万魔の主の魔物図鑑   作:Mr.ティン

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プロローグ 堕ちし世界樹 その3

 俺達が降り立ったそこは、様々な店が立ち並ぶ商店街だ。

 プレイヤーが拓く店舗系マイフィールドとしてはかなり有名で、特に<神工>の称号を持つ関屋ってプレイヤーが作る武器は、どういう伝手があるのか各エンドコンテンツの開放前にそれ用の高品質製造武器を毎回用意していて、早期クリアを目指すなら関屋商店街を利用するべきという話も良く聞こえて来た。

 俺はエンドコンテンツとは無縁のゆるゆるプレイだったから縁が無く、この商店街を訪れるのは初めての事だ。

 

「いろんな店があるな……それに、活気も凄い」

「ああ、今ここはお前さんみたいな今まで引きこもってたプレイヤーなんかもやってくるようになったからな。賑わいもするだろうさ」

「俺みたいなやつがそんなにいるのか?」

「ああ、良く解らん世界にわざわざ踏み込まなくても、元々物資が有ったり自給自足できるようなマイフィールド持ちなんかは、『門』をとっとと閉じて引きこもる奴が多かったみたいでな。俺っちも、ちょっとしたきっかけさえ無けりゃ同じだったんだがな……」

 

 ライリーは何かを思い出してるみたいだが、俺はそれどころじゃない。

 ずっと引きこもっていた分刺激に乏しかった俺達にとって、この商店街は久々の活気、久々の雑踏だった。

 ミミは警戒していたが、それは見知らぬNPCが大勢いると言う状況に慣れて無いからだろう。

 ただ、行きかう人は慌ただしいだけで害は無いと見たのか、直ぐに周囲を見回していた。

 俺もそれに倣って辺りを見渡すと、様々な種類の店舗があるものの、その全てに共通したロゴが刻まれているのがわかった。

 

「ん? アレが気になるのか? あれはこの関屋商店街固有の屋号をアレンジして、此処で作られたアイテム全てに刻印されるマークらしいぜ? 俺っちも自分の作品にはロゴを入れるから、まぁそういうもんだ」

 

 ライリーのそんな解説を聞いていると、この商店街の外の轟音が止んだ。

 邪樹翁(イビルエント)の群れを迎撃していた多頭の竜(ドラゴン)が、全て焼き払い終えたのだろう。

 上を仰ぐと、大きな翼を広げた竜(ドラゴン)が、大きく旋回すると遥か彼方に飛び去って行く。

 ライリーもそれを見届けると、商店街の先、ひときわ大きな建物を指差した。

 

「どうやら、終わったみたいだな。俺も、此処で補給を終えたら直ぐに発たにゃならん。てなわけで、案内は此処までだ。ここのマイフィールドの主はあの商工会館に居るから、この先はお前さん達だけで行きな」

「ああ、助かった。此処までありがとうな、ライリー」

「大したことじゃない。まぁ、気にすんな。じゃ、またな」

 

 そういうと、ライリーはあの深紅の魔像(ゴーレム)の方へと歩いて行く。

 ソレを見送った俺達も、商工会館目指して歩き始めた。

 

 □

 

 商工会館は、ちょっとした砦と言えるほどに頑丈そうに見えた。

 この商店街の中心らしく、行きかうNPCは一際多い。

 殆どの者は商品らしきアイテムを大量に持っていたり、もしくはこの商工会館で依頼の処理をしているのか、多量の書類を抱えていた。

 俺はまだリアルで仕事に就いたことはないけれど、大企業のロビー前等はこういう雰囲気なのかもしれないと思うような活気だ。

 

「……マスター、どうします?」

「参ったな。これだけ忙しそうにされると、話しかけ難い」

 

 そもそも俺達は、現実になってからひたすら引き籠ってばかりだった。

 おかげで、行きかうNPCに声をかけるのも、気が引ける。

 そんな事を考えていると、

 

「あら、この会館に何か御用?」

「……アンタは?」

 

 何やら話しかけてくる者が居る。

 慌てて振り向くと、そこには快活そうな高校生くらいの少女が居た。

 

「私? 私は、此処の臨時案内人って所ね。アナタ、プレイヤーさんなんでしょ? ライリー君やアルベルト君にここを紹介されてきたのかな?」

「ああ、そうなる。邪樹翁(イビルエント)から命からがら抜け出したんだ」

「やっぱり……大変だったね、よしよし」

「こ、子ども扱いは止めてくれ」

 

 外見だけなら同年代かむしろ年下にも見える少女から頭を撫でられそうになって、俺は慌ててその手から逃れた、筈だった。

 

「よしよし、がんばったね~」

「……? え? 何でだ?」

 

 だが、俺ともう一人ミミは、この少女の前で大人しく二人して頭をなでられている。

 いや、何でだ!? 確かに避けたはずだぞ?

 俺もずっと引きこもりで戦闘方法を忘れたと言うわけではないし、食糧確保のために狩りも行っていたから、身体は鈍っていない筈。

 だと言うのに、俺達はひたすらに撫でられていた。

 納得がいかない俺だけど、それはそれとして抵抗できないのは事実だ。

 何かの特殊能力だろうか?

 疑問に思うものの、状況は止まらない。

 ひとしきり俺達を撫でで満喫したのか、少女は本来の目的に立ち帰った。

 

「さ、孫六君はこっちの部屋よ? ついてきてね?」

「……わかった。ああ、そうだ。アンタの肩書は聞いたが、名前は聞いてなかったな。何て言うんだ?」

 

 慌ただしい商工会館の中を、案内人の少女が先導しようとして、俺の言葉に動きを止める。

 案内の高校生に見える少女は、何か強力な力を持っているようだ。

 その正体が少々気になったから、直球に頼んだら、思いのほか反応があった。

 少女は俺達に向かってこう答えたのだ。

 

「私? 私はアナザーアースっていうの。長いから、アンかアンナって呼んでね? 分類的には、創造神って事になるのかしらね」

「……はぁ?」

 

 俺は思いがけない言葉に、理解が追い付かずに思考が静止したのだった。

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