「アイエッ!?」
その数日後、ノリステ・エージェントのフロント欺瞞企業“実際便利介入な”の本社ビルでは、スーツ姿の壮年男性たちが素っ頓狂の声を上げていた。
会議室の長机に投げ出された資料には、ニンジャスレイヤーに殺害されたニンジャの名前が連なっている。
■チロテラ=サン
■ドアクローザー=サン
■ガーズマン=サン
■トラブルシューター=サン
■アウトランナー=サン
「一晩でこれだけの人的損失!?」
「実際起こる可能性がゼロではないが信じられない事象であることですね!?」
動揺する男性たち――彼らはみな非ニンジャである。
一方、上座のネイビースーツの男は目を細めたまま、チタン製の
……それから、口を開いた。
「エビでタイを釣る」
途端に静まり返る室内。
「この国には
“ニンジャソウルはウマ娘が持つと光と闇が両方そなわり最強に見える。”
“逆にニンジャがウマソウルを持つと頭がおかしくなって死ぬ”
というコトワザがあるそうだ」
「「「オッシャルトーリ!」」」
「ライトハロー=サンを捕らえよ。そのためならば多少の犠牲には目を瞑ろう」
「「「オッシャルトーリ!」」」
二度あることは三度四度と続く、とはミヤモト・マサシのコトワザであるが、ネイビースーツの男はニンジャスレイヤーが姿を現した以上、続けざまに手駒を殺害されることなど織り込み済みであった。
その損害を無視するだけの価値が、ウマ娘のニンジャにはある。
◇◆◇
太陽が西に沈みつつある。
夕闇が迫る中、ライトハローはターフを後にしていた。
その背中からは自信と充実感がにじんでいる。
(もしかしたら――)
胸ふくらます期待。
(いや、次は勝てる!)
期待と呼ぶにはあまりにも強すぎる、勝利への確信を抱くに至ったライトハローであったが、その喜びを素直に表へ出すことは
そういう空気が、この8月初頭のトレセン学園にはある。
石を投げれば、ライトハローと同じく未勝利のままのウマ娘に当たるだろう。
また神様との遭遇で多少は冷静さと余裕を取り戻せた彼女は、周囲の状況を再確認できた。
(みんな、必死だ――)
中高生のための一般的な授業が停止する夏休み。
強化合宿に参加できず、また帰省の余裕もない未勝利ウマ娘たちは、オーバーワークを承知の上で一日すべてをトレーニングにあてる。
それを止める人間はいない。
この先のキャリアを間違いなく縮める過度な練習。
が、次の1戦で勝てなければ、少なくともトゥインクルシリーズにおけるキャリアは絶たれてしまう。
合宿には行かず、学園に残留している教官たちもそれを知っているからこそ、彼女たちのオーバーワークを黙認していた。
やりすぎだということは、未勝利のウマ娘たち自身も理解している。
だがこのままではカッコがつかないではないか。
ここで夢が終わる?
いまさら進路を考え直す?
いままで応援してくれた家族や知人に、少ないながらもいるファンに、なんと説明する?
(……)
そんなの、考えられない。
考えたくない。
(……)
ちくりと心が痛んだ。
それを誤魔化すように、ライトハローは内心で叫んだ。
(あ、明日はライブの練習しようっ!)
「……」
ターフから寮へ戻っていくライトハローら数名のウマ娘たち。
「オツカレサマデス」
その小道の脇に、鮮やかな緑色の制服を纏った男が立っている。
2、3名のウマ娘は彼に不審げな視線を
彼は新入りの警備員であった。
数日前、警備会社“キミノマモリセキュリティ”からトレセン学園に派遣されていた警備員2名が、突如として音信不通となるというアクシデントがあった。
慌ててキミノマモリセキュリティはふたりの警備員を新規雇用し、トレセン学園の警備業務に割り当てており、彼はその片割れであった。
ウマ娘たちが警備員の前を通りすぎる。
(((グググ……)))
その警備員の体内に潜むニンジャソウルが、くぐもった声を上げた。
(((フジキドよ。あれがウマムスメの……ニンジャよ)))
ナンシー・リーの助けで身元を偽造し、警備会社キミノマモリセキュリティの新人警備員としてトレセン学園に潜入を果たしたニンジャスレイヤー――フジキド・ケンジはミリ単位で頷いた。
(((では彼女がライトハロー=サンか)))
(((間違いない。あの走り、ターフ・ニンジャクランのそれ)))
(((ターフ・ニンジャクランだと?)))
(((さかしいジツではなく、走法に奔った妙な連中よ)))
(((……)))
(((グググ……フジキドよ……あの小娘、己の素性を隠すことすらできておらぬニュービーよ。殺すことは容易い……)))
(((黙れナラク!)))
フジキドは内なるニンジャソウルを一喝すると、その視線を寮へ去っていくウマ娘の背中に向けた。