第八十三話目、紅魔郷EX編始まるよー。
ゆっくり読んでいってね!
招待状は突然に〜嵐の前の刹那の一日
幻想郷の境界に建つ博麗神社。
その鳥居の上に座り、目を細めながら朝日を浴びている人間がいた。
「…はぁ…」
…オッス、オラ紀流。
え、何で不機嫌なのかって?朝が来たからです。
何故朝が来たから不機嫌になるのかって?
…良し、説明しよう。
「祠弥ー!もう私も姉さんも起きたから、洗濯始めて良いわよー!!」
「…はいはい、分かりましたよ…」
理由その1・霊夢の起床時間が早くなったから
前は夜明けの一時間後程度に起きてきたのに、最近は夜明けとほぼ同時に起きてくる様になった。
健康的と言われれば反論出来ないが、起きた途端に仕事言いつけてくるので大変です。
「おっ、紀流!相変わらず早起きだな!
…で、早速で悪いが…」
「…風呂沸かせってんでしょう、分かってますよ。」
理由その2・霊夢の早起きの原因である霊武さんが風呂好きだったから
十年ぶりにちゃんとした風呂に入ったのがよっぽど嬉しかったのか、毎日入る様になった。
しかし一度霊武さんが自分で風呂を沸かそうとして危うく火事になりかけたので、
それからは俺が沸かす事になった。因みに霊夢は意地でも沸かしてくれません。
「…。」
そして、最後に…
「祠弥?
起きてないの、ほーこーらーやー?」
「紀流ー?」
「…んー…」
…眠いからだ。
シンプルかつ自分勝手に聞こえるかもしれないが、実がこれが一番の理由だったりする。
「ほら、祠弥!
そんなぼけっとした顔してないで、早く洗濯洗濯っ!」
「まあまあ霊夢、そんな急がなくても良いじゃないか。
…中々の絶景だな、霊夢も座って見たらどうだ?」
「えぇー…もう、しょうがないわねぇ…
祠弥、ちょっと詰めなさい。」
「…何で最初にいた俺が動かなきゃならんのd「よいしょっと。」…ったく…」
俺は霊夢と霊武さんの両名に挟まれ、溜め息をつく。
…多分このまま一時間ぼーっとしてても、博麗神社の一日には何の影響も及ぼさないんだろうな。
良し、ちょっと寝よう…
「…くー…」
俺は腕を組んで目を閉じ、頭を垂れて寝ようとする。
…その瞬間、風が止んだ。
「…ん!?」
組んでた腕を解き、直ぐ様目を開ける。
「…」
そこには、朝日を背にした銀髪でメイド服の女性がいた。
俺は一瞬だけ思考が停止したが、直ぐに両脇に座っている博麗姉妹を交互に見る。
「」
「」
いきなり現れた女性に驚く処か反応すらしない二人を見て、
俺は今目の前にいる女性が一体誰なのかが分かった。
「…久し振りだな、咲夜。」
「何故一瞬でその発言に至らなかったのですか。」
目の前の女性『十六夜 咲夜』はぶっきらぼうにそう言うと、
少しだけ高度を下げて俺の頭の位置に目線を合わせる。
「…相変わらず無表情だな、お前は。」
「相変わらず意味の無い事に注目しますね、人間。」
「…」
「…」
そのまま俺達は暫く視線を合わせたまま黙っていたが、
やがて俺は誰でもわくであろう疑問を感じ、それをそのまま咲夜に質問する。
「で、何しに来たんだ?
わざわざ時を止めて俺だけにしか気付かない様にしてるんだから、
お茶を飲みに来たとかそんな目的じゃ無いだろ?」
「そうです。」
「じゃ、教えてもらおうか。お前の訪問の理由とやらを。」
「フランお嬢様がお呼びです。」
「おおそうか、フランがお呼びか…
…って、え?」
「『準備が出来たから紀流お兄ちゃんを連れてきて』
そうフランお嬢様に命令されましたので、連れに来ました。」
咲夜はそう言って俺の腕を掴み、そのまま引っ張り上げようとする。
「…いや、ちょっと待てい!?」
「何を慌てているのですか。
まさか、フランお嬢様との約束を忘れた訳ではありませんよね?」
約束って何d…あ、とうとう来たか。
フランとの約束。それは『もう一度真剣に戦う事』。
『またいつか、な?』
『うん、約束だよ!
破ったらフラン怒るからね!!』
その約束は、春雪異変後の宴会時に交わされ…
『何で紅魔館に遊びに来てくれないのー!
一緒に遊ぼうって約束したのにー!!紀流お兄ちゃんの嘘つきーっ!!!』
『…おい、フラン…』
その後その話題が出た時には大抵それどころでは無く、いつもあやふやになっていたが…
『…良し、じゃあ弾幕ごっこの日にちを決めよう。』
『…え?』
『その日になったら、俺がお前の気が済むまで存分に戦ってやる。
だから今は我慢してくれ、な?』
『…本当に?』
『今度こそ本当だ。』
『わーい!約束するよ!!
やったー、紀流お兄ちゃんと弾幕ごっこだー♪』
輝夜達との激闘の後、ようやくある程度ちゃんとした誓いを立てたのだ。
…あれ以降全く音沙汰が無かったのでてっきり忘れられたのかと思っていたが、
どうやらそんな事は無かったらしい。
「…あー。」
「その態度を見るに、今の今まで忘れていた様ですね。」
「…すまんな。」
「フランお嬢様との約束を忘れるなど言語道断です。
私とのやり取りを機に深く反省し、今後二度とこの様な事をしでかさないと誓って下さい。」
咲夜は淡々とそう述べ、恐らく今までで最も冷たい目付きで俺を見下ろす。
…咲夜はレミリアやフランの事となると態度が激変するからな…反省しよう。
「…。」
「ですが、今回はフランお嬢様にもある程度の非があります。
なので、私もこれ以上とやかく言う事はしません。その代わり…」
「…その代わり?」
「直ちに紅魔館に来て下さい。
これ以上約束の日時が長引く様ですと、パチュリー様の体力が持ちません。」
「え、パチュリー?
パチュリーと約束に何の関係性があるんだ?」
「一々説明していては日が暮れてしまいます。
さあ、急ぎますよ。」
咲夜はやたらと此方を急かしてくる。珍しい事もあるもんだ。
そんな事を考えている間にも咲夜は俺の腕を離さず、遂には鳥居に両足をかけて引っ張り始めた。
…どんだけ急いでるんだ、お前は…
「はいはい、そんなに引っ張らなくても自分で立てるって…」
「一人よりも二人の方が早く立てますから。」
「あ、そう…」
俺は鳥居から飛び降り、軽く気を溜めて浮かぶ。
そしてそのまま紅魔館方面へと飛んでいこうとしたのだが、咲夜は何故か動こうとしない。
「…紅魔館に行くんじゃないのか?」
「はい。」
「じゃあ何で止めるんだ?」
「『帰りは紀流お兄ちゃんに頼んで『瞬間移動』で帰ってきてね』と言われましたので。
その際に『紀流お兄ちゃんに触れていれば一緒に帰ってこれるよ』とも言われましたので、
今こうして腕を掴んでいるまでです。」
なにそれ合理的。けど何か便利アイテム扱いされている様な気がしてならない。
ま、良いか…気さえ探れば一瞬だし…
「あ、そうだ。
咲夜、誰の側に瞬間移動したい?」
「?」
「瞬間移動は気を探ってするもんだからな。」
「では、パチュリー様でお願いします。」
「はいはい、承知。
……よし、多分これだな…ん?」
パチュリーの気を捉えた俺は、同時に少しばかりの違和感を覚える。
…彼女のであろう気の横に、未知の気を感じたのだ。
「どうしました?」
「…いや、何か誰のか分からない気g「ああ、それでしたら心配いりません。」え!?
危険じゃないk「侵入者だとしたらパチュリー様が撃退していらっしゃる筈です。」確かに…」
咲夜の言葉に無理矢理納得し、俺は気を落ち着かせて瞬間移動の準備に入る。
「…ちょっと待て、霊夢達にはどう説明s「急いで下さい。」分かったよ…
じゃ、動くなよー。」
~人間移動中~
視界に一瞬だけ異空間の輝きが写ったかと思うと、次の瞬間には目の前が紫色に染まっていた。
…あれ、何で紫色なんだ?
「何故パチュリー様のお帽子に顔を突っ込んでいるのですか?」
「…おうふ…っと。少し気を頼りにしすぎたか。」
「瞬間移動と言いましても、あまり使い勝手は良くないのですね。」
「酷いなぁ…
…あれ、そう言えば例の気h「きゃあ!?」おぉう!?」
止まっていると思い込んでいたパチュリーが叫んだので、俺は危うくひっくり返りかけた。
…というか勢いよく両肩押されたんで飛んで姿勢保つ羽目になったよ。
パチュリーは暫く呆然とした顔で俺を見つめていたが、やがて途方に暮れた表情で口を開いた。
「…な、何でいるのよ?」
「咲夜に連れてこられた。」
「…さ、咲夜ぁ?
…一体どういうつもりよ、咲夜…
今のままでも十分大変なんだから、これ以上心身の負担を増やさないでよ…げほっ…」
「フランお嬢様に頼まれましたので。」
「え、フランが!?
って事は、遂にこの地獄の日々にも終わりが来るのね!良かったぁ~…」
「…地獄の日々?」
パチュリーは床にへたりこみ、そのまま空気が抜けた様にぐでんと前のめりに倒れた。
…顔がスライムみたいに潰れているんだが、一体何があったんだ?
「おいパチュリー、地獄の日々ってどういう事だ?」
「…やっと解放される~…えへへ…げほっ…」
「…咲夜、地獄の日々って何だ?」
「それはですn「それは私が説明しますっ!!!」」
「え?」
突然、咲夜の声を遮って大声が響く。
その声の出所を探していると、これまた突然俺の目の前に見知らぬ女性が飛び出してきた。
腰まで届く赤い髪に、同じく赤い目。身長は俺と同じぐらい。
白いシャツに首元の赤いネクタイ、黒いベスト&ロングスカート。
これだけならば、まだ少し髪色の奇抜な女の子でも可笑しくは無かったのだが…
「…ふんふん、なーるほど。
貴方がフラン様との約束をド忘れして、パチュリー様に負担を強いた悪い人間ですね!」
俺は今、飛んでいる。この子は俺の前にいて、好き勝手喋っている。
そして、この子の背中と頭にはそれぞれ大きさの違う黒い翼が一対ずつある。
つまり結論として、この子は飛んでいる。
「…パチュリー様の健康を損ねる者は、私が許しませんよ!
こらー!!聞いてるんですかー!?」
「…君、誰?
妖精か何かなの?」
俺はその子が言ったあれこれをスルーし、素朴な疑問を口にする。
するとその子は喋るのを止め、少し得意気に腕を胸の前で組んだ。
「私が妖精?
ふふん…違うんですよね、それが。」
「じゃあ何?」
「私は『悪m「紀流をからかうのもそこまでにしときなさい、『小悪魔』。」え!?」
「…小悪魔?
悪魔なの、君?」
「…そ、そうですよっ!
何で先に言っちゃうんですか、パチュリー様~…」
「貴方の前にいる人には、見栄やはったりなんて殆ど通じないからね。
それとも、『こぁ』って愛称で呼んであげた方が良かったかしら?」
「そういう意味じゃありませんよっ!!!
…いや、別に愛称呼びが嫌って訳じゃありませんけど…ぶつぶつ…」
四枚羽の女の子改め『小悪魔』もとい『こぁ』が俯いて何やら呟き始めたので、
俺は此方を見上げていた咲夜の横に下り立ち、疑問をぶつける。
「…なあ咲夜、あの小悪魔って子は何者なんだ?」
「パチュリー様の使い魔です。」
「『使い魔』?」
「…本棚の整理に妖精メイドだけじゃ心許ないから、ちょっと前に召喚したのよ。
あの子人見知りで今まで館の外に一歩も出た事ないから、少し生意気なのは許してあげて。」
「いや、まあ良いけど…
…ふーん、あれが悪魔ねぇ…随分と可愛いもんだな…」
悪魔=某伝説のサイヤ人のイメージしか無い俺にとって、
指を回しながらうじうじしている小悪魔の姿は中々斬新なのだ、うん。
「で、こa「『小悪魔』ですっ!!!」…そう呼ぼうとしてたんだが…
パチュリーの言ってた『地獄の日々』って何の事なんだ?」
「…ああ、その事ですか。
ええと、フラン様との特訓の事ですよ。」
「…特訓?」
「…はぁ、本当に何も知らないんですね…これじゃパチュリー様達が報われませんよ。
えっとですね、フラン様は貴方との約束の後、ずっとお一人で特訓を続けられていました。
…そうだったんですよね、パチュリー様。」
「ええ、大丈夫よ。
続けなさい、こぁ。」
「で、そんなある日。
フラン様は、貴方の声を聞いたんですよ。」
「俺の声を聞いた?
ああ、元気玉の時か。」
「その時に何かこう、ビビビっと来てやる気に火が着いたんでしょうね。
それからのフラン様は一人での特訓だけでは満足出来なくなったのか、
レミリア様やパチュリー様、咲夜さんや美鈴さんに自身の特訓相手をしてほしいと頼みました。
そして遂には妖精メイドまでも巻き込んだ大特訓が始まり、今に至る訳です。」
「…その特訓が『地獄の日々』って訳?」
「そうですよ!
パチュリー様なんて、特訓の度に死にかけたんですからね!!
貴方が目立つ様な事をしたから私達が苦労したという事を、よーく理解して下さい!!!」
小悪魔はそう怒鳴りつつ、むすっとした顔で俺の額をつんつんと強めに突いてくる。
…目立つ様な事って言われても、あの時は此方も切羽詰まってたんだから仕方無いだろ…
そんな俺の内で燻っていた不満を、パチュリーが代弁してくれた。
「こぁ、紀流を責めるのは止めなさい。
紀流は幻想郷を救ったのだから、本当ならもっと敬意を払うべきなのよ?」
「パチュリー様だってそんなに敬意払ってないじゃありませんか…」
「私は苦労しているから良いのよ。」
「え~、私だってパチュリー様のサポートw「口答えしない。」む~…」
…あれ、パチュリーも何となく俺に不満言ってないか?
まあ、良いか…実際迷惑だったんだろうし。
「で、肝心のフランは何処にいるんだ?」
「今は眠っていらっしゃいます。」
「…え?」
「何を驚いているんですか。
フランお嬢様は吸血鬼なのですから、日中は眠っていらっしゃる事くらいは予想して下さい。」
「じゃあ何で朝っぱらから俺を呼びに来たんだ?
呼ぶんなら、フランが起きてる夜に呼べば良いだろ?」
「…フランお嬢様に頼まれましたので。」
「…時間指定は?」
「『今日中に』との事でした。」
「夜明け直後である必要性は?」
「私のスケジュール上、空き時間を作るには睡眠時間を削る他ありませんでしたので。
では私は館の掃除がありますので、この辺りで失礼させて頂きます。」
「え、おい…」
俺が何か言い出す前に、咲夜はさっさと図書館を出て行ってしまった。
閉まった扉を見つめて俺が言葉に詰まっていると、パチュリーが俺の肩を軽く叩いてくる。
「咲夜は元々ああいう性格だから、あまり怒らないであげてね?」
「怒りはしないさ。
けど変な話だよな、時間を止められる咲夜が空き時間云々言うなんて。
時間を止めればそれこそいくらでも『時間』を作れそうなのに。」
「…あのねえ紀流、いくら咲夜でも流石に時間止めながら寝たりは出来ないのよ?」
「…それもそうか。」
「そうよ。」
パチュリーはそう言い、口を閉じる。
俺も特に喋る事は無かったので、そのまま俺達二人は無言で突っ立っていた。
「…。」
「…。」
「…あの~…」
「ん、こぁ、どうしたの?」
「いや、何で会話もしないでずっと立っているのかな~って思っただけです…」
「紀流が何も喋ってくれないんだから仕方がないじゃない。」
「…What!?」
え、何!?俺が何か話すの待ってたの!?そんなスキルは俺にはねえよ!!!
「探せばあるでしょ?新しい魔法についてとか、美味しい紅茶についてとか…」
「そこまで社交性高くねえっ!!!
…ってか何で俺の考えてる事分かったんだ!?」
「顔にでーっかく書いてあったもの。
貴方にも読めたわよね、こぁ?」
「…は、はいっ!そりゃあもう誰が見ても分かるくらい鮮明に!!」
「…そうなのか…」
確かに今までも霊夢の言う事に心の中で文句言ってたら言い返されたりしたけど…
成る程、顔に書いてあった訳か…だが自覚が無いのでどうしようもない。
パチュリーはそんな俺の顔を見て暫く微笑んでいたが、ふと思い付いた様に口を開いた。
「ところで紀流、貴方今暇?」
「…本当なら暇じゃないよ…
いつもなら今頃風呂沸かして洗濯して飯食ってるくらいの時間帯なんだから…
悪いが、これで失礼させてもらうぞ。」
言っている間にもぶち切れた霊夢を想像して鳥肌が立ってきたので、俺は直ぐ様気を探り始める。
パチュリーは少し残念そうな表情をしていたが、やがて納得した様に頷いた。
「そうか、咲夜に半ば無理矢理連れてこられたのよね。
暇だったら一緒に朝御飯でもどうかと思ったけど、そんな事情があるなら引き止めはしないわ。」
「気持ちだけありがたく受け取っておくよ。
で、俺は何時ぐらいにここに戻ってくれば良い?」
「そうねぇ…
フランが何時起きるかによるけど、大体日没一時間前に戻ってきてくれれば良いと思うわ。
もし博麗の巫女に引き留められたりして都合がつかなければ、なるべく早く伝えてね。」
「日没一時間前だな、分かった。」
パチュリーの言葉に答えた丁度その時、俺は霊夢の気を見つける。
…特に気は乱れてないし、どうやら怒ってはいないみたいだな…直ぐに戻ろう。
あ、そうだ。
「レミリアは元気にしてるか?」
「こら!レミリア様を呼び捨てにするなっ!!」
「良いのよ、こぁ。
病気とかしてないかって意味なら、レミィは元気そのものよ。
…最近はフランの特訓に付き合わされてろくに寝てないから、物凄く不機嫌だけど。」
「…そうか。レミリアにすまないって言っておいてくれ。」
「ふふ、分かったわ。確かに伝えといてあげる。」
「そうして貰えると有難い。」
紀流はそう答えた後に目を瞑り、一瞬で姿を消した。
パチュリーはそれを見届けると自分の椅子に戻ろうとしたが、
不満顔の小悪魔が自分の前に出てきたので足を止めた。
「どうしたの、こぁ?お腹でも痛いの?」
「…あんな人間の何処が良いんですか?」
「え?」
「…あの人間のせいで、パチュリー様は苦労したんですよ。
なのに何故、楽しそうなんですか?」
「何故、ねぇ…
私みたいな偏屈の言う事を、一々真面目に受け止めてくれるからかしら?
そう、レミィみたいにね。」
「…つまりパチュリー様の中で、あの人間とレミリア様は同列なのですか?」
「からかってて面白い話し相手としてはトップレベルよ。
…得意気に喋ってるレミィの鼻を折るか、畳み掛けて紀流を凹ませるか…
うーん、甲乙着け難いわねぇ♪」
「…」
「あ、今私が言った事は二人には内緒よ?」
「…分かりました。
ではまず、その二人と同等にまで認めて貰える様に頑張ります!」
「何よ、生意気言っちゃってー。
そんな小生意気な使い魔には…こうよっ!」
「あ、今わざと『小』って付けましたn…へぶっ!?」
文句を言おうとした小悪魔の頬をパチュリーはつまみ、上下左右に動かす。
「小生意気言うのはこの口かしら?」
「…ひはひへふ、はふゅひーはは~…」
「うふふ…」
小悪魔の頬をつねりながら、パチュリーは楽しそうに微笑んだ。
「…祠弥、今何て言った?」
博麗神社のお昼時。
昼食を済ませて縁側でお茶を飲んでいた霊夢は、そう言って湯のみを置いた。
目線の先には、同じく縁側に座って此方の様子を伺っている紀流がいる。
「今夜フランと戦う。
今まで散々すっぽぬかしてきてきたからな。」
「また随分と唐突ねぇ。」
霊夢は『何だそんな事か』とでも言いたげな表情で再び湯のみを取り、口へと持っていく。
紀流は彼女がもっと驚くかと思っていたのか、意外そうな顔で再び口を開いた。
「あれ、そんなに驚かないんだな。」
「祠弥には驚かされっぱなしだし、今更驚かないわよ。
フランって言うと、紅魔館の吸血鬼姉妹の妹の方でしょ?」
「そうだ。
実は朝にいきなり消えたのも、紅魔館に行ってたからなんだよ。」
「成る程、打ち合わせって事ね。
で、大丈夫なの?」
「ああ、俺なら平k「あんたじゃ無くて、幻想郷の方よ。
戦いの余波で幻想郷の半分が消し飛びましたーなんて事になったら困るからね。」…善処する。」
「そう、なら良いわ。
…分かってるだろうけど、死なないでね。」
「へえ、突き進めばどうにかなる主義の霊夢にしては珍しくマイナス思考じゃないか。
まさか、俺が負けるとでも思ってるのか?」
「あら、いつも能天気・のほほん・明日は明日の風が吹く主義の祠弥にしては強気な台詞ね。
調子に乗ってると、いつか痛い目見るわよー。」
「「…。」」
二人は暫し、睨み合う。互いの感情を探りあい、最も適切な言葉を相手にぶつける為だ。
そして数秒後、二人は口を開き…
「「ま、頑張りなさい。
ま、頑張ってみるよ。」」
意味こそ正反対であっても、殆ど同じ音を持つ言葉を同時に相手に投げ掛けた。
その驚異的なシンクロっぷりに両者は声には出さず驚き、再び相手の顔を伺い見る。
今度はそのまま数十秒程、両者は眉一つ動かさずに互いの目を覗きこんでいたが…
「…」
「…ふふ…っ…あはははは…」
やがて霊夢はもう耐えられないとでも言った雰囲気で目線を反らして噴き出し、
その動作で何かのスイッチが入ったのか、続けて明るい声で笑い始めた。
「何だ霊夢、何が可笑しいんだ?
まさか、声が被ったぐらいで大笑いしてるわけじゃないよな?」
「あはは、違うわよ。
何て言うか、いつも通りの祠弥で安心したってだけ。」
「…本当にそれだけかぁ?」
「疑ったって何も出てこないわよ?
それよりどう?戦い前の予行練習って事で、今なら私が特別に相手してあげるわよ?」
「え…何でだ?」
「失礼ね、私は博麗の巫女なのよ。
あんたみたいな『普通の人間』とは、踏んできた場数の量が違うんだからね!」
「…いや、そういう意味じゃ無くてだな…」
「じゃあどういう意味?
はっきりした理由が無いんなら、大人しく私に従った方が身の為よ?」
「…神社から叩き出そうってのか?」
「その可能性もなきにしもあらずって所ね。」
「…。」
「どうしたんだ、紀流?
よもや、霊夢では特訓の相手として物足りないという訳ではないよな?」
いつの間にか霊夢の隣に座っていた霊武は、そう言って紀流に微笑む。
その服装は『霊夢の服よりも赤色が濃く、より本来の巫女服に近い形状』であった。
足をぶらぶらさせながら返答を待っている霊武を見て、紀流は気だるげに口を開く。
「霊夢で駄目だったら誰がいるって言うんですか…
あ、それよりも服ちゃんと乾いてましたか?」
「話題を逸らすな。服ならちゃんと乾いていたぞ。
ところで紀流、霊夢で物足りないというなら私が相手になってやっても良いが?」
「姉さん、抜け駆けは卑怯よ!」
「抜け駆けとは人聞きの悪い。早い者勝ちだ。」
「こればっかしは姉さんにも譲れないわ!」
「ほう、姉である私に口答えか?」
「十年間も神社留守にしてた『元』博麗の巫女候補の姉さんが何ですって?」
「「…。」」
「…何でこうなる…」
紀流は溜め息をつく。
何しろ顔こそ似ているこの姉妹、性格その他が全くの正反対なのだ。
出来るだけ休んでいたい妹と暇あれば体を動かしたい姉など、挙げていけば枚挙に暇がない。
だが…
「…じゃ、二人で紀流を鍛えるのはどうかしら?」
「それはいい考えだな。」
…結局同じ考えに行き着く所からして、根っこは同じな様だ。
「…あのさ、俺を気遣ってくれてるのは分かるんだけどさ、
何も決戦前数時間ってタイミングで博麗二人がお相手する事無くないか?」
「何、始める前からもう泣き言?
言っておくけど『戦いの中で体の調子を整えよう』なんて悠長な事考えてると死ぬわよ。
普段なら妖精とかと戦って体を慣らしたりする物だけど、今回は開幕黒幕スタートなんでしょ?」
「敵の初撃に対応出来ずに死んだ、では洒落にならないだろう?
安心しろ、本気ではやらない。な、霊夢?」
「当然よ、姉さん。」
「…いやだから体力温存しt「「行く」わよ!」ぞっ!」話を聞けぇぇぇ!!!」
霊武の拳から逃れつつ、霊夢の弾幕の真っ只中を飛び回りながら紀流はふと思った。
自分は今、二人に『人の話を聞け』と言った。だが…
「どこ見てるの、祠弥!」
「油断は禁物だぞ、紀流!」
…博麗の巫女特有の強引さを持つ二人が相手では、どっちにしろこうなっていただろう、と。
「遅いですよ、人間。」
「どうしたの紀流、随分疲れてるみたいだけど?」
「…鈍った体を実戦用に慣らしてたんだよ…」
赤く輝く太陽の底が、地平線に溶け込み始めた丁度その頃。
紀流は紅魔館の門を潜り抜け、咲夜とパチュリーがいる庭に疲れ顔で座り込んでいた。
「…まさかここまで来て、やっぱり延期するなんて言わないわよね?」
「…そんな訳無いだろ、ちゃんと戦うよ。
で、何でお前達二人が俺を出迎えてくれたんだ?」
「ちゃんと来るか確認したかったってのもあるけど、
やっぱり最後の仕上げの為よ。」
「…最後の仕上げ?」
紀流が首を傾げていると、パチュリーは目を閉じて何やら呪文らしき言葉を発し始める。
彼女の足元からは次々と魔法陣が形作られて空中へと浮かびあがり、
あれよあれよという間に紅魔館を周りの敷地ごと囲んでいく。
「…今よ、咲夜。」
「承知致しました。」
魔法陣がほぼドーム状に空を埋め尽くしたその時、パチュリーの命令で咲夜が右手を上げる。
一瞬だけ周りの空気が変わった様に感じて紀流が辺りを軽く見回している間に、
空一面に広がっていた魔法陣は跡形も無く消え去っていた。
「…ふう。取り敢えずは、こんなものね。」
「…?」
「何頭に?マーク浮かべてるのよ。少し考えれば分かるでしょ?
私と咲夜が張ったのは防御壁。ここ風に言えば結界ね。
流石に何も無しでフランと貴方を暴れさせると、然る場所から『警告』が来るだろうし…」
「然る場所?」
「ま、そんな事は今どうでも良いのよ。
ほら、貴方の事を待ちかねたお嬢様のご登場よ?」
「…ああ、その様だな。」
紀流は紅魔館の天辺、時計塔の上に立つ一つの影をその目で捉えていた。
影は時計塔から飛び降り、紀流の少し前、丁度館の影になっている箇所にふわりと着地する。
その暗闇から、赤い眼光が紀流を見据えた。
「…久し振りだね、紀流お兄ちゃん。
ちゃんと来てくれてフラン嬉しーいっ♪」
楽しげな声と共に、影の正体である『フランドール・スカーレット』は紀流目掛けて突っ込む。
紀流はいきなりの攻撃(?)に驚き、咄嗟に右掌を前に突き出して影の顔を受け止める。
「へぶぅっ!?」
「!?」
右腕にかかる凄まじい負担を感じながら、
やはり普通に受け止めてあげた方が良かったと思いつつ、紀流はフランに話しかける。
「元気そうだな、フラン。」
「んん、けんきはよー。
…いてて…紀流お兄ちゃんも元気そうで良かったよ。
もしも風邪とかひいてたら、色んな意味でがっかりだったからねー。」
「心配いらん、今の俺は至って健康体だ。」
「じゃ、始めよっか♪お姉様、出てきて良いよー!」
「…姉を何かの審判扱いしないでよ…」
疲れきった声。
紀流が頭上を見上げると、声と同様に疲れきった表情の『レミリア・スカーレット』がいた。
「…何よ、その哀れむ様な目は…
私がこんな事しなきゃいけないのも、貴方が全く紅魔館に来なかったからなんだけど。」
「何度も言ったでしょ、お姉様!
弾幕ごっこの日にちを決めるって言ったのは私で、それを勝手に延ばしてたのは私!!
紀流お兄ちゃんは悪くない、むしろ身勝手な私に合わせてくれたんだから良い人だよ!!!」
「頭で分かってても、数ヶ月も貴方と戦い続けた疲労は消えないのよ!!」
「お姉様だって案外乗り気だった癖に!
ま、どうせ咲夜に『フランお嬢様に協力すればあの人間への当て付けになりますよ』
…とか何とか言われたんでしょ!」
「ぐぬぬ…」
「ぐぎぎ…」
「…全く、仕方ないわねぇ…こぁ、出番よ。」
「はいはーい!
これより、『紀流 祠弥』対『フランドール・スカーレット様』の戦いを始めまーすっ!!!」
パチュリーの使い魔の元気な宣言に、場の空気は引き締まる。
レミリアと取っ組み合う寸前だったフランは彼女から直ぐに目をそらし、紀流に視線を合わせる。
…そして、暫しばかりの沈黙の後。
「「…行くよ。コンテニューなんて物が存在しない、命を賭けた…
…ようし、折角こんな良い舞台が整ったんだし、決戦も決戦…
『
『
黄金の戦士と、紅い悪魔。
ようやく始まりましたよ、フランとの対決。
唐突かもしれないがここで挟まないと後日談になってしまう気がした。すまない。
多分そこまで長くはならない…多分ね、うん。
感想、意見、アドバイス等々募集中です。