東方有無録   作:印鑑

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第七十六話目です。
ゆっくり読んでいってね!


幽霊達は冥界を目指す〜幽霊雲を食い止めろ

「…どわぁ!?」

 

「紫!スキマを使うんなら前もってそう言いなさいよ!」

 

「腰が痛いぜ…」

 

 

オッス!オラ紀流!

今現在俺は、紫の開けたスキマに突っ込んだと思ったら逆さになって落ちている所だ!

一度に色んな事が起こりすぎて思考が現実におっついてないz…

 

 

「よっと。」

 

「ぐえっ!?」

 

 

幽香さんが思考停止状態で落ちていく俺の足を掴んでくれたので、

俺は地面まで残り数センチの位置で止まる事が出来た。

…頭に血が集まって意識が飛びかけたけど地面に激突しなかっただけましだよね!

 

 

「…ありがとうございます、幽香さん…」

 

「じゃあ、離すわよ。」

 

「あ、はい。」

 

 

俺は地面に両手を付いて逆立ちの状態から腕をばねの様に伸ばして飛び上がり、

縦に回りながら体の向きを戻し、着地する。

 

 

「よし、着地成功。

さてと…ここは何処だ?」

 

「『冥界』なんでしょ、紀流?」

 

「…俺に訊かないで下さいよ…」

 

「ふふ…♪」

 

 

…俺が知らないのを分かりきってるんならわざわざ訊かないでくれませんかね。

まぁ、幽香さんの機嫌が良いんならそれで良いけど。

そんな事を考えながら上空の幽香さんを仰ぎ見ると、ある事に気づいた。

 

 

「…ぐえ…」

 

 

…さっき魔理沙と喧嘩してた女の子が、幽香さんに首根っこを掴まれて苦しそうにしている事に。

あの状態で数分経ったら死ぬだろうな…って冷静に判断してる場合じゃねえ!!

 

 

「幽香さん!その子窒息しかけてますよ!?」

 

「…あら、そう…それ。」

 

「ひゃあ!?」

 

 

何故そのまま手を離すんだ幽香さん!!!下は石畳なんだぞ!!!

俺は咄嗟に地面を蹴って飛び上がり、少女を抱き抱えて幽香さんと同じ高度まで上昇する。

 

 

「…幽香さん…」

 

「何?窒息はしてないでしょう?」

 

「全身打撲しますよ!

あ、大丈夫?」

 

「…う、うん…平気。」

 

「…というか、あなた飛べるんでしょう?

私が離した瞬間に飛べば良かったじゃないの。」

 

「無茶ですよ!

俺だってさっきスキマから落ちた時は飛ぼうなんて考えられませんでしたからね!」

 

「それはあなたが鈍かっただけでしょう?」

 

「そうかもしれませんねぇ!!!」

 

 

俺は少女を抱き抱えている事も忘れ、幽香さんと軽く口論する。

…鈍い事を認めてる時点で負けてる気がするけど。

 

 

「…あの…」

 

「あ、もう落ち着いた?」

 

「うん…だから…」

 

「じゃ、降りるよ。

幽香さんも。」

 

「♪」

 

 

俺と幽香さんは地面に降り、少し向こうで集まっている霊夢達の元へ向かう。

途中で女の子がもぞもぞし始めたので、俺は慌てて女の子を下ろして立たせた後、

俺は後ろから霊夢に話しかけた。

 

 

「なあ霊夢、ここって冥界なのか?」

 

「多分、いや確実にそうね。

…ここに私達を連れてきた張本人がいないのが気になるけど。」

 

「え、紫はいないのか?」

 

 

俺はそう言いながら集まっている人々の顔を見回すが、何処にも紫の姿は無い。

不満げな顔の霊夢、不思議そうな顔の魔理沙と霊武さんと赤髪ツインテールの女性、

そして敵意剥き出しの目付きで此方を睨み付けている閻魔さんがいるだけである。

 

 

「全く、こっちは腰を痛めたっていうのに…

無責任な奴だな…」

 

「しかし、随分と慌てていた様だったが…一体どうしたんだろうな?

私が知る限りでは、紫があんなに慌てる事なんて数回しか無かった様に思うが…」

 

「私も姉さんと同じ考えね。

紫があそこまで慌てるなんて、ただ事じゃない。

…少なくとも、『紫』にとってはね。」

 

「「…。」」

 

 

霊夢と霊武さんはその場で考え込み、思考を巡らせている様だ。

その間ずっと閻魔さんの視線に耐えるのも辛いので、俺は隣にいる幽香さんに話しかける。

 

 

「幽香さんはどう思いますか?」

 

「あいつの居場所について?

さあね、少なくともこの辺りにいる事は間違いないんじゃない?」

 

「そう…ですか。」

 

「しかし、冥界かー。

春雪異変以来だな、ここに来るのも。」

 

「…春雪異変?」

 

 

魔理沙の口から発せられた言葉に反応し、俺は魔理沙の言葉をそのまま疑問形にして返す。

 

 

「え、自分が解決した異変なのに祠弥は覚えてないのか?

超サイヤ人に覚醒して紫を倒しただろ?」

 

「…あぁ、やたら雪が降りまくった異変か。

勿論覚えてるけど、春雪異変なんて名前が付いてたとは知らなかったな。」

 

「まぁ新聞で勝手に名付けられた名前だから、知らないのも仕方ないと思うぜ?」

 

 

…春雪異変か…そう言えば、幽々子と妖夢は元気にしてるかな?

輝夜達と戦ったあの異変の宴会以来見てないからな…

その時の思い出に心を浸しつつ俺はふと、例の異変の時に登った長い階段を見上げる。

 

 

「…!?」

 

 

そして、驚いた。少し鳥肌立った。

いや、だってさっきまで上空には何も無かった筈なのに、

今見てみたら雲みたいに寄り集まった幽霊らしき物が頭上一杯に広がってるんだぞ…

 

 

「祠弥、どうしたんd…げえっ!?」

 

 

魔理沙も俺の視線を追って上を向き、俺と同じ様にその場で固まった。

俺達二人につられ、皆は次々と上を向いてそのまま固まる。

 

 

「…何よ…あれは…」

 

「幽霊ですね。」

 

「見れば分かるわよ!!

何であんな入道雲みたいな形になってるわけ!?」

 

「…ってか、冥界に空なんてあるのか?

あったとしても入道雲が発生するのk…」

 

「うるっさいわねぇ!例えよ、例え!!

全く魔理沙、一々私の言う事にけちをつけないでくれない!?」

 

「…分かったよ。」

 

 

魔理沙は渋々、という様な表情で口を閉じる。

その間にも幽霊達は四方八方から集結していき、上空の雲は益々大きくなっていく。

 

 

「…しかし…一体何で、あんなに幽霊が集まってるんだ?」

 

「あなたはどう思うの、紀流?」

 

「俺が知りたいです。」

 

「ふーん…」

 

 

幽香さんは俺から目を離し、再び視線を上に向ける。

その横では、赤髪の女性と閻魔さんが同じく幽霊達を見上げながら話し合っていた。

 

 

「…もしも幽霊達がここに集まってこなかったら、

私があの量の幽霊達を全員運ぶ羽目になっていたんですかねぇ…」

 

「当然でしょう。貴方の仕事は三途の河で死者を運ぶ事なんですから。

それにどちらにせよ、これからあの幽霊達を三途の河に誘導するんですからね。」

 

「えぇっ!?過労死しちゃいますよ、四季様ぁ~…」

 

「死神が過労死してどうするんですかっ!!!」

 

「大体あれだけの幽霊達をいっぺんに運べるわけ無いですよ!

ましてや小分けにしたらどれだけかかる事か…」

 

「…じゃあ、『あの幽霊達を運びきったら今までさぼっていた事をちゃらにする』

って事にしてあげましょうか?」

 

「ふぇ!?」

 

「…本来なら全く割に合いませんけどね。

貴方が真面目に仕事をしなかった事による影響はあれの数倍、いや数十倍か…」

 

 

…数十倍って…死神さん、あんたどんだけ仕事さぼってたんだよ。

そのまま愚痴を言い続けている閻魔さんのオーラがどす黒く変化してきているのを察したのか、

女性は大声を張り上げて閻魔さんの愚痴を遮った。

 

 

「…ま、任せて下さいっ!

あれしきの幽霊、この私『小野塚 小町』がさくっと渡してみせますっ!!!」

 

「では頼みますよ、小町♪」

 

「は、はいぃっ!!!」

 

 

閻魔さんの笑顔に戦慄した小町は、直ぐ様地面を蹴って幽霊達の集合体である雲の元へと向かう。

…今の閻魔さんの笑顔だけで悪人が蒸発しそうだな。

 

 

「こら、お前達っ!!

四季様が怖いのh…じゃない、死んだ事を認められないのは分かるが、大人しく私に付いてこ…」

 

 

小町がそう叫びながら幽霊達に近づいたと思った次の瞬間。

その大きさからは信じられない程素早く、幽霊達は階段の奥へと移動し始めた。

 

 

「えっ!?」

 

「「「!?」」」

 

 

俺達がそれに対する驚きを表せない内に、

幽霊達の進行方向である階段の奥から連続した赤と青の閃光が閃き、幽霊達を吹き飛ばした。

その閃光に俺は見覚えがある。

 

 

「…今のは…紫のスペルだな。」

 

「じゃあ、紫はあの上にいるわけね!」

 

「…紫があそこまでやるという事は、やはり何か飛んでもない事が起こっているんだろうな。

そして、あの幽霊雲はそれに関係している。」

 

 

霊武さんがそう言う間にも吹き飛ばされた幽霊達はより集まり、

再び雲となって奥へ進もうとしている。

 

 

「とにかく行くしか無いみたいだな、霊夢?」

 

「あんたに言われなくたって分かるわよ、魔理沙。

さあ、何が起こってるのか見極めにいくわよっ!!!」

 

「合点承知だぜっ!!!」

 

 

霊夢と魔理沙は階段の一段目を蹴って飛び上がり、そのまま階段に沿って飛んで上を目指す。

咄嗟に俺も後を追おうとして飛び上がったが、何故か足を掴まれて地面に引き戻された。

 

 

「幽香さん!?」

 

「わざわざ飛んでいく必要なんて無いでしょう、紀流♪」

 

「へっ?」

 

「えーと、『瞬間移動』だったかしら?

それを使えば、あっという間に上まで行けるんじゃない?」

 

「あぁ、その手がありましたか!!!

じゃあ早速…」

 

「♪」

 

 

幽香さんは俺に近づき、俺の頭に右手を置く。

…何で肩とかじゃ無く頭なのかは置いておくとして、とにかく今は紫の気を探る事に集中だ!

 

 

「…見つけたっ!

皆掴まれ!今から瞬間移動するぞ!!」

 

「「「え、瞬間移動!?」」」

 

「はい!!!」

 

 

霊武さんと閻魔さん、そしてメディスンは戸惑いながらも俺に近づき、頭に手を乗せた。

…別に頭である必要性は皆無なんだけどなぁ…

俺より背の低いメディスンまでわざわざ浮いて手を乗せてるよ。何だこの微妙な劣等感は。

…まあいい。

 

 

「…はっ!」

 

 

俺は瞬間移動をし、紫の後ろまで移動した。

…最もそこは紫の式神である『八雲 藍』とその式神『橙』が今まさに召喚された場所だったが。

 

 

「わわわっ!?」

 

「どうしたの…あ、紀流!

抜群のタイミングで来てくれたわね!悪いけど少し手伝ってくれる!?

…藍、橙、攻撃開始!」

 

「お任せ下さい!!!

行くぞ橙!式輝『狐狸妖怪レーザー』!!!」

 

「はいっ、藍様!鬼符『赤鬼青鬼』!!!」

 

 

藍と橙は同時にスペルを発動し、紫の前に出て幽霊達の集合体の前に立ち塞がる。

すかさず藍は九本の尾の先からの赤と青のレーザーを放って幽霊達を散らし、

更に橙が追い打ちをかける様にして赤と青の大玉弾幕を撃ち、幽霊達を弾き飛ばす。

 

 

「やったあ!」

 

「橙、気を抜くな!」

 

「あっ!?」

 

 

二人がスペルを発動し終わった隙をつき、まだ吹き飛んでいない幽霊達は奥に進もうとする。

しかしその試みは、幽香さんの傘から放たれたレーザーによってあっさりと失敗した。

 

 

「ふうっ。」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「…礼は良いわ。

それよりも、幽霊がまた集まってきてるわよ?」

 

 

確かに幽香さんの言う通り、

藍と橙のダブルスペルによって吹き飛んだ筈の幽霊達は再び集まり、雲を形成している。

…幽香さんのレーザーに呑み込まれた幽霊もいつの間にか復活してるよ…

 

 

「…くうっ…

紫様!これではきりがありませんっ!!」

 

「承知の上よ!

…紀流に霊武、今すぐに西行妖に向かって!!霊夢と魔理沙と死神もそこにいるわ!!!」

 

 

え、もう三人共ここまで来てたのか!?速いな…なんて感心している場合じゃない!

 

 

「分かった!分かったが…」

 

 

幽香さん達はどうするんだと俺が言いかけると、

俺と同じ事を考えていたらしき幽香さんが言葉を繋いだ。

 

 

「…私と閻魔とこの子はどうすれば良いの、紫?」

 

「貴方達は…

ここで私達に協力して!!幻巣『飛行虫ネスト』!!!」

 

 

紫は叫びながら無数のスキマを自身の周りに開け、そこから光弾を発射して幽霊達を攻撃する。

その声に只ならぬ物を感じ取った幽香さんは頷き、紫の横に移動してスペルを宣言した。

 

 

「花符『幻想郷の開花』!」

 

 

幽香さんは傘で空中に無数の丸を描き、そこから向日葵の形をした赤い弾幕を生み出す。

無数の向日葵は回転しながら幽霊達に向かって飛んでいき、

回転と同時に全方向に飛び散る花弁形の弾幕で幽霊達を蹴散らしていく。

 

 

「…凄い…」

 

「紀流!見とれるのは分かるが、今は取り敢えずその『西行妖』とやらに向かうぞ!」

 

「やべっ、そうだった!!」

 

 

俺は幽香さん達に背を向け、向こうに見えている超巨大な桜の大樹『西行妖』に向かって飛ぶ。

…その時から、何かこう…心がずしんと重くなる様な、嫌な感じがしていた。

 

 

「…っ!?」

 

 

…横にいる霊武さんの反応からして、霊武さんも俺と同じ『嫌な感じ』を感じ取った様だ。

 

 

「…急ぎましょう、霊武さん!」

 

「…あぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な…!?」

 

 

辿り着いた先で見たのは、酷い光景だった。

亀裂が入り、崩壊している大地。根元から引っこ抜かれた様に散乱している、無数の桜の木。

引っこ抜かれる前は、恐らく美しい桜が一杯に咲いていたのだろう。

…木の周りに散らばっている、おびただしい量の花弁を見ればそれが分かる。

 

 

「これは…一体…!?」

 

 

霊武さんの疑問に対して答えるかの如く、俺達を見下ろす様な位置に無数の人魂が出現する。

 

 

「ん?」

 

「…紀流、気をつけろ。こいつらは先程の幽霊とは…」

 

 

霊武さんがそう言いかけた刹那。

 

 

「「!?」」

 

 

浮いていた人魂達が、

一斉に霊武さんを目掛けて幽香さんに匹敵するレベルのレーザーを放った。

 

 

「危ないっ!!!」

 

「うわっ!?」

 

 

俺は咄嗟に霊武さんの胴を掴み、全力でレーザーの進行方向から脱出する。

レーザーはそのまま下の地面に接触して大爆発を起こし、倒れていた木々を消し飛ばした。

 

 

「あ…危なかった…

ありがとう、紀流…」

 

「…お礼は後で良いです!

喰らえ!散弾『トラップシューター』!!!」

 

 

俺はスペルを発動して右手に力を込め、

力一杯腕を横に振り抜いて緑色の気弾を人魂目掛けて発射する。

人魂は全く避けようとせず、見事に俺のスペルは命中して爆発が起こったのだが…

 

 

「…なあっ!?」

 

 

煙の中で何かが煌めいたかと思うと、今度は俺に向かってレーザーが飛んできた。

発射元には、人魂が何事も無かったかの様に佇んでいる。

 

 

「ちっ!波符『かめはめ波』!!」

 

 

俺は直ぐ様両掌を合わせて後ろに引き、気を溜めて青い光線を向かってくるレーザーに撃つ。

しかし何とレーザーはかめはめ波と接触する前に折れ曲がり、

スペルを撃って無防備になっていた俺に直撃した。

 

 

「し、しまっ…」

 

 

レーザーは俺の体を一瞬で熱し、俺が今まで感じた事の無い痛みを与えた。

いつまでも絶える事無く続く痛みを。

 

 

「あ…ぎ…」

 

 

抜け出そうとしても、体に力が入らない。

指一本を動かそうとする度に、それを見計らった様に熱が襲いかかってくる。

 

 

「紀流っ!!!」

 

 

まさに全身が焼け落ちるかと思った瞬間に霊武さんの声が聞こえ、

体を引っ張られる感覚と共に、俺は熱から解放された。

 

 

「紀流!大丈夫か!?」

 

「…あぁ、はい…俺は平気ですっ…!?」

 

「私の腕なら気にするな、袖が焦げただけだから。

これで借りは返したぞ、紀流。」

 

「…いや、袖だけって…」

 

 

…どう見ても袖が肩の部分まで丸ごと無くなってるんだが。

 

 

「さあ、今度は此方から行くぞっ!」

 

 

霊武さんは平気そうな顔で、漂っている人魂に突っ込んでいく。

人魂はそれを察知し、再びレーザーを霊武さんに向けて発射した。

 

 

「むんっ!」

 

 

霊武さんは速度を緩めずにレーザーに向かい、腕を振るってレーザーを後ろに弾いた。

レーザーは霊武さんの後ろにいた俺を一度は通り過ぎていったが、

そのままある程度飛んだ所で分裂し、壁に跳ね返る様にして再び霊武さんに向かっていく。

 

 

「波符『かめはめ波』!」

 

 

俺は再び気を溜め、分散したレーザーに向かって青い光線を放つ。

しかし、今度はただ撃つだけではない。

 

 

「よぉぉぉいっ!!!」

 

 

手を合わせたまま、俺は腕をぐるっと大きく回す。

それに合わせて俺の撃ったかめはめ波はぐにゃっと曲がり、レーザーを全て消す事に成功した。

 

 

「良し、後は…

霊武さん、そこから退いて下さいっ!!」

 

「分かった!」

 

「さあて、覚悟しろよ…はぁっ!!!」

 

 

霊武さんが退いたのを見ると、俺はかめはめ波を操って人魂に向かわせる。

人魂はレーザーを発射した直後だった為か反撃してこず、かめはめ波はクリーンヒットした。

 

 

「これで無傷だったら…」

 

「…化け物だなっ!」

 

 

霊武さんはそう言いながら煙の中に突っ込み、気を一気に解放して煙と人魂を吹き飛ばす。

人魂も流石に堪えたのか次第に輝きが薄れていき、やがて塵となって虚空に消えた。

 

 

「よっしゃぁ!」

 

「やったな、紀流!

おっと、こんな所で喜んでる場合じゃない!行くぞ!!」

 

 

疲れを全く見せずに、霊武さんは西行妖に向かって飛ぶ。

霊武さんに負けじと、俺も全速力で飛んだ。

…そこを去る一瞬、視界の端に光が見えた気がしたが。

 

 

「…?」

 

 

俺は少し気になったが、直ぐに頭を振ってその事を頭から追い出す。

今俺がすべき事は、西行妖に向かう事なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

「…。」

 

 

絶句した。さっきの方がまだ良かった。

地面の様子とか、引っこ抜かれた木々はほぼ同じ。

しかし、その『空』には。

 

 

「これ…全部さっきの人魂かよ…」

 

 

西行妖の枝を全て覆い尽くす程大量の人魂が、ふわふわと漂っていた。

何この絶望感。霊夢達は大丈夫か…

 

 

「…霊夢…どこだっ…!」

 

「ああちょっと、霊武さん危ない…おっと!!」

 

 

霊武さんが動き始めた瞬間、人魂は一気に反応してレーザーを霊武さんに撃ち始めた。

無数のレーザーは屈折を繰り返し、霊武さんをぴったり狙って飛び続ける。

 

 

「…くそっ…!」

 

「無茶ですよ、霊武さん!

瞬間移動しましょう、瞬間移動!!」

 

「…分かった、早めに頼むぞ!!」

 

「後言っておきますが、別に手を頭に置く必要はありませんからね!!!」

 

「あ、そうなのか…」

 

 

霊武さんは少し意外そうな顔をした後、俺の左手を掴む。

それを確認し、俺は眉間に指を当てて霊夢の気を探る。

 

 

「…あった!

…しかし、何でこんな弱々しいんだ?」

 

「紀流!攻撃が来るぞっ!!」

 

「…えぇい、ままよ!

『瞬間移動』!!!」

 

 

俺は何故か弱々しい霊夢の気を感じ取り、霊武さんと一緒に瞬間移動する。

終わった瞬間、直ぐに異変に気がついた。

 

 

「…はぁ…はぁ…」

 

「…くっそう…まさかここまで疲れるとは…」

 

「…参ったねぇ…」

 

 

三人とも全身がぼろぼろなのだ。

 

 

「霊夢っ!?何があったんだ!?」

 

「…あ…姉さんに祠弥…

全く…遅いわよ…」

 

「大変だったんだぜ~?

襲ってくる人魂達をマスタースパークで吹き飛ばす作業は…」

 

「…私の言う事にも全く耳を貸さなかったからね…」

 

 

…まさか今まであの量の人魂を三人で相手してたっていうのか…

そんな事を考えていると後ろから此方に駆けてくる足音が聞こえてきたので、ふと振り向いた。

 

 

「あ、紀流さんも来てくれたんですか!」

 

「妖夢!」

 

 

そこには、救急箱を両手で抱えている『魂魄 妖夢』の姿があった。

妖夢は救急箱を下ろして包帯等を取り出し、慣れた手つきで霊夢達を治療していく。

 

 

「大丈夫ですか?

…私もあまりこういう事には慣れていないので、至らない所があるかもしれませんが…」

 

「えぇ、ありがとう。

ふふ、前は私が包帯を巻いてあげてたのにね。」

 

「おーい妖夢、此方も頼むぜー。」

 

「はい、今すぐ!」

 

 

妖夢は包帯を両手に持ち、魔理沙と小町の元へ駆けていく。

その様子を霊武さんは暫く眺めていたが、やがて思い出した様に霊夢の方に向き直った。

 

 

「で、霊夢。一体何がどうしたんだ?」

 

「紫に『西行妖に向かってくれ』って言われてここまで来たのよ。

そしたら突然人魂みたいなのが大量にわき出てきて、今に至るってわけ。」

 

「ごめんなさいね~。

西行妖の自己防衛がちょっと激しすぎたみたいなのよ~。」

 

 

のんびりしたトーンの声と共に現れたのは、白玉楼の主『西行寺 幽々子』。

頭を下げている彼女に対し、霊夢はその事はもうどうでも良いとでも言いたげに腕を振る。

 

 

「…だからさっきも言ったでしょ?

謝るべきなのはあんたじゃ無くて、私達をここに向かわせた紫だってね!」

 

「けど、まさか幽霊達がここに向かってくるなんてね~。

閻魔さんが怖くなって逃げ出してきちゃったのかしら?」

 

「…それもあるかもしれないわね。」

 

「認めるのかいっ!?」

 

「あいつと直々に戦ったあんたの口から、そんな言葉が出るとは思わなかったわ…」

 

 

霊夢はそう言いながら溜め息をつき、疲れきった顔で西行妖を見上げる。

相変わらず枝の間には人魂が密集しているが、此方に向かってレーザーを撃ってはこない。

…それにしても、あんな防衛機能があったとはな。幽々子と妖夢だけで暮らしていけるわけだ。

 

 

「妖夢が戻ってきたらお茶を用意させるから、それまでゆっくりしてて良いわよ~。」

 

「…お茶って…冥界結構壊れてるぞ?」

 

「大丈夫よ~。」

 

 

…何を根拠に大丈夫って言ってるんだ、幽々子は。

まあ、直す自信があるんだろう。方法は見当もつかないが。

 

 

「…しかし…何で幽霊達は冥界に来たんだろうな?」

 

「だから、閻魔さんが怖かったんでしょ~?」

 

「いや、それは無いと思う。

何か盲目的だったんだよな、あいつらの動き。」

 

「それは私も思ったな。

どれだけ紫の攻撃を喰らっても奥へ進もうとするあの執念…どう考えても変だ。」

 

「けど、悪霊ってわけでも無さそうだったわよ?」

 

「問題はそこだ。

何故悪霊でも無い幽霊達が、あれほどの大群でここに集まってきたのか…」

 

「「「…。」」」

 

 

俺と霊夢と霊武さんは頭を捻り、考え込む。

…あの幽霊達はここに向かっていると言うよりはむしろ、

『ここに引き寄せられている』って考えた方がしっくり来るんだよな。理由は分からんが。

 

 

「…なぁ幽々子、ここには幽霊が好む何かがあるのか?」

 

「まぁ、ここは冥界だからね~。

環境とか空気とかは幽霊向きなんだと思うわよ~。」

 

「…けど、あの幽霊全員が移住者って事は絶対無いよな?」

 

「そうかしら~?」

 

 

…駄目だ、さっぱり分からん。

 

 

「皆さーん、お茶を淹れましたよー!」

 

 

不意に元気な声が聞こえてきたので、俺は思考を止めて顔を上げる。

妖夢はお盆に湯呑みを乗せ、妖夢は魔理沙と小町の側にしゃがんでお茶を注いでいた。

 

 

「おっ、気が利くな!」

 

「じゃあ、遠慮なく頂くとしようかねぇ。」

 

「妖夢、こっちにも~。」

 

「はい、ただいま!」

 

 

妖夢は此方に移動し、幽々子と霊夢と霊武さんにお茶を注いだ湯呑みを渡す。

よし、俺も…

 

 

「妖夢、俺にも頼む。」

 

「分かりました!

はい、どうz…」

 

 

妖夢が湯呑みにお茶を注ぎ、俺の方に差し出した瞬間。

突如巨大な地鳴りが立て続けに起こり、冥界を目一杯揺るがした。

 

 

「ひゃあ!?」

 

「わっと…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

妖夢がよろけた事によって俺は熱々のお茶を顔面一杯に喰らう事になり、

思わず仰け反り返って地面を転がり回った。

 

 

「お、落ち着くんだ紀流…」

 

「姉さん、土かけて!

土の温度って意外と低いから、水の代わりになるはずよ!!」

 

「良し分かった!そー…れいっ!!!」

 

「ごふぼっ!?」

 

 

顔を全て覆い尽くす程の量の土を顔にかけられたので、

俺は堪らず起き上がって口の中の土を出し、新鮮な空気を確保する。

 

 

「…ごほっ…殺すつもりですか!?」

 

「でも冷えたでしょ?」

 

「そのまま死んで冷えきる羽目になるかと思ったわ!!!

…死ななかったから良いけど。」

 

「い、良いのk「実際あまり良くありませんよ?」…。」

 

 

…はぁ…全く、一体どうしていきなり地鳴りなんて…

 

 

「…うーん、向こうに見えるふわふわした雲みたいなのが幽霊達なの?」

 

「え?」

 

 

俺は幽々子の向いている方向を見る。

その視線の先には例の幽霊雲があり、真っ直ぐ此方へと向かってきていた。

 

 

「!?」

 

「まさか紫、あれを止めるのに失敗したってわけ!?」

 

「…残念ながらね。」

 

 

霊夢の言葉に答えた悔しげな声と共に空中にスキマが開き、

紫や幽香さん達が姿を現して地面に降り立った。

皆目立った傷などは無いものの、肩で息をしている辺り、結構消耗している様だ。

 

 

「あら、紫~。久し振りね~。」

 

「…挨拶は後。今はあの幽霊を止めないと!

霊夢、結界を張るわよ!!!」

 

「…はいはい、分かったわ…人使い荒いわねぇ。」

 

 

霊夢はそうぼやきながらも浮かび上がり、既に飛んでいた紫の横に並ぶ。

そして二人はスペルを取り出し、二人同時にスペルを発動して結界を張ろうとした次の瞬間。

 

 

「…あ!?」

 

 

西行妖の方で何かが煌めいたかと思うと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二筋の光が、霊夢と紫の二人を貫いた。

 

 

「「「!?」」」

 

「…え…?」

 

 

霊夢は自身の身に何が起こったのか理解出来ず、そのまま地面に落ちていく。

 

 

「霊夢っ!!!」

 

 

霊武さんは地を蹴って飛び上がり、落ちてくる霊夢をしっかりと抱き抱え、着地する。

…服が血で真っ黒に染まっているのを見る限り、致命傷にしか見えない。

 

 

「霊夢…おい、しっかりしろっ!!!」

 

「…ふふ…」

 

 

霊夢は笑っている。生気の無い、真っ青で最悪の笑顔だ。

妖夢は慌てて救急箱を開いて大きな布を取り出し、霊夢の傷に当てて止血しようとしている。

 

 

「なぁ…霊夢、死んでないよ…な?」

 

「そんな物騒な事を言うなっ!!!」

 

「す…すまん。」

 

 

霊武さんも魔理沙も、もう泣きそうだ。

 

 

「紫っ!?ねえ、大丈夫!?」

 

「…この程度なら…大丈夫…よ。

それよりも、幽霊を止めて…」

 

「な、何言ってるのよ、紫…」

 

「良いから止めて!でないと貴方が…げぼっ!!!」

 

 

紫は両手で口を押さえ、嘔吐する。吐いているのは全部真っ赤な血だ。

 

 

「…ひっ…!?」

 

 

幽々子はその光景に恐怖し、思わず後ずさる。

 

 

「「紫様!?」」

 

「…何の…これしきよ。

それよりも…幽々子…っ!」

 

 

紫は血を吐きながらも手を幽々子に伸ばし、必死に何かを伝えようとしている。

 

 

「は…早く…」

 

「…い…嫌…何で…

どうして紫とあの子g…」

 

 

幽々子がそこまで言い終わらない内に、幽々子の姿は掻き消えた。

そして、その事に俺を含めて誰も驚けないでいる内に。

 

 

「…っ!?」

 

 

背中に凄まじい悪寒を感じ、俺は咄嗟に振り返った。

西行妖が、見事に満開になっている。別に人魂が花に見えているわけでもない。

他の人々も俺と同じ悪寒を感じたのか、次々と振り返って西行妖を見上げる。

 

 

「さ、桜が…」

 

「咲いた…?」

 

 

皆が驚きの表情で西行妖を見上げている中、その中の一人がその場に崩れ落ちる。

今まで空中に何とか浮かび続けていた紫である。

 

 

「西行妖が…西行妖がぁ…」

 

「おい紫、西行妖が咲くと一体何が…」

 

 

そこまで聞いた所で、俺はずっと前に幽々子が言っていた事を思い出した。

 

 

『この大きな桜の木が、人間さんの言っていた『西行妖』なのだけれど、

実はこの木の下にはある人が封じられているの。』

 

 

という言葉を。

そしてその『ある人』の正体は、今まさに明かされようとしていた。

瞬間、西行妖の根元から光が溢れ出し、辺りを照らす。

思わず目をすぼめているとその光は次第に収縮していき、直径二メートル程の球となった。

 

 

「…?」

 

 

そしてその光球もやがてその輝きを失い、消えた。

場に残ったのは、その光球の中にいたとある人物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…フフフ…。」

 

 

怪しく微笑んでいる、『西行寺 幽々子』だけであった。




…はい、というわけで妖々夢編で反魂蝶を撃つ事なく封印された西行妖の復活です。
別に存在を忘れてたわけじゃ無いですよ?
色々と大ピンチな状況で以下次回です。楽しみにしててね!
感想、意見、アドバイス等々募集中です。
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