葉に苛ついただけだろうし気にせん。

…というかさっさと終わらせたい。眠い…

 

 

「もう良いですよ、さっさと済ませましょう。

黒幕はあなたなんですよね、えいりん師匠さん?」

 

「え…」

 

「こんな騒動を起こしておいて、その黒幕が無傷で終わると思ってるんですか?

俺だって聖人じゃ無いんですから、理不尽な事に対して怒りを感じたりはするんですよ?」

 

「…『普通の人間』だからですか?」

 

「それ以前の問題だよ!

全く、こんな真夜中に森の中を散々飛び回らせやがって…

少しは異変を解決する霊夢達や、偽物の月で被害を受けた妖怪達の身にもなれってんだ!!」

 

 

眠くていらいらしていた事もあり、俺は師匠さんに向かって次々と文句を並べ立てる。

師匠さんが全く反論してこないので、俺は調子に乗って愚痴を言いまくった。

 

 

「あなたが何をしたいのかは分かりませんし、無理に知ろうとも思いませんがね…」

 

「紀流、もう良いわ。

ねえ分かる、師匠さん?紀流ですらここまで不満があるのよ?

だったら、『自分勝手』で『世間知らず』な私がどれだけ苛ついているか位分かるでしょう?」

 

 

幽香さんの表情は笑顔のままだが、傘を握り締めている手は震えている。

明らかに怒ってますね、うん。

 

 

「紀流がいて良かったわね。

私一人だったら、直ぐ様屋敷ごとあなたを消し飛ばしてたわよ。」

 

「えぇっ!?俺の事なんか気にしないで思いっきりやれば…」

 

「じゃあ、遠慮なく♪」

 

「ちょっ!?」

 

 

俺の失言(?)を幽香さんは聞き逃さずに、すかさず傘の先にエネルギーを溜めて発射した。

光弾は真っ直ぐ師匠さんに向かっていくが、師匠さんは避けようとしない。

 

 

「避けなくて良いの?

まともに当たったら半身が吹き飛ぶわよ?」

 

「そんな危険な物をホイホイ撃たないで下さいよ!

師匠さん、避け…」

 

 

俺の叫びも気にせず、師匠さんは腕を横に引いて光弾を見据え…

 

 

「…はぁっ!!!」

 

 

掛け声と共に一瞬だけ気を高め、幽香さんの放った光弾を掻き消した。

幽香さんは少し驚いた表情を見せたが、直ぐにまた笑顔に戻り、傘を構える。

 

 

「…生意気ねぇ、あなた…♪」

 

「え、ちょっと幽香さん何し…」

 

 

幽香さんは再び傘の先を光らせ、今度は光弾を十発程撃ち出した。

それを見た師匠さんは右手をあげ、手のひらを左右に振って易々と光弾を弾く。

弾かれた光弾は永遠亭から大きく逸れ、遥か上空で次々と爆発した。

 

 

「か…片手で全部弾きましたよ…あの人…」

 

「ふふふ…面白いじゃない…

流石は『黒幕』と言った所かしら♪」

 

 

幽香さんはにやけているが、俺は正直言ってガクブル状態である。

いや、だって幽香さんの攻撃を弾けるんだぞ!?そんな奴に勝負挑みたく無いっての!

 

 

「…あぁ、宣戦布告なんてしなきゃ良かった…」

 

「あら、怖じ気づいたの?

さっきの威勢は何処行ったのよ、紀流?」

 

「…所詮、半端な威勢でした…」

 

「じゃあ、後ろで見てなさい。

私がさっさと終わらせるから…って言いたいけど、そうも行かないみたいね…」

 

「え?」

 

 

俺が師匠さんの方を見ると、いつの間にか師匠は沢山の兎耳兵士達に囲まれていた。

師匠さんはちらちらと此方を伺いながら、兵士達に何かを命令している。

それを見て幽香さんは腰に手を当てて溜め息をつき、俺の方を向いて口を開く。

 

 

「あいつらも私が片付けたって良いんだけど…

ここまで来て見ているだけじゃ、紀流も腹の虫が治まらないでしょ?」

 

「…分かりました、俺は兵士を倒せば良いんですね?」

 

「え、倒すの?」

 

「はい!?」

 

 

幽香さんは不思議そうに俺の顔を覗きこむ。

…いや、俺にしてみれば幽香さんが『え、倒すの?』なんて言ってる方が不思議なんだが…

まさか俺が辞退する事を期待してたんじゃ…

 

 

「いや、紀流の事だから辟易するんじゃないかと思ってたのだけど…

ふふ、あなたも戦うなら思ったよりも早く終わりそうね♪」

 

「は、はぁ…」

 

 

…さっぱり分からん。

幽香さんの思考が理解出来たらノーベル賞も夢じゃ無いと思うんだ。

 

 

「ねぇ、いつまで喋ってるの?

私と紀流はとっくのとうに準備万端よ♪」

 

 

幽香さんはもう戦うのが待ちきれない様子で、師匠さんに声をかける。

 

 

「…。」

 

 

師匠さんもその声に反応し、頭を上げて幽香さんを睨み付けている。

暫しの沈黙の後、何の前兆もなく幽香さんが俺の横から消えたかと思うと。

 

 

「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」

 

 

次の瞬間、兵士達の悲鳴と一緒に飛んできた大量の砂埃が襲いかかってきた。

当然喰らいたくなんざ無いので、俺は咄嗟に高度を上げて回避する。

すると、もうもうと漂う土煙を突き破って急上昇してくる二つの影が目に入った。

 

 

「…!」

 

 

一方は当然幽香さん、そしてもう一方もこれまた当然師匠さんである。

二人は近づいたり離れたりを繰り返しながら、あっという間に俺の横を通り過ぎてしまった。

 

 

「それっ♪」

 

 

幽香さんは既に傘を構え、師匠さん目掛けてレーザーを放っている。

その狙いは的確な物であり、普通の敵ならとっくのとうに消し飛んでいる事だろう。

だが。

 

 

「…ふんっ!」

 

 

師匠さんは全く動じず、連続して気を高めながらレーザーを弾き続けている。

ちょいとばかし、戦闘のレベルが高すぎやしませんかね…

 

 

「さて、いつまでも上を見ていたい所だが…

俺の受け持ちは『下』だからな。」

 

 

そう言った後、俺は下を見る。

先程まで視界を覆い尽くしていた土煙はある程度薄れ、おぼろ気ながら兵士達が見えている。

…どうやらまだ、右往左往状態の様だな…

 

 

「仕方ない、覚えたての技でも使うか。」

 

 

俺はまだ漂っている土煙の中心に視界を合わせ、一旦気持ちを落ち着かせる。

そして、目をカッと見開くと同時に一気に気を送り出した。

 

 

「『気合い砲』!」

 

 

俺の目論みは見事成功し、爆発によって土煙は一瞬で雲散霧消、視界良好に様変わり。

…口がシャリシャリするので、砂が少し口に入ったっぽいが。

 

 

「あ…煙が晴れ…

ってあれ、師匠!?師匠は何処に行ったんだ!?」

 

「師匠なら上で幽香さんと戦ってるよ。」

 

「な…!?」

 

 

俺は高度を下げ、驚愕している兵士達の前に降り立つ。

兵士達は動揺を隠せない様子で槍や薙刀を構え、敵意満載の目で俺を睨み付けている。

 

 

「…何だよ、お前は…仲間を助けに行かないのか?」

 

「君達こそ…師匠の援護に行かないの?」

 

「私達は飛べないんだっ!」

 

「そーだそーだ、誰もがお前達化け物みたいに飛べるわけじゃないんだぞ!」

 

「…じゃあ師匠は化け物なのかい?

それに幽香さんは妖怪だし、俺は普通の人間だ。化け物じゃあない。」

 

「…あ…」

 

 

俺に反論した兵士さんは気まずそうな表情を見せ、不安げに上空を見上げる。

…心配せんでも、流石に聞こえちゃいないと思うぞ?

 

 

「…えぇい、このまま喋っててもらちがあかん!

お前達、何も師匠が戻って来るのを待つ必要は無い!ここであいつを倒そう!!」

 

「…最後に訊きたいんだけど、平和的解決を模索する気は?」

 

「あんな暴力的な妖怪と一緒にいる奴にそんな事提案されて、

それを信じると思うかぁっ!?」

 

「…あぁはいはい、そう言うだろうと思ってました。

さっ、来いよ。俺はさっさと幽香さんの援護に行きたいんだ。」

 

「そんな事させるかっ!!!

お前達、行くぞぉっ!!!」

 

「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 

 

先頭の兵士が掛け声をあげると、それを合図に兵士達は一斉に突進してきた。

 

 

「…はぁ…憂鬱だ…」

 

 

…もう『幽香さんと行動する=戦闘は必至』って考えた方が良いな。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…随分と長~い廊下ね~。」

 

「ぜぇ…ぜぇ…どうなってんのよ!

もうかれこれ十分以上はフルスピードで飛び続けてるってのに…」

 

 

ここは永遠亭内部。

霊夢達は紫を先頭とし、部屋から飛び出した永琳を追っていた。

…現在、十数分以上飛び続けているのに出口が見えてこないという状況に陥っているが。

 

 

「…何なんだぜ、これ…

外から見た時はここまで広くは見えなかったよな…?」

 

「…外から見た時は…?

…フフン、成る程、そう言う事ね…」

 

 

レミリアの思わせ振りな発言に、咲夜以外の全員がレミリアに注目する。

 

 

「レミリア、どういう事よ?」

 

「結構単純な事よ。ね、咲夜?」

 

「はい。恐らくこの屋敷にも紅魔館と同様に、

空間を操作する何らかの術が施されているのだと思います。」

 

「…空間を操作する術?

それって、紫のスキマみたいな物?」

 

「いえ、『空間を拡張する術』と言った方がより正確でしょう。

壁・天井付近の空間を歪ませる事で、元よりも更に大きな空間を生み出す事が出来るのです。」

 

「紅魔館が見た目より中が広いのも、咲夜が空間を操作しているからなのよ。」

 

 

レミリアと咲夜の説明に、紫を除いた五人は真剣に耳を傾けている。

 

 

「へー、お前って時間だけじゃ無くて空間も操れたのかー。

で、この屋敷にかかってるのもそれと同じ類いの術なのか?」

 

「いえ、少し違うかと思われます。

実は先程から私も幾度となく空間操作を試みていたのですが、どうにも上手く行かず…」

 

「上手く行くわけ無いでしょう。

ここの空間は私ですら手間取る程強固に『捻られて』固定されているんだから。」

 

「『捻られて固定』?」

 

「早い話が『ループ』って事。

気づかない?さっきから同じ所をずっと通っている事に…」

 

「え!?」

 

 

紫以外の全員は咄嗟に周りを見渡すが、これと言って証拠になりそうな物はない。

いや、それが故に気づかなかったのである。

 

 

「…確かに紫の言う通りかもね~。

廊下の横は襖でびっしりだし、廊下にもこれと言った特徴が無いもの~。」

 

「やたら陰気臭い廊下だと思ってたけど、この術に気づかれない様にする為だったのね…」

 

「それじゃあ祠弥達の戦いを見に行けないじゃないか!

紫、お前の能力で何とか出来ないのか!?」

 

「出来ないわけないじゃない♪」

 

「おお、じゃあ早速…」

 

 

まだ箒で浮いたままの魔理沙は紫を急かすが紫は直ぐに答えず、

少し間を置いてから口を開いた。

 

 

「…でも、別にこのままで良いんじゃないかしら?」

 

「…はぁっ!?何でだぜ!?」

 

「あの二人なら多分負けないだろうし、それにまだ『姫様』もいるしね。

一旦休んでも、本戦に遅れる事は無いんじゃない?」

 

「そうねー。飛びっぱなしで疲れたし、眠いし…」

 

「本来ならば、今の時間帯は深夜ですからね。」

 

「おいおい、お前ら…」

 

「紫ー、布団無い?」

 

「あるわけ無いでしょう。襖にでも寄っ掛かってなさい。」

 

「幽々子様、お茶です。」

 

「あら、ありがとう~。

妖夢も疲れているでしょうし、横になっていても良いわよ~。」

 

「…おい…」

 

 

魔理沙を一人取り残し、霊夢達は床に降りていそいそと休む準備を始める。

 

 

「私は今から一眠りするから、あんまり五月蝿くしないでよ?

特に魔理沙とレミリア。」

 

「吸血鬼が夜に活発になるのは当然でしょう!?」

 

「お嬢様も少しお休みになられては如何ですか?

精神的な意味ではお嬢様は問題ないでしょうが、体力的な意味では…」

 

「…咲夜、私も一緒に寝るから今すぐ寝なさい。」

 

「私は結構です。」

 

「これは命令よ。」

 

「かしこまりました。」

 

「…おい…!」

 

 

咲夜にくっついたレミリアが目を閉じた辺りで魔理沙は憤慨しそうになったが、

それに直前で気づいたアリスが止めた。

 

 

「…魔理沙、意地張ってないでここは一旦休みましょう。

あなただって実は疲れてるんでしょ?体が持たないわよ?」

 

「…ちぇっ、分かったよ…

けどどうせ寝るんならこの部屋の中で…」

 

 

そう言いながら魔理沙は一番近い襖に向かって手を伸ばし、開けようとした。

しかし、襖はびくともしない。押しても引いても同じである。

 

 

「…っ!…?」

 

「…魔理沙、あんまり襖をガタガタ言わせると霊夢に怒られるわよ…」

 

「全く…どうなってんだこの廊下は!

終わりは全然見えてこないし、襖は全部びくともしないし…」

 

「…魔理沙、黙って。」

 

「ぐっ…!」

 

 

霊夢の不機嫌な声質に押される様にして、魔理沙は押し黙った。

そのままその場に座りこんだ魔理沙の横に、アリスも並んで座る。

 

 

「今一人で突っ走ったら皆の不満を招くわよ?

だから今は休みましょう、ね?」

 

「…。」

 

 

魔理沙は無言のまま体育座りの姿勢になり、両膝に顔を埋めて足を抱えた。

その様子を見てアリスは安心したのか、魔理沙と同じ様に足を抱えて目を閉じる。

八人中六人が寝てしまったという状況で、紫は霊夢を見て溜め息をついていた。

 

 

「…全く、私のパートナーだけあって神経図太いわね、霊夢は…

…あのまま即神仏になったりしないわよね?」

 

「それだけあなたの事を信頼してるって事よ~。」

 

「幽々子…従者はどうしたの?」

 

「暫く撫でてあげてたら寝ちゃったわ~。

紫も寝たら?何かあったら知らせてあげるから~。」

 

「ありがとう。でも良いのよ。

なんたって、私は幻想の賢者なんだからね♪」

 

「熱心ね~♪」

 

 

紫はにっこりと笑い、幽々子もにっこりと笑い返した。

…本来なら、全く笑ってなどいられない状況なのであるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…。」

 

「ほら、いつまでも逃げ回ってばかりいないで、少しは攻撃してきたらどう?」

 

「…逃げ回るとは人聞きの悪い。避けていたんですよ。」

 

「それはどうかしら…」

 

 

永遠亭・上空。

全く反撃してこない永琳に痺れを切らしたのか、幽香はレーザーを撃つのを止めていた。

 

 

「あなた、仮にも『黒幕』なんでしょう?

私のレーザーを弾くしか能がないってわけじゃあ無いわよね♪」

 

「貴方がレーザーしか撃ってこないのなら、

レーザーを弾く能があれば十分です。」

 

「じゃあ…こんなのはどう?」

 

 

幽香は傘を構え直すと、今度は光弾を発射し始めた。

その弾幕は先程までのレーザーとは違い、

真っ直ぐ永琳に向かっていく物や大きな弧を描いて飛んでいく物など様々である。

 

 

「…。」

 

 

永琳は飛んでくる弾幕を無言で見据えた後、右手を振るって何かを投げる。

それは弾幕の光を反射し、回転しながらキラキラと光っていた。

 

 

「…何あれ…瓶?」

 

 

投げた物体に関して幽香に思考する間も与えず、

永琳は虚空からいきなり一組の弓矢を取り出して矢をつがえ、その『何か』に向けて放つ。

何かが割れる様な音が響いた次の瞬間。

 

 

「…?」

 

 

空間が爆ぜ、幽香の放った弾幕を全て飲み込んでしまった。

幽香は爆発によって発生した爆風を眺めていたが、何かを思いついた様に左手を前に突き出す。

すると。

 

 

「あら…♪」

 

 

幽香はその目に、爆風の中から高速で飛んでくる矢を捉えた。

幽香はその矢に人差し指を向け、矢尻が指に触れた瞬間に軽く指を横に振る。

矢は軌道を変えたものの勢いは変わらず、幽香の肩を掠めて遥か後方へと飛んでいった。

 

 

「…。」

 

 

幽香はまず肩を見、次に人差し指を見る。

肩は服が切れているだけで傷はついていないが、指の方には血が滲んでいた。

 

 

「…。」

 

 

幽香は少しの間だけ指を眺めていたが、

急に何を思ったのか右手で左手の付け根を掴み、人差し指を口に銜えて傷を吸った。

やがて幽香は吸った血をぷっと吐き出し、右手に再び傘を握って横に薙いで煙を払う。

 

 

「矢尻に毒を塗って射ってくるなんて、中々粋な攻撃をしてくるじゃない。」

 

「まさか、感づかれるとは考えていませんでしたよ。

神経系に即座に作用する毒で、並の妖怪程度なら五秒で全身が麻痺する筈なんですがね…」

 

「ああ、だから手に力が入らないのね…。」

 

 

幽香が左腕を振ると、左手は糸の切れた操り人形の様にぶらぶらと力無く揺れる。

 

 

「ま、あなたには丁度良いハンデね♪

私は右手だけでしか戦えないんだから、少しは楽になるんじゃない?」

 

 

幽香はさっさと左手から目を離し、無事な右手で傘を構えた。

 

 

「…まさか、本能的に利き手である右手を守ったのか?

もしそうだとしたら…」

 

「どうしたの、こんな時に独り言?

随分と余裕…ねっ!」

 

「っ!!!」

 

 

油断している永琳に対し、幽香は容赦無くレーザーを発射した。

永琳は新たな矢をつがえていなかった為反撃出来ず、咄嗟に腕を交差させて受け止める。

レーザーが炸裂すると、永琳を中心として大爆発が起こった。

 

 

「ぐっ…」

 

「これでくたばってもらっちゃ困るわよ。

お楽しみはこれからなんだから♪」

 

 

歯を食いしばって耐えた永琳を見て、幽香はにやぁと笑う。

最終決戦は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

「あ、また爆発してる…」

 

 

一方地上では、紀流が浮かびながら緑色のバリア越しに空を眺めていた。

その周りには兵士達がひしめき合い、槍や薙刀でバリアの表面を突きまくっている。

 

 

「おい!バリアなんて張ってないで正々堂々と戦えー!」

 

「さっさと終わらせるんじゃ無いのかー!?」

 

「この…っ!」

 

 

兵士達の怒号にも紀流は余り関心を示さず、ただ上空を見上げている。

 

 

「大丈夫かな、幽香さん…全く休まずに戦ってるんだもんな…

…さっさと済ませて、援護に行こう!」

 

 

紀流はそう自分に言い聞かせ、三メートル程上昇した後にバリアを解いた。

 

 

「あ、あいつバリアを解きましたよ!」

 

「上昇すれば槍をかわせると思ったんだろうが…残念だったな!

私達は兎なんだ、ジャンプ力を舐めるなよーっ!!!」

 

 

兵士達は次々と地を蹴り、あっという間に紀流と同じ高さにまで到達する。

 

 

「「「私達の連続突き&連続斬りを喰らえーい!」」」

 

「まじかよ!?千刃『サウザーブレード』!!!」

 

 

兎達が振り回す槍や薙刀を、紀流は驚きつつも紫色の刃を右手に纏って受け止める。

しかし兵士達はそれを見て驚くどころか、大胆不敵に笑った。

 

 

「皆、なるべく手首を狙えよー!

先っぽで受け止めると、こっちの切っ先が切れちゃうからなー!」

 

「「「おー!」」」

 

「…凄いな…一回の攻撃だけでそこまで分かるのか…」

 

 

紀流は少し感心し、兵士達を見下ろす。

兵士達は直ぐにその視線に気づき、挑戦的な目で紀流を睨み返した。

 

 

「どうだ!今度はお前よりも高く飛んでやるぞっ!!」

 

「覚悟しろよー!」

 

「…ほう、入り口にいた兵士達よりは出来るみたいだな…

良いだろう!はぁっ!!!」

 

 

紀流は気を高め、その場から更に上昇する。

十メートル程上昇した辺りで紀流は急停止し、気を右手に溜めて青い気弾を作り出した。

 

 

「行くぞ!宇撃『ビッグバンアタック』!!」

 

 

紀流はスペルを宣言した後、青い気弾を下にいる兵士達に向かって発射する。

高速で迫ってくる気弾を見ても兵士達は怯まずに、それぞれの武器を構えた。

 

 

「あ、何か撃ってきたぞ!」

 

「慌てるな!直撃さえ防げば何とか…っ!?」

 

 

気弾に注目していた兵士が、不意に驚いた声を出す。

その兵士の目に写っていたのは…

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

気弾の後ろにぴったりつき、共に急接近してくる紀流だった。

 

 

「何なんだあいつ!?

自分の撃った弾についていけるってどんな体してるんだよ!?」

 

「そんな事より、来るぞっ!総員構え!!」

 

 

兵士達は武器を握り締め、その切っ先を気弾へと向ける。

しかし紀流はこの反応を予測していたかの様に笑い、右手に再び紫色の刃を纏った後…

 

 

「てぇいっ!」

 

「「「!?」」」

 

 

そのまま腕を思い切り横に払い、自身の目の前を飛んでいた気弾を真っ二つに切り裂いた。

二つに割れた気弾は激しい閃光と共に爆発し、気弾を凝視していた兵士達の目を眩ませる。

その隙に紀流は兵士達から少し離れた所に着陸し、両腕を後ろに引いて気を溜め始めた。

 

 

「波符『かめはめ波』!!!」

 

 

スペル宣言の声と同時に、紀流の両手のひらから光線が発射される。

兵士達はまだ目が眩んでおり、当たるのは避けられないと思われたのだが…

 

 

「危ないっ!!!」

 

「くそっ、間に合えっ!!!」

 

 

紀流の撃ったかめはめ波は、声と一緒に飛んできた炎弾によって相殺された。

爆風が吹き荒れる中、紀流はかめはめ波の姿勢を解いて炎弾の飛んできた方向を見つめる。

そこには、肩で荒い息をしている二人の少女が立っていた。

 

 

「…誰だい、君達は?

君達も師匠の仲間?」

 

「仲間っつーか何て言うか、私はお前の言う師匠に雇われた者だ。

ま、私が勝手に志望したんだがな。」

 

 

紀流の問いに答えたのは、右側に立っている白髪の少女。

彼女の言葉に続けて、左側に立っている兎耳の少女も口を開いた。

 

 

「あなたが『紀流 祠弥』ですね?

師匠に負担をかけさせない為にも、あなたは私達二人で食い止めさせてもらいます!」

 

「俺を『食い止める』だって?

やけに自信満々だけど、何か根拠はあるのかい?」

 

「根拠なんて無いさ!お前をぶっ倒せばそれが根拠になるんだよ!!」

 

「…はは。」

 

 

紀流は苦笑いに近い笑いを少し浮かべると、その二人の少女達にある事を質問する。

奇遇にも、上空では幽香が永琳に対して同様の質問をしていた。

 

 

「ところで…」

 

「一つ訊いておきたいのだけど…」

 

「「あなたの」「君達の」名前は何て言うの「かしら?」「?」」

 

 

その質問のタイミングは完璧にシンクロしていたが、それを知る者はいない。

質問された側は一瞬面食らったが、直ぐに気を取り直して答えた。

 

 

「八意 永琳と申します。」

 

「藤原 妹紅だ。」

 

「鈴仙・優曇華院・イナバです。」

 

 

三人が自己紹介を終えると、幽香と紀流は示し合わせていたかの様に口角を上げ…

 

 

「「それじゃあ…」」

 

 

 

 

 

「第二ラウンド「といきましょうか♪」「を始めようか!」」

 

 

又もや同時に、戦闘再開を宣言した。

 

 

ー現在の時刻ー

 ー 丑の二つ ー 1:30 ー




紀流と幽香は不満をはらs(殴)黒幕に反省させる為に戦っています。
…ここから更に四話ぐらい書かなきゃ終わらなそうだぜ…
次の話はまだ一文字たりとも書いていませんが、成るべく早く投稿出来る様にします。
感想、意見、アドバイス等々募集中です。
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