東方有無録   作:印鑑

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第七十一話目。永夜抄編最終話。
ゆっくり読んでいってね!


永夜の終焉〜お月見・兼・大宴会

博麗の巫女は盃を持った右手を振り上げ、宣言する。

 

 

「さあ、なっがぁぁぁぁぁぁい夜の終わりを記念して…」

 

「長々と喋らなくて良いぞ、霊夢ー!」

 

「分かってるわよ!

じゃんじゃんと倒れるまで飲みなさぁぁぁぁぁぁぃっ!!!」

 

「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 

 

永夜異変が解決し、幻想郷には再び静かな夜が戻ってきた。

しかし、異変解決直後の博麗神社には静けさなど皆無である。

 

 

「月見酒かぁ…だから宴会の時間を夜にずらしたんだな、霊夢?」

 

「当然じゃない。

あんなに苦労したのに、普通の宴会じゃ気が済まないわよ!」

 

「まあ、本当は私が提案したんだけどね♪」

 

 

楽しげな声と共に霊夢の横にスキマが開き、紫の上半身が出てきた。

その手には、中身が半分ほど無くなった一升瓶を持っている。

 

 

「…何だ紫か。

通りで霊夢にしては風流だと思ったぜ。」

 

「…紫…」

 

「まあまあ、これでも飲んで機嫌を直しなさい、霊夢♪」

 

 

紫はスキマから新しい酒瓶を取り出し、栓を開けて霊夢の盃一杯に注ぐ。

霊夢はまだ不満げな顔をしながらも、盃を傾けて一気に中身を飲み干した。

 

 

「…ぷはぁ…」

 

「…何でそんなに飲めるの?」

 

「何だアリス、お前顔が真っ赤じゃないか。

もうそんなに飲んだのか?」

 

「…アルコール類には弱いにょよ…うぅ…」

 

「…おい、大丈夫か?」

 

 

アリスはもう呂律が回っておらず、立っているのがやっとの状態である。

そんなアリスを見かねた魔理沙は彼女の肩を支え、神社の縁側に座らせた。

 

 

「あら、情けないわねぇ。

まだ夜は始まったばかりなのに…」

 

「お嬢様、ワインです。」

 

「あぁ、人数分注いでおいて。

今夜の私は機嫌が良いのよ。幾らでもボトルを開けなさい!」

 

「今この場にあるワインは無限では無いのですが。」

 

「…じゃあ、一人一口にしておきましょう。」

 

「ふん、けち臭いわね…

見た目は子供でも、やっぱり中身は年取ってんのねぇ~。」

 

「『見た目は』は余計よっ!

そう言えば、あの時の続きをまだしていなかったわね…」

 

「永遠亭での事?止めておいた方が良いんじゃない?

あんたみたいな引きこもり鬼と博麗の巫女とじゃ、月とすっぽんみたいな物よ…」

 

「すっぽん?ああ、確かにぴったりな表現ね。

普段は神社の境内から一歩も出ないで異変の時だけ出る所とか、正に霊夢そのものじゃない。」

 

「へえ、どうしてもやる気なの?」

 

「そこまでだあー!!!

その勝負、この私『魂魄 妖夢』が預かったーっ!!!」

 

 

今にも殴り合いを始めそうな両者の間に、上空からの人影が割って入る。

二本の刀を構えたその者の目は、焦点がどこにも合っていない。

 

 

「喧嘩両成敗!

お二人とも、少し痛いですが我慢して下さいねー!!!」

 

「ふん、そんな酔っ払い剣術で何が出来r…」

 

 

レミリアがそう言い、少しグラスを前に傾けた瞬間。

妖夢に近い方のグラスの縁が、綺麗に消滅した。

 

 

「…へ?」

 

「…。」

 

 

霊夢は何かを思いつき、足元に置いてあった小石を妖夢に向かって放る。

二筋の閃光が走ったかと思うと、小石は掘削機にかけられたかの様に塵となって散った。

 

 

「…レミリア、ここは和解しない?」

 

「え、えぇ…そうね、それが良いわ。」

 

「うんうん、分かればいいんですよ分かれば!

ぬっ、今度はあちらから争いの予感がっ!!」

 

 

妖夢は地を蹴って跳躍し、神社の反対側まで飛んでいく。

 

 

「あらあら、妖夢ったら張り切っちゃって~。」

 

「…あんた、一体あいつに何したの?」

 

「一緒にお酒を飲んでいただけよ?

不思議な事に、いつの間にか瓶が三本位空っぽになってたわ~。」

 

「…飲ませすぎでしょ、幽々子…」

 

「そう~?」

 

 

無邪気な微笑みを浮かべた幽々子を見て紫はこれ以上言っても無駄だと思ったのか、

彼女から視線を離して宴会の喧騒へと視線を移した。

 

 

「このぉおぉぉぉぉぉぉぞらぁぁぁにぃぃぃ~つぅばぁさぁをぉ広げぇぇぇぇぇぇ…」

 

「出た!チルノちゃんの十八番だ!」

 

「よし、私も…」

 

「止めなさい美鈴!!!あなたが歌ったらここら一帯が崩れる…げほっ!!!」

 

「だ、大丈夫ですか!?

誰かー!きつけ用のお酒を持ってきてくれませんかー!?」

 

「私の酒を使えば良いさ。」

 

「ありがとうございます!

パチュリー様、飲めますか?何とか飲み込んで下さい!!!」

 

「…ごく…ごぼっ!?」

 

「ありゃ?少し度が強すぎたかねぇ?」

 

「白目剥いてるじゃ無いですかっ!

パチュリー様ぁぁぁ!!!」

 

「…大丈夫なの、貴方の同居人?」

 

「同居人…あんまりと言えばあんまりな言い様ね…

まあパチェはああ見えても案外しぶといから、大丈夫だとは思うけど…」

 

「案外しぶといって…」

 

 

紫は呆れた目でレミリアを見つめていたが、ふと彼女の後ろに赤い影が近づいている事に気づく。

その人影には宝石のぶら下がった細い翼が付いており、レミリアと同じ形状の帽子を被っていた。

紫が見ている事にも気づかず、その人影はレミリアにばれないようにじりじりとすりより…

 

 

「おー姉ー様っ♪」

 

「きゃあ!?」

 

 

大きく腕を開き、レミリアを背中から思いっきり抱き締めた。

レミリアはびっくりし、思わずグラスを取り落として必死にもがく。

しかし彼女の努力も全く意に介さず、フランはレミリアを抱き締めたまま口を開いた。

 

 

「ねえねえ、お姉様。

何で紀流お兄ちゃんが何処にもいないの?

私、お姉様が『紀流お兄ちゃんも来る』って言ったから楽しみにしてたんだよ?」

 

「…くっ…私もまさかいないとは思って無かったのよ…

…痛い痛い痛い痛いっ!!止めてフラン…っ!!!」

 

「ねぇ、何で?

まさか私に嘘ついたの、お姉様?」

 

「つくわけ無いで…」

 

「むん。」

 

「いぃっ…」

 

 

レミリアの話を聞く気配も無く、フランは益々強く彼女を締め付けていく。

これ以上続くとレミリアの体が千切れると思った紫は、フランに話しかけた。

 

 

「貴方、紀流に会いたい?」

 

「うん!」

 

「今すぐ?」

 

「うんっ!!」

 

「じゃあまず、お姉さんを離してあげなさい。

そうしたら、紀流の所に連れていってあげるわ。」

 

「はーいっ!」

 

 

フランは元気良く答え、直ぐにレミリアの拘束を解く。

レミリアはいきなり離された事でバランスを崩し、前のめりに倒れる。

 

 

「ぜえっ…ぜえっ…」

 

「さ、早く早くー!」

 

「…じゃあ、約束通りに。」

 

 

紫は軽く腕を振り、自身の横に比較的小さなスキマを開ける。

そのスキマが完全に開かない内に、フランは頭から飛び込んでその中に潜り込んだ。

 

 

「真っ直ぐ進んでいけば着くから…

って聞いてないわね。」

 

「…助かったわ。

ところで私も訊きたいんだけど、何で異変解決の立役者の紀流がいないわけ?」

 

「『永遠亭を修理させる』とか言って永琳って奴が今朝無理矢理連れてったのよー。

全く、主役がいない宴会なんて…」

 

「じゃあ、私が代わりに主役になってやるぜー♪」

 

「あんたじゃ無理でしょ…」

 

「何だと!?」

 

「はぁ…さてと。」

 

 

紫はいがみ合っている霊夢と魔理沙に背を向け、スキマを開く。

 

 

「…どうせ、彼女もここに来てないって事は家にいるんでしょうね…

じゃ、彼女も紀流の所に連れてってあげましょうか♪」

 

 

紫は怪しく笑った後、スキマの中へと姿を消した。

ある人物の元へ、向かう為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

「…お…終わった…んだろ?」

 

「えぇ、良く頑張ったわね、祠弥♪」

 

 

ここは、竹林に囲まれた丸い空き地。

そこには先日の戦闘で紀流が破壊した筈の永遠亭が、戦闘前と変わらぬ様子で建っていた。

ただ少し違う所と言えば、門や壁が新品同様になっている所だろうか。

 

 

「す…凄い…」

 

「まさか永遠亭を一瞬で直すなんて…」

 

「一瞬なわけ無いだろぉっ!!!」

 

 

オッス!!オラ紀流!!!

今現在、永遠亭の単独再建工事がやっとこさ終わった所だ!!!

輝夜の世界で唯一動ける俺一人に工事を全部押し付けてくるとは思って無かったぜ!!!

 

 

「おい紀流、実際時間としてどれくらいかかったんだ?」

 

「材木を伐って運んでくるだけなら十五分で済んださ!

だけどそこから材木の加工・各部品の組み立て・襖の枠組み作り・紙貼り…」

 

「「「…」」」

 

「…とにかく今言った出来事の十倍ぐらいの仕事をこなして!

やっと!元通りに完成させたんだよ!!」

 

 

まさかサウザーブレードがこんな場面で活躍するとは思ってなかった。うん。

鋸なんか使うよりもずっと仕事がはかどったよ!やったねぇ!!

 

 

「確か大体…日付に換算すれば一日位だったかしら?」

 

「一日!?一週間の間違いだろ!?」

 

「「「一週間!?」」」

 

「…紀流、本当に一週間で終わったのか?

一ヶ月の間違いじゃないのか?」

 

「ああそうだ!

寝る間も惜しみ、ぶっ続けで働き続けて一週間!!

動いているのは俺と包帯巻いてる輝夜だけ!!!」

 

「必死で頑張ってた祠弥、中々かっこよかったわよ♪

あの姿の為なら、もう一回永遠亭を壊す価値があるわねー♪」

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

俺は寝る時以外動き続けていた事による疲れと輝夜への苛つきに呑み込まれ、思わず吠える。

…もう一度永遠亭を直す事になったら、多分理性が保てなくなるぜ…

 

 

「…えー、こほん。

とにかく永遠亭を直してくれて感謝するわ、紀流。」

 

「ああはいどうも永琳さん。

じゃ、俺はこれで失礼します。」

 

 

俺は眉間に指を二本当てて集中し、博麗神社にいるであろう霊夢の気を探る。

しかしその集中は…

 

 

「ひゃあっ!?」

 

「ん、一体何d…どわぁぁぁぉぉぉっ!?」

 

 

上空から俺の上に降ってきた何かにより、あっさりと乱された。

…今の声、随分ひっさしぶりに聞いたけど…まさか…

 

 

「…なあ、妹紅。

俺の上に乗ってるのって、帽子被ってサイドテールで宝石が付いた羽がある女の子か?」

 

「あ、あぁ…大正解だ。」

 

「フラン、一体何しに来たんだ?」

 

「紀流お兄ちゃんこそ!

何で神社での宴会にいなかったのーっ?」

 

 

フランは俺の上に馬乗りになり、背中をぐいぐいと押してきた。

このままやり続けられると背骨が折れそうなので、一応答える事にするか…

 

 

「…永遠亭を直してたんだよ…一人で。

今お前の目の前にあるお屋敷をね。」

 

「え?このでっかいお屋敷を?

紀流お兄ちゃん一人でぇっ!?」

 

「ああ、そうだよ…」

 

「それって酷くないっ!?

紀流お兄ちゃん、嫌な事はしっかりやだって言わないと駄目だよ!」

 

「…いや、壊したのは俺だし…

それよりも降りてくれないか?」

 

「あ、ごめん…」

 

 

フランが背中から降りてくれたので、俺は立ち上がる事が出来た。

 

 

「…で、フラン。

もう一度訊くが、一体何しに来たんだ?」

 

「紀流お兄ちゃんに会いに来たに決まってるでしょー!」

 

「へえ、可愛いお嬢さんじゃないか。」

 

「お姉さん、だあれ?」

 

「私かい?私は藤原 妹紅。

お嬢さんの名前は?」

 

「フランドール・スカーレットだよ。」

 

「…スカーレット…

まさか、レミリア・スカーレットの妹!?」

 

 

永琳がレミリアの名を言った事に反応し、フランは永琳の方を向いて首を傾げる。

 

 

「え、お姉様の事を知ってるの?

…後何でそんなに包帯巻いてるの?」

 

「あぁ、これはね…」

 

 

永琳はフランに近づき、膝を曲げて視線を合わせる。

 

 

「調子に乗った私達への、紀流からのお仕置き…って所かしらね。」

 

「え、紀流お兄ちゃんからの?

…お屋敷を直した事といい、このお姉さん達の怪我といい…紀流お兄ちゃん何したの?」

 

「…調子乗って大暴れした。」

 

「紀流お兄ちゃんも調子に乗ったの?

何か言ってる事が滅茶苦茶だなぁ…」

 

「仕方がないわよ、実際滅茶苦茶だったんだから。

あ、私は蓬莱山 輝夜。で、こっちが八意 永琳。」

 

「…宜しくお願いします。

それで、実際何があったの?」

 

「「ああ、それは…」」

 

 

  ~紀流&姫様説明中~

 

 

「…最終決戦?夜が明けない異変?

ごめん、フラン全然分からない。」

 

「けど私達、良く死ななかったよな。

あの巨大な気弾が迫ってきた時には、やたら長い走馬灯が流れていった位だったのに…」

 

「…俺には人を殺すなんて出来ないからな…

スーパーノヴァでお前達を地面にめり込ませて、気絶させるのが精一杯だったよ。」

 

 

…実際、めり込ませた後にスーパーノヴァを空に打ち上げる時が一番緊張したがな。

もしも爆発なんかしたら幻想郷がやばかっただろう、うん。

 

 

「祠弥の優しさ、でしょう?

何だかんだ言っても、やっぱり婚約者を殺すなんて出来なかったのよね♪」

 

「えぇ!?紀流お兄ちゃん結婚するのっ!?」

 

「真に受けるなフラン!!!」

 

 

あぁ、また面倒臭い事になって来たな…さっさと帰ろう。

俺は再び眉間に指を当て、呼吸を整えて瞬間移動の準備に入る。

 

 

「紀流、もう帰るの?」

 

「まあな。

疲れたからさっさと帰って静かに寝たいんだ。」

 

「紀流お兄ちゃん、それは無理だと思うよ?

博麗神社ではまだ宴会やってると思うし。」

 

「…はぁ…」

 

 

静かなる夜、未だ訪れずってわけかい…

俺は色々と嫌になり、眉間に置いていた指を離して大きな溜め息をつく。

 

 

「…宴会で思い出したけど、

永琳、あなた宴会するとか言ってなかったっけ?」

 

「あ、はい…

永遠亭新設記念、という名目で開こうと思っていたのですが…

まさか姫様が能力を使うとは思っていませんでしたので…」

 

「…何の用意もしてない、と?」

 

「…申し訳ありません。」

 

 

永琳は頭を下げ、不甲斐なさそうな顔になってしまった。

輝夜、そんなに永琳を責める様な目付きになるなよ…

 

 

「…ねえ紀流お兄ちゃん、何で皆黙っちゃったの?」

 

「…皆誰かが何か言ってくれるのを待ってるんだよ…

この凄まじく気まずい雰囲気をいっぺんに打開してくれる、天の声をね。」

 

「じゃあ、フランが神様になってあげるよ!

おーい、皆ー!!!」

 

「「「?」」」

 

 

フランが元気良く発した声に反応し、この場にいた全員がフランの方を見る。

兎耳の兵士達が一斉に此方を向いた時は少しぞわっとしたぜ…

 

 

「この…えーっと、何だっけ…

凄まじく気まずい雰囲気をいっぺんに打開出来る、良いアイディアがあるよー!」

 

「おぉ、そいつは良いな!」

 

「流石はレミリア・スカーレットの妹ね。」

 

「…それは関係ないと思うわよ、永琳。

で、フランちゃん?そのアイディアってなあに?」

 

「ふふん、それはねぇ…」

 

 

フランはそこで一旦言葉を切り、何故か俺の方を向いて微笑む。

…その笑みを見た瞬間、俺はフランが何を言おうとしているかを察知した。

 

 

「d「ダーブラがどうしたってぇ!?」…え!?」

 

「「「!?」」」

 

 

俺は咄嗟に浮かんできた言葉を叫んでフランの会話を中断させ、

素早く接近して彼女にヘッドロックをかける。

 

 

「…もごー!?」

 

「…なあフラン、何で弾幕ごっこなんて提案しようとしたんだ?

俺の努力を永遠亭ごと木っ端微塵に打ち砕くつもりかな?」

 

「…だって面白いじゃ…」

 

「確かに面白いかもしれんが、今やるような事じゃないだろ?」

 

「…あう…」

 

 

フランは涙目になり、顔をぷるぷると震わせ始めた。

このまま泣かれるとあれなので、俺はある提案をする事にする。

 

 

「…良し、じゃあ弾幕ごっこの日にちを決めよう。」

 

「…え?」

 

「その日になったら、俺がお前の気の済むまで存分に戦ってやる。

だから今は我慢してくれ、な?」

 

「…本当に?」

 

「今度こそ本当だ。」

 

 

後にこの約束のせいで大事件が勃発するのだが、それはまた別の話。

 

 

「わーい!約束するよ!!

やったー、紀流お兄ちゃんと弾幕ごっこだー♪」

 

 

フランは俺の腕を振り払い、くるくると回って喜びを表現する。

ようし、これにて一件落着だな…

 

 

「…紀流、お前あの子に何吹き込んだんだ?」

 

「変な言い方するなよ…

永遠亭を壊さない様に頼んだだけだ。」

 

「…え?」

 

「さて、フラン。神社に戻るから、どっかに掴まれ。」

 

「あ、はーい。」

 

 

フランはスキップしながら俺の方に近づき、左腕を掴む。

俺はそれを確認すると、三度右手の指を眉間に当てて気を探ろうとしたが…

 

 

「…輝夜、何のつもりだ?」

 

「あなたのせいで、私と永琳と妹紅はこんな有り様になったのよ?

謝罪も無しに帰ろうなんて、少し虫が良すぎると思わない?」

 

「…散々謝っただろ…」

 

「あんなの謝った内に入らないわよ。

ほら妹紅に永琳、あなた達も紀流の何処かを掴みなさい♪逃げられちゃうわよ♪」

 

「仕方ないな…

ごめんな、紀流。」

 

「姫様の命令とあれば、仕方がありませんね。」

 

「おめーらなぁ…」

 

 

永琳は俺の右肩、そして妹紅は俺の左肩に手を置いた。

…そんな申し訳なさそうな顔するぐらいなら持つの止めてくれよ…

 

 

「うどんげ、てゐ。」

 

「えぇ!?私達もですかぁ!?」

 

「当然じゃない。」

 

「ま、そういう事なら従いますよ、姫様。

さっ、君達。」

 

「「「はーい!」」」

 

 

…兵士達も加わって数珠繋ぎ状態だよ…どれだけ俺を行かせたく無いんだ、輝夜。

 

 

「…分かった。これから瞬間移動するから、皆静かにしていてくれ。」

 

「「「…。」」」

 

 

皆が黙って集中出来る様になったので、俺は目を閉じて四度気を探る。

…良し、行くか!

 

 

「しっかり掴まってろよ!1、2、3…」

 

 

その瞬間、俺は再び背中に何かが降ってきたのを感じた。

降ってきた人物の物と思われる、息を呑むような声も。

 

 

「…!?」

 

「全く、今度は何d…あ!」

 

 

俺が『あ』と言った時には瞬間移動は既に完了しており、俺達は博麗神社に到着していた。

目の前には、いきなりの団体様ご到着に驚いた様子の霊夢。

 

 

「ほ、祠弥!?」

 

「お、霊夢…すまんな、こうするしか無かったもんで…」

 

「まあ別に人数が増えたって一向に構わないけど、

あんたの後ろに立ってる奴が来るとは思ってなかったわ…」

 

「え、後ろ?」

 

 

俺は首だけを曲げ、後ろを見る。

そこに立っていたのは、白いネグリジェを着て頭にナイトキャップを被っている緑髪の女性…

 

 

「幽香さんっ!?」

 

「「「!?」」」

 

 

昨日俺と共に大激闘を繰り広げた大妖怪、『風見 幽香』だった。

俺が幽香さんの名前を呼ぶと、周りにいた兵士達が一瞬で数メートル程後退する。

 

 

「…ん…紀流?何してるの?」

 

「それは此方の台詞ですよ!!

何で寝間着のまま空から降ってきたんですk…」

 

「…ここどこ?」

 

「…博麗神社ですよ。」

 

「…何でここにいるの?」

 

「知るわけ無いでしょう!?」

 

「…。」

 

 

どうやら幽香さんは寝起きらしく、やがて立ったままうつらうつらし始める。

このままだと埒が開かないと思ったので、俺は幽香さんに近づき…

 

 

「…はあっ!!!」

 

「っ!?」

 

 

大量の気を送り込み、幽香さんの意識を覚醒させた。

幽香さんは暫く辺りを見回していたが、やがて驚きの表情で俺に訊ねる。

 

 

「何で私はここにいるの?」

 

「…I don't know…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、あなたの仕業だったわけね、八雲 紫。」

 

「折角招待したのに来ないんだもの、つい…ね♪」

 

「…。」

 

「…紫、幽香さんに殺されるぞ…」

 

 

あの後、色々あったけど何とか収まりました。

にやにやしながら出て来た紫に幽香さんが顔面パンチを喰らわせようとした時は焦ったぜ…

後、フランを永遠亭に連れてきたのも紫だったらしい。この人騒がせ妖怪が…

 

 

「あ、いましたいました!

おーい、紀流さーん!!」

 

「ん?」

 

 

元気な声が聞こえてきたので顔を上げると、そこにはカメラを構えた女性の姿が。

俺は本能的に何かを感じ、垂直に浮かび上がってフレームから外れる。

その瞬間フラッシュらしき光がたかれ、女性が不満げな顔をしてカメラから目を上げた。

 

 

「もう、何で避けちゃうんですか!?」

 

「いや、何か不快だった。

お前って確か、蕎麦屋にいた…」

 

「あぁ、まだ名乗っていませんでしたね。私の名前は『射命丸(しゃめいまる) (あや)』!

清く正しくをモットーに、幻想郷を飛び回って新聞を書く仕事をしています!!」

 

 

文は胸をとんと叩き、どうだ凄いだろうとでも言いたげな顔で此方を睨んでくる。

 

 

「あ、そう。」

 

 

適当に反応を返すと文は少しがっかりしたようだが、また直ぐにはきはきと喋り始めた。

 

 

「…何か微妙な反応ですね…まあ良いです。

では、早速取材させてもらいましょう!

内容は勿論、あなたが解決した異変の話と『超サイヤ人』についてです!!」

 

「そう言う話は霊夢とかに訊いてくれよ…」

 

「勿論訊きましたよ!

ですが皆さんは口を揃えて『紀流に聞けば分かる』と…」

 

「…あいつら…

…で、何から訊きたいわけ?」

 

「「何から何までです!」」

 

「…そう来ると思ったぜ…って一人多くないか!?」

 

 

いつの間にか、文の隣には『稗田 阿求』が立っている。

 

 

「お久しぶりですね、紀流さん!

紀流さんが大活躍したと聞いたので、いても立ってもいられずに来ちゃいました!

これで幻想郷縁起の内容も充実しますね~♪」

 

「おい、お前ら…」

 

「まず最初に、この異変の原因を教えてください!」

 

「…永琳に訊いてくれ…」

 

「紀流さんの項目を作る際に、二つ名を考えてみたのですが…

『金色の超人間』なんてどうでしょう?」

 

「…何その悟飯。『普通の人間』で良いよ。」

 

「ですけどね、『普通の人間』なんて弱そうなネーミングだと、

何処かの妖怪がふざけて紀流さんに勝負を挑んだり、ちょっかいを出す可能性があるんですよ。」

 

「弱そうっておま…」

 

「二つ名で重要なのはインパクトですよ、インパクト!

新聞の見出しと同じです!!」

 

「…。」

 

 

ええい、こんな質問責めに耐えられるか!

よし、相手が見たがってるもんをさっさと見せよう!

 

 

「じゃ、超サイヤ人になってやるよ。」

 

「おぉっ、それは有難い!」

 

「遂にこの目で見る事が出来るんですねっ!!

『超サイヤ人』を!!!」

 

「何々、超サイヤ人だと!?

くそう、祠弥の奴め…最強のあたいをあっさりと出し抜きやがって…」

 

「更に強くなったのかー?」

 

「そうみたいだね。」

 

「私との戦いで見せた『界王拳』よりも更に強い形態なんですよね、咲夜さん。」

 

「恐らくは。」

 

「紀流お兄ちゃん、早く見せてー!」

 

 

何かわらわら周りに集まってきた。

俺は見世物じゃ無いんだぞ…ったく…

 

 

「じゃあ…行くぞ。」

 

「「「…。」」」

 

 

皆が固唾を呑んで見守る中、俺は目を閉じ…

 

 

「だあっ!!!」

 

 

気を瞬間的に高め、緑眼金髪の超戦士へと変身した。

勿論本気でやると周りにいる人達が吹っ飛ぶので、パワーは最低値にまで下げてあるが。

 

 

「…す…凄い…」

 

 

霊夢が感嘆の声を漏らすと、魔理沙を始めとする周りにいた人達も一斉にうんうんと頷いた。

 

 

「あー、金髪だー!フランとお揃いー♪」

 

「やっぱりこうして見ると、かっこいいわねぇ…♪」

 

「…輝夜…」

 

「スクープスクープっと!

…けど、白黒だとただの白髪になるな…ま、そこは見出しで補う事にしよう!」

 

 

皆が好き勝手喋っているので、俺は気になった事を問う。

 

 

「…で、いつまでなってりゃ良いんだ?」

 

「え、もう限界なの?」

 

「…まだ慣れてないから、ちょっと凶暴性が増すんだよ…

あー、何か苛々してきた気がするー。」

 

「リラックスすれば良いんじゃない、紀流~?」

 

「まだ超サイヤ人に覚醒してから一日しか経ってないから、それは無理な相談なんだが…」

 

「永遠亭を直した時間を含めると一週間は経ってるでしょ?」

 

「…ああ、そうだったな…」

 

「はいはい、そこまで。

もう十分超サイヤ人は拝んだでしょう。宴会に戻った戻った。」

 

 

霊夢に促され、皆はそれぞれ元の場所へと散っていく。おかげで超サイヤ人を解けた。

…そういえば、文と阿求は何処に行ったんだ?

 

 

「おぉ天狗、いたのかぁ~!

まあ、とにかくこっちで一杯やろう!!」

 

「わ、私は紀流さんに取材を…うえっ!?」

 

「そんなのいつだって出来るだろ~。

ほら、此方だ此方~♪」

 

「酒を飲む事だっていつでも出来るじゃ無いですかぁぁぁぁぁぁ…」

 

「ちょっと文さん!何で私まで…」

 

「…。」

 

 

萃香に首根っこ掴まれて連行されていった文と阿求なんて見なかった、うん。

…あぁ、疲れた…

 

 

「…紀流?どうしたの?」

 

「幽香さんですか…」

 

 

ふと顔を横に向けると、幽香さんが眠そうな顔をして俺の顔を覗きこんでいた。

幽香さんは左右にゆらゆらしており、その様子からは昨日の覇気が全く感じられない。

不覚にも可愛いと思った。

 

 

「眠いんですか?

ならもう一回気を…」

 

「もう十分よ…あれ、やられるとぞわっとするのよね…元気になるけど。

それよりも、何でそんな不満げな顔なの?」

 

「…不満…ですか…別にそういうわけじゃ無いですけど…

超サイヤ人って、凄いなぁって。」

 

「…自分で言ってどうするのよ…

確かに凄かったけどね。」

 

「えぇ、凄いんですよ。

つい自分で言ってしまう程にね。」

 

「?」

 

「…幽香さんって、自分の力が抑えられなくなりそうになった事ってあります?」

 

「別に無いけど?

紀流にはそういう経験があるの?」

 

「いえ、俺にもまだありません。

ただ時々、いつかそんな日が来るんじゃないかって思うんです。

…衝動の赴くまま、全てを破壊し尽くしてしまう時が。」

 

「…」

 

「超サイヤ人には、まだ上があるんですよ。

しかし今の形態と次の形態の間には、大きな壁があるんです。

その為には、超サイヤ人を完全にコントロール出来るようにならなくちゃいけない。」

 

「……」

 

「…けど、これ以上超サイヤ人になるのが怖いんですよ…

青髪から金髪に変わったってことは、一段階制御が利かなくなったって事ですから…」

 

 

そう。俺の超サイヤ人がブロリーと同じ道を辿っているとすれば、この次は…

しかし幽香さんはあまり俺の話に興味が無いようであり、一つ欠伸をして口を開いた。

 

 

「で?」

 

「え?」

 

「何が言いたいわけ?私はその超サイヤ人じゃ無いから、アドバイスなんて出来ないわ。

力を使おうが封じ込めようが、それはその力を持つ者の自由。好きにしなさい。

まあ、そんなに悩まなくても良いと思うわよ。ただし…」

 

「…ただし?」

 

「私の畑を吹っ飛ばしでもしたら、超サイヤ人だろうがなんだろうが叩きのめすからね♪」

 

「…は、はい…」

 

 

幽香さんは微笑んで俺の頭に手を置き、脅すかの様にぐいぐいと押す。

…押してるっていうか、ふらふらした足取りがそのまま俺に伝わってるっていうか…

 

 

「…ごめん紀流、やっぱりもう一回気を送ってくれない?」

 

「あ、分かりました。はぁっ!!!」

 

「…っ…ありがとう。

さてと、折角来たんだからもう少し楽しみましょうか。」

 

 

幽香さんは相変わらずふらふらと、しかしさっきよりしっかりした足取りで向こうに歩いていく。

その後ろ姿を見送っていると、不意に誰かが背中におぶさってきた。

 

 

「…祠弥~♪」

 

「…輝夜か…随分酔っ払ってるじゃないか…」

 

「ふふふ~。

祠弥も一緒に飲みましょうよ~、ねぇ~。」

 

「…そうだなぁ…

ま、良いよ。酒には強いからな。」

 

「そう来なくちゃねぇ~。えへへ…」

 

「で、何処で飲む?」

 

「あそこ~。

永琳達がいる所よ~。」

 

「承知した。」

 

 

俺は軽く体を前に曲げ、輝夜をしっかりと背負って永琳達の元へ向かう。

その頃神社の縁側では、二人の妖怪が宴会の喧騒を見ながら話し合っていた。

 

 

「…紀流がそんな事をね…」

 

「随分と贅沢な悩みだと思わない?

紀流なんて本気を出せば…悔しいけど、私よりもずっと強いだろうし…」

 

「『力を使おうが封じ込めようが、それは力を持つ者の自由』

貴方が紀流に言った事でしょう?

まあ、紀流が自分で力を制御しようとしている事は私にとっても大助かりなんだけどね…」

 

「…それって、どういう事?」

 

「紀流の能力は『相手の能力を無効化する程度の能力』。

下手をしたら幻想郷が崩壊しかねない、とびっきり危険な能力なのよ。

もしも紀流がその能力を持った状態で『幻想郷の敵』になったら…」

 

「それは無いでしょ。

あなたが馬鹿な事やって、紀流を怒らせたりしなければ。」

 

「…確かにそうね。

じゃあ紀流に修行する様に、貴方からも言ってあげなさいよ。」

 

「何で私が…」

 

「だって、パートナーなんでしょ?」

 

「あくまでも『戦闘時の』パートナーだけど?」

 

「そう…かしらねぇ?」

 

「…何?何が言いたいわけ、幻想の賢者さん♪」

 

「分かった、分かったから落ち着きなさ…ぐ…」

 

 

幻想の賢者が悶絶した事も気にせず、幻想郷の月はゆっくりと空を横切っていく。

その明るい月明かりの下で、とある人間は願う。

 

 

 

 

 

これからも『普通の人間』として、幻想郷で生きていきたいと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やっぱり『無限大究極パワーの常人』にしましょうか!」

 

「お、中々格好いいじゃないか!

お前もそう思うだろう、天狗?」

 

「…うぇっ…」

 

 

…その願いが、皆に通じているのかどうかは怪しい物だが。




紀流 祠弥
二つ名『無限大究極パワーの常人』←New!

…はい、というわけで永夜抄編はこれでお終いです。
シリアスは苦手です。うん。
次回からは花映塚に入っていきます。永夜抄よりは短い筈。
感想、意見、アドバイス等々募集中。
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