万魔の主の魔物図鑑   作:Mr.ティン

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プロローグ 堕ちし世界樹 その10

 灼熱の炎が、外界表示(モニター)を紅蓮に染めた。

 ギガイアスに群がっていた邪樹翁(イビルエント)は、その炎に触れるだけで一瞬で燃え尽き、消し炭すら残らない完全な灰となって消えていく。

 

「って、あれだけ<界滅の炎(レイヴァーティン)>は使わないようにと言ったのに!?」

 

 その炎の正体を悟った僕は、流石に血の気が引いていた。

 スルトの権能は、この狂った世界樹と、邪樹翁(イビルエント)の群れに特攻だけど、同時に世界を滅ぼす程に余波が大きいからだ。

 もしここで<界滅の炎(レイヴァーティン)>が放たれれば、多分被害は精霊界すべてに波及する。

 多分他のプレイヤーが配置した世界樹にも飛び火しかねないからだ。

(いや、それにしては火勢は大人しい……?)

 だけど、一応スルトも加減する気は在ったみたいだ。

 炎の流れは軍団同士でぶつかり合っていた戦場から来ていて、燃やすのも邪樹翁(イビルエント)ばかり。

 世界樹そのものは、変容しつつも巻き起こした風や濃密な霧などで炎を辛うじて押さえていた。

 つまり、世界樹本体へ<界滅の炎(レイヴァーティン)>は突き刺さっていないのだ。

 もしスルトが本気なら、世界樹は既に燃え尽き、精霊界はそこから張り巡らされた根によって地の底からあちこちで炎を上げ、西方大陸の精霊界側は壊滅的な被害を受けていただろう。

 多分、槍じみた燃えさしを投げつけずに、炎の一部だけ飛ばしたから、そこまでの被害は出ていないみたいだ。

 でも、それは狂った世界樹側も、全滅には至らないと言う事。

 

「とにかく先に地脈からの力の流れを封じて正解だったな……」

 

 密集していたためにスルトの炎に次々と延焼していた邪樹翁(イビルエント)だけど、先に此方を敵として認識していたせいか、対応も早かった。

 燃え尽きようとしている群れから他の群れは距離を取って、更に狂った世界樹そのものから強風や豪雨が吹き付け始めたのだ。

 世界樹とは、その名の通り世界を支える存在であり、自然の運行を担う精霊と親和性が高い。

 だから、自然現象を当たり前のように操ってくる。

 火勢を押し返す暴風や、空から降る波のような豪雨は、自然現象そのものであるからこそ、スルトの炎にも有効だった。

 そのせいで、炎自体は燃え続けているけれど、その炎は世界樹には至っていない。

 あくまで、相手の群れの本体は世界樹で、邪樹翁(イビルエント)は替えの効く子機のようなもの。

 もともと吸い上げた地脈のエネルギーを元に無尽蔵に生み出せる存在だったから、切り捨てるのも躊躇いが無いみたいだ。

 もっとも、いまは地脈からの流れを封じたから、再生も新しく生み出されもされていない。

 もし封じて居なかったら、それこそ精霊界の破滅覚悟で世界樹を焼き尽くす覚悟が必要だっただろう。

 

 ともあれさっきの炎で、ギガイアスにまとわりついていた邪樹翁(イビルエント)は燃え尽きている。

 なら、そろそろまたこっちのターンだろう。

 

「ギガイアスの被害は?」

「軽微ね。受けていた砲撃も、毒の胞子も装甲を抜くことは無かったわ。むしろ、スルトの炎で一番損害を受けているわね……」

「それも、自動修復で癒せる範疇ですわ。強化は成功ですわね」

「せやけど、周りに灰が積もって動きがとれへんようになって。主様、どないします?」

 

 状況は、悪くない。厚いギガイアスの装甲は、大きな被害を受けることなく健在だ。

 寄って集って変異した邪樹翁(イビルエント)が灰になって、邪魔になっているのが懸念程度。

 なら、こうしよう。

 

「ギガイアス、<破軍円衝(サークルインパクト)>!」

 

 僕の声に応え、ギガイアスが両腕を胸の前で合わせる。

 次の瞬間放たれたのは、両腕に仕込まれたた衝撃発生装置<破軍衝(サドン・プレッシャー)>を打ち合わせる、全周囲に放たれる衝撃波。

 元々邪樹翁(イビルエント)の包囲からはこれで脱出しようと思っていた手段だ。

 巻き起こる衝撃波は、ギガイアスの周囲に会った灰を吹き飛ばし、更に遠巻きになった邪樹翁(イビルエント)の群れにさえ届き、吹き飛ばす。

 さあ、反撃開始だ。

 

「とはいえ、デカいなあ」

 

 目の前に佇む世界樹は、一度断たれたとはいえ、威容は健在だ。

 核のあった部分で斜めに断ち斬られた斬り痕を晒しているけれど、そこから新たな枝や、ツタが無数の腕のようにドンドン生えている。

 その全てが、此方に敵意を向けていた。

 ただ、邪樹翁(イビルエント)の群れ自体はもうこちらに近づこうとして来ない。

 スルトの炎や、<破軍円衝(サークルインパクト)>のような、対集団用武装を警戒しているのだろうか?

 代わりに砲弾じみた種子や、世界樹の操る精霊の攻撃がひっきりなしに飛んできている。

 もっとも、それは好都合だ。

 周囲にスペースがある方が、大剣は扱いやすい。

 

「ゼル、もう動ける? 続き、行ける?」

「無論で御座る!」

 

 天を割る斬撃を放った後、荒い息を整えるのに注力していたゼルが、僕の声に応えてくれた。

 ギガイアスで規模を拡大した上に、無数のバフの結果とは言え天を割る程の一撃を放ったゼル、そしてギガイアスの消耗は、流石に大きかったのだ。

 ギガイアスは魔法装置の燃料である精霊石を一気に食いつぶしたし、ゼルは技の反動で一定時間行動不能になっていた。

 だからさっきまでギガイアスは、身を固めて耐えていたのだ。

 しかし精霊石の補給は終わっているし、ゼルも万全になった。

 

「よし、みんな、行くよ!」

「「「「はい(で御座る)」」」」

 

 僕の声に応え、ギガイアスが再び巨大な剣を構えた。

 さあ、最終ラウンドだ。

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