東方有無録   作:印鑑

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第六十九話目です。
ゆっくりしていってね!


極限バトル!!三大超蓬莱人~其の三『覚醒』

ここは竹林の奥のそのまた奥にある、『本来なら』静かである筈の屋敷。

 

 

「…光符『アースライトレイ』!」

 

「「「スペルを室内で発動するなーっ!!!」」」

 

 

永遠亭内部、廊下。

今現在、そこは爆発と怒号が響き渡る『戦場』と化していた。

 

 

「ふん、私だって撃ちたくて撃ってるんじゃ無いんだぜ?

この魔理沙様に対して大人しく道を開けない…」

 

 

魔理沙はそう言いつつ両手を後ろに回し、複数の黒いビンを前方の兵士達に向かって投げる。

兵士達が避けた黒いビンは床に落ちて跳ねたかと思うと。

 

 

「お前達が悪いんだよっ!!」

 

 

いっぺんに大爆発を起こして光線を放ち、周りにいた兵士達に襲いかかった。

部屋の中に襖ごと叩き込まれた兵士達を見て、魔理沙は得意気な表情を浮かべる。

 

 

「はっはーっ!ちょっとやり過ぎちまったかな?」

 

「…ええ、主に私の耳とかによーく効いたわ…!

咒詛『蓬莱人形』!!」

 

「「「ホウラーイ!!」」」

 

 

魔理沙の真横にいたアリスは怒り顔でスペルを宣言し、人形達を召喚してレーザーを撃った。

その両目に魔理沙を見据えて。

 

 

「うわっと!?」

 

 

魔理沙は咄嗟に箒の柄を思いっきり引き上げ、急上昇してレーザーをかわす。

レーザーはそのまま直進し、魔理沙の攻撃からまだ立ち直っていない兵士達に炸裂した。

 

 

「…ひゅう…

アリス!一体何処狙って撃ってるんだぜ!?私じゃ無きゃ当たってたぞ!?」

 

「私はあなたの後ろにいた兵士達を狙ったの。

たまたま運悪く魔理沙がそこに居合わせただけ…言ってしまえば『偶然』よ?」

 

「おま…」

 

 

二人は暫し、今戦っている事を忘れて睨み合う。

 

 

「じゃれあってんじゃ無いわよ!」

 

 

その緊迫した空気をぶち壊すかの様にして、霊夢が怒号と共に現れた。

二人は驚き、思わず同時に反論する。

 

 

「「じゃれあってなんか無い」ぜ!」わよ!」

 

「じゃあ後ろに回り込まれたりするなぁぁぁっ!!!

霊符『夢想妙珠』!!」

 

 

霊夢は怒鳴り声に続けてスペルを発動し、

振り向くと同時に巨大な赤い泡状の弾幕を発射してジャンプしていた兵士達を撃ち落とす。

何が起こったのか分からない二人に対し、いつの間にか現れた紫が一言。

 

 

「…真面目にやらないと、貴方達もあいつらと同じ目に遭うわよ?」

 

「「…。」」

 

 

魔理沙とアリスは一瞬顔を見合わせ、再び兵士達に向かって突っ込んでいく。

その少し先では、無数の煌めきが煙の中を縦横無尽に飛び回っていた。

 

 

「幽々子様には…」

 

「お嬢様には…」

 

「「塵一つ付けさせませんっ!!!」」

 

 

気合いの込められた声と共に、又新たに刃が煌めく。

妖夢は二本の刀、咲夜はナイフを使って兵士達を次々と薙ぎ倒している。

 

 

「…塵一つ付けさせないって言っても、

あなた達二人が大暴れしてるせいで塵どころか瓦礫が飛んできてるんだけど…」

 

「まあまあ、そう言わずに応援してあげましょうよ~。

…けほ…」

 

「…大丈夫、あなた?

さて、私も暴れますか!天罰『スターオブダビデ』!!」

 

 

レミリアは幽々子を心配しながらもスペルを発動し、

複数の紅い光球を作り出して網目状のレーザーを発射して煙と兵士達を吹き飛ばす。

 

 

「私も負けてられないわね~。

死符『ギャストリドリーム』!」

 

 

のんびり構えていた幽々子も、レミリアに続けてスペルを宣言する。

彼女が扇子を軽く振るうと、何処からか飛んできた桃色に光る蝶は一斉に進んでいき…

 

 

「…え、何だこの蝶h…」

 

「はい、ぱーん♪」

 

 

彼女が扇子を閉じると同時に、大爆発を起こす。

 

 

「ひゃあっ!?」

 

「…!」

 

「あら…?」

 

 

その爆発は幽々子本人が想像していたよりも派手な物であり、

危うく煙の中で戦っていた咲夜と妖夢を巻き込みかけた。

 

 

「…妖夢にメイドさん、大丈夫~?」

 

「もう、気をつけて下さいよ!

私と咲夜さんを吹っ飛ばす気ですかー!」

 

「…ごめんなさい、妖夢…うぅ…」

 

「…え、いや…」

 

 

涙目になった幽々子に釣られ、妖夢は思わず集中を切らす。

その隙を狙い、兵士達の槍が妖夢の背後に迫るが…

 

 

「寄術『ミスディレクション』。」

 

 

咲夜が投げつけた無数のナイフによって、その切っ先は全て切り落とされてしまう。

 

 

「え、咲夜さんどうし…ってナイフ!?」

 

 

咲夜のスペル宣言の声に振り向いた妖夢は、

目の前の床に大量のナイフが突き刺さっている事に驚く。

それらのナイフを咲夜は時止めで回収し、妖夢の方を向いて無表情のまま口を開いた。

 

 

「貴方の主なら、恐らく問題ないでしょう。

今は敵の無力化に尽力するのが最適かと思われます。」

 

「あ、はい、分かりました…

さあさあさあ、切り刻まれたく無かったらそこを退けーい!」

 

 

咲夜の言葉によって気を取り直し、妖夢は再び兵士達に向かって突進する。

二本の刀が縦横無尽に空間を交差すると同時に、振った回数に比例して兵士達も吹き飛んでいく。

そこに咲夜のナイフも加わり、最早殺陣絵図(殺してはいない)とでも呼ぶに相応しい惨状である。

 

 

「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

「てゐさん、このままじゃいつまで経っても状況は好転しません!」

 

「それどころか秒単位で悪化していくよ…

やっぱり無理だったんですよ、あの八人を足止めしようだなんて…」

 

「…。」

 

 

兵士達の泣き言をてゐは暫くの間黙って聞いていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

 

 

「…よし、直ちに全軍撤退するんだ。

後は私一人でやる。」

 

「「「え!?」」」

 

「相手は八人なんですよ!?」

 

「勝ち目なんて零に等しいのに…」

 

「なあに、この戦いはあくまでも『時間稼ぎ』の為の戦いだ。

あの八人から逃げ回って撹乱するくらいの事、私一人でやって見せるさ。」

 

「でも…」

 

 

まだ心配そうな表情をしている兵士達を安心させる為、てゐは少し笑ってみせる。

その笑顔で兵士達の緊張が少し解れたのを確認すると、彼女は続けてこう言った。

 

 

「じゃ、さっさと退散しなよ?」

 

「「「は、はいっ!」」」

 

「宜しい。」

 

「全員、たいさーんっ!!!」

 

 

一人の兵士が発した退却命令を聞き、兵士達は物凄い速さで襖の中へと後退していく。

 

 

「あ、逃げようってのかっ!?そうは行かないぜ!!」

 

「魔理沙、深追いしたって体力を消耗するだけよ…」

 

「戦わずして済むのだったら、それに越した事は無いでしょう?」

 

「アリスと紫の言う通りよ、魔理沙。

ま、どうしても行きたいんだったらあんた一人でどうぞ。」

 

「…フン。」

 

 

魔理沙はあからさまな不満顔でそっぽを向き、面白くないとばかりに鼻を鳴らす。

一方前の方では、突然消えた兵士達を見つけようと妖夢と幽々子が辺りを見回していた。

 

 

「あれ、兵士達がいませんね…」

 

「何処に行っちゃったのかしら~?」

 

「形成不利と見て、一旦退却したのでしょう。

続けて追撃していけば…」

 

「放っておきなさい、咲夜。

どうせ雑魚は雑魚、倒さなかったとしても何のマイナスにもならないわ。」

 

「ふん、雑魚で悪かったな!!」

 

「ん?」

 

 

威勢の良い声がした方にレミリアが顔を向けると、

そこには廊下を塞ぐ様にして立っているてゐの姿があった。

 

 

「へぇ…あなた一人で私達を止めようって言うの?」

 

「私にはあなた用の必殺技がある…

ここから先へは行かせないよ?」

 

「フン、寝言は寝て言いなさい!!!

夜符『バッドレディスクランブル』!!!」

 

 

レミリアはスペルを発動して紅い気を体に纏い、激しく回転しながら突進する。

高速で迫ってくるレミリアにもてゐは全く動じず、不意に大きく息を吸い込み…

 

 

「この『ちびっこ吸血鬼』っ!!!」

 

 

…絶対に言ってはいけない禁句を、思いっきりレミリアの耳に向けてぶつけた。

 

 

「!?」

 

 

レミリアは激しく動揺してバランスを崩し、てゐから遥かに離れた場所にある襖に突っ込む。

 

 

「ふう、意外と言ってみる物だなぁ…

実際は見た目がちびっこってだけで、歳は結構取ってるんだろうけど…」

 

「…お前ぇぇぇぇぇぇ…自分だってチビの癖に…

生きて帰れると思うなよ?」

 

「生憎私はまだ死にたくないんでね。失礼するよー♪」

 

 

てゐはそう言うと、目にも止まらぬスピードで横にあった襖に飛び込んだ。

 

 

「逃げられると思うなぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「お嬢様、今の敵の行動は恐らくお嬢様を挑発する為の試みかと…」

 

「そんな事はどうでも良いのよ…!

咲夜、あなたも一緒に来なさい!!兎を捕まえる手助けをしてもらうわ!!!」

 

「かしこまりました。」

 

 

レミリアはてゐを追おうとして、先程彼女が飛び込んだ襖を開ける。

しかし、部屋の中にてゐの姿は無い。

 

 

「え…」

 

 

レミリアは左右を見回し、再び正面に向き直る。

その瞬間、彼女の両目を覆う様にして…

 

 

「そーれっ!!!」

 

「ぶっ!?」

 

 

天井にぶら下がっていたてゐの両足裏がレミリアの顔面に直撃した。

蹴り飛ばされたレミリアは後ろ向きに吹き飛び、廊下の向かい側の襖を突き破ってひっくり返る。

 

 

「逃げるとは人聞きが悪いなぁ?

私は『死にたくない』と言っただけであって、『逃げる』とは言ってないよ?」

 

「………。」

 

 

てゐは笑いながら着地し、レミリアの様子を伺う。

襖に埋もれている為にレミリアの表情は見えないが、彼女がどんな様子かは誰でも分かるだろう。

 

 

「…だぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「っ!?」

 

 

突然、怒号と共に襖がてゐに向かって飛んできた。

てゐは少し驚いたようだが、直ぐに気を取り直して襖を回避した後にその方向を見る。

 

 

「…あなた…どうやら重度の死にたがり屋さんみたいねぇ…

夜の女王をおちょくるとどうなるか、一度その身を持って味わわせてあげるわ…!」

 

 

レミリアは言葉と怒りを同時に絞り出しつつ、右手にスペルカードを作り出す。

スペルカードは紅い光を放ちながら分裂し、やがて紅い光球となって彼女の周りに浮かぶ。

 

 

「運命『ミゼラブルフェイト』!!!」

 

 

レミリアのスペル宣言の声と同時に、光球から無数の鎖が飛び出す。

鎖はじゃらじゃらと音を鳴り響かせながら空間を横切り、てゐをがんじがらめに締め上げた。

 

 

「…え!?」

 

 

てゐはいきなり拘束された事に面喰らい、もがく。

だが鎖が緩む様子は全くなく、それどころか益々きつく巻き付いててゐをその場に固定した。

レミリアはてゐが動けなくなったのを確認すると、すかさず咲夜に短く呼び掛ける。

 

 

「咲夜!」

 

「承知致しました。

幻符『殺人ドール』。」

 

 

咲夜は彼女の意図を直ぐに理解してスペルを宣言した後、

無数のナイフを指の間に挟み、てゐ目掛けて両腕を振るう。

ナイフはてゐの近くまで来ると、彼女を中心にして魚の群れの様にくるくると回り始めた。

 

 

「お嬢様、この後はどうなさいましょうか?」

 

「そうねぇ…良く『狙って』撃ちなさい♪」

 

「…え、一体私をどうするつも…わあっ!?」

 

 

てゐはレミリアの言葉が気になって訊ねようとしたが、

急に鎖が暴れ竜の如く動き始めて舌を噛みそうになったので、口を閉じる他無くなってしまった。

 

 

「…うん、ちゃんと動くわね。

咲夜、発射して良いわよー。」

 

「はい。」

 

「…?」

 

 

次の瞬間、今までてゐの周りを回っていたナイフが止まり…

その切っ先をてゐへと向けた。

 

 

「…ま…まさか…」

 

 

ここに来てようやくてゐもレミリアの真意に気づいたが、時既に遅し。

 

 

「さあ、いつまで私は飽きないでいられるのかしら…」

 

 

レミリアのため息混じりの言葉と同時に、ナイフは一斉に飛び始める。

ターゲットは勿論、鎖に縛られているてゐである。

 

 

「わぁぁぁ!待った待った待った待った待った!!!

謝る!今すぐに先程の非礼は謝るから!!お願いだから的なんかにしないでくれぇぇぇっ!!!」

 

「…今さら遅いのよ…」

 

 

てゐの懇願にも耳を貸さず、レミリアは鎖を滅茶苦茶に動かしてナイフの雨の中を飛び回らせる。

無数のナイフはてゐの顔を掠め、紙一重で耳を通り過ぎていく。

さっきまでの威勢は何処へやら、僅か数秒でてゐは気絶してしまった。

 

 

 

 

 

「お嬢様、他の方々が先に行ってしまわれましたが。」

 

「え!?それならそうと早く言いなさいよ…」

 

 

レミリアは置いていかれた事に憤り、右手を力任せに横に薙ぐ。

鎖はその動きに反応し、気絶しているてゐごと襖へと突っ込んだ。

レミリアはその襖を一瞥したが、直ぐに目を離して廊下の先に見える霊夢達の背中に視線を移す。

 

 

「…さ、行きましょうか。

私、何だか嫌な予感がするのよね…」

 

「運命を読まれたのですか?

あの人間にはお嬢様の能力は適用出来ない筈ですが。」

 

「それは分かってるのよ。

分かってるのに…とにかく、急ぐわよ!!!」

 

 

レミリアは床を蹴り、足を踏み込んで飛翔する。

 

 

「…咲夜の言う通り、紀流の運命は私にも見えない筈…

じゃあ、私が見たのは…誰の『敗北する』運命だったの…?」

 

 

レミリアにはそれが分からなかったが、一つだけ確信を持って言える事があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果がどうであれ、もうじきこの『異変』は終わりを告げると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの、紀流?

さっきから全然攻めてこないじゃない。」

 

 

霊夢達が廊下の先を目指している頃、出口付近の上空では未だに戦いが続いていた。

何かが気にくわないとでも言いたげな表情で、輝夜は紀流に向かって勢い良く左拳を突き出す。

 

 

「…ぐっ!」

 

 

輝夜の拳が目前にまで迫った所で紀流はようやく攻撃に気づき、腕を交差させて受け止める。

その状態のまま、輝夜は紀流の顔をじっと見つめて口を開く。

 

 

「…まさか、『幽香さん』って人を心配してるわけ?

分かっているとは思うけど、あなたの相手は私よ?」

 

「…ああ、分かってるさ…」

 

「え、本当に?」

 

「『戦う』相手はお前だな、輝夜。」

 

「むっ…」

 

 

輝夜は少し顔を膨らませ、紀流の顔に目掛けて右膝を思いっきり突き上げる。

紀流は軽く頭を横にずらして直撃を避け、そのまま輝夜の胴に右手を向けてスペルを発動する。

 

 

「宇撃『ビッグバンアタック』!」

 

 

紀流の右手に青い気弾が形成される刹那、輝夜は咄嗟に左手で紀流の右腕を掴んで横にずらす。

青い気弾はそのまま発射され、しばらく夜空を進んだ後に大爆発を起こした。

 

 

「…さっき驚いてたわりには、私と戦い続ける事に抵抗が無いみたいね…

この戦いを何分、何時間続けたって、あなたの勝ち目は全く無いのよ?」

 

「…かもな…」

 

 

紀流はそう答えつつも、その視線は遥か下方…

 

 

「…はぁっ!!!」

 

「そんな気の抜けた弾幕が効くかっ!

不滅『フェニックスの尾』!!」

 

「もうスペルを発動する必要性も無いと思うけれど。

まあ、だからと言って攻撃を止めるわけじゃ無いのだけれどね!」

 

 

妹紅と永琳が放つ弾幕を、辛うじて防いでいる幽香へと注がれていた。

輝夜は暫くその様を眺めていたが、やがて紀流の前に回り込み、手を腰に当ててぶーたれる。

 

 

「ねえ、何で相手である私を見てくれないの?

何で下を向いてるの?」

 

「幽香さんの事が心配だから、じゃ理由にならないのか?」

 

「なるわけ無いでしょー。

戦闘中によそ見って、一体どれだけ余裕なの?」

 

「余裕じゃ無いさ…あ!」

 

 

下の方で危うく幽香が倒されそうになったのを見て、紀流は思わず声を出す。

その瞬間、輝夜は感情を爆発させた。

 

 

「ふざけてるんじゃ無いわよっ!!!」

 

 

怒りの声と共に輝夜は超スピードで紀流に接近し、その無防備な腹に拳をねじ込む。

下に気を取られていた紀流は当然反応出来ず、彼女の剛拳をまともに喰らってしまった。

 

 

「げぼ…っ!?」

 

 

苦しげに息を吐き出した紀流の襟を輝夜は掴み、自分の方へぐっと引き寄せる。

 

 

「…あなたさぁ、そんな舐めきった態度で私と戦い続けるつもり?

戦っている最中によそ見するなんて、私に失礼だとは思わないわけ!?」

 

「…パートナーの…心配…は…」

 

 

紀流は顔を歪ませたまま反論しようとしたが、輝夜は紀流に発言権を与えずに喋り続ける。

 

 

「何が『パートナー』よ…子供から目が離せない親みたいな態度をとってる癖に!!

彼女は必死で勝とうとしているのに、あなたは全然彼女を信頼しちゃいないのねぇ!?

本気で戦っている奴を馬鹿にするんじゃないわよ、『紀流 祠弥』!!!」

 

 

輝夜はそう吐き捨てながら右足を後ろに引き、膝蹴りを紀流の腹に何度も何度も撃ち込んだ。

それこそ、紀流の体に大きな穴を開けようとしているかの如く。

 

 

「…ふん、分かったわよ。

そこまで集中出来ないって言うなら、私にも考えがあるわ。」

 

「…?」

 

 

輝夜は襟元から手を離して紀流を突っ放し、先程まで紀流がしていた様に下の三人を見据えた。

 

 

「彼女がいなければ、あなたは私との戦いに集中してくれそうだからね…

さっさと仕留めてくるから、少しそこで待ってなさい。」

 

「…え!?」

 

「…なんて言い聞かせても、当然待つ気は無いでしょうね。

けれど大丈夫、『一瞬』で戻ってくるから。」

 

 

そう輝夜が言い終わると同時に、彼女の体は影の様に黒く染まり始めた。

 

 

「なっ…」

 

 

紀流が驚いて何も行動を起こせない内に、輝夜の全身は表情も分からない程黒く染まりきる。

そして、まだ辛うじて判別出来る口の端を少しだけ上げると…

 

 

「じゃ、行ってくるわよー♪」

 

 

自身の通る後に残像を残しながら、下にいる三人に向かって一直線に飛び始めた。

そのスピードは、先程紀流に拳をねじ込んだ時に見せた接近よりも遥かに速い。

 

 

「くそっ、行かせてたまるか!

散弾『トラップシューター』!!!」

 

 

輝夜が道程の半分を通過した辺りで紀流は我に帰り、右手に気を溜めて思いっきり振り抜く。

だが、気弾は紀流の手を離れた瞬間にその場でピタリと停止してしまった。

 

 

「えぇっ!?一体全体どういう事だ!?

…くそ、こうなったら…」

 

 

紀流は目を閉じ、乱れた心を必死に落ち着かせ…

 

 

「『瞬間…」

 

 

 

 

 

「…移動』!!!」

 

「えっ!?」

 

 

今にも幽香を殴らんとしていた輝夜の前に一瞬で移動し、その拳を受け止めた。

輝夜は酷く驚きつつも、直ぐ様紀流の手を振り払って後退する。

 

 

「…何で…あなた…動けるの…?」

 

「動ける?何言ってるんだ?

幽香さんが仕留められかけてるんだぞ!?ぼーっと突っ立ってるわけ無いだろ!?」

 

「…まさか…祠弥って…

ねえ、祠弥。」

 

「何だ?」

 

 

いきなり呼び掛けられた事に警戒している紀流に対し、輝夜は問いかける。

 

 

「あなた、蓬莱の薬を飲んだ事ある?」

 

「…はい?」

 

「どうなの?」

 

「当然、飲んだ事なんて無いぞ!?

そもそも飲んでたら不老不死になってる筈だろ?」

 

「あ、そう…」

 

「それよりも、一体お前は何をしたんだ?時でも止めたのか?

…良く見れば幽香さんも止まってるし…」

 

 

紀流は疲れが溜まった表情をしたまま固まっている幽香に近づき、心配そうに彼女の周りを回る。

輝夜は少し不満げな表情を見せた後、紀流の疑問に答える為に口を開く。

 

 

「時を止める…確かに、そうした様に見えるかもしれないわね。

けど、私がしたのはそんな単純な事じゃない。」

 

「何…」

 

「『時間を止める』事と『永遠を作り出す』事には、天と地ほどの違いがあるのよ?」

 

「え?えぇ?」

 

「まあ、とどのつまり…」

 

 

輝夜はそう言いつつ、一瞬で紀流の目の前に迫り…

 

 

「この『一瞬』を攻略する事は不可能なのよ。」

 

 

紀流のすぐ横で止まっていた幽香の腹に強烈なストレートをお見舞いした。

 

 

「…がは…っ…!?」

 

「幽香さんっ!?」

 

 

輝夜の拳がヒットした瞬間、幽香は苦しげな声をあげながら体をくの字に曲げる。

それと同時に、今まで幽香と戦っていた妹紅と永琳もいきなり輝夜が出現した事に驚いた。

 

 

「姫様!?」

 

「…姫様、まさかあの力を…?」

 

「えぇ、そうよ。

どうやら、祠弥はこの妖怪の事が気になってしょうがないみたいだからね…

少し気を変えて、祠弥よりも先に仕留めておく事にしたのよ。」

 

「…誰が…あなた…なんかに…っ!」

 

 

幽香は右腕を伸ばし、輝夜の顔を鷲掴みにする。

しばらく経たない内に、幽香の右手のひらは青く光り始め…

 

 

「はぁっ!!!」

 

 

彼女は気弾を零距離から発射し、輝夜に炸裂させた。

輝夜の顔からはもうもうと煙が上がり、二人の姿を覆い隠す。

 

 

「…で?」

 

「な…」

 

 

至近距離からの一撃を喰らったのにも関わらず輝夜は無傷であり、逆に幽香の顔を掴み返す。

輝夜は幽香と同じ様に気を溜め、零距離射撃を試みるが。

 

 

「どりゃぁぁぁっ!!!」

 

「…ちっ!」

 

 

横から突進してきた紀流に腕を叩かれ、幽香の顔から手を離してしまう。

気弾は幽香の顔から手が離れた瞬間に発射され、そのまま地面に向かって落ちていった。

紀流は輝夜に追撃の回し蹴りを放つが、輝夜はこれを楽々回避して幽香へ突進する。

 

 

「ぐ…」

 

 

幽香は何とか身構え、輝夜を迎え撃とうとする。

と思いきや、いつの間にか輝夜は自身の後ろで紀流と取っ組み合っている。

 

 

「…しつこいわよ、祠弥!

私の好みじゃ無いわ!!」

 

「お前の好みなんて知るか!

幽香さん、今の内に逃げて下さい!!!」

 

「永琳、妹紅!

さっさとそいつを倒しちゃいなさいよ!!!」

 

「何っ、そうは行くか!!」

 

 

輝夜が出した指示を聞いて紀流は咄嗟に輝夜を吹き飛ばし、永琳と妹紅に向かって突進する。

そのスピードは輝夜に負けるとも劣らず、

あっという間に攻撃体勢に入っていた二人を通り越し、幽香を庇う様にして立ち塞がった。

 

 

「「っ!?」」

 

「ぜえ…ぜえ…」

 

 

荒い息を吐き出しながらも自分達を睨み付ける紀流に、二人は圧倒される。

だが、次に聞こえてきた声はそんな空気を更に圧倒する程の大声であった。

 

 

「…祠弥ぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「姫さ…くっ!?」

 

「輝夜…っ!?」

 

 

輝夜は硬直している二人を吹き飛ばしかけながらその間を通り抜け、再び紀流との距離を詰める。

紀流に防御処か反応する暇さえ与えず、輝夜はラッシュをこれでもかとばかりに叩き込む。

そして最後の一蹴りで紀流を後ろ向きに飛ばし、そのままスペルを発動する。

 

 

「神宝『サラマンダーシールド』!!!」

 

 

輝夜は無数の炎球を使って巨大な一枚布を生み出し、気絶している紀流に向けて力一杯振るう。

炎の布は形を変えながら伸びていき、直ぐに紀流に追い付いて彼をその中に取り込む。

 

 

「…それっ!」

 

 

布が紀流をからめとったのを確認すると、

輝夜は布の端が千切れるのでは無いかと思うくらい勢いよく布を引っ張り戻し…

 

 

「…でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

そのまま後ろを向き、ハンマー投げのハンマーの様になった炎の布を降り下ろした。

彼女が布を降り下ろした方向には、偶然か必然か幽香がおり…

 

 

「…!」

 

 

紀流と一緒に纏められ、直径数十メートルのクレーターが出来るレベルの力で叩き落とされた。

 

 

「…っ…!!!」

 

 

幽香はもう声も出ない程に痛めつけられ、意識も朦朧としている。

 

 

「…こ…こんな…筈じゃ…無かった…のに…」

 

 

幽香は心の中で悔しさを爆発させ、身動き一つ出来ない自分を呪う。

そんな中、幽香とは少しずれた箇所に叩き落とされていた紀流が意識を回復した。

 

 

「…痛っ…って幽香さん!?大丈夫ですか!?」

 

 

紀流が慌てて駆け寄ってくるのを見て、幽香は何故だか怒りが遠のき、安らいだ気持ちになる。

そして同時に、とても哀しい気持ちにもなった。

 

 

「…まさか、この私が足手まといになるなんてね…

…ごめんなさい、紀流…」

 

 

その言葉は、ごく自然に幽香の口を突いて出てきた。

今まで彼女が生きてきた長い時の中でも、一度も発する事の無かった『謝罪』の言葉が。

 

 

「…え、幽香さん?幽香さんっ!?」

 

 

紀流は幽香の口から漏れた言葉が信じられず、思わず幽香の肩を揺さぶって呼び掛ける。

しかし、彼女にはもう、紀流の呼び掛けに答えるだけの力は残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輝夜は再び自分の時間を作り出し、自分以外に唯一動ける者の元に近づく。

 

 

「どうやら、ようやく倒れたみたいね。」

 

「…………」

 

「これであなたも、気兼ねなく戦えるでしょう?」

 

「……………は…」

 

「…え?」

 

「…は……はははは…ははっ…」

 

「…祠弥…?」

 

「…ははははははははははははっ…あーっはっはっはっはっは!!!」

 

 

輝夜の時間の中で動ける者は、うつむきながら狂った様に笑い始める。

怠惰な自分に対する怒り、自身の過失の犠牲となった者への哀しみ、

そして自身の中で蠢き暴れまわる、全ての感情を声に込めてその者は笑い続ける。

 

 

「あははははははははは…っ…」

 

 

やがて、その笑いは止む。

輝夜はまだ訝しげな目でその者を見つめていたが、暫くしてその者の変化にいきなり気づく。

 

 

 

 

 

 ー その者の髪は、いつの間にか金色に染まっていた ー

 

 

 

 

 

輝夜がその変化に気づくか気づかない内に、輝夜の後ろで何かが動く。

 

 

「…っ!?」

 

「どうしたんだよ輝夜、そんなに怖い面して…

しかし紀流もしぶといなー、まだ立ってるぞ、あいつ。」

 

「…何で……てるの…」

 

「私達二人でも倒しきれなかった妖怪を、一瞬で倒してしまわれるとは…

流石は姫様ですね。」

 

「…何で…いてるの…」

 

「…輝夜?」

 

「何で動いてるのっ!?」

 

「「?」」

 

 

永琳と妹紅は首を傾げるのを見て、輝夜は顔面蒼白になる。

何故なら、二人が動ける筈は無いからだ。

 

 

「何で動けるって…そりゃあ、動けるからだr…」

 

「動ける筈が無いのよ!

それとも何、あなたと永琳がいっぺんに私と同じ能力を発現したとでも言うわけ!?」

 

「姫様、仰られている事がいまいち分からないのですが…」

 

 

永琳がそう言った瞬間、輝夜は何かの気配を感じて振り返る。

いつの間にかその者は顔を上げ、光り輝いている満月を見上げていた。

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は、吠えた。

地を鳴動させ、天の隅々まで響き渡るその咆哮は、

永夜異変が『最終楽章(フィナーレ)』に差し掛かった事を知らせる音であった。

 

 

ー現在の時刻ー

  ー 虎の三つ ー 4:00 ー




遂に紀流覚醒。
次回でとうとう決着でございます。長かった…
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