万魔の主の魔物図鑑   作:Mr.ティン

182 / 241
プロローグ 堕ちし世界樹 その2

 俺は、ライリーという男から、色々な話を聞いた。

 こいつは、複数のプレイヤーと同盟(ユニオン)を組んで、この現実化したアナザーアースの世界で元の世界に帰る方法を探しているそうだ。

 いや、正確にはこの世界はアナザーアースの世界じゃないらしいけれど、ずっと自分のフィールドに引きこもっていた俺達からすると、大して違うようには思えなかった。

 特に、この今いる土地を含めた大陸や、海を挟んで東の方にあると言う大陸の話とかはさっぱりだ。

 だけど一つ明確なのは、もう俺とミミは引きこもっていられる状況に無いって事。

 そうなると、このライリーって奴が参加している同盟(ユニオン)と、ある程度の関係を持った方が良いように思えた。

 俺はチラリとミミの方を見る。

 ミミの種族人猫(ウェアキャット)は、警戒心が強く用心深い。

 特に危険が絡むと直ぐに察知出来たから、俺達が此処まで引きこもって来るのに大きく役立っていた。

 そのミミが、このライリーというやつにはさほど警戒心を抱いていない。

 まぁ、ミミを見かけた時だけ

 

「ネコミミ! 良いよな! 俺もたまにはメルティにネコミミカチューシャをつけさせたいんだが、この世界になってからは妙に拒否られるんだよなあ……」

 

 妙にテンションが跳ね上がり、その時だけミミは怯えて俺の後ろに隠れたんだが。

 そのライリーは、同じく緋色の巨大な魔像(ゴーレム)から降りて来たメルティとか言うメイドに、軽く耳を引っ張られていたが。

 

 そのライリーから聞いた話によると、あの邪樹翁(イビルエント)は狂ったという世界樹が地脈に張り巡らせた根を通じてこの大陸中に送り付けているらしい。

 その為、ライリーの同盟(ユニオン)は、今総出で邪樹翁(イビルエント)退治に追われているそうだ。

 ただあまりに邪樹翁(イビルエント)の攻勢は大規模で、相応に戦力があるらしいその同盟(ユニオン)にしても到底全てに対処しきれないらしい。

 

「まぁ、不幸中の幸いは、邪樹翁(イビルエント)の侵攻が無差別過ぎて。お前さんみたいなプレイヤーの領域を狙っている訳じゃないって事なんだが」

 

 狂った世界樹というのは、俺みたいなプレイヤーと共にこの世界にやって来たわけでは無いらしい。

主であるプレイヤーが居ないことで制御不能になった世界樹が、何かをきっかけに暴走した、というのがライリーの同盟の見解の様だ。

 

「多分、狂ってはいるが、主であるプレイヤーを手分けして探してるんだろうさ。探すだけなら良いが、見境ないせいで俺らプレイヤーにも襲い掛かって来るがな」

 

 そして、邪樹翁(イビルエント)が通った土地は、闇の瘴気に浸食される。

 捻じれた幹の木々に時折泡を弾けさせる腐った沼。

 そんな悪夢じみた光景がこの大陸に広がっていく。

 だが、とそんな現状に対してライリーは言う。

 

「そこを俺達は食い止めたいのさ。で、お前さんみたいな多少なりとも戦えるプレイヤーと遭遇したら、勧誘としてウチに入るか、それとも今回だけの情報のやり取りか、その辺を選んでもらっている」

 

 つまり、見ず知らずの俺達を助けた理由は、向こうにも打算があったと言う事。

 だけど俺は安堵していた。

 このライリーというやつが所属している同盟は、無償での手助け何てあやふやな目的で行動しているのではなく、ちゃんと利害に基づいているのだと判ったからだ。

 利害を意識している奴は、下手に無欲な奴より余程信用できる。

 だからこそ、俺はこのライリーという男について行くことにしたのだ。

 しかし、ここに大きな問題もあった。

 

「俺、アンタみたいに強くないんだけどな……」

 

 そう、俺ことアキュラの位階は、準上級。邪樹翁(イビルエント)単騎相手ならどうにかなるけれど、あれほどの群れにたいしてどれくらいの役に立つか、戦力になるかは考えたくもなかった。

 

「気にすんな。プレイヤーってだけでやれることは多いからな。直接戦わなくても、後方支援やらウチの生産トップの手伝いやら、幾らでもやってもらいたいことは有らぁな」

「生産トップ?」

「関屋って奴なんだが……」

「あ、名前は聞いたことがあるかもしれない」

 

 自身のマイフィールドを商店街にしてそのオーナーとして商人プレイをしていた関屋の名は、俺も聞いたことがあった。

 そんなある程度名の知れたプレイヤーが参加していると言うのは、ある種の信用を担保しているみたいで安心感があった。

 そこの手伝いとなれば、同行しているミミも危険にさらされないだろう。

 それらを考慮して、俺はこの狂った世界樹の時間が落ち着くまで、その関屋の手伝いをすることにした。

 

「じゃぁ、その関屋って人の所に送ってくれないか? 協力するにしても、俺はこの近辺しか知らないからな……」

「おう、任せな」

 

 ライリーは気やすく請け負うと、俺達をあの緋色の魔像に招き入れる。

 そして消費したらしい大量の精霊石を補充すると、その商店街に向けて空に飛び立つのだった。

 

 □

 

 だが、向かった先で広がる光景は、俺の期待を裏切っていた。

 

「くそっ、此処にもあいつら来てるのか!?」

 

 日緋色金魔像(ヒヒイロカネゴーレム)の中、外部の光景を映し出す外界表示(モニター)には、ちょっとした防壁に囲まれた街並み──商店街と、そこに迫る黒い波のような邪樹翁(イビルエント)の群れが上空視点で映し出されていた。

 

「お、おい、大丈夫なのか?」

 

余りの光景に、俺は自分の声が震えるのが判った。

 あの商店街は、ライリーが言うには同盟(ユニオン)の制作拠点のはずだ。

 もしあそこが落ちたら、同盟の力は大きく削がれてしまうんじゃないか?

 そんな不安が溢れてくる。

 

 だけど、その光景を見てもライリーの奴は欠片も動揺していない。

 

「なあに、そろそろあいつが動くころだ。『緋彗』はさっき目いっぱい動いたせいでガス欠でもあるし、俺っちたちは高みの見物と行こうぜ?」

「あいつ?」

 

 俺が首をかしげる前に、それは巻き起こった。

 極太の光線のような、九条の奔流。

 色とりどりの輝きを示すそれは、複数の属性の息(ブレス)だ。

 奔流は生きているかのように眼下の邪樹翁(イビルエント)の群れを蹂躙していく。

 

「あれは……?」

 

 あっけにとられる俺の向ける視線の先、外界表示(モニター)には、上空から降り立つ巨大な影を映していた。

 うねる九つの首と、それを支える頑強な手足と胴に、力強く巨大な翼。

 圧倒的な破壊の化身じみたソレの名を、俺は後に知ることになる。

 九頭(ナインヘッド・)竜王(ドラゴンロード)、ヴァレアス。

 そして彼女を駆る竜騎士、アルベルトを。

 

 瞬く間に蹴散らされていく邪樹翁(イビルエント)をよそに、俺達は商店街へと降り立つのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。