万魔の主の魔物図鑑   作:Mr.ティン

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プロローグ 中 ~その頃の夜光達 精霊界レベリング~

「そういえば、アルベルトさん達はもう皇都についたかな……?」

 

 柔らかな燐光で照らされた通路を進みながら、僕は明日合流する予定の仲間のことを思い出していた。

 フェルン候の一団は、今日の夕方皇都に到着する予定だったから、僕らがあの瓦礫の巨人と戦って居た頃には港に居たのだろうと思う。

 何かあればユニオンリング経由で連絡をくれる予定になって居るし、こちらの状況をある程度把握している竜王ヴァレアスも合流することになって居るけれど……

 

「う~ん、ヴァレちゃんには出かける前に現状は伝えたけど、一言言った方がいいのは確かよね。私達、ちょっと用事が出来たって」

 

 僕の前を進むホーリィさんは、僕らの今の状況を向こうに伝えていないことを気にしているようだ。

 もっとも思案気にしながら彼女には全く隙が無い。

 今も丁度横合いから飛び出して来た半透明の獣を両手持ちのハンマーで吹き飛ばしながら、僕を先導してくれている。

 

「一応身代わり兼メッセンジャーの上級鏡身魔に後を任せていますし大丈夫では? それに朝までにレベリングを終えてしまえばいい訳だし」

 

 夜中に起こすのも可哀そうだから、と続ければ、ホーリィさんも納得している様子だ。

 実際、今は深夜だ。アルベルトさん達は船旅で疲れているだろうし、明日から神経を使う御前会議に出る事を想えば、夜中に起こすのは得策ではないと思う。

 そう僕達は、今絶賛レベリングの真っ最中だ。

 そもそも今いるのは、僕のマイフィールド、その中でも精霊界と呼ばれる場所だ。

 

 あの瓦礫の巨人との戦闘後、大規模戦闘専用空間を維持したまま現場を離れた僕達は、ラスティリスの力によって特殊な形ながら位階上限開放クエストを受け、無事に突破することが出来た。

 となると、レベリングを行いたくなるのが真理だ。

 幸い位階限界を超えたことで、幾つかの便利な魔法や奇跡も使えるようになったし、召喚コストも常識的に賄えるモンスターも増えた。

 かくして、皇都の後始末を一旦ゼル達と身代わりの上級鏡身魔に任せ、僕とホーリィさんの二人で一旦僕のマイルームに戻ることにしたのだ。

 

 これには、新たな発見によって実現が可能になっていた。

 皇都のモデルであるアナザーアースの王都には、僕のマイフィールドの町にあるような、転移先として登録できるポイントが存在した。

 ある意味予想が出来た事なのだけど、アナザーアースの王都では冒険者の拠点となっていた冒険者ギルドと同じ建物、つまりグラメシェル商会前の石碑がそれだったのだ。

 更に言うなら、ラスティリスにより位階が上がった僕はクールタイムが長めながらもパーティー単位で移動可能な転移魔法も使えるようになったのだ。

 

 

 そして僕とホーリィさんは現在絶賛レベリング中だ。

 かつて、MMO『Another Earth』には、無数のレベリングスポットが存在した。

 各キャラの位階は大まかなストーリーを追えば自然と上昇していくことになるのだが、後からゲームを始めたキャラでエンドコンテンツをいち早く楽しめる様に効率的に位階を上げられる方法がいくつも存在していたのだ。

 例の成長促進剤はその一種であるし、それ以外にも野良モンスターを適当に倒すような非効率的な経験値取得方法とは別格の、経験値効率の良いミッションやダンジョンなどが存在した。

 そしてここ精霊界は、その経験値効率が良いスポットの一つなのだ。

 精霊界内のフィールドの適正な位階は準上級。

 ラスティリスのおかげで位階上限を突破し、準上級に至った僕達に最適な場所になる。

 さらに、精霊界にもダンジョンが存在した。

 これは一種の自動生成ダンジョンで、入るたびに構造が違うと言う特殊な構造になって居る。

 この中で遭遇するモンスターは、プレイヤーの位階から常に数レベル上の状態に調整される。

 レベル差補正により高い経験値を常に得られるのだ。

 更に言うと、このダンジョンの中で遭遇するモンスターは各元素を司る精霊であり、特定の属性防御を防具やアクセサリーで上昇させれば、安全に戦闘をこなすことが出来た。

 まさしくレベリングの為に存在している施設と言える。

 

 精霊界は妖精や精霊の住まいとしてマイフィールド内に設置したのだけど、配下のモンスターのレベリングに必要かと思って設置したこれらのレベリングダンジョンは、今の僕達にぴったりの場所だった。

 周囲には淡い輝きを放つ黄金や白銀の木々が立ち並び、その合間を林道のような簡素な道がくねりながら続いて行く。

 時折木々が放つ光が凝縮して光の玉になるのだけど、これがこのダンジョンのエネミーである精霊だ。

 この状態の精霊に近寄ると、光が弾けて中から様々な形態を取った半透明の獣が生み出される。

 先にホーリィさんが打ち払ったモンスターがこれだ。

 半透明と言えども淡い色合いに染まっているので、大体の属性は判別できる。

 今僕らが対峙しているのは、巨大な四脚歩行の蜥蜴だ。

 紅の魔力と時折漏れる炎が、これが有名な火蜥蜴だと知らせてくる。

 

「次は火蜥蜴、と。ホーリィさん、<火属性防御>かけ直しますね」

「こっちも<耐性強化>の奇跡使うね~」

 

 本来強敵なはずの火蜥蜴だけど、準上級に上がってからは全く苦労していない。

 お互い属性耐性強化の魔法やスキルを再び使えるようになっているし、相手が特定の属性に偏った存在ならば、倒す方法は簡単だ。

 向こうが吹きかけてきた炎のブレスは耐性で9割減。

 更にホーリィさんのパッシブスキルのパーティー自動回復で数秒後には受けたダメージも消えてしまう。

 そこへ

 

「じゃぁ狙い打ちます。<水槍>!!」

 

 相手の弱点である属性魔法で大ダメージだ。

 更にはホーリィさんの振るう巨大なハンマーが直撃すると、跡形もなく霧散してしまう。

 

「あっ、やっくん。レベルが上がったよ!」

「こっちもです。この調子なら朝までに準上級:100まで上げられそうですね」

 

 喜びに声を上げるホーリィさんと僕。

 実際ここでのレベリングは順調だ。

 瓦礫の巨人との戦いから、いや今日はそれ以前から割とずっと動き回っている分疲れもある筈なのだけど、ホーリィさんの常時発動型の微量回復のおかげか疲れが全く気にならない。

 むしろ位階が上がるにつれてどんどん身体が軽くなっていくようにさえ思えてしまう。

 とはいえ、油断は禁物だ。

 

「あっやっくん! 位階が上がったせいか精霊の数が増えたよ!」

「属性も複数の組み合わせになって来ましたね。流石にすんなりとはいかないか……」

 

 幾らレベリングダンジョンとは言え、危険があるからこそ経験になると言う事か、このダンジョンは位階の上昇に合わせてダンジョンとしての難易度も増していくのだ。

 見れば木々の合間を縫う道もほぼ一本道から分岐がいつの間にか増えている。

 

「とはいえ、問題はさほどないのですけどね」

「そだね~」

 

 このダンジョンを設置し、各種の設定を定めたのは僕だ。

 たとえそれがMMOのころの話だとしても、何が脅威で何が脅威でないか、そして今の僕達の場合に当てはめて最適解を考えるのは造作もない事だった。

 

 複数の半透明の獣たちの猛攻も、パターンを読み切り的確な属性防御を入れ替えて行けば問題なく対処できていく。

 

「やっくんの言うとおり、朝までには間に合いそうだし少し眠れそうだね~」

「だといいですけど……キャップ手前の準上級:99から準上級:100に上げる時が一番経験値要求されますしギリギリかも」

「ええ~、さすがにちょっと眠たくなってきたんだけど~?」

 

 睡魔のせいか、ハンマーを振るうホーリィさんの動きが少し雑になってきた気がする。

 僕自身も少し集中が乱れてきている。

 とはいえ、正直な所レベリングはしておきたいのだ。

 この皇都にあの瓦礫な巨人のような化け物が居た以上、他にも居ないと限らないのだから。

 そしてそれらへの対処がこの後も必要になるだろうことも。

 

「僕もですけど、もう少し頑張りましょう」

 

 何より僕は瓦礫の巨人絡みで一度命を落としている。

 その反動か今までよりも、僕自身生き残る為の強さが欲しくなっているのは事実だった。

 こうして僕達は、この後ほぼ徹夜でレベリングを続け、二人とも準上級の上限にたどり着けたのだった。

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