万魔の主の魔物図鑑   作:Mr.ティン

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第21話 ~大西海の嵐 地平に降りし太陽~

「つらら女の『気付き』が骨子とはいえ、我が王の為ならば、この身を尽くさねばの」

 

 氷山戦艦が位置する海域のはるか上空。積乱雲を眼下に見下ろす高度15000mの空域に、黄金の輝きを纏う船が浮かんでいた。

 その船、太陽船(マンデト)は、砂漠の支配者である<ファラオ>の乗り物だ。

 古代エジプトにおいて太陽神が乗る船ともされたところから、アナザーアースにおいては自由に空を駆ける飛行能力を得ている。

 その形は現実に伝わるクフ王の船を模して喫水の低い川船そのもの。しかし黄金のきらめきがあちこちに見られるように、元となったモノとは違い材質は木製ではなく金属だ。

 神鉄と呼ばれるそれは一種の魔法金属であり、黄金に似た見た目でありながら鋼よりも強固な特性を持つ。

 

 そんな眩い船に乗り、眼下の嵐の中心を見据えるのは、褐色の肌を持つ肉感的な、そして何よりも絶世の美貌を持つ女王だった。

 全身に黄金と白銀の装飾品と、薄絹の王衣に身を包んだ彼女は、夜光のマイフィールドは西方の砂漠地帯を治める<ファラオ>ネフェル・イオシス。

 彼女がこのような高層圏を飛行している理由はただ一つ。

 夜光の願いの為だ。

 

 

 それまでは遠慮がちにしていたモンスター達を交えた、氷河戦艦への対策会議は、氷の女王アレンデラの指摘から急速に固まっていった。

 

「なるほど、それが弱点なら、色々とやり様があるってもんだ」

「あの巨大さに目を奪われてしまいますが、その巨体を維持するのも一苦労なのは道理ですわね」

「あの氷の船がやって来たのは南から。その時点で疑問を持つべきでした」

 

 あの氷山戦艦は、南からやって来た。

 夜光のマイフィールドであるアクバーラ島は、緯度としては日本などが位置する温帯の領域にある。

 それぞれの地域により精霊の働きで気候に大きな差は在れど、根本的には季節により寒暖が生まれる地域に当たる。

 そしてこの世界においても赤道のある南方が熱く北方が寒冷であるのは変わらない。

 だと言うのに、あの氷の船はその熱い南方からやってきていた。

 つまり高温の南の海にあってもその膨大な量の氷を維持していたと言う事。

 それを可能にしているのが、氷の女王アレンデラが示した一点。

 

「艦中央にある一際強い氷の精霊力、恐らくはLLL級の巨大さを持つ大精霊石が、あの船体を支える核な訳か」

 

 氷属性の扱いという点で、氷結女公(フロストダッチェス)の右に出る者はそうは居ない。

 七曜神の内の水流神ウェタティルトでさえ、氷属性の扱いではアレンデラに一歩譲る。

 故にこそ、幻影に映し出された光景ですら氷属性の高まりをアレンデラは見抜けたのだった。

 

「それも、海王の暴走が無かれば見抜けなかったかもしれませんわ」

「むぅ……不幸中の幸い、いや、この場合は怪我の功名か」

 

 それも、平時であれば氷の力も氷山その物の氷属性に隠れ判別できなかったかもしれない。

 海王の激しい攻勢に、海中での戦力の補充を繰り返したが故、精霊力が高まらざるを得なかったのだろう。

 

「あれだけの巨体だ。その巨大精霊石を砕いてしまえば船体の意地すらままならなくなるだろうし、多くの魔法回路を機能不全に出来るだろうね」

「となればそこ狙いの一点突破か?」

「いや、それはどうだろう? 相手も自身の弱点は理解しているだろうから、その核を素直に狙って突破できるとは思えないぞ? アレを見ろよ、真上に城、じゃないな、艦橋って奴がありやがる」

「何より位置がな……かなり氷の奥底にある。多少氷を掘り砕いても届くか?」

 

 ライリーらプレイヤーや主要なモンスター達が、氷の巨船の攻略法に意見を交わす。

 確かに弱点らしきものはわかったものの、そこに至る道は容易ではない。

 その巨大精霊石と思われる反応の在り処は、氷山戦艦のほぼ中心、甲板から数百mは下に位置しているのだ。

 さらにはその上部には砦のような艦橋が存在し、氷の精霊石の守りを固めても居る。

 まさしく海上の要塞を攻めるに等しい強固さだった。

 誰もがその攻略の困難さを理解する。

 しかし同時に、解決すべき問題が明示されたともいえる状況に、諦めの空気はない。

 

「……じゃぁ、多少じゃ無ければ?」

 

 だからだろう。夜光の脳裏に、ごく当たり前のように方策が浮かんだのは。

 

「多少じゃなければ?」

「海王と戦っているあの水中の戦力も、船体の維持も、あの精霊石が支えてる。だけど、幾ら巨大な精霊石でも支えられる負荷に限度があるのでは?」

「あ~、道理だな。つまり限度以上の負荷をかけてやれば、あの船体自体の防衛能力にもほころびが出るって事か」

「ええ、そのための戦力なら、多分十分にありますし」

 

 夜光が見渡す謁見室。そこには彼がアナザーアース世界を駆けずり回って集め続けたモンスター達が居る。それも、およそ望みうる最高峰の者達が。

 

「城攻めって、相手の防衛戦力に対して攻め手の戦力は3倍とも10倍とも必要となる聞きます。だけど、それくらいの戦力なら多分大丈夫ですしね」

 

 そして提案された作戦。その第一段階を任されたのが、砂漠の女王ネフェル・イオシスであった。

 海中の海王の戦闘が敵艦へと一定の負荷を与えている中、更なる追撃を加えるべく、彼女はこの上空へとやってきたのだ。

 そして、この場に居るのは彼女一人だけではない。

 

「このところは、ずっと裏方ばかりであったからの。こうして直接力を振るうのは久々よ」

 

 陽光神ハーミファス。

 ある意味太陽船(マンデト)の持ち主であるイオシス以上にその船に相応しい同乗者は、世界の運行という彼女達の感覚からすると裏方よりの役目とはちがう力の開放の機会に、その幼女の姿に相応しいワクワクとした表情を浮かべている。

 

「妾だけでも十分であろうに」

「そう言うでない。我とてたまには力を振るいたいのじゃ。それに、我はそなたらの邪魔はせぬよ」

 

 そんな彼女の同乗を不満げにするイオシス。

 不満の理由を察するハーミファスは、笑いながら彼女をたしなめる。

 此処で活躍して夜光へアピールしたいイオシスの心情。それを理解しているハーミファスは、彼女の邪魔をする気はない。

 むしろ心情としては同じ陽光を司る者として応援してもいいとさえ考えているのだが、あえて語る気も無いのだった。

 尚も何処か不満げな色を隠せないイオシスをなだめつつ、陽光神は仕事を促す。

 

「それよりも、そろそろ始めようぞ?」

「確かに、今は我が王の願いが先よな……ならば、妾に合わせよ! 『ホルスの翼』よ、開け!!」

 

 イオシスの掛け声と同時に、太陽船(マンデト)のマストと帆に変化が生じる。

 まるで巨大な猛禽が翼を広げるように、幾重にも重なっていた帆が展開され、まさしく翼のように広がっていく。

 僅かに弧を描きながら広がり続けるそれは、最終的に巨大な円を描いていた。

 

 彼女達<ファラオ>に限らず、アナザーアースにおけるイベントのボス戦闘において、敵方のモンスターが時折強力な攻撃を放つことがある。

 エクストラアタックとも言われるそれは、各ボスモンスターの必殺技とも言っていい。

 それは殆どの場合長いため時間が生じ、その間に攻撃の発動を食い止めるか、もしくは不十分なものとする為の何らかのギミック処理を行わない限り、パーティー全滅級の大ダメージが襲ってくるのだ。

 回避も出来ない広範囲エリア攻撃は、そのボスモンスターの特性を色濃く反映する為、プレイヤーたちはその対策に頭を悩ませていた。

 

 そして彼女ネフェル・イオシスも、とあるクエストのボスモンスターとして君臨していた。

 特にプレイヤーからは第三形態と呼ばれる、現在彼女がとっている褐色肌の絶世の美女の姿の際のエクストラアタックは特徴的だった。

 太陽船(マンデト)を呼び出して戦闘エリア上空へと移動すると、彼女が支配する領域──つまり広大な砂漠に降り注ぐ強烈な日差しを、戦闘エリアという限られた範囲へと収束させ、太陽表面にも匹敵する巨大熱量で焼き尽くすのだ。

 一言で言ってしまえば一種の虫眼鏡なのだが、収束する元が砂漠の強烈な日差しであり、砂漠全域と戦闘領域の面積比がとんでもない為に、尋常ならざる結果をもたらす。

 一度発動してしまえば、伝説級:100のカンストまで育てたキャラクターでも耐えられない為、その前段階である太陽船(マンデト)の召喚の時点でプレイヤー側も太陽船に乗り込み回避する必要がある。

 その後は砂漠上空の太陽船(マンデト)船上での戦闘パートに移行し、最後まで戦闘することになるのだが、それはこの場で語る内容ではない。

 

 現在、イオシスが展開している『ホルスの翼』は、そのエクストラアタックの前段階だ。

 巨大な円を描いた帆の中心へと、これから彼女の支配する砂漠へと降り注ぐ陽光が集まるのだ。

 今の彼女が支配するのは、夜光のマイフィールドであるアクバーラ島の西部のみ。

 クエストのボスとしての彼女は、アナザーアース世界における最大の砂漠を支配していたが、現在の支配領域はその頃と比べ余りに狭い為、エクストラアタックの威力も大きく減衰している。

 だが今回、この場に居るのは彼女だけでは無い。

 この場には、アナザーアースにおける太陽を司る陽光神ハーミファスが居るのだ。

 

「合わせるのじゃ。しかと受け止めるが良い」

 

 促すように太陽船(マンデト)の舳先で両手を広げるハーミファス。

 すると、収束していく光が強まっていく。

 陽光神は太陽の象徴。太陽の恵みである陽光を増幅することなど、息をするように容易い事だ。

 そして、今。

 円形に広がった帆の中心は光に満ちていた。

 集められたそれは、いっそもう一つの太陽と言っていいほどに輝きを放つ。

 そして、ファラオは、その腕を振り下ろす。

 

「妾の威光をとくとと見よ! 『地平に降りし太陽(ラ・ホルス・アテン)』!」

 

 瞬間、もう一つの太陽は、緩やかに解けながら眼下の嵐へと降り注いだ!

 氷山戦艦の上空で渦巻く雲が、降り注ぐ光とその熱量で雲のカタチを維持できず、水蒸気へと昇華していく。

 そしてついに、氷山戦艦に光が辿り着いた。

 溢れる輝きは海中奥深くまで届き、戦場を染め上げていく。

 

 だが、その強烈な光の中にあって、氷山戦艦は健在であった。

 もとよりその船体は氷だ。雪原が白く見えるのは、光を良く反射し、また透過するからである。

 氷山戦艦もまた、光に対してある程度の耐性をもっているのだ。

 しかし、全くの無事とは到底言えない。

 その上面に配置された無数の攻撃用魔法装置は、高熱に晒され次々と機能不全に陥るか、もしくは破壊にまで至っていた。

 海中に向けて投下されていた爆雷も、海面に落ちる以前に爆発し、また長距離砲撃を行う砲塔も赤熱し始めている。

 

 戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。

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