万魔の主の魔物図鑑   作:Mr.ティン

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第02話 ~フェルン侯爵との謁見~

 フェルン侯爵、シュラートという人物について、僕が得ている情報は限られている。

 

 大河を中心としたその流域と、周囲に広がる豊かな穀倉地帯全般を内に抱えるフェルン地方の領主と言う事。

 年若い頃から切れ者として知られ、ここ10年の光る門(ゲート)の出現においても積極的に門の探索を行い、多大な力を得ているらしい。

 リム達が集めてくれた街の噂レベルの情報だけど、その中には所謂『アタリ』の光る門(ゲート)もあったとか。

 先代から侯爵位を受け継いでから領地を以前に倍するほど拡張しえたのも、幾つかの他領のお家騒動を利用した面もあるが光る門(ゲート)の中の産物を利用したから、という話もある。

 その真偽はともかく、現フェルン侯爵が有能な為政者であるというのは疑いようがないようだ。

 少なくとも僕が仕入れている情報の限りで、領内は豊かに栄えている。

 広大な穀倉地帯での農業と、ガーゼルを中心とした大河の流通経路と沿岸貿易、そしてゼヌートのようないくつかの鉱業都市。フェルン領は、国家として豊かになる必要な要素が揃っていた。

 統治の面でも、旧ガーゼルの街で悪徳衛視が幅を利かせてはいたが、それ以外は特に失策は聞こえてこない。

 やはり、現フェルン侯はやり手の実力者なのだろう。

 フェルン侯爵は貴族の位階としては中級でありながら、今や皇国の諸侯として最も力のある人物だと皇国中で噂されている。

 

 力といえば、軍事面でも既に実績を上げているのだとか。

 実際、皇国の侵略戦争にも参戦して多大な戦果を挙げ、皇国が滅ぼした8つの国の内2つはフェルン領軍単独の戦果だと言うのだから大したものだと思う。

 もっとももし門の中の武具、それもアタリの類をを用いたのなら、この世界の常識的な範疇の武具では歯が立たないし、雑な力推しでもどうにかなる筈。

 フェルン領軍に本当の意味での軍事的才覚の持ち主が居るかはまだ分からなかった。

 ゼヌート付近の演習場らしき場所にいた兵士たちは、少なくともアナザーアースの位階評価で中級(ノーマル)には達しているようにも見えたから、練兵の面では十分だろうか? 

 

 そんなことを考えながら、僕たちはゼヌート城の謁見の間に案内されていた。

 案内人のリスト氏が誘導し、傭兵三人のうちのリーダーと言う設定のゼルが真っ先に歩き、僕とホーリィさんが後に続く。

 岩造りの城の内装は外観の印象そのままに武骨、ただ廊下左右に飾られた毛織のタペストリーと廊下を照らす照明だけは、異質だった。

 

(あの灯りは、マイルームに良く設置してあるマジックランプですよね。それにこのタペストリーに描かれているのは……)

(アナザーアースのね。それも描かれてるのは神話絡みよぉ、だって大地母神様の、カーラギア様の姿もあるもの。素材もアナザーアースのメール羊毛から作られてるっぽいわねぇ)

 

 この世界デザースの宗教や神話は、ただ一つ唯一神教会が握っている。

 だというのに、アナザーアース内の宗教画のタペストリーが飾られていることに、僕たちは首を傾げた。

 

「おお、それは昨年トリトニア商業連合が献上してきたものの一つで御座る。欲の皮が張った彼奴等も、我らがご領主様を無視しえぬという証で御座ろうな!」

 

 ひそひそと話していた僕達に、リフト氏がそう解説してくれる。

 

 トリトニア商業連合と言うのも聞いたことが有る。

 新しい側のガーゼルの街が沿岸航路での貿易が盛んだと言うのは以前に触れたけれど、その主要な取引先と言うのが、トリトニア島を中心とした南方内海部の地方だからだ。

 確かな海洋航行技術を有する彼らは、大陸沿岸を一周する長大な交易航路を支配しているともされている。

 内陸国家のガイゼルリッツ皇国に対する海洋国家として、この大陸のもう一側面の覇者とみなされることが多いとのこと。

 海峡などの海運の要所などでは通行税すら徴収しているそうで、商業連合という言葉の響きより余程好戦的側面を持ち合わせているように思う。

 外洋に出る技術はまだ無いらしいけれど、この世界で大航海時代を呼び寄せるのは、彼らかもしれないと僕は思った。

 

「さて、着きましたぞ。ここでしばしお待ちくだされ」

 

 そんなことを思っている内に、僕たちは謁見室へたどり着く。

 そこはゼヌート城の中層域。

 入ってすぐにその場で待つように言われた僕たちは、使者のリスト氏が奥の領主の座に向かうのを見送りながら、謁見室の様子をうかがう。

 岩山をくりぬいた城は、ここでもその特色を濃く残していた。

 壁も床もちょっとした攻撃魔法でも揺るぎもしなさそうな一枚岩から削り出されている。

 広さを例えるのなら、ちょっとした体育館程度はあるだろうか? 

 多分バレーコート位は収まる広さがあるし、天井も10m近くあるように見えた。

 謁見の間の両側には、完全武装の騎士たちが並び、こちらの事を窺っているようにも見える。

 位階は……凄いな、中級:80とかもう少しで準上級(グレーター)に手が届きそうな騎士がちらほらいるぞ? 

 なるほど、これだけ鍛えられた騎士が居るなら、さっき気にしていたフェルン侯の軍事面の実力は評判通りと言った所なんだな。

 こちらも観察しているのはお互い様だから何も言う気はないけれど、あちらは随分と僕達を警戒しているみたいだ。

 まぁ、その視線の先はどう見たっておまけにしか見えない僕やホーリィさんではなく、屈強にして歴戦の勇士の空気を漂わせるゲーゼルグに向けられているわけだけど。

 ゲーセルグ自身は左右からの視線にもどこ吹く風と言った様子。

 実際中級位階(ノーマル)からの視線なんて、ゼルにとってはそよ風みたいなものだから、そうもなるだろう。

 けれど、そんなゼルの様子を嫌うのか、立ち並ぶ騎士の中には微妙に顔をしかめているものも居た。

 

 う~ん、この空気はなんだかなぁ? 

 

 一応この謁見は、山賊の砦をたった3人、実質1人で討ち果たした傭兵ゼルグス(ガーゼルの街の中でのゲーゼルグの偽名だ)の功を労い、褒賞を与える場、と言うことになっていた筈だ。

 少なくともゼルが受け取った書状にはそうなっていたし、使者のリスト氏もそう言っていた。

 だけれども、この空気は功を労うものでは、明らかにない。

 むしろ敵意までもあるような……

 

「ゼルグスなる傭兵よ、前へ。ご領主がお声掛けくださる。光栄に思うが良い」

 

 考えている内に、ゼルが呼ばれた。

 御付きとして来て居る僕たちも、そのやや後ろについて行き、指示の在った位置で止まり、跪いた。

 その間、顔は伏せたままだ。

 事前のリスト氏の説明で、この場での作法などは覚えたつもりだけど、緊張するな……リアルでお貴族様とのお目通り何て経験は当然無いし、言われたままに顔をずっと伏せたまま上げないようにするしかない。

 こっそり視線だけ向けると、普段はふわっとしてるホーリィさんも緊張してる様子だ。

 普段と変わらないのはゼルだけかな? 

 そういえば、ゼルが保有している大規模戦闘時の指揮スキルの最上級、<元帥>(アドミラル)には、フレーバーテキスト的に礼儀作法も含まれていたような気がする。

 元帥ともなれば、国を挙げての式典などに出ることも多くなるから、と言う事だろうか? 

 後ろから見ていても、ゼルの挙動は非の打ち所がないほど堂々と完璧に振る舞っているように見えた。

 

「傭兵ゼルグスとその供らよ、面を挙げよ。俺を拝謁するを許そう」

 

 言われるままに顔を上げると、そこに居たのは少しばかり想定外の姿だった。

 貴族と聞いて思い浮かべる姿は、高級な衣服を身にまとっていることが普通だろう。

 少なくとも僕もそう思っていたけれど、目の前の領主は違った。

 黒光りする豪壮な全身鎧を身に付けていたのだ。

 兜だけは玉座の横の台において居るから顔立ちははっきりと見える。

 顔立ちだけは貴公子そのものだ。確かそろそろ40代になる頃のはずだけど、20代の若々しい顔立ちに見える。

 だけど、その目は貴公子なんてものじゃない。

 覇者だ。

 身に付けているのも、恐らくは門の中の装備品。僕の目でもわかる位の魔力をその全身鎧は放っていた。

 多分、あの鎧は伝説級(レジェンド)だ。

 それも、とんでもないことに装備品に振り回されてる様子が無い。

 信じられない気持ちで思わず意識内のウィンドウから、情報コマンドを選ぶと、恐るべき結果が表示されていた。

 

【名称】シュラート・グラン・エルゴス・フェルンヌス

【種族】人間

【位階】伝説級:10

【称号】<武王(ウォーロード)><槍の達人(マスターオブスピア)><将軍(ジェネラル)

 

 信じられない。こっちの世界の人物が伝説級にまで届いているなんて!? 

 いや、どうやったんだ!? 準上級から上の位階にステップアップするには、アナザーアースではある特定のクエストが必須だった。

 この世界にあの名物NPCとの勝負クエストがあるはずがない。だと言うのに、目の前のフェルン侯はその壁をいくつも乗り越えているなんて。

 

 僕及び、様子がおかしいことから同様の情報を確認したらしいホーリィさんが混乱する中、謁見はどんどん進んでいるようだ。

 いつの間にか功績への称賛のお言葉を頂いて、さらには報酬の授与にまで至っている。

 

「褒美を取らせよう。金貨200枚だ」

 

 静々と御付きの人たちが如何にも重そうに詰まった革袋を持ってくる。

 えっと、こっちの世界のレートにいまいちまだ慣れていないけれど、金貨10枚で4人家族が1月暮らせるくらい、だったかな? 

 それで金貨200枚なら、1年半は家族が遊んで暮らせる額になる。

 確かあの山賊たちの頭目は賞金首だったそうだし、妥当、だろうか? 

 僕が首をかしげていると、フェルンの領主は更に言葉を続けた。

 

「だが、もしお前にその気があるのならば、その5倍をくれてやろう。傭兵ゼルグス」

「ふむ、その気とは?」

 

 ゼルが問い返すと、この地の領主シュラートは口元をゆがめた。

 全身から威気を発するように立ち上がると、ゼルを指差し傲慢に言い放った。

 

「俺に仕えよ、傭兵」

 

 ゼルが何かを言い返す前に、シュラートは尚も続ける。

 

「眼前に呼び寄せてわかった。お前は俺のように力ある者だ。これより先の戦乱の時代には、お前のような者こそ力を振るわねばならん! 俺と共に来い。木っ端な傭兵などではなく、お前に相応しき地位と戦をくれてやる!!」

 

 溢れんばかりの覇気を示して、シュラートはゼルを見つめる。

 そのゼルは、ひとしきり悩んだふりをした後で、僕に視線を向けてきた。

 

 ああ、うん。どうしようね、この状況。

 何故か周りの騎士たちが激高していたり、良く聞き取れないけど怒鳴っていたり、文官らしき人たちが急に駆けまわったりしているけれどどうなっているのやら。

 その上で、僕は思う。

 

(あれ? もしかして……フェルン侯が滅びの獣に憑かれてるって予想は、空振りなのでは? 滅びの獣が取り付いていて伝説級:10ってのは逆に低いだろうし……あれっ?)

「ねぇねぇやっくん。やっくん。なんか決闘だとかいってるけど良いの?」

 

 ホーリィさんの声もこの時は周囲の喧騒で聞こえず、僕は7対の神魔との会議で得意げに言っていた仮説が空振りになった可能性に、頭を抱えるのだった。

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