万魔の主の魔物図鑑   作:Mr.ティン

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第01話 ~皇城への同行者~

 ガイゼルリッツ皇国の皇城、先代の王の名を取って名付けられたノイリムエルヴ城は、優美壮麗な外観を持つだけではなく、行政府や軍事要塞としての機能も有したこの世界では稀有な城だ。

 

 そもそも、この世界の元々の基本的な技術力は、アナザーアースが関わるもの以外は高いと言えない。

 それは建築面でも現れていて、壮麗な城と言うのは非常に珍しいようだ。

 僕達がイメージするような城は、フェルン領の領都であるゼヌートのような、岩山を削りくり抜いて作り上げられた岩城が辛うじて該当する位だ。

 実際の所この世界で一般的に城と呼ばれているのは、石積みの砦のようなものばかりなのだ。

 未だこの世界の城と言うのは砦の延長線上にあり、防衛拠点の意味合いが強いのだろう。

 なので、基本的には城は山のような小高い場所に建っていることが多い。

 平地に建つ城も無いではないけれど、天然の山を利用するのではなく人工的に高台を作り上げる事が殆どだ。

 更に言うなら平地の場合は城単体で存在すると言うより、街などを覆う石やレンガ積みの城壁と言う体を取りがちだ。

 どこかのテーマパークの中央にそびえる様な尖塔を持つ城と言うのは、少なくとも、この大陸北西部の皇国周辺には存在しないのだ……このノイリムエルヴ城以外には。

 それも当然の事だろう。

 皇城であるノイリムエルヴ城は、アナザーアースのマイルーム拡張セットによって生成される城の一つなのだから。

 

 

(やっぱり見たことが有る構造だなぁ)

(だよなぁ……王城シリーズの三段目のアレンジだよな、これ)

(正確には王城シリーズ西洋城のVer.2です、マスター。障壁強度強化タイプに該当します)

 

 午前の日差しを浴びながら、僕達はそのノイリムエルヴ城へと足を踏み入れていた。

 この場合の僕達と言うのは、フェルン候の一行の事だ。

 フェルン候シュラートを中心として、その護衛や文官などが一団となって登城する中、僕らは新将軍ゼルグスの部下の一人として、堂々と歩いている。

 この中で僕の仲間は7人。

 僕、ホーリィさん、ゼルグス、アルベルトさん、ヴァレアスさん、ライリーさん、メルティさんになる。

 

(道理で魔法防壁がカッチカチなわけだ。そりゃモンスターも忍び込むの難しいよな)

(でも、こうやって入れば中で召喚は出来るので……よし、また一匹仕込めた)

(うわ、召喚が一瞬で終わるしエフェクト見えねぇぞ!? 万魔の主って準上級でもそんなことできるのかよ!?)

 

 僕達はユニオンリングの機能で会話しながら進んでいく。

 もっとも僕だけは違う。

 歩きながら情報収集に長けたモンスターを召喚しては放っていく。

 誰にも気取られない召喚。

 昨夜必死にレベリングした成果は、いかんなく発揮されていた。

 

 かつてのMMOアナザーアースにおいて、戦闘力の低いモンスターの召喚は手軽に行えるものの一つだった。

 所謂ペットの枠になるような召喚は、それこそ手軽に行えるべきものだったからだろう。

 しかしMMOのくびきから離れた時、そのペットのようなモンスター達は一気に有用度が増していった。

 例えばデフォルメされた、シーツを被ったようなお化けのような外見のホーリーゴーストは、そのコミカルな外見に反して諜報能力が非常に高い。

 幽体である為魔法的障害がない場所には自由に入り込めるほか、空中の浮遊や透明化能力まで併せ持つ。

 更には見聞きした事柄を召喚者の耳元でささやくというフレーバーテキストまで存在したのだ。

 ホーリーと言うだけあってただのゴーストでは消滅してしまうような神聖な事象や幽体の身体による物理無効など耐性も良好。

 そんなホーリーゴーストを、僕はいくつも呼び出している。

 レベリングで召喚時のオプションも活用できるようになったため、こっそりと召喚するような真似さえできるようになっていた。

 これは、MMOの時には召喚行動で発生するヘイト値の無効化という特性で、見た目的にも召喚時に発生する派手なエフェクトの軽減と言う形で現れていたのだ。

 昨夜のレベリングの際に気付いたこの応用は、今の所有効に働いていた。

 

(それにしても、朝会ったら顔が普段と違って驚いたぜ)

(皇都で傭兵として活動するときは偽装もかけていたので……)

(そっちのメイドや俺の相棒は直ぐに判断つくから良いけど、俺達プレイヤーだけだとわからなかっただろうなぁ)

 

 アルベルトさん達が言うように、僕とホーリィさんは、皇都に潜入する際に少し変えていた顔を本来のアバターのモノに戻してある。

 今の僕は、フェルン候に謁見した時の立場なのだ。

 つまり新将軍の過去の仲間にしてそのまま彼の直属の配下になった傭兵仲間に当たる。

 以前身代わりとして入れ替わり、この世界で傭兵と言う表向きの顔を維持してくれていた上級鏡魔とまた入れ替わったのだ。

 ホーリィさんも同様。

 なお、ゼルグスとしてゼルと入れ替わった鏡魔だけはそのままだ。

 ゼルに腹芸が向かないのは今更だし、なら無理に入れ替わる必要もない。

 更に言うなら、ゼル達僕のパーティーモンスターはグラメシェル商会の方で動いてもらっていたり、<貪欲>の本体である宝石の処理を頼んでいる。

 そして僕達は、例の御前会議に出席するため、そして僕は皇都の情報網の穴として残った最も大きな一つである皇城内に諜報モンスターを放つためにここにいた。

 

 とはいえ、実は眠たくて仕方がない。

 何しろ昨夜はひたすらレベリングしていたので、全く眠っていないのだ。

 位階が上がった影響で身体能力は増しているし、表に出さない程度には治癒魔法で癒しているものの、生理現象と言うのは魔法では完全にごまかせないらしい。

 

(ちょっと無茶だったかなぁ……)

(ヒトは寝溜めができぬものなのか?)

(竜みたいにはいかないですよ)

(せめて仮眠を取っとけよ。レベリングは後でもできただろ?)

(取り急ぎ転移魔法の位階制限をクリアしたかったので……ん?)

 

 ふと横を見ると、僕と同じくレベリングをしていたホーリィさんが居る。

 普段はおっとりとした表情だけに判り難いけど眠たいのは同じの様で、足取りがちょっとフワフワしていた。

 というか、寝てないだろうか、この人。

 そういえばさっきからホーリィさんだけ喋ってない。

 周りに合わせて歩いているだけで、意識が飛んでいるように見える。

 更に言うと、万魔の主を頂点とする召喚術師系統の称号持ちの特性として、様々なモンスターの存在を感知する感覚に反応がある。

 どうもホーリィさんは肉体の操作を見えない天使に丸投げしているようだ。

 かつてのアナザーアースにおける生産職などが使えた自動作業の応用のようなものだろうか? 

 ホーリィさんも位階が上がって新しい技を身に付けているようだ。

 

(何ならホーリィさんは宿で寝ててくれても良かったんだけどなぁ……)

 

 そう思うも、彼女の気持ちを汲むと否とは言えない。

 皇都に来てからズッとのような気もするけれど、今朝から今此処までの短い間にも色々あって、ホーリィさんが僕を心配して傍に付こうとしてくれているのも分かるのだ。

 

 僕はこっそりと横を見る。

 このフェルン候の一行には、文官武官や僕等以外にも、何名か奇妙な存在が同行していた。

 

 まずは一人。

 

(………………)

 

 一見すると、ごく普通の……いや見目麗しい女性に見える。

 しかし、彼女は危険だ。

 今は魔法の拘束具で歩く以外の身動きを封じているけれど、今も一瞬でも拘束を解けば、僕らはともかくこの世界の人々、つまいフェルン候を始めとしたこの世界に元々いた人々は皆殺しにされてしまうかもしれないのだ。

 何しろ、彼女は暗殺者、それもMMOアナザーアースのメインストーリーに登場する有名NPCなのだ。

 その名を、レディ・スナーク。

 変幻自在の怪物の名を持つ彼女は変装の名手にして、毒殺の達人。

 所謂盗賊系称号を得るために師事する師匠にあたる存在。

 そして、昨夜フェルン候の皇都別邸に忍び込んできた一人なのだった。

 

 更にもう一人。

 こちらは少年だ。

 好奇心たっぷりにあちこちを見回している。

 

「うっわーすっげー!! お城だよお城! 俺王都のにもまだ入った事無くってさー」

「これ、静かにせよ」

「うわっ! マジヤバくね? スナねーさん見てよあれ!!」

「静かにせよと! ええい、厄介な!!」

 

 僕達プレイヤーにはなじみ深い、盗賊系称号の初期装備を身に着けた少年は、見る者全てが珍しいらしく興奮しきりだ。

 何故か面倒を見ているゼルグスは全く御せておらず、明らかに心労を重ねていた。

 ……ゼルグスに扮している上級鏡魔には、あとで特別報酬を出さないと心苦しいと思ってしまうほどに、明らかにやつれ始めている。

 

(……考えないようにしてたけど、流石にもう無理が有るよなぁ)

(でもあの調子だぜ? こっちの正体は下手に明かせないだろ?)

(下手にアプローチしたらこっちの情報全部駄々洩れになりますよね、アレ)

 

 何処か活発な子犬を思わせるあの少年が、僕らの現在の最大の悩みの種だった。

 彼は僕らと同じプレイヤー。

 それも、アナザーアースサービス終了を知らず、最終日に登録したという超初心者プレイヤーであり……

 

「スナねーさん! ししょー! あそこで一緒に自撮りしよ! 他にもあっちとかも」

 

 恐らくは、レディ・スナークの最後の弟子なのだった。

 

(皇都には爆弾が多すぎるなぁ……どうしてこうなったんだか)

 

 他にも何人か剣呑な同行者がいるけれど、この二人は本当にとびきりだ。

 僕は頭を抱えたくなりながら、順を追って思い出そうとしていた。

 

 僕がレベリングを終えて皇都に戻って来た今朝の出来事を。

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