東方有無録   作:印鑑

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間が空いてしまったが、第七十七話目です。
説明回は長いの法則(おい)
ゆっくり読んでいってね!


甦った『西行妖』〜桜の亡霊の昔語り

「…フフフ…」

 

「…幽々子?」

 

 

オッス!オラ紀流!

今現在、霊夢と紫がレーザーに貫かれたと思ったら西行妖の根元から幽々子が出てきた所だ!

何を言っているのか分からないと思うが俺自身も何が起こったのかさっぱりだぜ!

 

 

「…ゆ…幽々子…様…?」

 

「あれって…幽々子だよな、祠弥?」

 

 

妖夢と魔理沙は首を傾げ、不思議そうな顔をしながら幽々子を見つめる。

魔理沙が俺にあれが幽々子か否か訊ねてきたので、俺は幽々子から目を離さずに答えた。

 

 

「あぁ、多分な。

けど、外見が同じだけの別人って可能性も捨てきれないからなぁ…」

 

 

そう思うのも仕方がない。

西行妖の根元に立っているのはどう見ても幽々子だが、何か違うのだ。

周りの皆も同じ様に感じたらしく、微妙な表情を浮かべて幽々子を見つめている。

 

 

「フフフフフフ…」

 

「…。」

 

 

で、当の幽々子は下向いたまま不気味に笑い続けてるんだが。

はっきり言って怖いが、このままだと埒が開かなそうなので俺は声をかけてみる事にする。

 

 

「おーい、幽々子?

さっきまで俺達と一緒にいたのに、何で今西行妖の下から出てきたんだ?」

 

「…。」

 

 

俺が呼び掛けると幽々子(仮)は笑うのを止め、うつむいたまま黙りこくった。

顔の表情が全く見えないので何考えてるのかが分からん。

 

 

「おーい?ちょっとー?

幽々子ー?西行寺幽々子ー!?」

 

「……。」

 

 

…おいおい、無視ですか?

全く、こんなに大声張り上げてるんだから反応ぐらいしてくれよ…

それとも聞こえて無いのかな?

 

 

「…紀流…駄目!離れなさい!!

そいつは幽々子じゃ…」

 

 

俺が幽々子に近づいていくのを、紫は喉から声を絞り出して警告する。

 

 

「え、何言っt…」

 

 

その声に反応し、ふと振り向いたその瞬間。

 

 

「っ!?」

 

 

俺の右耳すれすれを一筋の光が通過し、そのまま紫に直撃して大爆発を起こした。

…What!?

 

 

「…!?」

 

 

もうもうと上がる土煙を凝視しながら、その場で固まっていると。

 

 

「…ちっ。」

 

 

後ろからの舌打ちと同時に土煙の中心で何かが爆ぜて煙が一瞬で晴れ、

厳しい顔付きの霊武さんが姿を現した。

霊武さんの後ろでは、魔理沙と小町、そして閻魔さんが紫を庇う様にして立っている。

 

 

「…貴様、何のつもりだ?」

 

「…。」

 

「おい、さっきから此方の質問にはだんまり決め込みやがって!

此方の言葉は通じないのか!?」

 

「…フン。」

 

 

魔理沙の言葉に幽々子(仮)は少し反応し、右腕をゆっくりと挙げて前に突き出す。

その掌は、真っ直ぐ魔理沙へと向けられている。

 

 

「…。」

 

 

不意に、幽々子の掌が歪んだ様に見えた。

その現象に俺は何かとてつもなくやばい物を感じ、その勘に従って素早く右腕を後ろに引き…

 

 

「はぁっ!」

 

 

幽々子の掌目掛けて右腕を突き出すと同時に気を放出した。

それとほぼ同じタイミングで幽々子の掌の歪みは膨張し、空間を走り抜けて俺の気と衝突する。

瞬間、その場所から凄まじい衝撃波が発生し。

 

 

「!?」

 

 

同じ極同士の磁石を無理矢理くっ付けようとした時の様な感じで右腕を弾かれた。

同時に衝撃波にも襲われた為に危うく吹き飛ばされかけたが、腰を深く落として何とか耐える。

 

 

「っ!?

あいつ、今何をしたんだ!?」

 

「空間が歪む程の気を放った…って言えば分かりますかね?」

 

 

実際今のが何なのか俺にも分からん。

ただ一つ言えるのは、幽々子は何も喋らずに相手の息の根を止める様な奴じゃ無かったって事だ。

となると、必然的に次の疑問が生まれる。

 

 

「お前、一体何者だ?」

 

 

『お前誰だ』という至極真っ当な疑問が。

 

 

「…。」

 

「おっと、質問には答えてくれよ?」

 

 

又もや幽々子(仮)は何も喋らずに右掌を突き出したので、

俺は軽く地面を蹴って幽々子の前まで移動し、此方の右掌を相手の右掌に当てた。

仮にまたあの攻撃を放ってきたとしても、十分に対抗出来る事を示す為である。

 

 

「…。」

 

「別に話が通じないわけじゃ無いだろ?」

 

 

そう言いながら俺は視線を上げ、幽々子(仮)の表情を伺う。

目にあたる部分は影で隠れており、どんな目で此方を見ているのかは分からない。

目が駄目なら口を見ろとばかりに、俺は幽々子の口元に視線を移した。

 

 

「…フフ…」

 

「…!?」

 

 

それがいけなかった。

幽々子(仮)は突然、口角を上げて俺に(何故か分かった)微笑み…

 

 

「おうっ!?」

 

 

空いていた左手を握り締め、瞬時に気を溜めてその拳を俺の腹に叩き込んだ。

完璧に油断しきっていた俺はまともに喰らい、そのまま地面すれすれの所をすっ飛んでいく。

 

 

「「紀流っ!」」

 

「うわっとぉ!?」

 

 

鋭い声と共に俺は肩を掴まれ、その場で急停止する。

…いきなり止められたんで肩が外れそうになったけどな。

 

 

「大丈夫か、紀流?」

 

「全く、あれだけ近づいたら攻撃されるに決まってるじゃない…

私と一緒に居たんだから、それぐらいは分かるでしょう?」

 

「…すみません、霊武さんに幽香さん…」

 

 

俺は受け止めてくれた二人に礼を言い、体を起こしてしっかりと立つ。

十数メートル先では、幽々子(仮)が先程俺に捩じ込んだ拳を突き出したまま立っている。

表情は直接は見えないが、多分…いや絶対に笑っているだろう。

 

 

「祠弥!?大丈夫か!?」

 

「あぁ、何のこれしきって所さ。」

 

「…幽々子様が紀流さんに攻撃するなんて…

どうしちゃったんですか、幽々子様…」

 

「いや妖夢、あいつは幽々子じゃ無い。

今の攻撃を喰らって、はっきりとそれが理解出来た…」

 

「えぇっ!?

じゃあお前さんはあの人の正体を見極める為に、敢えて攻撃を喰らったっていうのかい!?」

 

「…はい?」

 

 

何言ってんだ小町さん。いくら俺でもそこまで常識外れな事は…

 

 

「成る程な!普通ならおかしいけど、祠弥なら納得だぜ!」

 

「…人間である事を自覚せよ、と言ったばかりだと言うのに…」

 

 

いや待て。ちょっと待て。直ぐに待t…

 

 

「流石は『普通の人間』ですね、紀流さんっ!」

 

「…全く、そんな下らない無茶をするな!」

 

 

止めろ!尊敬と呆れと哀れみの目で俺を見るな!!

その時、幽香さんがため息をついて皆を見回し、口を開いた。

 

 

「良い加減にしたら?

紀流が作戦を立てて相手に挑みかかると思う?」

 

「…え…」

 

「あぁ、確かに…

祠弥って大体は行き当たりばったりだからなー。」

 

「うぉぉぉいっ!?」

 

 

掌返すな!まあ合ってるけど!!何も考えて無かったけど!!!

俺はその感情を込めて一声吠えた後、軽く落ち込みながら向こうにいる幽々子(仮)に話しかける。

 

 

「…で、お前幽々子じゃ無いんだろ?」

 

「…だとしたら、どうするのかしら?」

 

 

俺の声に答えたのは、明らかに幽々子では無い女性の声。

しかも不思議な事に、先程まで幽々子(仮)があげていた笑い声とも声質が違う。

気になってしょうがないが、今は取り敢えず今聞こえてきた声に返答するか…

 

 

「正体を教えてもらいたい。」

 

「正体…クフフフフ…もう分かりきっているんじゃないのか?

いや、そこの妖怪が倒れているんじゃ知りようが無かったか。」

 

「…。」

 

 

また、違う声だ。今度は男性の声。

…あぁ、滅茶苦茶声の出所が気になる。

そんな事を考えていると、霊武さんと魔理沙が戦闘態勢をとりながら俺の前に出てきた。

 

 

「紫がお前の正体を知っていると言うのなら、私達は知りようがない。

紫は一度も、お前の様な者について話してはいなかった。」

 

「そうだそうだ!霊夢だってそんな話しなかったぜ!

幽々子とそっくりな奴の話なんてな!!」

 

「…そーかー。

じゃあ、面倒だけど自己紹介しよーっと。」

 

 

今聞こえてきたのは、機嫌を損ねている子供の声。

そのあどけなさが残る声に小町はびくっと反応し、慌てた表情で辺りを見回す。

 

 

「…子供っ!?

四季様、どうやら子供がここにいる様でs…」

 

「…違いますよ、小町。

()()』は子供でも、大人でも男性でも女性でもない。」

 

「ふえ?」

 

「あれは…」

 

「言っちゃ駄目だよ、閻魔様。

折角僕が正体を明かしてやろうって思ってるんだから。」

 

「っ!?」

 

 

今度は生意気な小学生ぐらいの子供の声かぁぁぁぁぁぁっ!!!

ええい、もう我慢できん!

 

 

「で、結局お前は何なんだぁっ!?」

 

「…フフ…僕はね…」

 

 

その声が途切れた瞬間、幽々子(偽)から膨大な気が放出された。

しかし、その気は俺が戦闘で放つような気ではない。

沢山の『生きている何か』を一斉に解き放ったかの様な、不気味な程はっきりした気だ。

 

 

「な…何なんだ、この禍々しい力は…」

 

「頭が痛いぜ…」

 

「…私の思った以上に飛んでもない奴みたいね、あいつは…」

 

 

これだけの気の中で幽香さんの呟きが聞こえたのか、次の声は楽しげなものだった。

…勿論、さっきの子供の声ではない。

 

 

「その通りっ!

今明かされる、私の衝撃の正体っ!!それは…」

 

「引っ張るな!さっさと言え、幽々子(偽)!!」

 

 

俺は流石に我慢出来なくなり、幽々子(偽)に向かって大声で怒鳴る。

 

 

「紀流さん、その呼び方はあんまりと言えばあんまりですよ…」

 

「良いだろ!どうせあいつ幽々子じゃ無いんだから!!」

 

「…私…いや、私『達』の正体は…

西行妖(さいぎょうあやかし)』だよ。」

 

「え、何だって!?聞こえないぞ!!」

 

「『西行妖(さいぎょうあやかし)』ーっ!!!」

 

「おぉ、そうか…西行妖か…

…って?」

 

 

…え、この声の正体は西行妖?桜の木って喋るんだーそうなのかー。

…はぁ?

 

 

「まぁ、今はこの『肉体』を使っているがな。」

 

「ちょっと待て!!!意味不明すぎて頭が働かん!!!」

 

「…西行妖が…復活…したって…事よ…!」

 

「なっ!?」

 

 

レーザーに貫かれた脇腹を押さえながら立っている紫の言葉は俺にはちんぷんかんだったが、

どうやら閻魔さんだけはその言葉の意味を理解したらしく、驚愕の表情を浮かべている。

 

 

「ですが、西行妖は貴方が封印した筈では…」

 

「それが幽霊達のおかげで解けたってだけだよ、閻魔様。

そうして、今ここに僕達は甦ったんだ!!!」

 

「…僕『達』?」

 

「あ、まだ気づかないのか。じゃあ…」

 

 

幽々子改め西行妖は拳を口に当て、咳払いらしき行動をした後に再び口を開く。

 

 

「「「「「コウスレバ、ワカリヤスイカナ?」」」」」

 

「うぇっ!?」

 

 

その口から漏れてきたのは、複数の人間がいっぺんに喋っている声。

それを拡声器で何倍にも増幅させた様な、声と言うよりはむしろ唸りに近い音である。

 

 

「ううっ…」

 

「…っ…」

 

 

魔理沙と妖夢は顔を歪め、両手で耳を塞いでいる。

他の皆は耳こそ塞いではいないものの、思いっきり不快そうな表情を浮かべていた。

俺も例外ではない。五月蝿い。

 

 

「「「「「オヤオヤ、ミミヲフサイジャウノカイ?

セッカクワカリヤスイヨウニ『ミンナデ』シャベッテアゲテルノニ。」」」」」

 

「…さっぱり分からないんだが。」

 

「はぁぁ、我が儘な子ねぇ。

分かったわ、何故こうなったのか説明してあげる。」

 

「…何を説明するんだぜ…?」

 

「…そこから説明しろって言うのか?

めんどくせぇな…」

 

 

…頭が壊れそうでございます。まず声が一々変わる理由を教えてもらおうか。

俺は口を開きかけるが、それよりも早く小町が口を開いて俺が訊きたかった事を訊いてくれた。

 

 

「さっきの子供の声、あれもお前の声だったのかい?」

 

「いやいや、違うよー。

ぼくはぼくだよー。心配してくれてたのー?」

 

「…ま、まあ…ね。」

 

「えへへ…ちょっと嬉しいなー。」

 

 

西行妖は頭を下げ、照れている様な仕草を見せる。

その様子を見て閻魔さんは何かを察したらしく、西行妖を睨み付けながら口を開いた。

 

 

「…貴方達は…

西行妖に封じ込められていた『亡霊』ですか。」

 

「「「「「ゴメイトウ!」」」」」

 

「…だからいっぺんに喋るなって…」

 

「あー、ごめんごめん。

ぼくたちはえんまさまの言うとおり、さいぎょうあやかしのなかにいた人たちなんだよー。

けど、亡霊っていうのはちょっとなー…」

 

「…四季様…」

 

「何故私を責めようとするんですか。

では…『地縛霊』とでも言った方が正しいですかね?」

 

「まー、そっちの方が近いかなー。」

 

 

…つまり、今喋っているのは西行妖に宿っていた地縛霊達、って事なのかね?

良し、次の質問d…

 

 

「…何で幽々子様の姿をしているんですか?」

 

 

…また言われたよ。今度は妖夢だ。

まぁ、多重の声の秘密が分かったら次に気になるのはそこだよな。

 

 

「やっとこさそこの説明が出来るのか…

全く、理解が遅いな…」

 

「愚痴を言う暇があったらさっさと喋ったらどう?

あ、別に喋らなくても良いわよ?私は興味無いから♪」

 

「…幽香さん、得体の知れない相手に傘を向けるのは止めましょうよ…」

 

「消し飛ばせば同じよ♪」

 

「…その考えは駄目です。」

 

「あ、そう…」

 

 

幽香さんが傘を引っ込めたのを確認すると、西行妖は再び喋り始める。

 

 

「この肉体は生前の『西行寺 幽々子』の物だ。

別に桜の木の状態で喋っても良かったんだが、こっちの方が話しやすいだろうと思ってね。」

 

「え、木の状態でも喋れるのか?」

 

「そりゃあそうさ。

仮にそうで無かったとしたら喋れないからな。」

 

「…え、ですがあなたは幽々子様の体を…」

 

 

妖夢がそう言いかけると西行妖は我が意を得たりとばかりににやっと微笑み、

肩にかかっていた髪を右手で払いのけ…

 

 

「…喉が破れているのに、喋れると思うのかい?」

 

 

頭を後ろに傾け、首を出した。

そこには、黒くて太い線が首を横切る様にして真っ直ぐに入っている。

…今まで気がつかなかったが、着物の胸元にも墨汁をぶちまけた様な巨大な黒いシミがあるな…

 

 

「…!?」

 

 

妖夢の絶句している姿を見て西行妖は満足したのか、首を隠して満面の笑みを浮かべる。

その笑顔は俺が知っている幽々子の笑顔とは全く違い、果てしなく不気味だ。

 

 

「フフフ…

これで、この体に取り憑くだけじゃ喋れないって事が分かっただろう?」

 

「…あぁ、良く分かった。

じゃあ、あと一つだけ良いか?」

 

「ん、何かしら?」

 

 

…また声変わったな。状況によって変えるのかな?

まあ良い、最後の質問だ。

 

 

「お前『達』…いや、西行妖は何で封印されたんだ?」

 

「…。」

 

 

西行妖はしばらく黙った後、又もやいっぺんに喋った。

 

 

「「「「「…ナガクナルヨ?」」」」」

 

「構わないさ。

良いよな、皆?」

 

「あぁ、問題ないぜ。

むしろ気になってたまんないぐらいだからな。」

 

「…あの桜の秘密…か。

良いのか、紫?」

 

「…。」

 

「沈黙は肯定なり、って所ね。

さぁ、さっさと喋っちゃいなさい。」

 

「…何かえらく上から目線だねぇ…ま、良いや。

それじゃあ、昔話の始まり始まり~。」

 

 

西行妖はそう言いながら西行妖(木)の方に振り向き、ゆっくりと話を始める。

 

 

「…今の冥界は静かだけど、昔はもっと賑やかだったのよ。

白玉楼にも多くの人達が住んでいて、私もその一人だった。」

 

「屋敷の主である『先生』とその奥さん、先生の弟子達。

更には小間使いやお手伝いさん、その子供達も住んでいたんだ。」

 

「先生は和歌の名人でね。

僕なんかじゃ到底作る事の出来ない歌を、いとも簡単に作ってたよ。」

 

「本当、あの頃は楽しかったよねー。

好きな時に和歌書いて、遊んで、昼寝して…」

 

「それはお前だけだ。」

 

「え、そうだっけ?」

 

 

西行妖は声を次々と変え、語りを進めていく。

…はたから見ると自分の言葉に自分でつっこんでる様にしか見えないが。

 

 

「…そんな感じで、平和に暮らしてたのよ。」

 

「で、ある時先生の奥さんが身籠ってね。

やがて、一人の女の子が産まれたんだ。」

 

「可愛かったよー。

髪の毛が桜の花みたいな明るい桃色でねー。」

 

「その子のおかげで、元々明るかった白玉楼の雰囲気も更に明るくなったの。

そして、その女の子が…」

 

「…幽々子様、だったんですね?」

 

「その通りだ。」

 

 

ここで幽々子のご登場か。

しかし、今までの話を聞く限りでは平和そのものじゃないか?

そんな俺の考えを読み取ったのか、西行妖は少し声のトーンを下げて話し続ける。

 

 

「…明るくはなったのよ。」

 

「その子の『周り』だけはね。」

 

 

…幽々子の周りだけ?

まるで幽々子が光を周りから吸いとったみたいな言い回しだな…

 

 

「あの子からは生命力が溢れ出ていた。

けど、それが果たして『あの子』自身の物だったのか…」

 

「最初は、屋敷の周りの植物の育ちが悪くなった所から始まった。

どれだけ水をあげても、どれだけ肥料をまいても育たなくなったんだ。」

 

「結局その年の冬に全部枯れきって、後はずっとそのまんまさ。」

 

 

成る程、植物が育たない…か。

…益々幽々子が周りのエネルギー(明るさ)吸ってるんじゃないか説が現実味を帯びてくるな…

 

 

「その次は虫だ。

夏に蝉は鳴かない、秋に松虫は鳴かない、一ヶ月にいっぺんは出てたゴキブリの一匹も出ない。

何故か先生の娘さんが気に入ってた『蝶』だけは屋敷の周りを飛んでたがな。」

 

「これには先生も困っててねー、『わかのだいざいが無ーい!』って怒ってたよー。」

 

「で、その頃から先生の和歌の題材は『桜』が主になったんだ。

植物が枯れたって言ったろ?『何故か』表に生えてた桜の木だけは枯れなかったんだぜ?」

 

「思えばその時点でもう色々と手遅れだったわけだよね…」

 

「…で、幽々子様はどうなったんですか?」

 

「え…あぁ、すくすく育っていったよ。

…まるで桜の木の枝みたいにね。」

 

「…桜の木の枝みたいに?」

 

 

それを言うなら『竹みたいに』じゃ無いのか?

へちまの蔓じゃあるまいし、桜の枝ってそんなに早く伸びないと思うんだがなぁ…

 

 

「だってさあ、あの子が一歳大きくなるごとに桜の枝も伸びるんだよ?

それも一晩で一気に。」

 

「…その時の彼女の身長分だけ…ね。」

 

 

…じゃあ幽々子の身長が一メートルなら一気に枝も一メートル伸びるって事か?

幾らなんでもそんな馬鹿馬鹿しい事あるわけ…

 

 

「しかも、その日以外は一切育たない。

あの子の誕生日に枝を伸ばして花を満開にさせて、次の日にはもう全部花を落としてる。」

 

「いっぺん先生に怒られる覚悟で枝を全部切り落とした事があったが、

誕生日になったらあっという間に元通りさ。」

 

「ちゃんとその時の彼女の身長分、枝を長くしてね。」

 

「…それはもう、妖怪桜とでも呼ぶべき代物じゃないか…」

 

 

霊武さんは目を大きく見開き、西行妖を見上げる。

釣られて俺も見上げると、枝が風に吹かれる様にざわざわと蠢いているのが目に入った。

…勿論、風なんて吹いていない。

 

 

「で、草が枯れて虫が消えてから一年。

娘さんの誕生日の前日に、先生の奥さんが行方不明になった。」

 

「屋敷の中やその周りとか、そこらじゅうを走り回っていろんな場所を探したんだけど、

全く見つからなかった。」

 

「せんせいは、いわゆる『神隠し』ってやつなんじゃないかって言ってたよー。

けどね、そんな事あるはずないって言って、みんなといっしょに奥さんを探してた。」

 

「屋敷の人々が総出で探している内に夜になって、日にちが変わった。

その時、西行妖が一気に満開になった。」

 

「何しろ、それまで誰も咲く瞬間を見た事が無かったからなぁ。

その時ばかりは皆足を止めて、西行妖を見つめていたよ。」

 

「しばらくそのまま見てたら、別のところを探してたせんせいが戻ってきたんだ。

何でか分からないけど、おおあわてでねー。」

 

「開口一番が『娘を知らないか』だったもんだから、皆驚愕しちまったよ。

母親に続いて娘もか、ってね。」

 

「探すべき人に先生の娘さんを追加して、さあ捜索を再開しようとしたその時。

突然先生が『一匹の桃色の蝶が皆の前を横切った』って言ったのさ。」

 

「そんな蝶なんて誰も見てなかったんだけど、先生が走り出したから思わず皆付いて行ってね。」

 

「いつの間にか、さいぎょうあやかしの前に来てたんだ。」

 

「先生の奥さんは、西行妖の根元に座って幹に寄りかかっていた。

その膝の上で、娘さんは幸せそうに眠っていた。」

 

「私達は皆ほっとしてね。

全く、人騒がせな親子だなぁ…なんて思って近づいたんだ…」

 

「…。」

 

 

何だか雲行きが怪しくなってきたな…続きが気になってしょうがないぞ…

西行妖が発した次の言葉は、あまりにも簡潔で、あまりにも残酷な物だった。

 

 

「先生の奥さんは死んでいた。

何で分かったのかは分からないけど、その場にいた全員がそう直感したの。」

 

「で、案の定その直感は揃いも揃って大当たり。

娘さんの誕生日のお祝いが、奥さんの葬式に早変わりしちまった。」

 

「先生は…目も当てられない程落ち込んでね…

綺麗な死に顔だった奥さんと比べたら、どっちが死人だか分からない程に痩せ細っていった。」

 

「その時の先生にとっては、最早娘さんだけが生き甲斐だったのね。

先生の書く和歌の題材も、桜から自分の娘さんに変わっていた。」

 

「娘さんはそれを知ってか知らずか、ずっと先生にくっついていたよ。」

 

 

西行妖は一旦言葉を切り、俺達をぐるりと見回す。

誰も何も質問してこないのを確認すると、西行妖は再び口を開いた。

 

 

「で、そんなこんなでまた一年が経とうとしていた。

そして娘さんの誕生日もとい奥さんの一周忌の前日、先生は一つの和歌を作った。」

 

「『無くなった妻に送る』って言って書いたその和歌は、花を題材にしていた。

完成されていた一方で、文面が恐ろしく不吉な物だったけどな。」

 

「…というと?」

 

「『願はくは 花の下にて 春死なむ

そのきさらぎの 望月のころ』…出来れば満開になっている花の下で死にたい、って意味さ。」

 

「その和歌を聞いた瞬間皆が皆して『桜』を思い浮かべたし、

しかも『明日しか満開にならない桜』が直ぐそこに生えてたからね…」

 

「せんせいにしなれちゃたまらないってみんな思って、

次の日までぜんいんでせんせいをかんs…じゃない、みはる事にしたんだよ。」

 

「…けど、無駄だった。

先生は夜中に西行妖が咲いた瞬間布団からむくりと起き上がって、

西行妖に引き寄せられる様に二・三歩ふらふら歩いた後…そのまま倒れて死んじまったんだ。」

 

 

…言葉が出ない。二人も人が死んでたのか、ここで…

しかも幽々子の両親が。

 

 

「…私達は途方に暮れたよ。

これから一体どうしようかってね。」

 

「娘さんを何処かの家に養子に出す事も提案されたけど、

そんな事するぐらいなら俺達の手で育てようって事になって、結局皆続けて住む事になった。」

 

「ま、それも長くは続かなかったけどね。

死の影は先生の死以来、更に濃くなっていったのよ。」

 

「まずぼくが死んでー、次にお母さんが死んでー…えーっと、その次は…」

 

「…まぁ、とにかく。

死人の数は、年が増える毎に増えた。一人・二人・三人…とね。」

 

「で、最終的に私達は先生の娘さんを残して全滅。

娘さんは一人ぼっちで、あの広い屋敷に住む事になった。」

 

「…ちょっと待てよ?

そこでお前達が全滅したんなら、何でその後の話を知ってるんだ?」

 

 

俺がそう言うと、西行妖は呆れた素振りを見せながら此方を向く。

西行妖のピンクの瞳が真っ黒に濁りきっている事に気がついたのは、丁度その時だった。

 

 

「…成仏出来たわけじゃ無いからね。

僕達は死んでから気づいたんだよ、西行妖に『縛り付けられたんだ』ってね。」

 

「ひまだったよー。

前は見えるのにてもあしもうごかせないし、声だってまったくでないし。

いわゆる『せいしんごうもん』ってやつだよ。」

 

「もう二度と戻れないであろう屋敷ですくすく育っていく娘さんを見て、皆気が狂いそうだった。

いや、実際狂った。自分だけのうのうと生きやがって、ってね。」

 

「僕達が死んでからも、時々先生の娘さんを訊ねてくるお客はまず間違いなく死んだ。

西行妖の目の前、僕達の目と鼻の先でね。」

 

「そんな事が続いて、娘さんは大層思い悩んだ。

もしかしたら、自分のせいで人が死んでいるのかもしれないって…

本当は違うのに。」

 

「…え!?」

 

 

今まで黙って西行妖の話に耳を傾けていた紫が突然声をあげた事に俺達は驚き、紫に注目する。

 

 

「…どういう事?

白玉楼で沢山の者が死んだのは、幽々子のせいだったんじゃ…」

 

「おやおや、俺達が全滅した少し後から娘さんと一緒にいた貴方が気づかなかったとはねぇ。

殺したのは西行妖だよ。娘さんはまあ、『間接的に』殺したと言えるかな。」

 

「『死を操る程度の能力』。

確か幽霊になった娘さんの力はそんな名前だったわよね?」

 

「あれは元々、西行妖が持っていた力だったんですよ。

その力で人々は次々と死んでいき、

最終的には数十人ぐらいの人が娘さんの前で互いに殺しあったりしました。」

 

「娘さんの精神はもう限界になり…

後は貴方も知っての通りですよ、八雲 紫さん。」

 

「…おい紫、幽々子はどうなったんだ?」

 

 

何となく答えの予想はついていたが、俺は一応紫に訊ねる。

紫は、これ以上の重苦しい声は無いであろう程の暗い声で答えた。

 

 

「…幽々子は…自害した。

私はその亡骸を元に術式を組んで、白玉楼をその土地ごと『冥界』に封印したの…

…人々の記憶から、永遠に消し去る為に。」

 

「「「「「…。」」」」」

 

 

紫の言葉に、冥界は静寂に包まれる。

しかし、それも長くは続かなかった。

 

 

「だが、娘さんは甦った…

記憶を失った、哀れで由々しい『亡霊』としてな!!!」

 

 

西行妖が発した怒声と共に、凄まじい風が辺りに吹き荒れ始める。

 

 

「私達はそれが許せなかった。

何故同じ死人なのに、記憶を失っただけでのほほんと暮らす事を許されたのかってね!!!」

 

「…そこで僕達は考えた。

娘さん…いや、西行寺 幽々子に『復讐』してやろう…って。」

 

「…はぁっ!?」

 

 

ちょっと待て、何でそこで復讐に話が飛ぶんだ…と言いたかったが、言えなかった。

少し、西行妖の気持ちが分かる様な気がしたのだ。

霊武さんもそれには気づいた様で、ゆっくりと口を開いて俺と同じ考えを述べた。

 

 

「…自身が永遠に手に入れる事の出来ないであろう物を手に入れた者への嫉妬、か…」

 

「しかも、それが自分等と同じ境遇の人となればねぇ…

その嫉妬は、益々大きく…そして手に負えない物になるのは確実だ。」

 

「…。」

 

「…で、あなた達はこれからどうするつもりなの?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

ここでまさかの(いや、当然かもしれない)幽香さんの登場である。

幽香さんは馬鹿馬鹿しいとでも言いたげな表情で…

 

 

「そんな復讐とか言う馬鹿馬鹿しい理由で、幽霊達を扇動して異変を起こしたってわけ?」

 

「…oh…」

 

 

…本当に言っちゃったよ。

俺を含めて全員がその場で固まっている中、幽香さんはつらつらと話(愚痴)を続ける。

 

 

「私をこんな辺鄙な所にまで出向かせたんだから、それなりの覚悟は出来てるのよね?」

 

「…私達の…復讐が…」

 

「馬鹿馬鹿しい…!?」

 

「えぇそうよ。

内輪揉めなら一対一でやって頂戴、迷惑極まりないから。」

 

 

幽香さんは言いたい事だけ言ってしまうと、くるりと西行妖に背を向けて歩き始める。

その僅かコンマ数秒後、幽香さんが最初の一歩を踏み出すか踏み出さないかの内に、

西行妖(木)の枝が光り輝いて巨大なレーザーを幽香さん目掛けて放つ。

 

 

「…それ。」

 

 

幽香さんは傘を握り締めて先端に気を溜め、

回転しながら傘を振ると同時に気弾を発射してレーザーを相殺しつつ、

二発目を西行妖に目掛けて放ち、大爆発させた。

 

 

「…ゆ、幽香さん…」

 

「何?」

 

「…幾らなんでも今のは言い過ぎだったと思いますよ?」

 

「あら、紀流はあいつに苛つかないの?

下らない嫉妬をして、自身の復讐一つの為に幻想郷に新たな異変を起こそうとしてる奴よ?」

 

「…それはそうですけど…」

 

「でしょ?」

 

 

…いやいや、そんないい笑顔で『でしょ?』って言われても困るんだが…

けど幽香さんの方が思いっきり正論なんだよなぁ…

 

 

「あなた達は?

特にそこのあなた、良く後ろから不意打ちを喰らわされたっていうのに苛つかないわねぇ。」

 

「…幽香さん、紫は足どころが腹に穴が空いてる様な状態なんですよ?

そんな状態の人に戦えなんて…」

 

「…いや、幽香の言う通りよ、祠弥。」

 

「!?」

 

 

いつの間にか、霊武さんの横には霊夢が立っていた。

まだ顔面は蒼白で血の気が全く無いが、その目には強い思いがこめられている。

 

 

「霊夢!?傷は大丈夫なのか!?」

 

「…正直に言えば、全く大丈夫じゃ無いわよ…

けど、だからこそ…っ!!!」

 

 

霊夢はそう言うと、袖口に手を突っ込んで一枚の御札を取り出す。

そして、それを俺に渡した。

 

 

「…え?」

 

 

俺は霊夢の意図が分からずに一瞬ぽかんとしたが、

ほとんど寄りかかられる様な感じで霊夢に両肩をぐわしと掴まれ、我に帰る。

それを見計らったかの様に、霊夢は俺にこう言った。

 

 

「…その御札を…あいつに…ぶちかまして…やって…」

 

「へ!?」

 

「頼んだわよ、祠弥…

私と紫の二人の分…しっかりと、あいつに…叩き込んで…やりなさいっ!!!」

 

 

最後の言葉を吐き出すと同時に、霊夢の体はがくっと前に倒れる。

俺は咄嗟に受け止め、その手に付いた血を見て驚く。本当に大丈夫じゃないじゃねーか!!!

唖然としている俺に対し、幽香さんは再び訊ねる。

 

 

「…紀流、どうする?

あのまま、あいつを好きな様にのさばらせておく?」

 

「…。」

 

「祠弥、まさか霊夢がお前に託した思いを裏切ったりはしないよな?」

 

「博麗の巫女で私の妹の霊夢が直接お前に頼んだんだ。

ここで逃げたら、私はお前を許さない。」

 

「…心配しなくても大丈夫ですよ、魔理沙に霊武さん。

俺はそこまで薄情者じゃありませんからね。」

 

 

そう、あの霊夢が俺に頼んだのだ。家事とか掃除じゃ無く、妖怪退治を。

俺は霊夢を地べたに寝かせ、幽香さんの攻撃をかわして飛んだ西行妖の方を睨み付ける。

西行妖は上空から幽香さんの事をずっと睨み付けていたが、俺に気づいて此方を睨んできた。

 

 

「頼まれた本人がやらずして…」

 

 

御札を腰のベルトに挟んで地面を蹴り、西行妖と同じ高度にまで到達する。

後ろから、皆が付いてくるのが分かった。

 

 

「…誰がやるっ!!!」

 

「「「「「イマコソ、『フクシュウ』ノトキッ!!!」」」」」

 

 

そう同時に言い放ち、俺と西行妖は真っ向からぶつかり合った。




説明って難しい。
西行妖の声が複数個ある設定にしたのは間違いだったようだ…(白目)
次回、西行妖vs幻想郷連合の戦いです。
感想、意見、アドバイス等々募集中。
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