万魔の主の魔物図鑑   作:Mr.ティン

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第26話 ~大西海の嵐 巨体を貫く一撃~

 巨大な大凍球から放たれた絶死の凍結波動が、僕達を襲う。

 全方向に放たれたそれは、どうあがいても避けられない。

 幾らギガイアスが頑丈だとしても、直撃しようものなら装甲ごと物質の根源的な揺らぎすら停止させられて、周囲の氷塊のように無に還るだろう。

 だけど、僕のギガイアスを甘く見てもらっては困る。

 手塩にかけ作り上げた超合金(ハイブリッドメタル)魔像(ゴーレム)は、ただ人型をしているわけではないのだ。

 

「ギガイアス、防御態勢! 『回し受け(スパイラルガード)』」だ!」

 

 僕の命に応え、鋼の巨人は、剛腕を前方にかざす。

 迫りくる凍結波動は、周囲に浮かぶ氷塊のおかげで到達のタイミングを見計らうのは容易だ。

 その到達の瞬間、ギガイアスの巨腕は、流れるような円を描いた。

 同時に前面に展開される精霊力の螺旋のうねり。ギガイアスの巨体に匹敵するその渦は、凍結波動を絡め取り、方向を逸らしていく。

 数瞬後、辺りは深い大穴がぽっかりと作り出されていた。凍結波動により、凍った海面ごと広範囲が円形に削り取られたのだ。

 だけど、ギガイアスの立つ場所とその背後は、破壊を免れ扇形に氷の足場が残されていた。

 

 僕が作り上げたギガイアスは、格闘家称号の一つの到達点、<拳王>の称号を得ている。

 格闘家称号は素手での戦闘スキルを多数習得できるほか、敏捷性や耐久性に補正がかかるほか、素手攻撃力を跳ね上げる特性を持つ。

 特に戦闘スキルは多彩で、武器を装備できないと言うデメリットに見合う高性能なものが揃っていた。

 『回し受け(スパイラルガード)』は、その中でも防御スキルとして高い性能を持つ。

 体内で練った気功を両手に集め、それを円形に動かし螺旋の気の渦を生み出して盾とするのだ。

 効果時間は短めながらも、その間は大幅にダメージを軽減できるし、更には単体攻撃のみならず範囲攻撃も自身及びその後方に安全地帯を作り上げることが出来る。

 ギガイアスの場合、生体ではない魔像だけに気功部分は生み出せないけれど、代わって両腕に据え付けた精霊波動発生装置<破軍衝(サドン・プレッシャー)>で同等以上のエネルギー流を発生できるのだ。

 とはいえ、全くの無傷じゃない。

 

「マリィ、残り精霊石量は? 特に風属性!」

「拙いですわ、風は2割を切っています。炎も3割を切りましてよ!」

 

 あれだけの威力の凍結波動を相殺するのに、かなりの量の精霊石を使わされてしまった。

 そもそもここに来るまでの飛行でかなりの量を使っていたのだ。

 追加の精霊石タンクで容量を増していたとはいえ、2体の超大型魔像を音速を超えた速度で飛ばす以上消費は避けられない。

 元々ギガイアスは燃費が悪く、長期戦には向かないのだ。そこへ大凍球との戦闘でも常時飛行したり回避に使用したため、一気に稼働時間を削られた形になる。

 もう一度同じような攻撃をされたら、相殺し切れるかどうか。

 

 ただ、好材料もある。

 

「夜光様、恐らくは今のがあの球の切り札ですわ。あれ以上の攻撃は持ち合わせていない筈ですの」

「それは確か?」

「ええ、内部の炉の精霊力が最大に高まったのを感じましたの」

 

 氷の女王アレンデラが、相手の氷の精霊力の動きを全て読み切ってくれた事だ。

 彼女が相手の攻撃の予兆を感じ取り、直前で教えてくれるからこそ、今まで戦闘が成立していたと言っていい。

 相手がただの球体のせいで予備動作などから攻撃を読むのが困難だっただけに、彼女の働きは大いに助かっていた。

 本来は別の理由で彼女を乗せているのだけど、おかげでここまで助かっている。

 同時に今の全周攻撃が相手の最大の技だと判ったのも収穫だ。

 此処まで見て来た相手の攻撃で全てというのなら、あの全周攻撃以外なら避けられる。

 

「……あとは、あの相手にどうやって攻撃を届かせるか、で御座るな」

「そうだね。せめてもう少し地上に近ければやり様があるんだけどな……」

 

 ゼルの声に、思わず愚痴めいた声が漏れてしまう。

 未だギガイアスの全高の2倍ほどの高さの空中に浮遊する大凍球。

 これまでの相手の攻撃の間に、カウンター気味に攻撃を放ってはいたものの、ここまで全くダメージを与えられていなかった。

 ギガイアスは、その巨体に合うサイズの武器がそう無いのもあって格闘を主戦力にしている。

 手足に仕込んだ精霊波動発生装置<破軍衝(サドン・プレッシャー)>は、多少離れた相手にも衝撃が届くけれど、それもサイズ差が在っての事。

 空中に浮く巨大な球体は、多少の衝撃波ではびくともしなかった。

 多分攻撃として放っていた凍結の波動を、防御にも利用できるのだろう。

 普段なら優位に判定されるギガイアスのサイズが、この相手だと逆になる。

 ギガイアスよりも巨大な大凍球は、ギガイアスの攻撃を受けてもその殆どをかすり傷程度に押さえてしまっていた。

 更には、その微細な傷も時置かずして修復されている。恐らく自動修復系の魔法装置も組み込まれているようだ。

 攻めあぐねる僕等。そこに、思いがけず助けがやってくる。

 

「せめて直接叩ける高さやったら……あら?」

「どうしたのここの?」

「下から何か……これは!?」

「えっ!? 渦?」

 

 大凍球の全周攻撃で大きくすり鉢状になった氷のフィールド、その底の部分が突如割れ、間欠泉のように大量の海水が溢れ出したのだ。

 更にはその大半が渦を為して、巨大な蛇のようにうねって上空へと身体を伸ばしていく。

 

「おおおお! 今こそ、一番槍の務め果たす時!!!」

「あれは、海王!?」

 

 その渦の先端で気炎を吐くのは、誰よりも先にこの戦場で戦いを繰り広げていた海王レオンだった。

 少年姿の彼は、水流を操る三叉の鉾を振りかざし海水を操ることが出来る。

 時にはそれで大波を作りあらゆるものを押し流すことも、時には巨大な渦を作りあらゆるものも水中に引きずり込む事さえ可能だった。

 そして今、巨大な水流の大蛇を作り出した彼は、その勢いのままにはるか上空へ駆けあがっていた。

 ギガイアスの上空、浮遊する大凍球のさらに上空まで。

 

「! そうか!! ギガイアス、海王に合わせて!!」

 

 海王が何を狙っているか察した僕の声と、大凍球の反応は同時だった。

 その巨体のあちこちから突き出した砲塔から、冷気の奔流を溢れさせる大凍球。

 凍てつく放射は海王の操る海水を瞬く間に凍らせて、只の氷の柱に変えてしまう。

 更に海王本人にも向かう凍気の放射。

 だけど、一歩遅かった。

 

「我が真の姿を見るがいい!! 真体開放!!!」

 

 海王の叫びと同時に、溢れるオーラが海王に触ようとした波動を押し流す。

 少年の姿の海王は、その内から海水を溢れさせるとその中で急激に姿を変え、更には爆発したような勢いで巨大化する。

 一瞬の後そこに存在するのは、ギガイアスの2倍はある大凍結に匹敵する巨大な海蛇の姿。

 海王レインの真の姿はである海王蛇(レイン・クロイン)は、英国に伝わる船数隻を一度に飲み込むほど巨大な海蛇だ。

 もとより巨大な傾向にある海のモンスターにあって一際巨大な海王蛇(レイン・クロイン)は、その身体をうねらせるだけでも全てを蹂躙する威力がある。

 まして今その巨体は空中を、大凍球の上空を覆いつくしていた。

 その軌跡はイルカやオルカが空中に跳ねて弧を描くように、超大質量の巨体を大凍球に叩きつける!

 

「!?」

 

 一瞬大凍球が動揺した様な気配があるけれど、あちらもやられたままじゃない。

 その凍結の波動を海王に叩きつける。全身のあちこちが凍結し、崩壊する海王。

 だけどその巨体全てを凍らせるには、海王自身が内に宿す力もあり到底足りない。

 そして圧し掛かられた大凍球は、浮遊状態を維持できずに地上に落下していく。

 そして、落下地点に待ち受けるのは、僕等とギガイアスだ。

 天空から墜ちる球体の真下、迫る巨体を待ち受け、力を一気に開放する!

 

「ギガイアス、<連貫(つらぬき)>発動!!」

 

 落下する巨球の真芯を捉える抜き手、接触と同時に多数の魔法装置を連動させ、その全ての衝撃を一点に集中させる破壊の一撃は、大凍球の外殻を打ち砕いた。

 

「まだだ! アレンデラ、お願い!!」

「判りましたわ!」

 

 更に僕は氷の女王と共に、ギガイアスの胸部から飛び出す。

 外殻の中にある二つの中枢。その内の冷気の中枢である凍結炉と、もう一つの核らしき立方体に向かって。

 それが、この戦いを終わらせる最後の一手だった。

 

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