万魔の主の魔物図鑑   作:Mr.ティン

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第01話 ~領府ゼヌート~

 港町ガーゼルから大河エッツァーを船で遡ること数日、そして馬車でも数日。

 用立てられた馬車は立派なもので、屋根も内装もしっかりとした作りだ。

 ガーゼルの街や今までの日々でこの世界の事を調べた印象からすると、この馬車はかなり技術を注ぎ込まれているように思える。

 道は相応に舗装されているとはいえ凸凹が多いのだが、この馬車は驚くほど揺れが少ない。

 多分、この世界の人々の言う『門の中』の技術的な何かが利用されているのではないかと思う。

 驚いたことに、外をのぞけるように窓も据えられていて透明なガラスまではまっている。

 

 こんな馬車を用意できる領主が、こんな馬車を傭兵を呼びつけるために使う。

 そのことを僕はどう考えればいいんだろう? 

 僕は窓の外の景色を見ながらそう考える。

 

 大河から分けられた運河と、相応に整備された道をたどり、僕達はこのフェルン地方の政治的中枢、領都ゼヌートにたどり着いていた。

 広大な田園地帯を越えた先、背後に岩山を背負うこのゼヌートは、古くから鉱山の街として栄えてきたらしい。

 それを支えているのが背後の岩山から北のフーラント山脈にまで至る地帯に眠る豊かな鉱脈だとか。

 田園地帯に隣接しながらの鉱山都市と言うのは、鉱毒の問題をどうしているか気になるところだ。

 エッツァーの大河からの運河を上手く分散させているのかどうかなのだろうか? 少なくとも、今までこの世界で過ごした時間の範疇ではわからなかった。

 

 それはともかくとして、ゼヌートの街は領都らしく勇壮な城がある。

 背後の岩山を利用した城は、奇岩城の名で呼ばれるほど有名なのだとか。

 岩山を背負った城から段々の斜面に岩造りの建物が寄り添い、まるで一つの巨大な建物のようにも見える。

 建材となった岩は背後の岩山から切り出しているらしい。

 最外縁にはこれも背後の岩から切り出したであろう外壁がそびえていて、如何にも守りが固そうだ。

 外壁の外にあるあそこは軍の演習場だろうか? 鎧を着た多くの人影が色々に動き回っている。

 天幕も無数に張ってあるけれど、演習でもしているのだろうか? 

 街道から見えるあたり、練兵の様子を見せて威厳を示そうとしているようにも思える。

 ぱっと見しただけでも、かなりの兵力を運用しているように感じた。

 

「さぁ、ゼヌートは目の前ですぞ! 御覧をあの威容を! ご領主の威光そのものと言えましょうぞ!」

 

 何故か妙に親切に僕たちの案内をしている領主からの使者の説明を聞き流しながら、僕は近づいてくるゼヌートを眺めていた。

 地上の攻撃には強そうだけれど、空からの攻撃には弱そうだなと思ってしまうのは、アナザーアースの大規模戦闘での城攻め感覚が抜けていないからだろうか? 

 そういえば、七曜神の試練のうち、地を司る大地母神、エル・カーラギアの試練は堅牢な山城を攻めろと言うものだったなぁ。

 いざ攻めようとしたらドワーフの工作兵が地下トンネルを掘って背後から奇襲を仕掛けてきたり、ゲーゼルグが率いる飛行可能な竜種部隊が空襲しようとしたら、トラックほどもある岩を投擲してくる岩巨人の対空部隊が大暴れしたりと酷い目にあった。

 

「権能者としての力は使わなくたって、仮にもそんなのが陣頭に立って指揮を執るとか……指揮能力とかカリスマとかでとんでもないことになるのは当たり前だよねぇ?」

「ん? やっくん何の話?」

「いやほら、カーラギアの勧誘の時の話。あの城見てたら思い出しちゃって……」

 

 僕の言葉に思い出したのか、ホーリィさんやゲーゼルグまで『あぁ……』と納得顔になる。

 あの時は城門をホーリィさんが突貫して、大鉄塊(ジャイアントメイス)でぶち抜いてくれたんだよなぁ……

 あれが無かったらどうなっていたことか。

 古来城攻めとは虎口などと呼ばれる城門付近の攻防が激しいと聞いたことはあったけど、ゲームとは言え自分自身で実感するとは思いもよらなかったな。

 

「ほほう、貴公らは城攻めに加わったことが有ると? なるほど、やはりご領主様が招待するわけですな。ここ最近で起きた城攻めと言えば、南方はナスルロン領のゴゴメラ子爵家の一件でござろうか?」

 

 おっと、僕たちの会話が気になったのか、領主からの使者が加わってきた。

 確か、名前はリフト。むやみやたらとピンとした口ひげが印象的な人物だった。

 ガーゼルの執政官にゲーゼルグが呼ばれて面会した際に引き合わされたのだが、妙にこちらに好意的に見える。

 この旅の間に使った船や馬車は彼が用意していたものだ。

 時折こうやって僕たちの会話に加わったり、さっきまでしていたようにこの付近の領地についての話題や、フェルン侯についてその素晴らしさを語ってくれている。

 

 そういえば、南方ナスルロンというのは、大河エッツァーの南に分かれた支流が向かう先だったか。

 フェルン地方と同じく大河を水源とした農耕が盛んなのは同じだけれど、たしか平地が少ない分斜面での果樹栽培に力を入れている、という程度の情報しか僕は知らない。

 そのゴゴメラ子爵の一件というのも知らないが、下手に肯定も否定もしない方がいいだろう。

 僕はゲーゼルグに目配せする。

 重々し気に頷い歴戦の傭兵めいたゲーゼルグは、リフトを鋭い目でけん制してくれる。

 

「……フェルン侯は余計な詮索を部下にさせるのが趣味のようであるな?」

「いやいや、滅相もござらぬとも!」

 

 うわ、凄いなこの人。伝説級(レジェンド)の威圧に耐えてるぞ!? 

 ゲーゼルグも手加減して軽い威圧だけっぽいけど、それでも一歩間違うと気絶しかねない。

 流石に油汗は滲んでるっぽいけど、よく下級:80辺りの位階で意識を持たせたなぁ……

 僕がそうやって感心していると、リスト氏は言いつくろうように言葉を重ねている。

 

「しかし、重要なのですぞ? 何しろ仮にもかの一件に関わり、それも城攻めともなれば……ゴゴメラ子爵を襲った謀反人どもが雇い入れた傭兵の一員だったと疑いを持たねばならぬのですからな!」

 

 そこからはリスト氏の独演場だ。

 ゴゴメラ子爵家が辿った悲劇的運命の一幕、聞けば涙語るも涙といったノリで連ねられる防衛戦の果て、近隣の領主からの援軍が届いた際には、子爵一家を始めとして領主軍は皆殺し。

 謀反を起した騎士とその部下たちの行方はようとしれず、近隣の領主はその行方を今も追っているとのこと。

 ゴゴメラ子爵家は遠縁の家から継ぐ者が現れた為取り潰しを免れたが、悲劇の傷跡は余りにも深く、家としても困窮しているとかなんとか。

 

「もちろん野盗どもを倒された貴公らを疑っておるわけではござらん! しかし、かの一件に関して確認を取らぬわけにもゆかなかったのでござる!」

 

 なるほど、たしかに話を聞くとその謀反人たちはごく少数で城を落としたらしい。

 僕たちはゲーゼルグと僕とホーリィさんの3人で野党の砦を落としたことになっているので、そのあたりを疑うのも当然のことかもしれない。

 

「不要な疑いだ。そも若君を謀反人扱いするなど許せぬ所業であるぞ?」

 

 あっ、ゲーゼルグが切れかかってる。いやいや、待って!? この場合疑いを持つのは仕方ないんだし許してあげて! 

 そもそも領主の使者に手を出すのは絶対にNGだから! 

 僕は慌ててゲーゼルグをなだめる。

 流石にここで暴れられるのはまずい。

 もう馬車は街の傍に来ているし、演習場も近くにあるんだから、何かあれば直ぐに取り囲まれてしまうだろう。

 

「ご安心を、お屋形様。そ奴はすでに意識を失って居ります」

「良くないよ!? ホーリィさん、ちょっとこの人に気付けの魔法を!?」

「はいはい、ちょっとまってね~」

 

 振り返ってみると、リスト氏はゲーゼルグの怒気に当てられて失神していた。

 ほんのり漂う異臭は、しめやかに漏らされたナニカが元だろう。

 一方、無礼者が気絶して満足したらしい竜王に僕は慌てる。

 手慣れた様子で精神異常回復の下位魔法をかけるホーリィさんを見ながら、僕は大きくため息をついた。

 こんな調子で領主に会うとか、やっぱり人選を間違えたかもしれない。

 僅かに感じる周囲に身を隠している下位モンスターに、こっそりと慰められているのを感じながら、僕たちはゼヌートの門にたどり着いた。

 

「ご苦労である」

「はっ、よくぞお戻りになられました、リスト卿!」

 

 本来ならば、街に入るのにも様々な確認や税などの手続きが必要なのだろうけれど、無事に目覚めたリスト氏の顔パスで、僕たちはそのまま門を素通りに近い状態で進んでいく。

 

 門の中のゼヌートの街並みは、中世ヨーロッパの暗黒期を思わせたガーゼルと違って、第一印象がとにかく『石』と言うものだった。

 遠くから見た印象の通り、建材はことごとく岩だ。主要な道は道幅は広く、ただし斜面を登る必要性からかグネグネとつづら折に中央の城めがけて続いている。

 本通り以外の道はどうにも狭く、また両側を石の建物がそびえているせいで迷路めいて見えた。

 

(これは、この街自体が城ですな)

(そうみたいだね)

 

 こそこそと話し合う僕とゼルの意見は一致した。

 多分、外壁を破り門を通り抜けても、城まで攻め込むにはつづら折の主要道か、脇の迷路を進まなければいけない。

 主要路はどこまで行っても上方の城から丸見えで、延々矢でも浴びせられそうだ。

 脇の道は入り組みすぎているし、土地勘が無ければ不意打ちされ放題に見える。

 

 たぶん、この街は過去に何度も戦火にさらされている。

 南に広がる豊かな穀倉地帯と背後に眠る鉱脈は、この街さえ手中に収めれば手に入るのだから。

 そして、その二つを今現在手にしているのがこの地方の領主。

 

 フェルン候シュラート。

 

 傭兵ゲーセルグを呼び出した、目の前にそびえるゼヌート城の城主。

 もしかすると、滅びの魔獣に取りつかれているかもしれない男。

 僕は城門を前にして、ごくりと唾をのんだ。

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