万魔の主の魔物図鑑   作:Mr.ティン

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第2章 ~フェルン侵攻~
プロローグ 前 ~七対の神魔~


 遠く水平線の向こうの霧を赤く染め、太陽が沈んでいく。

 光がその勢力を減じる中、蒼天から夕焼けに色合いを変えた空が、今また闇色に塗り替えられようとしていた。

 赤から黒へ変じるその最中の空に、輝く星が存在を示し始める。

 

 ここ(・・)からは、その星、明星がよく見えた。

 僕、夜光が居るのは、万魔殿に幾つかある塔の内、最も高さと規模の大きいモノの最上階だ。

 塔の形に合わせて円形に作られたこの部屋は、一言で表すと会議室。

 中央には巨大な石材から削り出された長方形のテーブルがある。一辺にそれぞれ10人は楽に配置できそうだ。

 石壁と柱が取り囲んでいるが、所々で柱の間が大きく空いている。外は直ぐにテラスになっている為、そこから外の景色がよく見渡せた。

 僕はテーブルの一角の席に着きながら、何をするでもなく外を眺めていた。

 

「そろそろですわね」

 

 僕の傍らで、沈む太陽を見ながらリムスティアが囁きかけてくる。

 約束の時間は日没の間際。太陽はまだ全身をさらしているが、間もなく霧の向こうに身を隠そうとするだろう。

 確かに、もうすぐだ。

 僕は外から視線をずらし、未だ誰も姿を現していないテーブルを見やる。

 長方形の短い側の辺に座る僕の左右、長い辺には、それぞれ椅子が七つずつ並んでいる。

 本当に来てくれるだろうか? 

 未だ僕以外は空席だけのテーブルに、不安がよぎる。

 今日のこの集まりは、かつての『Another Earth』では決してありえないモノだ。

 設定上完全に相反する存在同士を一つのテーブルに着かせる。互いの性質が全く真逆のベクトルであるだけに、今日の招きに応じないことは十分に考えられた。

 そう、神霊である七曜神と、大罪を司る七大魔王を……この『小世界』でも最も位階の高い存在達を一堂に会させようだなんて。

 

「ねぇ、リムス。ルーフェルト達は了承したと言っていたんだよね?」

「はい、ミロード。全員了承しましたわ」

「……なら、まだ来ていないのは……陽が高い所為かなぁ?」

「もったいぶっているだけかもしれませんわ。全く、ミロードをお待たせするなんて、なっていませんわ!」

 

 リムスティアが軽く声を荒らげるが、ぼくは、まぁ仕方がないかとも思う。

 かつて、僕が『アナザーアース』で契約した七つの大罪を司る大魔王たちは、伝説級:100のリムスティアをも超える位階の存在だ。

 そんな彼らを、万魔の主の称号によるスキルでの召喚ではなく、ただの依頼としてここに呼び寄せる。それも、相対するはずの七曜神も交えた会議の席に、だ。

 同じ魔王であるリムスティアを通じて依頼したので無下にされる可能性は低いとも考えたが、同時に己を誇示するような行為もあり得るとも思う。

 それだけに、到着を遅らせる程度の事は十分にあるだろう。

 むしろ、それよりも……

 

「問題は、七曜神の方かな……」

 

 もう一方の存在達を思い、僕は目を閉じる。

 七曜神とは、魔の側の七大魔王に対する神の側の存在だ。

 七曜とは、『アナザーアース』世界における曜日、『太陽』『月』『星』『風』『炎』『水』『地』を示す。

 そして、それぞれの曜日を司る神七柱を七曜神として呼び表しているのだ。

 その力は、対応する七大魔王と同じ伝説級:110~120であり、かつての僕が契約できるぎりぎりの存在でもあった。

『アナザーアース』最後の三ヶ月、僕はその七曜神も、大魔王たちと同じく契約に成功していた。

 こちらは、大魔王たちのように直接大規模戦闘で相対すると言う事は無かった。が、代わりに契約の為の試練と言う名目でかなり困難なクエストをこなす必要があり、ある意味大魔王たちの場合よりも苦労した印象が強い。

 そんな七曜神だが、僕と契約した以上、この小世界で無事存在している。その専用居住エリア『天界(ライトスペース)』で、かつての『アナザーアース』を模し再現した彼らの神殿に居るはずだ。

 そして、大魔王たちと同じように、今日この場で会合したいと言う要請をしていた。

 ただ、僕のパーティーモンスターは、基本的に魔側の存在が多く、神側のモンスターが少ない。

 魔王であるリムスティアや吸血鬼のマリアベルは言うに及ばず。

 竜王のゲーゼルグは中立のモンスターだし、唯一属性に幅のある妖狐モンスターの九乃葉も、属性の現状はやや魔側寄りの中立に位置している。

 つまり、神側のモンスターとはあまり相性が良くないのだ。

 中立ならばまだ『マシ』だろうと、色々と忙しいゲーゼルグに敢えて使いに出てもらったが、はたして、参加してくれるかどうか。

 

 大分傾いて、窓から差し込んだ夕日の光を顔に感じながら、僕はどうした物かと思案に暮れる。

 一応、契約している以上は、スキルを使い神魔双方の面々を呼び出すのは可能だ。

 だけど、面子が面子だ。呼び出した際の召喚コストが大きすぎ、その後行うべき会談がまともにできなくなる可能性が高い。

 同時に、強すぎる存在達を無理矢理に言う事を聞かせるのは、後々にデメリットを生じさせかねない。

 僕自身がコンバートでかなり弱体化している以上、現状でのいらぬリスクは避けたかった。

 ……それを言うなら、こんな無茶な会談の場そのものが問題とも言えるだろうけど、そこは必要なコストとして割り切らないといけないだろう。

 僕は目を開き、目の前のテーブルに置かれた羊皮紙を見る。

 そこに記されているのは、この世界にやってきてからの十数日の範囲で調べ上げた『外』の情報と、起きた出来事。

 特に、外の世界の動きは重要だ。

 こんな会談の場を設ける必要を感じてしまったほどに……

 改めて羊皮紙に記された情報を見つめる僕。

 そこへ、不意に何処からともなく声が投げかけられた。

 

「待たせてしまったようであるな、夜光」

「……いえ、まだ時間前ですから。来てくれて、嬉しいです。陽光神」

 

 その声に、僕は視線を上げた。

 外への通路、その先に見える沈む夕日に向かって僕は答える。

 いつの間に現れたのか、沈む夕日を背に人影が存在していた。

 

「そのような名で呼ぶでない。そなたは我が契約主。であるならば、我が名を呼ぶ資格がある」

「……では、アル・ハーミファスと」

 

 うむ、とばかりに頷くのは、どこからどう見ても小学生にも届かない幼女だ。

 だがその姿は幼い容姿に反して威厳に満ちている。

 彼女こそ、太陽を司る陽光神、位階伝説級:120のこの世界の最高位、アル・ハーミファス。七曜神の筆頭だ。

 どうやら、僕の依頼に応えてくれたみたいだ。

 更にその背後から、次々にこの会議室に入ってくる人影たち。

 数えて、七柱。

 鎧姿の青年や、杖を突く老人、ホーリィさんのような神官服を着た女性等、特徴的な存在ばかりだ。

 人の大きさにその力を抑えているが、内から溢れる神々の波動とも言うべきナニカに、僕の傍らに控えるリムスティアの手が動揺したかのように微かに震える。

 同じ契約者の下に集う契約モンスター同士とは言え、やはり真逆の波長を持つ存在、更に自身の格上ばかりがこうも集まったという事実に、さしもの愛欲の魔王も平常心ではいられないようだ。

 そのリムスティアの動揺をさらに煽る様に、野太い声が会議室を揺らした。

 

「なんだ、まだ魔王どもは来ていないのか? おい、愛欲の。どうなってる?」

 

 じろりと視線をリムスティアへと飛ばしたのは、夕焼けよりも鮮烈に『紅い』鎧を纏った美丈夫だ。

 巨人とは行かないまでも、2mを優に超える大柄なその体躯は、戦士としての凄まじい実力を窺わせた。

 あの炎の巨人の王スルトにも似た雰囲気を漂わせたこの神は、アル・ジャスマハード。炎を司る火炎神だ。

 炎の激しさ、熱さをそのまま体現したような神で、直接的な戦闘能力と言う点では、七曜神でも一二を争うだろう。

 とはいえ、分別のつかない相手でもない。

 

「通達は済んでいますわ。出席の意思も確認しましたし、間もなくかと」

 

 内心の動揺など無いようにリムスティアが応えられるのも、そういう点を理解しているからだろう。

 それに……

 

「なに、ジャスマハード君、焦る必要はない。我々も今着いた所さ」

 

 不意に、地の底から響くかのような声と同時に、七曜神が座ろうとしたテーブルの反対側、用意された七脚の椅子の影が、意思を持ったかのように蠢き出した。

 そして次の瞬間、場に満ちた神側の気配を塗りつぶさんとするほどの魔の気配が、会議室に溢れだす。

 二つの相反する気がぶつかり合い、風の無い嵐ともいうべき力のうねりが会議室を駆け巡る。

 次の瞬間、それらは何事も無く消え失せ、代わりに、七曜神が座る席の向かいの席に、七つの異形ともいうべき存在が腰を下ろしていた。

 漆黒の道化服を纏った小柄な少年、限りなく裸体に近い扇情的な服を纏う妖艶な美女、仮面をつけた大男等……まるで統一感の無いそれらに敢えて通じるものを見出すなら、それは魔。

 七曜神の神威に匹敵せんが程の魔の気配だった。

 七つの大罪を司る大魔王たち。

 その筆頭たるは、背に漆黒の翼を持ち、頭上に暗黒の光の環を持つ青年貴族といった風体だ。

 高慢(プライド)を司る大魔王ルーフェルト。

 その彼が、アル・ジャスマハードをからかうかのように、ひらひらと手を動かす。

 火炎神は何か言い返したそうだったが、結局そのまま何も言わずに席へと座り込んだ。

 その様子を苦笑しながら見ていた陽光神が、高慢の大魔王へ苦言を告げる。

 

「ルーや、あまり火炎神をからかうでない。さて、契約主よ。此度はいかなる集まりじゃ? そなたが熱心に調べていた外とやらは何かわかったのか?」

「ええ、今日集まってもらったのは、その為です」

 

 ハーミファスの声に応え、僕は羊皮紙を示す。

 七曜神と魔王たちの前にも、同様の情報が記された羊皮紙が存在していた。促されるままにそこへ視線を落す。

 そこには、さしもの魔王たちでも無視できない内容が記されていた。

 その意味を理解し、沈黙する七曜神と魔王達。

 

 それは、2体目、3体目の滅びの魔物。

 

 先だって夜光とその仲間たちが倒した滅びの魔獣、大地喰らいと同等かそれ以上の力を持つ脅威。

 かつてのMMORPG『アナザーアース』には存在しなかったその存在達が、それも、複数同時期に外の世界で暗躍している可能性が有る、と。 

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