東方有無録   作:印鑑

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第七十話目。永夜異変、最終章。一万字以上。
ゆっくり読んでいってね!


極限バトル!!三大超蓬莱人~其の四『決着』

「…。」

 

 

その者は、直径数十メートル以上のクレーターの中心に立っていた。

彼はひとしきり吠えた後、首を回転させて輝夜の方を向き、その目をじっと見つめる。

何の感情も感じとる事が出来ない、黄緑色に染まった瞳で。

 

 

「…あ…あぁ…」

 

 

その視線を受けた輝夜は恐れおののき、思わず後ずさる。

彼女の真後ろに立っていた妹紅はその行動に驚き、後ろから顔を出して輝夜の顔を覗きこむ。

 

 

「…輝夜、どうしたんだ?

あいつは髪が金色になっただけだぞ?」

 

「…じゃあ…あんたも見てみなさいよ…祠弥の目を…!!」

 

「え…?」

 

 

輝夜の言葉を聞き、妹紅は紀流の顔を見る。

だが、紀流の顔には何の変化も見えない。

輝夜をここまで怯えさせる要素など全くもって存在していない。

妹紅は、そう判断した。

 

 

「輝夜、一体何でそんなにびびってるんだ?

あの幽香って奴もお前が倒したんだから、後もう一息で…うわっと!?」

 

 

輝夜が再び後ずさりをした為、肩を押さえていた妹紅は危うく後ろに倒れそうになる。

妹紅は片足を後ろに引いて何とかその場で踏ん張り、輝夜の前に回り込んで両肩を押さえた。

 

 

「おい、私の質問に答えろっ!!

何でそんな情けない面になっちまったんだ!?」

 

 

妹紅は苛つきをはらんだ声を出して輝夜に問いかけ、

彼女に気合いを入れようとして両手に力を込める。

だが驚いた事に輝夜は全く抵抗せずにその力を受け、地面にぺたんと座り込んでしまった。

 

 

「姫様、どうしたんですか!?」

 

「…ちっ、何でか知らんが腑抜けになってやがる…

いつものお前らしく無いぞ、輝夜!!!」

 

「……う…ぁ…」

 

 

妹紅が頭ごなしに怒鳴り付けても、輝夜は後ずさりを止めない。

その顔は恐怖に歪みきり、先程まで彼女が見せていた余裕は何処にも見られなかった。

 

 

「姫様、しっかりしてください!」

 

「…え、永琳~…」

 

 

永琳が輝夜の横にかがみこむと、輝夜は涙目になりながらその首筋にかじりついた。

 

 

「わっ!?

…はいはい、もう大丈夫ですよー…」

 

 

永琳は普段の彼女からかけ離れている輝夜に動揺しつつも、

彼女を安心させようとその頭を優しく撫でる。

 

 

「…。」

 

「…何よ、その目は…

あ、もしかして嫉妬してるのかしら?」

 

「なっ…ふん、月の頭脳にもジョークが言えるとは思わなかった…

ってそんな事言ってる場合じゃ無いだろ!!」

 

「分かっているわよ、こんな呑気なやり取りを交わしている暇じゃ無いって事ぐらい。

…あ、心配いりませんよ、怖くないですからねー…」

 

「…ち…」

 

 

妹紅は呆れを込めた舌打ちをし、前方に立っている紀流に視線を移す。

紀流は既に輝夜から目を離しており、何も無い空間に向かって拳を振るっていた。

 

 

「…。」

 

「…くそ、呑気にウォーミングアップみたいな事始めやがって…

けど隙を見せたって事は攻撃しても良いんだよな、紀流?」

 

 

妹紅はにやっと微笑み、腰を落として気を高め始める。

大地が揺れ、妹紅の周りの地面が捲れて浮かび上がっていてるのにも関わらず、

紀流は自分の手を交互に見つめてその場から動こうとしない。

 

 

「…あくまでも無視するってわけか…

なら遠慮なく…」

 

「…。」

 

「行かせてもらうぞっ!!!」

 

 

妹紅はそう大声で宣言して力強く地面を蹴り、紀流に向かって突進する。

突進しながら妹紅は両手を後ろに引き、気を溜めて炎を纏わせる。

 

 

「はぁっ!」

 

 

双方の距離が残り一メートルに迫った時、妹紅は再び地を蹴って紀流の真上に飛び上がる。

たちまち彼女は高度数十メートルまで到達したかと思うと、気を解放して巨大な炎翼を展開し…

 

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

そのまま一気に急降下し、炎に包まれた両拳を紀流の頭目掛けて降り下ろす。

妹紅の一撃が紀流に炸裂した瞬間、紀流を中心に炎の柱が立ち上って夜空を明るく照らし出した。

大地震の如く地面は揺れ、膨大な量の土砂が空中に弾け飛ぶ。

 

 

「ひぃっ!?」

 

「…姫様、苦しいです…

しかし、妹紅は本気みたいね…」

 

 

ますます強くしがみついてくる輝夜の背中を撫でながら、永琳は吹き荒れる暴風に目を細める。

やがて風は止み、中心が更に深く陥没したクレーターが彼女の前に姿を現した。

永琳は輝夜を抱えて立ち上がり、クレーターの淵に立って中心を見下ろす。

 

 

「…ぐう…っ!!!」

 

 

彼女の目に写ったのは、歯を食いしばりながら両手の拳を紀流の頭に押しつけている妹紅と…

 

 

「…」

 

 

そんな妹紅に一切の興味を示さず、自分の手を握ったり開いたりしている紀流の姿だった。

やがて紀流は手から目を離し、今度は首を交互に曲げて自身の二の腕付近を確認し始める。

 

 

「…ちいっ!!!」

 

 

妹紅はその態度に怒りを覚え、

紀流の腕や首、更には背中と、彼女が考えられるありとあらゆる場所を攻撃する。

強烈な蹴りが頬に突き刺さっても、やはり紀流は顔一つ崩さない。

 

 

「くそっ、くそっ、くそぉっ!!!」

 

「…。」

 

 

妹紅の悔しげな声など意に介さず、

紀流は自分の前髪を摘まんで引っ張り、自分の目で直接見える様にした。

 

 

「…?」

 

 

自身の髪色を見た瞬間、今まで無表情を貫いていた紀流の顔に初めて『驚き』の表情が表れる。

紀流は少し慌てる仕草を見せ、両手で前髪を一ヶ所に集めて自分から見えるように引っ張った。

 

 

「…?…!」

 

 

紀流はそのまましばらく目を寄せて自分の前髪を凝視していたが、

やがて自分の考えに確信を持ったのか、前髪を掴んでいた手を離して胴の横に下げる。

 

 

「…。」

 

 

そして、ようやく自分を攻撃している妹紅の方を向いた。

 

 

「やっと戦う気になったか?

ふふ、そう来なくちゃな!喰らえぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 

妹紅は炎翼を展開して斜め上に数十メートル程後退し、

炎を勢い良く噴射しながら加速、紀流に狙いを定めて右足を突き出し突進する。

 

 

「…。」

 

 

紀流は自分に突っ込んでくる炎の鳥を見据えて右腕を上げ、

人差し指と中指の先端に気を溜め始める。

妹紅が残り数メートルにまで接近した時、紀流はゆっくりと口を開き…

 

 

「…星断『大地裂斬』!」

 

 

スペルを宣言し、上げていた右腕を斜めに振り下ろした。

 

 

「っ!?」

 

 

妹紅は強い気が自分に迫ってくるのを感じ、攻撃を中断して咄嗟に体を横にずらす。

しかし完全には避けきれず、通り過ぎていくスペルに右肩を切り裂かれてしまった。

 

 

「あっ…つっ…!!!」

 

 

妹紅はその痛みに思わず声をあげ、左手で右肩を押さえる。

紀流の放ったエネルギー波は紫色の鋭い刃となり、

その様子を呆然と眺めていた永琳の横を一瞬で通り過ぎて尚も直進を続け…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その進行方向に建っていた永遠亭ごと、幻想郷の大地を真っ二つに切り裂いた。

 

 

「な…」

 

 

刃が通り過ぎてから数秒もしない内に永遠亭は大きく軋み始め、喧しい音を立てながら崩落した。

永琳がその残骸を呆然と見つめていると、急に瓦礫の一つが持ち上がり…

 

 

「…皆、大丈夫?生きてるわね?」

 

「あぁ、何とかな…

助かったぜ、霊夢。」

 

「お嬢様、お怪我はございませんか?」

 

「平気よ、咲夜。しかしいきなり崩れてくるとはねぇ…

さっき大きな地鳴りを感じたから、それが原因なのかしら?」

 

 

その下から、結界を使って瓦礫を持ち上げている霊夢が現れた。

彼女は面倒で仕方がないとでも言いたげな表情で瓦礫を更に高く上げ、離れた所に放り投げる。

瓦礫が粉々に砕けたのを確認すると、霊夢は先頭を切って目についた永琳の元へと向かう。

 

 

「…また会いましたね、博麗の巫女。」

 

「全く、出来る事ならもう少し早く再開したかったわよ。

で、あんたが抱き締めてる人は誰なわけ?」

 

「…『姫様』です。」

 

「えぇぇぇっ!?こいつが姫様なのか!?

見た目は私達と大して変わらないじゃないか!」

 

 

永琳にくっついている輝夜の姿を見て、もう少し大人びた姿を想像していた魔理沙は面喰らう。

その言葉を聞いて輝夜は急に不満げな顔をし、すっくと立って魔理沙を睨み付けた。

 

 

「残念だったわね、人間さん。

生憎あなたと私じゃあ、強さとか顔の良さとかで大きく差がついてるのよ♪」

 

 

輝夜の明らかな挑発に、魔理沙はものの見事に引っ掛かる。

 

 

「な…お前…言わせておけば…っ!」

 

「落ち着きなさいよ、魔理沙…」

 

「だってアリス…!!!」

 

「はいはい、魔理沙可愛い魔理沙強い。これで良いんでしょ?」

 

「…。」

 

 

アリスに適当にいなされて落ち込んだ魔理沙を押し退け、霊夢は単刀直入な質問をぶつける。

 

 

「ねえ、何でいきなりあの屋敷は崩れたの?

まさか私達をあの廊下に釘付けにしておいて、屋敷を崩落させて倒す魂胆だったってわけ?」

 

「そんな非道な事はしませんよ…

『永遠亭が崩れさる』なんて事は全く予想していませんでしたからね。」

 

「じゃあ、一体誰があんなド派手な事を…」

 

「まだ分からないの?あなた達の盟友、祠弥よ。」

 

「「!?」」

 

 

霊夢と魔理沙は輝夜の口から漏れた名前に酷く驚き、

直ぐに彼女が指差しているクレーターの淵まで移動して両手両膝をつき、中を覗きこんだ。

 

 

「…確かに、あの髪型は祠弥ね…

けど、祠弥が超サイヤ人になった時の髪色は青だった筈…」

 

「…おい、祠弥の横にうつ伏せで倒れてるのって幽香だよな…いっ!?」

 

 

魔理沙は急に体が重くなったのを感じ、口を閉じて踏ん張る。

横にいた霊夢も同じ様な状態になっており、その顔に怒りをちらつかせていた。

 

 

「ふーん、あの幽香がねぇ…少し意外だったわ。」

 

「あれが『超サイヤ人』なのね~。」

 

「…あんた達二人…私と魔理沙の上に乗るなっ!!!」

 

「あら、ごめんなさい~。」

 

 

幽々子と紫はふわっと二人の背中から飛び退き、

霊夢と魔理沙が立ち上がった時には既に自分のパートナーの横に立って紀流を眺めていた。

 

 

「今紀流が戦っているのは、どうやら私の槍を避けた奴みたいね。

まあ、酷く手負いみたいだけれど。」

 

「凄い…やっぱり紀流さんはとてつもなく強い…っ!

白玉楼で私と戦った時の紀流さんとは、最早次元が違う…!!」

 

「…ねぇ、何であなた達はそんなに驚いているの?

確かに祠弥は強いし、金髪になった直後は心の底から震え上がったけど…

私と戦っていた時の祠弥は、もっと気が大きかったわよ?」

 

「…あのねぇ…」

 

 

輝夜の発した疑問に、霊夢は呆れ顔で首を振った後に答える。

 

 

「あんた、祠弥がいつでも全力だと思う?」

 

「…え?」

 

「まさか、今までの姫様との戦闘は全て遊びだったとでも…!」

 

「それは無いぜ。

祠弥はいつだって『本気で自分と戦う奴』に敬意を表して本気を出すからな。」

 

「「?」」

 

 

霊夢と魔理沙の言葉の意味が理解出来ない二人を見かね、紫は前に出て口を開いた。

 

 

「はっきり言ってあげましょうか?

…これで異変は終わるわ。」

 

「!?」

 

 

笑みの一つも浮かべずそう言い放った紫の声に、永琳は戦慄を覚えた。

紫はクレーターに視線を落とし、続けて口を開く。

 

 

「あの『藤原 妹紅』って子…

随分と手酷い怪我を負っている様に見えるけど、助けなくて良いの?」

 

「言われなくてもそうするつもりだったわよ!

永琳、行くわよっ!!」

 

「は、はい…」

 

 

勇み立って妹紅の元へ降りていく輝夜を追い、永琳もクレーターの斜面を滑っていく。

その後ろ姿を見送っていた紫は、ふと思い付いた様に霊夢に話しかける。

 

 

「霊夢、貴方はどうする?」

 

「…どうするって、何をよ…」

 

「勿論、このまま紀流の活躍を観戦するか、あの二人みたいに加勢するかよ。」

 

「…」

 

「幻想郷の行く末を決めるのは博麗の巫女の定め。

私達は全員、貴方の意思に従うわ。」

 

「ちょ…」

 

 

いきなり大きな責任を負わされた霊夢は面喰らい、振り向いて皆の顔を見回す。

しかし、誰も何も言わない。真っ先に反論しそうな魔理沙ですら、霊夢の言葉を待っている。

 

 

「…あぁ、もう…分かったわ。

私は博麗の巫女として、この戦いを祠弥一人に任せたいt…」

 

「よーし!そうと決まれば場所取りしなくちゃな!!

アリス、こっちの方が見やすそうだぜー♪」

 

「魔理沙、落ち着きなさいよ…」

 

「幽々子様、ござです。」

 

「あら、一つしか持ってこなかったの~?」

 

「私は立っていますので…」

 

「じゃあ私の膝に座る?空いてるわよ~♪」

 

「…け、結構です…」

 

「お嬢様、紅茶を用意致しました。」

 

「あぁ、上空に持ってきて。

ここの方が、地上よりも良く状勢が見えるからね。」

 

 

霊夢の言葉が終わらぬ内に、皆は思い思いにクレーターの周りに陣取った。

一人取り残された霊夢は暫く佇んでいたが…

 

 

「…あんた達ぃぃぃぃぃぃ…っ!!!」

 

「霊夢、抑えなさい。

あんな態度だけれど、皆貴方の決定に感謝しているのよ。」

 

「はぁっ!?どういう事よ!?」

 

 

危うく大暴れしそうになった霊夢を紫は諌め、

何故彼女が決定した事に皆が感謝しているかを説明する。

 

 

「いくら相手が強敵では無いとはいえ、先程の戦いによる疲労は各々にあったのよ。

出来れば皆、連戦は避けたかった…」

 

「…じゃあ、

あんた達は自分から言い出しにくい事を私に言わせたってわけぇ!?」

 

「…実を言えば、そうなるわ。

ごめんなさいね、霊夢。」

 

 

紫は霊夢に改めて向き直り、深々と頭を下げる。

ここまで下手に出られるとは思っていなかった霊夢は気まずくなり、溜め息をついて口を開く。

 

 

「…あー、まあ良いわよ。

過ぎた事にいつまでも文句言っても仕方ないし、私も疲れてたしね…

祠弥には悪いけど、ここは任せましょうか。」

 

「そうと決まれば、観戦する場所を決めなくてはね♪」

 

「勿論、空から見るに決まってるじゃない。」

 

 

霊夢は地を蹴り、垂直に飛び上がる。

紫はその後を追って飛び上がりながら、ふと後ろ斜め下を見やる。

…そこには瓦礫と化した永遠亭から伸びる様にして、地平線の遥か彼方まで亀裂が走っていた。

 

 

「…!?」

 

「紫、何後ろ向いてるのよー。

祠弥がいるのは反対の方向よ?」

 

「…え、ええ…」

 

 

紫はそう答えて亀裂に背を向けたが、心の中ではとある疑問を抱いていた。

『星を切る』等という馬鹿げた大芸当を、本当に紀流がやってのけたのかという疑問を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…くっ…!」

 

「…。」

 

 

一方、ここは霊夢達の視線が注がれているクレーターの中。

妹紅は右肩を押さえ、クレーターの中心に変わらず立っている紀流を睨み付けている。

彼女の殺気も紀流には全く通じておらず、彼は相変わらず無表情のままそこに立っていた。

 

 

「…?」

 

 

不意に紀流は首を動かし、妹紅の後ろの方に視線を動かす。

釣られて妹紅も後ろを向くと、そこにはクレーターの斜面を滑ってきた輝夜と永琳がいた。

 

 

「妹紅、あなたらしく無いわねぇ。

肩なんて押さえて、私はもう疲れましたアピールでもしているわけ?」

 

「輝夜…もう大丈夫なのか?」

 

「さっきの事は忘れなさい。

ま、覚えておきたければ勝手にして良いけど。」

 

 

輝夜はそう言いながら妹紅の前に立ち、紀流と改めて対面する。

 

 

「さっきは少し取り乱したけれど、もう全然平気になったわ。

決着をつけましょう、祠弥♪」

 

「…。」

 

 

輝夜の言葉に反応し、紀流は一言だけ喋った。

 

 

「…戦って良いのか?」

 

 

と。

 

 

「別に戦わなくても良いのよ?

私の夫になってくれるんならね♪」

 

「そうじゃない。

本当に『決着をつけて良いのか』と聞いているんだ。」

 

「…え?」

 

「真の超サイヤ人になって、その興奮を抑えている内に俺には分かったんだ。

決着をつける場合、どちらかが死にかけなくちゃいけないって事を。」

 

 

紀流の口調はゆっくりで、何かを悟ったかの様に重いものだった。

その内容に矛盾を感じた輝夜は、その疑問を臆する事なく口に出す。

 

 

「死にかける?

じゃああなたは、自分の敗北を自分で予知したってわけ?」

 

「と、言うと?」

 

「私達三人は不老不死の蓬莱人。

決して死なないんだから、今祠弥が言った事は祠弥自身にしか当てはまらないわよ?」

 

 

得意気に話す輝夜の後ろで、永琳と妹紅もそれを肯定する様に頭を振る。

しかし紀流はその反応を待っていたかの様に微笑み、こう言った。

 

 

「…確かに、そうかもな。」

 

「でしょ?だから早く…」

 

「輝夜、君の能力って何だい?」

 

「…えっ?」

 

「ついでに、後ろにいる二人と鈴仙って子の能力も教えてくれないかな?」

 

 

いきなり態度を軟化させ、唐突な質問をしてきた紀流に輝夜は少し驚くが、

その迷いは両隣からの声に掻き消された。

 

 

「私の能力は『老いる事も死ぬ事も無い程度の能力』だ。

元は能力なんて持たない、普通の人間だったけどな。」

 

「私の能力は『あらゆる薬を作る程度の能力』。

そして鈴仙の能力は『狂気を操る程度の能力』よ。」

 

「ほうほう。」

 

「…ここまで来たら、私も答えるしか無いわね。

私の能力は『永遠と須臾を操る程度の能力』…永遠と一瞬を操る力よ。」

 

「成る程、さっきのは時間を止めていたんじゃ無く、

一瞬を永遠に延ばしていたんだな?」

 

「延ばしたんじゃ無くて、集めたのよ♪」

 

「ふーむ…」

 

 

紀流は少し考え込む様な表情になり、体をくるっと回転させて三人に背を向けた。

そのままぶつぶつ言い始めた紀流の背に向けて、妹紅は少し苛ついてこう怒鳴る。

 

 

「おい紀流、私達の能力を教えてやったんだから、お前の能力も教えろよ!」

 

「別に聞く程の事じゃ無いでしょ。

ずばり、『どんな場所でも自由に動ける程度の能力』じゃ無いかしら?」

 

「紀流は鈴仙の目で狂わなかったんだんだぞ?」

 

「『狂気の世界』を自由に動いていたって考えれば良いのよ♪

もっと頭を使いなさい、妹紅♪」

 

「お前…」

 

「…なあ、もう一つだけ良いか?

君達三人が飲んだっていう『蓬莱の薬』は、永琳が能力で作り出した物なのかい?」

 

「「え?」」

 

 

輝夜と妹紅は紀流の質問に反応出来ずに固まったので、残った永琳が質問に答える。

 

 

「えぇ、私の能力と姫様の能力を使って作り出したの。

…本当なら、作り出すべきでは無かったのだけれどね。」

 

「元々私だけが飲む筈だったんだけどねー。」

 

「…ふん。」

 

「あ、そう。

じゃあ、俺の勝ちだ。」

 

「「「!?」」」

 

 

紀流は静かに、だがあっさりと勝利宣言をした。

三人は当然その言葉に衝撃を受けたが、何とかその気持ちを抑えて冷静さを保つ。

そして、輝夜が口を開いた。

 

 

「…どうして、そう言い切れるの?」

 

 

紀流は、それに答える。

 

 

「俺の能力は『相手の能力を無効化する程度の能力』だからな。」

 

「…無効…えっ?

ごめん、もう一回言ってくれる?」

 

「『相手の能力を無効化する程度の能力』。

それが君達の知りたがっていた、俺の能力さ。」

 

「「「…な…!?」」」

 

 

三人の空気が、凍る。

誰かが、時を止めたわけでも無いのに。

 

 

「…っ!」

 

 

妹紅は右肩を押さえる力を強め、必死になって傷を癒そうとする。

だが、傷は閉じない。全く持って、治る気配がない。

 

 

「妹紅の様子を見る限り、どうやら俺の能力は攻撃にも適応される様になったみたいだな。

その傷には『蓬莱の薬』は効かないよ。」

 

「…!!!」

 

「君達は最早、俺の前では『不老不死』じゃあ無いんだ。

これでやっとこさ、互角にまで漕ぎ着けられたな…」

 

 

苦労したとでも言いたげな顔で、紀流は大きな溜め息をつく。

その顔は、何処にでもいそうな少年の顔だ。

 

 

「…っ…!!」

 

 

だが、妹紅にはその顔が恐ろしくて仕方がなかった。

不老不死の能力が無ければ、自分などただの人間である。

その事に気がついた瞬間、妹紅は右肩の痛みが十倍にも増した様に感じられた。

 

 

「…分かったでしょう、妹紅…

自分の能力を破られた時の恐ろしさが。」

 

「……」

 

 

妹紅は放心状態になり、無意識に右肩に目をやる。

ずっと傷に置かれていた左手の間からは、真っ赤な血が溢れ出していた。

突然その手は払い除けられて袖は破られ、しみる液体と真っ白い布が素早くそこに巻かれる。

 

 

「いつっ…」

 

「良かった…どうやら、消毒液はまだ効いてくれるみたいね。

大丈夫?立てるかしら?」

 

「妹紅なら大丈夫よ、永琳。

普段はその数倍酷い怪我を負ってたって、私に突っかかってくるんだから。」

 

「でも、姫様…」

 

「そいつはあくまでもボランティア。

自分の事は自分で責任取るって事ぐらい分かりきってるわよね、妹紅?」

 

「…ああ、そのつもりだ。

心配かけてすまなかったな、永琳。」

 

「…そう。」

 

 

永琳はそれっきり口を閉じ、紀流の方を睨み付ける。

 

 

「…やっぱり、大人しくは引き下がってくれないか…」

 

「当然です。

私や妹紅や皆の使命は、命に換えても姫様をお守りする事。

元より姫様の為に命を捨てる事など、惜しくも何ともありません。」

 

「紀流、私はどちらにせよお前に感謝する事になるな。

もしも私達が勝ったら輝夜以外の強敵に会えた事への感謝をお前に送り、

仮に負けたとしても、私を殺してくれたお前に感謝する事が出来る。」

 

「…永琳、妹紅…」

 

「…殺す気なんて無いけどな…

まあ良いや。夜明けも近そうだからな、早いとこかたをつけようぜ?」

 

 

紀流はそう言うと同時に、空を指差す。

彼の指差す先にあったのは、普通なら有り得ない速度で空を横切っていく月だった。

 

 

「多分俺が覚醒した時に、一瞬だけ能力が拡散して『夜』が動き出したんだろう。

…あーあ、一体霊夢達に何て言われる事やら…」

 

「…幻想の賢者や博麗の巫女を初めとした者達の術を一瞬で解くとは…」

 

 

永琳は感心し、紀流を一種の尊敬の目で見る。

 

 

「一応最後に聞いておこう。

どうだ、俺と戦うのは止めて降参しないか?

そっちの方が平和的だし、互いに傷つかなくても済むぞ。」

 

「別に、祠弥が降参するっていうなら大歓迎だけど?

婚約者をあまり傷物にはしたく無いものね♪」

 

「生憎、私達はそんな話に興味は無いんだよ。

お前を倒す、それで全て解決だ。」

 

「悪くない話だと思うんだがな…残念だ。

ま、そう言うだろうとは思っていたけどね。」

 

 

紀流はそう呟くと、にやっと悪そうな笑みを浮かべて話を続ける。

 

 

「けど、今まで君達三人が俺達に善戦出来ていたのは、

蓬莱の薬による再生能力があり、こちらの一方がハンデを課していたからだとは思わないか?」

 

「何が言いたいわけ、祠弥?」

 

「なあに、簡単な事だよ。

つまり君達三人に再生能力が無く、ハンデをあげなければ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あなた達が私達に勝つ事は『絶対に』出来ないのよ♪」

 

「「「!?」」」

 

 

紀流の方から聞こえてくる、楽しげな女性の声。

今まで紀流の足元で倒れていた筈の幽香は、いつの間にか紀流の横に並んでいた。

 

 

「幽香さん、これで分かったでしょう?

あまり敵を舐めちゃいけないって。」

 

「…ぐうの音も出ないわね。

まさか、私を動ける様にしてくれるとは思ってもいなかったわ…」

 

「左手も動く様になってますよね?」

 

「お陰さまで。

…痛みも感じる様になったけれどね。」

 

「あぁ、それは仕方ないって割りきって下さい。」

 

「お前…何で立ってるんだ?」

 

 

まるで元から幽香がそこにいたかのように振る舞う紀流を見て、妹紅は思わず訊ねた。

紀流は幽香の顔から視線を離し、直ぐに返答する。

 

 

「さっき喋っている間に、俺の気を幽香さんに送り込んでみたんだよ。

いつばれるか心配で心配で気が違いそうだったけど、

幽香さんも気が完全回復するまでは倒れたままでいてくれたからね。」

 

「…いきなり膨大な量の気が送られてきたから、流石の私も危うく跳ね起きそうになったわ…

まあその我慢も、雪辱を晴らす為なら安いものよ。」

 

「…。」

 

 

この時、三人は同時にこう思った。

大妖怪の力を完全回復させたにも関わらず、平気な顔をしている紀流の気には上限が無いのかと。

 

 

「じゃあ行くわよ、紀流。

今度こそあなたを完全に負かして、否応なしに夫にしてあげる♪」

 

「…お前が婚約する事には反対だが、完全に負かす事には私も大賛成だ。

今夜ばかりは協力してやるよ、輝夜。」

 

「姫様がそう望むのならば、もう私達は止めません。」

 

「…いや、止めてくれよ…」

 

「大丈夫よ、紀流。

あなたはともかく、もう私は負けないから。」

 

「そいつは心強いですね…さてと。

…っ!!!」

 

 

紀流は瞬時に気を解放し、燃え盛る炎の様な黄金のオーラを見に纏う。

その光が辺りを照らすと同時に、空も仄かに白み始めた。

 

 

ー現在の時刻ー

  ー 寅の四つ ー 4:30 ー

 

 

「…さぁ、始めようかぁ!!!」

 

「望む所よっ!!!」

 

 

紀流と輝夜はほぼ同時に地を蹴り、一瞬で上空数十メートルまで上昇して殴り合いを始める。

輝夜が放った拳を紀流はにやりと笑いながら顔で受け止め、拳を輝夜の顔に叩き込んで吹き飛ばす。

 

 

「…ぐ…っ…!!!」

 

「さあさあどうした!怯んでいる暇は無いだろう!!

双消砲『ダブルイレイザーキャノン』!!!」

 

 

紀流はスペルを発動し、後退する輝夜を追いながら両手のひらに緑色の気を収縮させていく。

そしてその輝きが最高潮に達した時、紀流は交互に腕を振るって気弾を発射した。

 

 

「神宝『ライフスプリングインフィニティ』!!!」

 

 

輝夜も負けじとスペルを宣言し、

無数のレーザーを交差させて網目状にした物を紀流のスペル目掛けてぶつける。

二つのスペルは互いに相殺しあい、幻想郷の空を揺るがす。

 

 

「そーれっ!!!」

 

「ここまで来て負けられるかっ!

蓬莱『凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-』!!!」

 

 

幽香の巨大レーザーと妹紅の召喚した無数の不死鳥は衝突し、混ざり合って爆ぜる。

爆発によって発生した煙を突き破り、永琳は幽香に向けてスペルを発動する。

 

 

「秘術『天文密葬法』!!!」

 

 

永琳は両手を合わせて青い大玉弾幕を作り出し、幽香を狙って発射する。

弾幕が通り過ぎた後の空間からも、大量の米粒型弾幕が出現して幽香に襲いかかっていく。

 

 

「♪」

 

 

幽香は笑いながら傘を振り回して衝撃波を発生させ、

米粒型弾幕を弾き、大玉弾幕を切り裂き、不死鳥を掻き消していく。

正に『最終決戦』に相応しい、大混乱の大乱戦が今ここでは行われていた。

 

 

「…あぁもう、一体上と下のどっちを見れば良いのよっ!」

 

「どちらでも良く見えない事には変わりないわ、霊夢。

…まさかここまでの激戦になるなんてね…」

 

「まさに季節外れの花火だな、アリス。」

 

「えぇ…こんなに至近距離で花火が打ち上がる物なのかは疑問だけれどね…」

 

「…全く、紅茶が溢れるじゃないの…」

 

「では瓶をご用意いたします。」

 

「良いのよ、咲夜。

この戦い…紀流の戦いっぷりをしっかり見ておきなさい。」

 

「…目がちかちかしますね…」

 

「そう?色とりどりの花びらが舞っているみたいで、とても綺麗だと思うけれどね~。」

 

 

観戦者達はパートナー同士で喋りながら、この戦いの結末が来るのを待っていた。

夜明けは、刻一刻と迫ってくる。

そして、異変が決着するまでの時も。

 

 

「おぉぉぉぉぉぉ…らぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「がふっ…!」

 

 

紀流は両手を振り上げて頭の上で組み合わせて輝夜の頭に振り下ろし、

彼女を一気に地面目掛けて叩きつけた。

輝夜は一瞬気が遠くなったが直ぐに意識を取り戻し、姿勢を整えて地面に下り立つ。

 

 

「…これが、紀流の真の力…

なら、私も『最後の難題』で相手をしてあげるわ!!!」

 

「そんな物を撃っている暇があるのかしらっ!?それっ!」

 

「輝夜にはあるんだよ!」

 

「私達がその暇を作るんですからね!!」

 

 

妹紅と永琳は二人で膨大な量の弾幕を撃ち出し、幽香のレーザーを弾き返す。

幽香が自分のレーザーを受け止めた隙を見計らい、三人は一斉にスペル発動を宣言した。

 

 

「これを攻略出来たら、あなたは大したものよ!!

神宝『蓬莱の玉の枝 -夢色の郷-』!!!」

 

 

輝夜はその手に五色の玉の付いた枝を持ち、その玉を巨大化させて枝から分離させる。

 

 

「例えこの身が燃え尽きようとも、私はお前を倒すっ!!

『フェニックス再誕』!!!」

 

 

妹紅は更に大きな炎翼を展開し、腕を上げて炎に包まれた鳥を生み出す。

 

 

「研究の果てに私が辿り着いた究極の弾幕、その身で直接味わうがいい!!

禁薬『蓬莱の薬』!!!」

 

 

永琳は自身の放った弾幕に視線を向け、矢を思い切りふりしぼって構える。

そして。

 

 

「「「喰らえ、紀流ーっ!!!」」」

 

 

三人は上空の紀流に照準を合わせ、各々のスペルを一気に放った。

五色の光線と無数の不死鳥、そして閃光と化した矢は紀流目掛けて一直線に飛んでいく。

 

 

「花符『幻想郷の開花』!!!」

 

 

しかし、紀流への攻撃をパートナーである彼女が許すわけがない。

幽香は滅多に使う事のないスペルを発動し、

巨大な赤い向日葵型の弾幕と花びらの様に広がっていく弾幕を放って三人のスペルを受け止めた。

そのパワーは凄まじく、三対一にも関わらず互角の競り合いを見せている。

 

 

「全く、大した奴じゃない…!

永琳、妹紅、最後の一滴まで力を振り絞るわよっ!!!」

 

「ですが、それでは姫様が…!」

 

「良いの!!!

私はもう、あなた達二人と運命を共にする覚悟を決めたんだから!!!」

 

「お前と一緒に死ぬなんて、死んでもお断りだな!!!

はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

三人は同時に気を高め、幽香のスペルをじりじりと押していく。

 

 

「く…っ!!!」

 

「幽香さん!そこを退いて下さい!!

最後は俺がやりますっ!!!」

 

「今更何を言って…!?」

 

 

幽香が振り向くと、

そこには『太陽の様な輝きを放つ直径十メートル以上ある気弾』

を右手の指先に浮かせている紀流がいた。

 

 

「いくら幽香さんと言えども、あの三人のスペルをいつまでも押さえてはいられないでしょう!?

早くそこから…!!」

 

「…分かったわ…!」

 

 

幽香はそう呟き、紀流の前から退く。

それと同時に幽香のスペルも消え、妨害の無くなった三人のフルパワーのスペルが紀流に迫る。

 

 

「超新星『スーパーノヴァ』!!!」

 

 

スペル宣言の声と共に、紀流は上げていた右手を振り下ろして気弾を発射する。

紀流の指から離れた超巨大な気弾は、瞬く間に三人のスペルとの距離を詰め…

爆発も振動もせずに、その膨大なエネルギーを呑み込んだ。

 

 

「「「!!!」」」

 

 

三人は驚愕し、その場から根が生えた様に動けなくなった。

何しろ彼女達からしてみれば、太陽が自分達に突っ込んできた様に見えたのだから。

 

 

「…っ!!!」

 

 

自身を鼓舞して足を無理矢理動かし、永琳と妹紅の前に両手を開いて立った輝夜。

彼女は、ようやく全てを悟った。

 

 

「姫様「輝夜」っ!?」

 

「…ふ…」

 

 

自分が彼の夫になるには、まだまだ未熟であった事を。

スーパーノヴァは三人を押し潰す様にして地面にめり込んだ後、大地をえぐりながら進んでいく。

そしてある程度進んだ時点で再び浮かび上がり、遥か上空へと飛んでいき…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天を震わせながら大爆発を起こし、丁度出てきた朝日と共に幻想郷を明るく照らした。

 

 

ー現在の時刻ー

  ー 夜明け ー 5:00 ー




…やっとこさ終わったな…
永き夜を終わらせる事が出来たのは、やっぱり紀流しかいなかった。うん。
次回、永夜抄編最終話(の予定)。
感想、意見、アドバイス等々募集中です。
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