遥か遠方の大樹と魔獣へ向け、大砲を放ち続ける『伍式迅雷』。
その射線を頼りに、森を全力で走破した
何時もなら二人乗りで乗り込むべきそこには、今は一人しかいない。
メルティの主人であり、創造主であり、想いを寄せる男。<
「マスター! どうか気を確かに! あれは私の意志ではっ!」
「……大丈夫だ、メルティ。よ~くわかってるさ」
普段つけている片眼鏡ではなく、クロームグラスをつけてひたすらに敵を砲撃を続けるライリーに、メルティは危うく微かな悲鳴をこぼしそうになった。
声は普段よりいっそ穏やかだと言うのに、声色の冷たさは
握りしめられた
顔色はいっそ蒼白いほど。ライリーは、怒りの度を越えると、蒼褪めるタイプであることを、メルティは知っている。
これほどまでに怒り狂っているというのに、その砲撃は冷徹なほど正確に彼方の真珠たちを射抜く。
「奴ら、メルティを弄びやがった。俺の嫁を悲しませやがった。ならやることは一つだ……潰す」
ライリーの怒りの理由は、ただ一つ。あの黒い靄が、メルティに望まぬ行いをさせ、悲しませた……それだけに尽きる。
メルティは、ゲーゼルグらと同じように、あの黒い靄に包まれ、自身が最も望まない行動をさせられていた。
ゲーゼルグ達にとってのそれは、夜光を害する事。故に彼らは今も夜光に向け攻撃を続けている。
かつて、夜光がマイフィールドに侵入してきた衛兵に甚振られているのを見て、逆上した彼らだ。
今も黒い靄に囚われたままの二人は、己の身を切られるよりも過酷な苦痛の中に居る事だろう。
メルティの場合、射程の関係で即座にライリーへ攻撃することはなかったものの、ある意味でそれ以上の真似をする羽目となった。
遠距離だろうとメルティ通話可能なライリーへ、毒にまみれた離別の言葉を伝え続けたのだ。
メルティの創造主である特権として、調整した創造物への命名権を使って、<
その彼女からの離別の言葉は、ライリーにとって何よりも──
それまで、好調に遠距離砲撃を続けていた『伍式迅雷』の動きが、その後数分完全に途絶えるほど、ライリーはその時間精神的に死んでいたに等しい。
直後にギルラムの助けでメルティとマリアベルは黒い靄から助け出されたが、もしそうでなければ未だにライリーは機能停止し続けて居たかもしれない。
黒い靄から脱した直後から、メルティは謝罪と弁明と慰撫をライリーに送り続けた為、彼は何とか再起動し、砲撃を再開しているが、その様子は鬼気迫るものだ。
初めは右肩の上のみに構えていた<
更に、背面に備えられていた箱状のキャリアーから、収容していた8機の
そもそも、ライリーはメルティが多少彼を嫌おうが、笑って許せるだけの度量を持ち合わせている。
夜光にも共通していることだが、作り上げ育て上げた仲魔のすることであれば、多少の悪戯も気にならない。
娘に邪険にされるも受け入れる父親の度量とでもいうべきだろうか?
だからこそ、メルティの離別を含む諸々の言葉に──『マスター、薬品臭いですよ。片眼鏡も似合いません』などなど──を言われたとしたも、ショックであり多少意識が飛ぶ程度のダメージを受けたものの、直ぐに復帰はしたのだ。
だが、遠距離狙撃用の拡大
狭い操縦席の中、狂ったように叫び、目に映るモノ全てに攻撃しかねない衝動を、こらえ続けて居たのだ。
何とか、衝動を落ち着かせ、また黒い靄から解放されたメルティが森の中を疾駆するのを確認して──メルティも怒り狂って走りながら揮発性の致死毒をまき散らし、進行上の森を瞬時に枯死させていた──なんとか自身を取り繕いつつ、砲撃を再開していたのだ。
「メルティ、お前も腹いせをしたいだろ?
「マスター……ええ、もちろん。少し、はしたなくなりますけど」
「いいさ、俺ッチはそんなメルティも愛してるぜ?」
これまで自動で『白金の騎士』達を迎撃していた
メルティも、慣れた様子でライリーの隣の席に座り、8機の
制御能力に秀でるメルティに操られた
敵にとって不幸なことに、その躍動は猛禽のそれだ。
防衛兵器が、一転群れで狩りをする魔獣へと変じる。
その合間に、ライリーは動きを止めていた。
普段はメルティに任せている動力の制御などをマニュアルで操作しながら、背負った砲塔をさらに展開させ、二門をリンクさせていく。
遥か遠方では、魔獣と大樹の意識が、巨大な魔像──ギガイアスに向けられている。
逃せる好機では無かった。
「夜光、ちょっと待ってろよ……デカいの、ぶちかましてやる」
この地での初撃、溜めが必要だった大規模砲撃を上回る砲撃を狙い、ライリーはクロームグラスで隠された目を冷徹に輝かせた。