パーティーの最中に現れた青の護衛隊の面々を見て呆然となり固まる一同を他所にグランは自分を捕まえにきた彼等に抵抗する気は一切なく両手をアリリに差し出した。そんな姿にアリリは感心を覚える。
「潔いな。ならこちらも遠慮なくいくぞ」
「どうぞ、君も職務を全うしたまえ」
抵抗せずこちらにお縄をつこうとするグランにアリリは持っていた手錠を彼女の手首に掛けようとする。
「ま、待ちなさい!」
「そうですよ待ってくださいアリリ副隊長!」
だが、それに待ったを掛けたのは先程までましろ達と共に固まっていたらんことソラだ。いきなりの事で状況がすぐ飲み込めなかったが目の前でグランが手錠を掛けられそうになるのを見て直ぐ我に返ってアリリを止めようとする。
「確かにグランさんはアンダーグ帝国の刺客として私達と何度も戦ってきましたよ。でもそれはパラサイアという者の仕業なんです」
「そうよ!それに…そいつは腹が立つ事が結構あるけど、私やシャララ隊長の救出を手伝ってくれたのよ」
今までの事があって直ぐにはだが、彼女は罪を償おうとこちらと共に戦った大事な仲間だ。
「悪いがこいつは王様暗殺未遂の罪として実刑判決が下されていたんだ」
『王様暗殺!?』
とんでもない罪状を聞かされた一同は驚きのあまりに口を揃える。しかし、それを聞いたツバサは少し疑問が浮かびあがる。
「ちょっと待ってください。確かにあの時グランさんは襲ってきましたが王様達に手を上げてませんよ」
「そうよ!そいつは私を連れ出していっただけでその後に現れた馬鹿モンダーの奴が呪いをかけたじゃない!」
ツバサに続いてらんこも庇う様に当時の事を説明する。あの時はらんこを捕まえようとグランは王達には全く目もくれなかった。故に暗殺どころか手を出そうとしない為その判決は冤罪であると伝える。だが、アリリは首を横に振り口を開く。
「違う。こいつが手を掛けようとしたのは今の王様ではなく先代の王様だ」
「せ、先代だって!?」
「そ、それって今の王様のお父さんって事ですか!?」
「あー!もう、わかんないよー!誰か説明してー!」
一体どういう事なのかと全員が全く事情を飲み込めずにいるグランが軽く咳払いをして注目を集める。
「副隊長さん、私を逮捕する前にちょっと彼女達と話をさせて欲しい」
「グランさん?」
「あんた…まさかこんな時でもふざけた事を言うつもりじゃないでしょうね!」
皆んなが真面目にしている時にまたふざけた言動を見せるのかとらんこは思った。だが、グランの表情は先程まで悪戯を考える顔ではなく真剣な顔をしていた。
「君達は覚えているかい…私と初めて会った時のことを」
「初めて会った時って…」
初めて会う…つまりグランでは無くキメラングとして邂逅した時のことを指しているのだろう。当時自分達の前に現れた時には派手に自己紹介をすると言ったカバトンやバッタモンダーとは違ったこれまた一癖や二癖もある為、今でもらんこ達の脳裏に残っていたのだ。
「あの時私はこう言っただろう。昔ある事をやらかして博士号は剥奪されてしまったってね」
「確かに言ってたけど…まさかその時に先代の王様を暗殺しようとしたのが原因なの!?」
「でもなんで!?なんでそんな事を!?」
先代の王様を殺そうと動機が全く分からなかった一同。対してグランは肩をすくめる。
「…言い訳をするつもりは無いよ。だが、先代の王様を暗殺しようとした当日は私やヨヨの研究所のお披露目会でその時私はパラサイアが憑依していたハイメットを被りハイメットの実力をその場に招待された王様を含め、名のある貴族達に見せつけようと王様と貴族を守る当時の青の護衛隊を隊長含めて全員重症の傷を負わせたんだ」
『なっ!?』
まさかの王様やその次に偉い貴族が観に来る大舞台でグランはパラサイアに洗脳され自分の意思とは関係なく他人を傷つけてしまい、幸いと言っていいのか暗殺は未遂に終わるがそれでも国を騒がすほどの大犯罪の業を背負わされてしまった事を知り一同は言葉を失う。
そんな中ましろはグランの発言の中にあった"お披露目会"が気になった。
「お披露目会って、確か前に一度洗脳が解かれた時に言っていたけど…もしかしてそれの事?」
「そうだよ。私はその時の青の護衛隊隊長に逮捕され、手に入れるのに苦労した博士号は剥奪され無期懲役判決を下され牢屋へと投獄されたが私だがすぐに脱獄しスカイランドから去りアンダーグ帝国に身を置いたんだよ」
今思えば何故アンダーグ帝国への行き方を知らない己がアンダーグ帝国へ行けたのかは恐らくパラサイアが誘導したのだろう。以後はキメラングとして名を変えて50年ありとあらゆる非合法の実験、研究を繰り返しグランとしての記憶が薄れていきマッドサイエンティストのキメラングへ変わったのだ。
「それもこの前私の身体に寄生していたパラサイアが出ていったから漸く本来の私の人格を取り戻せたけど…まぁ、やっちゃった物は仕方ないって奴だよ」
本当ならパラサイアの所為にしてもいいが、グランは今でも洗脳された時の記憶が残っており、更には当時傷つけた者達の顔と傷つけた時の感触も今でも残っている為、グランはパラサイアに乗っ取られていた時にやった数々の悪事を己の罪として受け入れている様だ。
「待ちなさいよ…それって50年くらいも前の話でしょ。それなら時効…にならないの?」
「生憎だけど私は無期懲役の判決が下されていてね。それを脱獄したとなると問答無用で再び牢屋暮らし…最悪死刑もあり得るかもね」
「し、死刑って…!」
死刑と聞いて一同は顔を歪める。いくら何でも死刑はやり過ぎ、そう思ったらんこは慌てて口を開く。
「ま、待ちなさいよ!このマッドサイエンティスト…グランは私とシャララ隊長を助けようとしたのよ!それに何で50年も経っている事件が今更明るみになってくるのよ!?」
「えっ、どう言う事?」
ゆいを筆頭にらんこの疑問について気になり声をかける。
「その先代が暗殺未遂の事件は50年も前、そんな昔の事件の情報は今になっては薄れていくものよ。なのにそれが今回蒸し返されたって事はその時の事を知る誰かが密告したのかもしれないわ」
「密告って、一体誰が?」
そんな50年も昔の事件で誰が密告したのかと頭を悩ましているとましろは嫌な事を想像してしまう。
(まさか…お婆ちゃん?)
いや、そんな筈はないとすぐ否定しようとするがグランと50年前まで同じ研究所に働いていたヨヨなら当時の事を当然知っているだろうと考えてしまい一瞬ヨヨの方に視線を向けると彼女は辛そうな顔を浮かべていた。
「お婆ちゃん…まさか、お婆ちゃんが?」
恐る恐るヨヨに確認をするましろ。ヨヨとグランは共に同じ研究所で働いていた仲間であり友達でもある。そんな関係を持つヨヨが友達であるグランを密告する筈は無いだろうと思ったが、ヨヨはそんな期待を裏切る様に首を縦に振る。
「そうです…青の護衛隊を呼んだのはこの私です」
『なっ!?』
一同は再び驚きの声を上げる。50年も前の友達であるグランをヨヨが通報したのだという事実に信じられなかった。するとグランが再び咳払いをして注目を集める。
「あー、ヨヨの名誉の為に言っておくけど、確かにヨヨは通報したよ。でもそれは私がヨヨに頼んだ事なんだよ」
「なっ、なんでそんな事を!?」
「貴女はもう悪人じゃないよ!そもそも悪いのパラサイアだから!」
今まではパラサイアによって操られて悪事を働いてきたからグランは悪くないとソラ達は説得しようとするがグランは首を横に振る。
「擁護してくれてありがとう。だが、私は元から他人に悪戯する事が好きなものでね。世の為人の為に役に立つ発明をすると言う大層な目標を掲げておきながら私は生まれつき悪の心を持っているのさ」
「何を言って…っ」
生まれつき悪の心を持っている訳が無いと否定しようとしたソラ達だがグランが洗脳を解かれた後、ソラが無断でスカイランドへ帰った事を黙認し皆んなの前で彼女を侮辱したり、らんことひかるの関係を悪くする様な事をしたりとそれなりの事をしていた事を思い出す。
「わかって貰えたかな?仮に私が自首せず君達の元で罪を償おうとして動こうとすればそれに比例する様に私の他者への悪戯をしたいという気持ちが風船の様に膨れ上がっていきいずれは破裂してとんでもない事をやらかすに決まっている。だから私はシャバにいるよりも牢屋にいた方が誰にも迷惑をかける事はないのさ」
そう語るグランの目はもう既に諦めている様な目をしていた。それを見たらんこは複雑な表情を浮かべつつも口を開く。
「そんな事…そんな事ないわよ!」
「そうですよ!もし、そうなったら私たちが止めてみますから!」
絶対見捨てない。だから諦めずに頑張れと言わんばかりにらんこ達はグランを説得をするが彼女は返事をしなかった。
「シャララ隊長…!」
「ベリィベリー…あんたも何か言ってやってよ」
自分達だけでは説得する事が出来ないと判断したらんこ達はシャララ達に説得を頼む。
「すまないがこれは彼女の頼みだ」
「その通りだ。私も最初グランから聞かされた時に止めようとしたが彼女の意思が硬く。我々の説得には応じてくれなくてな」
だが2人ともとっくに説得はしたが失敗に終わっていた様だ。なら、友達であるヨヨに説得を頼もうとらんこは彼女に声をかけようとする。だが、其処へグランがらんこの考えを読んでいた様で彼女を止めようとする。
「おっと待って貰おうか。ここは流れ的に今度はヨヨに私の説得を頼もうとしているつもりなんだろう?なら、尚更やめて貰おうか」
「何を言って…あっ」
何としてでもグランを説得しようとしていたらんこは冷静になりある事に気がつく。これから説得を頼もうとするヨヨは元々グランに頼まれて青の護衛隊に通報をしたのだ。友達を逮捕させる様な事をさせたヨヨに今度は説得をして貰おうとしたらヨヨの心はとても傷つくだろう。
「らんこ君、並びに皆んなとここに居ないひかる君にも謝罪するよ。今まで悪かった。それとお詫びと言ってはなんだけどこれを君達に託すよ」
「託すって何を…って、あんたこれって!?」
グランから押し付けられる様に渡された物を見てらんこは驚愕する。それはグランが愛用しているハイスペックアーマーを纏う為に必要なツインミラージュとツイントーンであったのだ。
「牢屋に入る私にとってはもう無用の存在だからね。ならこれから新たな刺客が送られて来るからそれに対抗する力はあった方が良いからね。それを活用するかしないかは君達に任せるよ」
「グラン…あんた…」
ツインミラージュを押し付けられて唖然しているらんこを放っておいてグランはアリリ達に連行して貰おうと彼等の元へ歩み寄ろうとする。
「待てグラン」
だが其処へあまねがグランを呼び止める。
「キュアフィナーレ…いや、あまね君だったね。君もらんこ君達と同様に説得するつもりかい?」
恐らく彼女もらんこ達と同様に自分を説得しようとする魂胆だろうとグランは思ったが、あまねは首を横に振る。
「いや、彼女達で無理なら私の言葉でも考えは変わらないだろう。だけどこれだけは言っておく。お前が本当に償いをしたいのであればただ冷たい牢屋に細々と引き篭もるより誰かの為にその力を振るうのが有意義な筈だ」
「…魅力的な提案をありがとう。だが、私は生まれながらにして悪人、マッドサイエンティストだから償いをするどころか余計に被害を齎すかもしれないかね。もし私にそうさせたいのなら私に首輪でも付けて隷属にさせた方が確実的だろうね」
あまねにそう告げると再びグランは一同に視線を向ける。
「諸君、僅かな間だけど私と肩を並べてくれてありがとう。君達のお陰で私を50年寄生していたパラサイアの呪縛は完全に解かれたよ。お陰でシャバに対する未練はなくなったよ」
お礼をしてくるグランだが一同にとってこれ程あまりいい気持ちになれない感謝に複雑な表情を浮かべる。
対してグランはこれ以上その場の空気を悪くするのは不本意かアリリに手錠を掛けろと言わんばかり手首を突きつける。
「お前にはシャララ隊長の救出の件に手を貸してくれたからな。手錠はかけないでおいてやる。だが、それでもしばらくは牢屋に入って貰って最終的の判断は王が目覚め次第決めてもらう」
「あらら、随分お優しい事だね。まっ、それまで残り短い余生を牢屋に過ごさせてもらうよ」
そう言うとグランは青の護衛隊に連れられて廊下に開いてあるスカイランドへ繋がるゲートを通ろうとするが足を止めヨヨの方に振り返る。
「いつまでもそんな辛気臭い顔をするもんじゃないよ。聞いた話によれば君はこの50年随分と出世しだんだろう。なら、いつまでもこんな犯罪者の事を気に掛けなくていいよ」
「グランさん…」
グランの言葉によりヨヨは沈んだ表情になる。その言葉はグランなりのフォローのつもりなんだろうけど、ヨヨにとってグランは決して犯罪者とは全く思っておらず若い時に共に青春を過ごした親友であると思っている。
「バイバイヨヨ、とっととこのろくでなしの事を忘れて君は孫や家族と共に明るい余生を過ごしているんだね」
そう言うとグランはアリリ率いる青の護衛隊達によってスカイランドに連行されゲートは閉じる。
そしてその場に残された一同は全員沈んだ表情を浮かべる。数分前までは皆んなで楽しくパーティーをしていたとは思えないくらいの静かさに寂しさを覚えるくらいだ。
「……あの馬鹿……折角私が自費払って開いたパーティーを滅茶苦茶にして…やっぱりあいつはマッドサイエンティストじゃない」
「らんこさん…」
そんな中、らんこはグランに対して悪態を吐き。むしゃくしゃしながらもテーブルにあったカップケーキを頬張り飲み込む。だが、甘くて美味しいはずのカップケーキは味が全く感じられなかった。
「………グランの馬鹿…!」
この場から去って行ったグランにらんこは再び悪態を吐く。だが、決してらんこはグランに対しての悪感情は無く、彼女の心の闇から救う事が出来なかった自身の不甲斐なさを誤魔化す様に吐いたのだった。
───────
一方で虹ヶ丘家でのパーティーがお通夜ムードになっている裏ではキメラングのラボの扉が雑に開き、金属の軋む音と床に血…ではなくオイルを垂らしながらある者が入ってくる。
「はぁ…ハぁ…よ、漸ク、帰ってコレた」
ラボに現れたのはパラサイアと共に消滅したかと思っていたターボマンであった。だが全身をツギハギだらけでパーツを無理やり繋ぎ合わせていたオンボロの姿となっていた。
「グッ!…テン移装置ガ壊レタからカエるノニ一苦労だ」
今にもちぎれ落ちそうな腕を支えながら近くの作業台に倒れ込むターボマンはラボに戻って来るまでの事を思い出す。パラサイアによって身体を乗っ取られていたがパラサイアが倒された事により解放された彼はプリキュア達が勝利の余韻に浸かっている間にこっそりとその場を去りボロボロの身体を無理やり動かしながら何とかラボへと帰還したのだ。
「ドクター、いやボスが倒サレタ今は俺ハフリーになったカラ修理を終エタラ暫クハ夏休ミでも満喫スルカ」
自分のボスであるパラサイアがいなくなった事で実質中を手に入れたターボマンは今回の件でプリキュアとの戦いに懲りたようで暫くは身を引こうと思った彼は修理キットに手を伸ばして己の身体の修理をしようとする。
「…アン?なんダ?」
だが、其処へ聞きなれない足音がラボから響き渡ってきて次第にターボマンの元へと近づいてくる。
「誰ダ?ひょっとシテ、バッタモンダーか?それトモ、スキアヘッドのオッさんカ?まぁ、どっちでもイイや。なら、俺ノ修理を手伝ッテクレヨ」
ラボの照明が点いてない事が自分の側にいるのは誰なのか判別できないターボマンだったがバッタモンダーなどの知り合いだろうと思い自分の手伝いをするように声をかける。
「任務失敗の様だな」
「ッ!?…ナニモンだ?」
だが、返ってきた声は自身の電子頭脳で今まで聞いたことのない声にターボマンは一瞬にして警戒を強め、修理キットから手を離してホイールを構える。
そして段々と足音が大きくなり漆黒のボディで覆われたロボットが姿を見せる。
「テ、テメェは…マサか、ハイマックスか!?」
目の前に現れた漆黒のロボット、ハイマックスにターボマンは思わず声を上げる。ハイマックスはダークツイスターとの戦いによって破壊された後、修理が長引きターボマンが作られた後でもあまりその修理は進んでいなかった筈であるとターボマンは記憶している。
「誰ガお前を直しやがっタンダ?ボスはお前ノ修理にあまり手を付ケテなかった筈ダ」
「その質問に答える権限は貴様にない。それよりもドクターから新たな任務を引き受ける事となった。貴様の修理が完了次第私と同行してもらう」
誰に修理をしてもらったのか明かそうとしないハイマックスはターボマンに自身と共に行動する事を説明するが、それを聞いたターボマンが鼻で笑う。
「ハッ!どうやら中途半端な修理ヲシタみたいダナ。オ前の言うドクターはとっくにこの世にイネエよ。どうやら電子頭脳は壊れたままの様だな。バグが発生シテイルようだぜ」
ハイマックスが引き受けた任務は修理の際に発生した不具合であると決めつけて煽るがターボマンの表情は全く変化しない。
「繰り返し言う。貴様の修理が完了次第私の任務に同行してもらう」
「アノなぁ、お前の妄想ニ付き合う程俺は余裕ガネエの。その壊れタ電子頭脳による任務ゴッコはお前1人デやってろ」
付き合ってられないと言わんばかりにターボマンはハイマックスを無視して修理キットに手を伸ばして自身の体の修理を再開しようとするがその腕をハイマックスが掴み出す。
「ナッ!?て、テメ「ムンッ!」って、ウオワアアアアッ!?」
腕を掴まれた事で一瞬の隙が生まれたターボマンをハイマックスはその怪力で宙に投げるとそのまま床へ叩きつけてうつ伏せにすると後ろから取り押さえて首と右腕を掴むと金属が軋む音を立てていく。
「ウギャアァァァァァァァァッ!!!!」
「貴様に選択肢を与える。この私について来るかそれとも貴様がスクラップとなるか…どちらを選ぶ」
「ワ、わかった。ワカったから首と腕をヒキチギラナイデグレェーッ!!!」
首と腕と引きちぎられる痛みにターボマンは悲痛の叫びをラボ中に響き渡らせそんなターボマンを冷酷な眼差しでハイマックスは見下ろすのであった。
─────────
そして更に同時刻、ソラシド市から少し離れた街に視点が移る。此処は一見するとソラシド市と似ておりこれと言って大きな特徴が無いと言えるだろう…ある一点を除けば。
そんな街のとある一角で少女と少女が飼っているであろうハートリボンの柄が配されたブローチを首に付けたパピヨン犬が散歩をしていた。
「さぁこむぎ。このまま家までかけっこしよう」
「ワンワーン!」
飼い主の少女の提案に鳴いて返事をするとその2人…厳密に言えば1人と1匹は共に走り出していき仲が良いことが伺える。恐らくだが長く共に生活しているからその間にある絆はとても深いものだろう。このまま家に帰ったらおやつを食べよう…そんな考えを抱きながら少女とその愛犬はランニングコースを走り抜けようとする。
「ワンッ?」
「こむぎどうしたの?」
先程まで元気よく走っていた愛犬のこむぎが突然足を止めた事に少女は気になって話しかける。一方でこむぎは人側では無く犬である事から喋ることは出来ず地面の匂いを暫く嗅いだ後、少女何かを訴えようと鳴こうとする───。
「くんくん、いろはこっちから何か匂うワン!」
「あっ!こむぎどこに行くの!?」
──のでは無くなんと人間と同じように喋りだしたのだ。こむぎからいろはと呼ばれた少女はこむぎが近くの森に入っていくのを見て慌てて追いかける。そして暫くしていろははこむぎの後を追いかけていくとどんどん森の奥へと入ってしまい気がつくと山の中腹まで来てしまっていた。
「こむぎぃ〜、もう帰ろうよ。こんな所に一体何があるの?」
犬であるこむぎこ好奇心は時々暴走してしまう事があり飼っているいろはからすれば疲れる事もあるがそれはこむぎが元気でいる証拠でも改め嬉しくもある。だが、今回はあまり人気がいない所まで来てしまった事にいろはは少し不安を抱きつつもこむぎが何を見つけたのか気になっていた。
「何か分からないけど鳥さんみたいな匂いがするワン!」
「鳥さんみたい?みたいって、鳥じゃないって事?」
「わからないわん。あっ、でも鳥さんみたいな匂いと学校や公園にある鉄棒みたいな匂いも一緒にするわん」
「鉄棒…鉄……ま、まさか、血じゃ!?」
もしかしてこむぎの言う鉄棒の匂いは血の匂いなのではと推測したいろはは慌ててこむぎを抱える。
「こむぎどっちから匂うの!?」
「くんくん、あっちだワン!」
再び匂いを嗅いで方角を示したこむぎにいろははこむぎが教えてくれた方角に向かって全力疾走する。もしこの先で動物が怪我をしていたら大変だと思ったいろははどうかその動物が手遅れでは無い事を祈りながら山の中を走っていく。すると、暫く山の中を走ると広い所に出る。するとこむぎが「あっ!」と声を上げる。
「いろは!あの子から匂うワン!」
「あの子って…え!?」
腕の中にいるこむぎが指した方向にある動物を見ていろはは思わず目が見開いてしまう。何故ならそこにいたのは全身ボロボロで血を流しているワシが存在していた。しかもただのワシでは無く大人の人間を一回りも二回りも余裕で上回る巨大なワシ(?)が地面に倒れ伏していた。
「こ、この子は生きているの?」
恐る恐る近づくいろははそのワシの身体にそっと触れると生物の暖かさを感じ、微かであるが息もしている事が確認出来た。
「まだ生きている…でも、このままじゃこの子が死んじゃう!」
「どうしよういろは!?」
何もしなければじきに息絶えてしまうこのワシを何とか助けようといろはは考える。こう言う時に思い浮かぶのは実家で動物病院を営んでいる母の存在だ。
「こ、こう言う時はお母さん達に連絡……いや、確かにお母さんは獣医師だけどこんなに大きな子を連れて帰ったら大騒ぎになっちゃうよ!あっ、そうだ!悟君達に連絡しなきゃ!」
慌てながらも持っていたスマホを取り出して何処かに連絡を掛けるいろは。それに対してこむぎはそのワシに臆する事なく近づき寄り添う。
「大丈夫、君の事はこむぎ達が絶対に助けるからね」
「ぉ、ォ…ン」
消えゆく意識の中、ワシは思い瞼を開くと其処には自分より小さな身体で心配するこむぎの姿が見たが、怪我のせいで意識が朦朧してこむぎの姿を正しく認識出来ておらず人間の少女に見えたのであった。