万魔の主の魔物図鑑   作:Mr.ティン

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第22話 ~大西海の嵐 鋼の衝角~

「外気温急速上昇」

「対空砲7割稼働不能」

「副砲5基沈黙」「主砲3基赤熱化」

「主氷結炉出力上昇セヨ」

「冷却装置全力稼働──砲塔保全ヲ優先セヨ」

 

 天空からの光の暴虐が氷山戦艦に降り注ぐ中、その中枢ではダメージコントロールが始まっていた。

 主動力であり、氷山の船体を支える冷却装置でもある氷の大精霊石に魔力が注がれ、上昇した船体の温度を下げ、また熱により破壊されるか機能不全となった砲塔の数々を修復していく。

 艦橋等は、水面下の<ニンゲン>達のように氷で出来ている為、氷の精霊力を高めれば修復可能なのだ。

 もとより材質が氷であるため、光を反射もしくは透過出来、上空からの攻撃にある程度耐性があったのも大きいだろう。

 しかし、攻撃に使用される砲塔の中でも強力な物、例えば最大の射程を誇る主砲や副砲は、強度を要求されるだけに魔法金属を使用しているため、破壊にこそ至らないモノの赤熱化等で使用不能となって居た。

 しばらく前から続いていた水中の攻勢と、上空からの光の同時攻撃は、氷山戦艦のリソースを大いに削ったのだ。

 常時氷の大精霊石を最大稼働しなければ、天空からの光で船体が溶解しかねない状況と言える。

 砂漠の女王ネフェル・イオシスのエクストラアタックは、それほどまでに強力であった。

 しかし、光は何時までも維持されるものではない。

 一定のため時間が必要なエクストラアタックは、あくまで一瞬の強力な攻撃であり、維持はされないのだ。

 その為氷山戦艦は武装を修復し、体勢を立て直す機会が生まれていた。

 

「上空15000mニテ魔力反応感知」

「迎撃セヨ──高高度攻撃用砲塔精製」

 

 だが、更なる攻撃が迫っていた。

 

「報告──接近スル船影在リ」

「数10──後続在リ」

「迎撃セヨ」

 

 観測手が捕らえた船影は、この世界の常識から外れた猛スピードで、この海域へと突き進んでいた。

 

 

 水平線の彼方に光の柱が立った。

 全長3kmの氷山戦艦全体に負荷を与えるため広範囲に降り注ぐ光は、20kmは離れた海上からでも容易に見て取れる。

 推定された氷山戦艦の最大射程外に位置するこの海域には、今無数の船影があった。

 武骨な装甲に覆われた、鋼の艦。

 前方に強固な防弾壁を構え、喫水付近には鈍く輝く鋼の衝角が据えられ、波を切り裂いている。

 甲板にはせわしなく動く無数の人影。

 ただそれらの人影は、余りに特徴的であった。

 背丈は子供じみて低く、それに反して横幅と厚みは重厚。

 戦士と職人の種族であるドワーフ達が、それら鋼の船を操っていた。

 

「見ろ、砂漠の姐さんがカマしたぞ! 次は俺達だ、気合入れろ!!」

「「「「応、親方!!!!」」」」

 

 ドワーフ達の中でも一際体格が良く威厳に満ちた者の声が響く。

 ハイドワーフにして、職人頭。

 同じドワーフの職人たちからは親方と呼ばれ、他の種族からは鋼の王と呼ばれる彼ガハルゴスは、大いに気炎を吐いていた。

 鋼の船は、その数10隻程。

 彼方に浮かぶ氷の巨艦と比べれば常識的な範疇だが、それでもそれぞれ数百mはある立派な船だ。

 またそれらの船は、同じような意匠でありながら、どれも様々に違いがある。

 解りやすい違いは、その駆動方法だろう。

 何隻かは船体の左右に水車めいたパドルをもつ外輪船であるが、後方にスクリューを備えたモノ、更には水と風の精霊石に寄るジェット水流を発生させて推進するものまで存在した。

 

「試しに作ったこいつらを活かせる時がくるたぁなあ……職人冥利に尽きるってもんだ」

 

 親方ガハルゴスは、慌ただしく他のドワーフ達が準備をする中、感慨深げにつぶやく。

 これらの船は、内燃式の戦闘機械の開発過程で生み出された産物だった。

 

 夜光の同盟者となったライリーから内燃機関の概念を知ったドワーフの職人たちは、何度も試作品を作り上げながら、少しづつ技術を高めていった。

 ごく最近に多脚式の搭乗型戦闘人形へ搭載するまでになったそれだが、すぐさまそういった機体に動力炉を乗せた訳ではない。

 初期の内燃機関は規模も大きく重量が嵩む。

 据え置きでの単純な動作確認はともかく、連動させる機体を踏まえた上での稼働実験には、地上機では到底支え切れなかったのだ。

 このため、しばらくはこういった船での実験が行われていた。

 単純な回転運動を出力する初期内燃炉では、外輪船を。

 水密技術が高まった後には、スクリュー船を。

 遂には単純なエネルギーとしての放出と、そのエネルギーを風や水の精霊石に注ぐ精霊循環炉の発明により、ジェット推進船に至り、小型化軽量化は極まり、ようやく陸上用戦闘機体への組み込みに至る。

 つまりはこれらの鋼の船は、本命開発の副産物なのだ。

 

 その副産物が今、戦列を組み突撃態勢を取っていた。

 前面に防弾の追加装甲と、喫水に衝角を構えたその姿は、まるで盾と槍を構えた騎士の戦列だ。

 大本の船にそれらの武装を追加する作業を短時間で済ませ得たのは、流石の技術力で名高いドワーフの職人たちである。

 そして今、準備は整い、合図である太陽の輝きが舞い降りた。

 

「行くぞ、お前たち、突撃だ!!」

「「「「応!!!!」」」」

 

 号令と共に、半稼働状態であった各船の炉が全力稼働を始めた。

 どの船も弾かれたように飛び出し、一気に加速していく。

 本来外輪船等はその様な加速を成し得ないのだが、それらには補助動力として、追加の水流ジェット推進機が外付けで追加されていた。

 その為多少の遅れは在るものの、問題なく他の船に付いてゆく。

 それはまるで騎士の突撃の様であった。

 

 海原を突き進む鋼の船の一団。しかし、氷の巨艦もただ接近を許すほど甘くはない。

 戦列を構成する一隻が、轟音と共に突如大きく航路を揺らす。

 

「! 親方!?」

「怯むな!! 想定内だろうが!!」

 

 そう氷山戦艦の迎撃が始まったのだ。

 溶解しかけた砲塔を急速冷却し、魔法人形の兵達が応急的に修復した砲塔は、まだかなりの距離があるにもかかわらず、突き進む鋼の船を捕らえたのだ。

 しかし、天空からの光によるダメージが深刻なのか、風浪神が迎撃された際よりもかなり距離を詰めている。

 

「被害は!?」

「前面装甲が一部吹っ飛んだが、まだ行けるぜ!」

 

 更に、鋼の船は前面を分厚い装甲で固めているため、易々と沈まない。

 行き脚こそ減じているものの、戦列を大きく乱すことなく突き進んでいた。

 その後何度も砲撃が飛んで来るものの、鋼の船はそれも脱落することなく海域を突き進む。

 パワーボートのような推進力で海面を切り裂く鋼の船。しかし、遂に被害が出始める。

 氷山戦艦を視認する距離になると、砲撃がまさに弾幕となりドワーフ達の船を襲い始めたのだ。

 

「くそっ、外付けの推進機がやられた!」

「前面装甲吹っ飛んじまった!?」

 

 元々機体に組み込まれていた推進機はともかく、外輪船に追加されたジェット推進機は側面に大きく張り出していたため、前面装甲でも守り切れずに破壊されたのだ。

 このため外輪船は大きく速度を落とし、戦列から脱落していく。

 更には強固な筈の前面装甲も度重なる砲撃で破壊され、大きく守備力を落としてしまう。

 

「無理はするな! ヤバそうなら転移石でズラかれ!!」

「なに、まだまだいけるぜ、親方!!」

 

 鋼の船は動力炉検証用の為、前面装甲が脱落した場合炉がほぼむき出しとなってしまう。

 火の精霊石によって稼働する炉に砲撃の直撃を受ければ、または操舵するドワーフ本人に直撃しようものなら、只では済まないのは明白だ。

 もっとも、親方ガハルゴスが言うように、彼らドワーフ達には使い捨ての転移アイテムが配られている。

 行き先は彼らのホームであるドワーフの職人街に固定されるが、転移発動までの溜めが短い為に緊急離脱用として有効なのだ。

 しかし、前面装甲がはがれた船のドワーフ達は、一向に離脱する様子はない。

 ドワーフは職人の種族であると同時に、戦士の種族だ。

 脅威を前にそうそう怯む様な軟弱な者は、この場に居なかった。

 

「親方、また光が!」

「おう、砂漠の姐さんの仕事だ! 行けるぞ!!」

 

 そしてそれを後押しするように、更なる天空からの光が降り注ぎ、迎撃の砲撃が沈黙する。

 この機を見逃すドワーフ達ではなかった。

 

「よし、行くぞ手前ら!! 炉を暴走させろ! 突っ込め!!!」

「「「「ヨッシャア!!!!」」」」

 

 迫りくる巨大な氷壁。近づくほどに威容を誇示する巨艦に向けて、鋼の船は次々に突き進む。

 そして、

 

 轟!!!!

 

 海域を振るがす爆発が次々に巻き起こった。

 鋼の船の大質量とパワーボートのような速度に寄る、衝角突撃が氷山戦艦側面へと突き刺さったのだ。

 同時に実験炉に積まれた火の精霊石が魔力暴走を引き起こし、突き刺さった衝角を起点として激しい破壊を巻き起こす。

 無論乗り手も只では済まないが、そこはしっかりと衝突寸前で皆転移石で離脱していた。

 最後に行き脚が遅れた外輪船がおまけのように側面に突き刺さると、氷壁に巨大な亀裂が入り始める。

 それはまるでこの巨艦の先行きを暗示するようでもあった。

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