「ここがアニマルタウンですか」
そう呟くソラの視線には初めて来る街、アニマルタウンの光景が広がっている。
その街は見た感じ以前行ったゆい達の住むおいしーなタウンとは違って特に目立った建物や周りから常に料理の匂いが漂っていたりはせずソラシド市と似て普通の街に見えていた。ただし、それでも他の街とは違うある特徴は存在していた。
「あっ、見てエルちゃんわんちゃんだよ」
「あっちは猫さんがいますよ」
「わんわん♪にゃんにゃん♪」
街の至る所に放し飼いをされている犬や猫にソラ達はまるで動物園に来たみたいにテンションが上がっていた。そして、3人がはしゃいでいる中でツバサとあげはの視線にはとある動物の姿が入る。
「あっ、見てくださいあっちは馬が普通に歩いています」
「本当だ!」
視線の先には道の端を馬が蹄をパカラパカラと蹄を鳴らして飼い主と共に歩いている姿が確認出来た。普通なら何かのイベントとかだと考えてしまうだろう。だが近くの通行人は特に騒いだりせずにまるで犬や猫を見る様な柔らかい眼差しで眺めていた。
「今度はあそこでアヒルの親子が歩いているよ!」
「あっ!あっちは亀さんとうさぎさんが駆けっこしています」
更に他にも街の中ではありとあらゆる動物が目撃されている。一瞬動物園とかから逃げ出したのではと考えてしまうがこの光景はこのアニマルタウンでは当たり前なものなのだ。
「いやぁ、噂通りだねアニマルタウンは」
「そうですね…人間と動物が共存しているなんて何だかスカイランドを思い出します」
この街はそれこそが人間と動物の共存しているといった正にアニマルタウンという名に相応しい。こんなに何処を見ても色んな動物が街に住んでいる事から◯ケモンの世界に来たみたいで一同はワクワクしていた。
だが、そんな中ベリィベリーはソラ達と違い真面目な顔を浮かべている。
「お前達、動物の可愛いさに心が惹かれる気持ちが分からないわけでもないが我々の目的を忘れるな」
その発言を聞いてソラ達はハッとなり自分達がアニマルタウンへ来た経緯を思い出す。
それはシャララ隊長の相棒であるワシオーンを探す事だ。学校にて軽井沢からアニマルタウンに巨大な鷲を見かけたと言う情報があり嘘か真かわからないがそれでも探しに行こうとこの街へやって来たのだ。
「そうでした!私たちはワシオーンを探す為に来たんでした!」
「動物の可愛さで忘れる所だったよ」
ベリィベリーの言葉に自分達の目的を見失っていたソラ達はベリィベリーに感謝の言葉を送り早速ワシオーンを探しに街に聞き込み調査をしようとするがツバサが恐る恐る声をかける。
「あの…先程から皆さん忘れているのかそれとも触れたくないのかわかりませんが…良い加減あちらをどうにかしましょうよ」
『あー…』
一同は揃って声を漏らす。ツバサの言う通り先程からあるものに目を背けていたのだがいつまでも放置出来ず仕方なく視線をある方向に向けると其処には…。
「その…らんこさん……あのぉ」
「…」ムスッ
「ニャー…」
気不味そうにしながらも恐る恐るらんこに声をかけるひかると彼と共に来た猫のライを撫でながら不機嫌な顔を浮かべながらひかるにそっぽを向いているらんこの姿があった。
どうしてこうなっているのかは少し前まで遡る。
────────
数十分前の虹ヶ丘家。其処にはソラ達がアニマルタウンへ出掛ける支度をしていたのだ。
「ハンカチよし、スマホよし、お財布もよし、ミラージュペンよし」
「ましろさん、雲パンが丁度焼き上がりましたよ」
荷物確認をしているましろの元にソラが焼きたての雲パンを持ってやって来る。恐らくこの雲パンは出掛けた先で食べるつもりなのだろう。
そんな2人の元に人数分の水筒を抱えてある人物がやって来る。
「ソラ、ましろ。水筒の用意が出来たぞ」
「あっ、シャララ隊長!」
「しゃ、シャララ隊長!?水筒は私達で準備出来るのでシャララ隊長は休んでてください!」
ソラにとって上司であり憧れの存在であるシャララに自分達の水筒を用意してもらうの恐縮にあたる物なのだ。
「いや、ワシオーンの情報を持ってきて更には動けない私の代わりに彼を探しに行ってくれるんだ。些細なことではあるが私も出来る限りの事はさせてくれ」
「シャララ隊長…」
シャララとしてもソラ達と共にワシオーンを探しに行きたいのだが今まで監禁されたりランボーグにされている為、精密な検査が終わるまで激しい運動や遠出をヨヨに禁じられておりまだ許しを貰ってないのだ。それ故にシャララは今回留守番をする事になり自分の代わりにワシオーンを探しに行くソラ達を少しでも手伝いたいのだ。
「ありがとうございますシャララ隊長。必ずワシオーンを見つけて来ます」
「ああ、期待している」
水筒をシャララから受け取ると共にワシオーン探しを託されたソラは必ず見つけてみせると意気込む。
そして、他の面々も着々に準備を終えて玄関から出て庭に集合して行く。
「お出かけの準備オーケー!」
「こっちも準備は完了です」
持っていく荷物をリュックに詰めて貴重品やミラージュペンといった大事な物を忘れてないか確認を終えたツバサとあげはも出掛ける準備を終えた様だ。
「私とプリンセスも終えたぞ。さて、残すはらんこだけだが」
「にゃんこまだー?」
「まぁ、らんこちゃんは自宅にいるから私達と比べて準備が遅いのも仕方ないよ。おっ、噂をすれば」
不満を募らせているエルを宥めているあげはのスマホから着信音が鳴り響く。あげはスマホを取り出すと電話を始めては2、3分会話をして電話を切るとソラ達に声をかける。
「皆んな、らんこちゃんの方も準備が出来たみたいだよ」
「おお、待ってました!」
「じゃあミラーパッドで呼びましょう」
すっかり慣れた手つきでツバサはミラーパッドを弄ると一同の目の前にゲートが現れて其処には自分達と同じ様にリュックを背負ったらんこが出てくる。
「皆んな待たせたわね」
「ううん、こっちも丁度準備は終わった所だよ」
「ばっちりー!」
「らんこちゃんこそ忘れ物はしてない?」
「大丈夫よ。それにしてもこのミラーパッドの機能…改めて思うけど実質◯こでもドアね」
まるで国民的アニメのキャラクターである未来からやって来た猫型ロボットの定番の道具みたいな機能にらんこは改めて感心を覚える。
「まぁ、そうだね。其処は遂に時代が追いついたって事だね」
「時代というか違う世界の技術なんだけどね」
間違った解釈をするあげはにましろは苦笑いをしつつやんわりと違うと指摘する。
取り敢えず全員が揃った事だから早速ミラーパッドを使ってアニマルタウンへ向かおうとするが其処にあげはがキョロキョロと何かを探す様に周囲を見渡すとらんこにある疑問を投げる。
「そう言えばらんこちゃん彼の姿がないけど?」
「……彼?」
「あっ!ま、まってあげはちゃん!」
あげはの口から出た"彼"という単語を聞いてらんこの表情が固まる。それを見たましろは何を言うか察したのかそれ以上の発言をさせないように止めようとするが間に合わなかった。
「そりゃあ、ひかる君でしょ。いつもならこう言う時にひかる君が来ている筈なのに今日は来てない…って、うおっ!?」
ひかるについて聞こうとしたあげはだがらんこの顔を見て驚きの声を上げる。今のらんこは先程まで穏やかな表情を見せていたのにそれが一変して露骨に不機嫌な顔を浮かべている。
「チッ!」
(えっ、舌打ち?今舌打ちした?)
更に舌打ちをした事にあげははギョッとする。そんなあげはは慌てて側にいたましろに話しかける。
「ねえねえ、あれ…ひょっとしてしてらんこちゃんとひかる君ってまだ仲直りしてなかったの?」
「実は…そうなの」
「ええ…いつまで引き摺っているんですか…」
あれからもう何日も経っているというのに未だにらんこ達は仲が改善してない事にツバサは思わず呆れた表情を浮かべる。
「らんこさんもいつまで引き摺っているんですか。いい加減ひかるさんを許してあげてくださいよ」
「許すも何も私はひかるが素直に謝ればちゃんと許すつもりよ。な・の・にッ!あの日からもう1週間経ちそうなのに結局ひかるの奴はこっちに来ないのよ…!」
「き、きっとひかるさんの世界で何らのトラブルが起きて来れないんじゃないのでしょうか」
少しでも怒りを鎮めようとツバサはひかるを擁護するのだがらんこは首を横に振り否定する。
「その可能性は低いわ。もしあっちの世界で強敵が現れたらこっちに助けを求めに来るか何らかのアクションがあってもおかしくないの。でもそういうのは一切なかったわ。それにこっちが何度もあっちの世界に繋がるトンネルを開いたらその度に私の意思とは関係なく強引に閉じていくのよ。まるで反対側から扉を閉じるみたいにねっ!」
「そ、そうですか(何やっているんですかひかるさんは…)」
怒りながらも冷静に説明するらんこにツバサは若干引き気味に納得しつつもらんこの怒りの原因であるひかるに内心呆れる。このままアニマルタウンへ向かったら終始不機嫌のままワシオーンを探す羽目になる。そんな気まずい状況には一同も勘弁して欲しい為どうにからんこの機嫌を直そうと頭を働かせる。
「どうしましょう。このままじゃアニマルタウンへの出発どころじゃありませんよ」
「何とかしてらんこちゃんの機嫌を直さなきゃ」
「でも、今のらんこさんをどうやって…アップルパイは用意できてませんよ」
好物であるアップルパイを食べれば機嫌を直してくれるかもしれないが今回アニマルタウンへ行くつもりである為、アップルパイは当然作っていなかったのだ。それなら推しのうららかまこぴーのコンサートチケットなんて物も当然ない。どうすれば良いかと頭を悩ませていると何やらベリィベリーは自信満々の笑みを浮かべて口を開く。
「なら、この私がらんこと2人っきりになって機嫌を…」
「「絶対ダメ‼︎」」
「何故だっ!?」
どさくさに紛れてらんこと2人きりになって如何わしい事をしようとするベリィベリーを止めるましろとツバサ。
「ねぇ、ましろん。此処は私に任せてくれる」
「あげはちゃん?」
そんな時ツバサを生け贄にしてらんこの機嫌を直してもらうしかないかと半端本気で考えていたましろだが其処にあげはが妙案を思いついたのからんこに話しかける。
「ねえねえらんこちゃん。らんこちゃんが怒る原因って要はグランちゃんの胸にひかる君が釘付けになっていた事なんだよね」
「ええそうよ!ひかるは私という彼女がいながらもよりにもよってマッドサイエンティストの胸なんかに誘惑されるなんて…!」
今でも思い出したら腹ただしく拳がギュッと鳴るくらいに強く握りしめるらんこ。そんならんこを見てあげはは「う〜ん」と考える様に唸り声を漏らすと顎に指を当てて何か考える仕草を見せる。
「まぁ、嫉妬する気持ちは分かるよ。確かにあれだけのおっきな胸は同性の私ですら興奮しちゃうからね。実際らんこちゃんもグランちゃんの胸に夢中になってたじゃん」
「うっ…た、確かにそうだけど」
実際らんこはグランの胸を揉んだ際に自身の手から伝わる感触に夢中になってソラ達に止められるまで揉み続けていた。だからひかるは釘付けになるのは仕方ないのではと思い始める。
「それにらんこちゃんはグランちゃんの胸を揉んだけど、ひかる君ってただ見ていただけなんだからいつまでも怒るのはどうかと思うよ」
「だ、だって…私、あいつより胸…大きくないし、ちゃんと釘刺さないとひかるは私の事を…」
次第に声が小さくなっていくらんこ。どうやらグランが自分の胸の大きさを余裕で上回るから女としての自信を喪失しかけている様だ。その為グランと言った胸のデカい女性に乗り換えるのではと不安を抱いている様だ。だが、らんこの不安を否定するかの様にあげはは自信満々に答える。
「そんな事ないよ。確かにグランちゃんって胸は大きいよ。でも、だからと言ってひかる君はグランちゃんに恋愛感情はある様に見える?」
「恋愛…感情…?」
その指摘にらんこは今までの事を思い返す。ひかるは確かにグランの胸に魅了されていた。だが、だからと言ってそれは恋愛感情があるかどうかと聞かれたら違うと答えるだろう。確かに下心はあるがひかるの場合はただデカい胸に釘付けされただけで自分対してグランはひかるに対しては新しい玩具を見る眼差しとも言えるだろう。
「ない…と思う」
「じゃあ、今度はらんこちゃんひかる君と付き合う事になるまでの事を振り返って見て」
続いてひかるとのこれまでの思い出を振り返る様に促されたらんこは脳裏に次々と彼との思い出が蘇る。ひかるとの出会いやひかるに惚れ、そして付き合う様になった時までの甘い思い出が映像の様に次々と頭の中に映し出されていく。
そんな思い出を振り返っていくとらんこの口元は自然に緩む。
「どう?らんこちゃんはひかる君の事をどう思ってる?」
「うん、ひかるは正直馬鹿で私がいるにも関わらず他の女に目を向ける節操なしね」
「ず、随分正直に言うね…」
てっきり彼に対する惚気などを発言すると思っていたが想像したが全然違う事を吐いたらんこにあげははその場でズッコケそうになる。だが、らんこは発言を続ける。
「でも、ひかるは私にだけ恋愛感情を抱いてくれた…私がピンチになった時に助けにきてくれる。私の…私だけのヒーロー…よ」
「うん、そうだね」
顔を赤くしながらも最後にらんこがひかるの事を本当はどう思っているのか聞けてあげはは笑みを浮かべる。
「確かに今回ひかる君が悪かったけど、今頃彼は物凄く後悔していると思うよ。らんこちゃんがいるにも関わらず他の女の子の事にうつつを抜かした事をどう謝れば良いか悩んでいる筈だよ」
「…そうね。今思えば私も本当に大人気無かったわ」
ひかるに問題があったがらんこも己も少々怒り過ぎた事に反省の色を見せる。
「まぁ、らんこちゃん独占欲が強い所があるから無理もないよ。だってひかる君とのファーストキスはまさかのディープキスだしね」
「い、言わないでよ!恥ずかしいじゃない」
ニヤニヤと笑みを浮かべて過去の事を弄ってくるあげはにらんこは思わず声を荒げる。記念すべきファーストキスは今思えばひかるの事が好き過ぎてつい理性が外れてしまって舌まで絡ませたのは黒歴史に近いだろう。尚、その後も普通のキスはなく2度目もディープの模様。
「とにかくそろそろ許してあげなよらんこちゃん」
「…そうね。ひかるもそろそろ反省している頃だし」
『おおおおーっ!』
先程までひかるへの怒りがあったらんこだがあげはのコミュニケーションによりそれが炎を鎮火するかの如く沈めた事にソラ達は感心の声を上げる。
「流石あげはさん!」
「私達にできない事を平然とやって退ける!」
「其処に痺れる憧れるぅ!」
「よっ!最強の保育士!」
「あげはしゅごい!」
「え、へへへっ。まぁ、それ程でもあるからなぁ〜」
自分達ではできなかったらんこの説得をあげはは1人でやり遂げた事にソラ達は彼女を褒め称え拍手喝采を送る。対してあげはも満更でもなく素直に受け取る。
一方でらんこは己のスカイトーンを取り出すと軽く深呼吸をしてひかるの事を頭に思い浮かべて念じる。すると目の前にはゲートが出現してそれから10秒くらい経つと誰かが出てくる。
「ら…らんこさん…」
「ひかる…」
ゲートから出てきたのは当然ひかるである。だが彼の表情は若干怯えている。それもその筈だひかるはらんこに鬼神の如く追いかけ回されていたのだ。怯えるのも無理はない。
「そ、その…あの時h「ごめんなさい‼︎」…え?」
ひかるはらんこに謝ろうとするがそれよりも先にらんこが頭を下げて謝罪した事にひかるは思わず固まる。
「私、あんたが…ひかるが私以外の女に見惚れるのが…我慢できなかったの…だから…」
「らんこさん…」
頭を下げて必死に言い訳をするその姿にひかるは少し黙った後、彼女に「頭を上げてくれ」と伝える。
「らんこさんが謝る所なんてない。元々は俺が一瞬とはいえグランさんに見惚れちまった事がいけないんだ。だから俺はらんこさんに謝ろうと思ったけど、俺はらんこさんが許してくれないと思って暫く俺の世界に引き篭もっていたんだ…本当にごめん。根性無しの俺を許してくれ」
「そんな…!ひかるは悪くない…悪くないわよ……!悪いのは…私よ」
どちらも謝罪を繰り返して永遠にやり取りが続く…かと思いきや、その場にパンッと軽い音が響き渡り2人は音のした方向に視線を向けると其処にはソラとましろが手を合わせている姿があったのだ。
「お二人とも其処までです。どうやら互いに今回の件について反省している様なのでここいらで反省会を終わりにしましょう」
「そうだよ。このまま続けたら日が暮れちゃうしね」
2人の発言にらんことひかるは暫く互いに顔を合わせているとらんこが突然笑い出す。
「ぷっ、あはははっ!!!」
「ら、らんこさん?」
突然笑い出したらんこにひかるはどうしたのだろうかと不思議に思った。
「ご、ごめんなさい。なんだか懐かしい事を思い出しちゃって」
目の前のソラ達の台詞にらんこは以前自身が空回りをしてソラ達に迷惑をかけその際に互いに謝った時にましろが発言した台詞と似ていた事にらんこは思わず思い出し笑いをしてしまった様だ。
「でも、ソラ達の言う通りね。ここいらで手打ちにしてあげるわ」
「あ、ありがとう」
怒りを完全に沈めて許してくれたらんこの姿にひかるは胸を撫で下ろしているとツバサがからに話しかけてくる。
「ところで先程から気になっていたんですが。ひかるさんが持っているその封筒は一体なんですか?」
「へ?あっ、ああ、これは…」
ツバサの指摘にひかるは自身の腕の中にあった大きめの封筒の存在を思い出した。
(どうするかコレ、折角アサヒから貰ったけどらんこさんのあの様子だからな…)
もしらんこが機嫌が治らないままだった時の保険としてある物が封筒の中に入っているのだが、らんこの機嫌が治った今この封筒の出番はなくなったのだが。
(まぁ、後でサプライズプレゼントとして渡せば良いか)
中に入っている物はらんこが間違いなく喜ぶものであると確信しているひかるはこの後この封筒を受け取ったらんこの嬉しそうな顔が思い浮かびあがりひかるはにやけ面になる。
「どうしたのひかる?急に笑みを浮かべて?」
「へ?…あっ、なんでもない!そう言えばグランさんは何処だ?俺はあの人に文句を言いたいんだよ」
そもそも今回の事態に至ったのは9割程グランの所為だ。ひかるはらんこに怒りを買う原因となったグランに文句を言おうと周囲探すが彼女がいない事に不思議に思った。
「あのさ、ひかる。グランの事なんだけど」
「グランさんがどうかしたのか?」
この場で唯一あの戦いの後にやったパーティーでの出来事を知らないひかるにらんこは当時起きた事を伝える。ひかるはらんこから明かされたグランがこの場に居ない事情を知って最初は驚くもその後の説明を聞いて次第に納得していく。
「そうか…」
その表情は少し悲しみが見られる。今まで敵とはいえ共にらんこを救う為に一時的に共闘した彼にとっては紛れもなく仲間と言えるだろう。そんな彼女に別れの言葉を言えなかった事は残念な事だろう。
そして、そんなひかるはグランにある後悔を抱いていた。
「せめて自首するならちゃんとあの胸を揉んでおけば良かったなぁ」
『え?』
「……… は?」
その時、先程まで辺りは夏の暑さを迎えていた筈なのにひかるの発言によって一瞬で真冬が訪れたのではと錯覚するくらいに一同は固まる。そしていち早く再起動したらんこはひかるに声をかける。
「ちょっとひかる。今の発言何?」
「え、発言?……えっ!?ま、まさか今の声聞こえてた…!?」
慌てて口を手で塞ぐが既に手遅れだ。本人は先程の発言は心の中で呟くつもりだったのだが、らんこと仲直りした事で口が緩んでとんでもない失言をしてしまったのだ。
「ええ、私の聞き間違いじゃなければ"あの胸を揉んでおけば良かったなぁ"…って、聞こえてたけど私の聞き間違いよね?」
目のハイライトが消えてゆっくりと近づくらんこにひかるは後退りしながら慌てて手を突き出す。
「い、今のは違うんだ!ご、誤解だ!話を聞いてくれらんこさん‼︎」
折角仲直りしたばかりなのにまたらんこが怒りそうになっているのをひかるはなんとか避けようと弁明しようとする。
「良いわよ。私は優しいから最後まで話を聞いてあげるわ」
「な、なら「ただし」…え?」
話を聞いてくれる猶予を与えてくれた事にひかるは一瞬安堵するが続けて何かを言おうとするらんこに表情は固まり彼女の顔を見る。
「考える時間は10秒、そして返事の内容によっては あんたを監禁して私だけを見てくれる様に調教する!」
「ちょうって…えええええええええっ!?」
首輪に手を当て一気にダークツイスターへの変身するらんこにひかるは己の人生の中で最大とも言える危機を感じた。下手に回答すれば間違いなく監禁コースまっしぐらだろう。こういう時梳杉町に住む彼女大大大大大好き彼氏なら説得できる言葉を…いや、それ以前に彼女を怒らせる発言はしないだろうなぁ。
そしてひかるの生命の危機に側で見ていたソラ達は見過ごせなかった。
「ら、らんこさん何を言い出すんですか!?」
「駄目だよらんこちゃん‼︎そんな事をしちゃ!」
「幾らひかるさんに問題があるからってそれは駄目です!」
「そうだよ!監禁は犯罪だよ!犯罪!」
「にゃんこだめーっ!」
「その通りだらんこ!幾らひかるのアホが節操なしとはいえ流石に監禁は青の護衛隊として見逃せないぞ!」
流石に堂々と犯罪行為をやらかそうとするダークツイスターにソラ達は一斉に止めようと彼女とひかるの間に入り込む。普段ならひかるがらんこに嫌われる姿を喜ぶとサディストな所がある彼女だが今回ばかりはひかるを守ろうとする辺り真面目さが伺える。
一方でひかるは己の節操なしに自己嫌悪を抱きつつもダークツイスターを落ち着かせようと秘密兵器である封筒に視線を向ける。
(こ、こうなったらこの封筒に入っているアレをらんこさんに…!)
悲しい事に今の自分ではダークツイスターを説得できる様な説明は出来ない。その為この世界へ向かう際に友人のアサヒから譲り受けた物を差し出してご機嫌を直してもらおうと思ったその瞬間だ。
「ニャー」
『え?』
その場に猫の鳴き声が響き渡る。一体何処から聞こえてきたのだろうかと一同は周辺を見渡すと再び鳴き声が聞こえる。聞こえてきたのはダークツイスターの方からだ。彼女は自分のすぐ近くから聞こえてきた事に念入りに見渡すと足元に見覚えのある毛玉、ではなく大柄なベンガル猫が視界に入る。
「あんた…確か……ライ?」
「あっ、ライ!またこっそり着いてきたのか」
其処にいたのはひかるが飼っている猫のライであった。するとライはダークツイスターに臆する事なく彼女に近寄るとそのまま彼女の足に擦り寄った。そのおかげもあってかダークツイスターの中にあった怒りの炎は次第に鎮火していく。
「ライ…あんた」
「ニャー」
何やらライは何かを訴えている様だが、ダークツイスターはライが何を言っているのか当然理解できず動物の通訳係としての役割を持つツバサに助けを求める。
「えっと……ツバサ通訳」
「はい、えっと…"飼い主の責任は飼い猫である俺の責任でもある。気をを悪くさせちまって悪い。詫びと言ってはなんだが今日は嬢ちゃんの言う事に従うぜ"って言ってます」
「えっ、この子そんなかっこいい事を言っているの!?」
まさかのクール過ぎる事を言っているライにましろは驚愕する。一方でダークツイスターもましろと同じく驚愕しつつも可愛い見た目をしているのに中身が責任感のある大人というギャップにある意味の萌えを抱きつつもわなわなと手をライに伸ばすもギリギリの所でハッとなり恐る恐る確認する。
「えっと…言う事を聞くって撫でるや抱きしめても良いの?」
「ニャン」
「えっと"男に二言はねえ。それで機嫌を直してもらえるなら安いもんだ"だそうです」
再びツバサを通してダークツイスターはライの確認を取るとライを抱き抱えてゆっくりと撫で始める。すると先程まで険しい顔をしていた彼女の顔は次第に緩んでいく。
「くぅーっ!すっごいこのもふもふ感!実に触り心地がいい!しかもこのクールな台詞には似合わないこの肉球!ものすごいプニプニで最高ーッ!!!」
「ら、らんこちゃん?」
「な、なんだからんこさんのテンション普段と全然違ってませんか?」
「まぁ、らんこちゃんは可愛い物好きみたいだからね」
「というかいつのまにか変身が解けているし」
どうやら先程まで怒ったり落ち着いてまた怒ったりと情緒が不安定であった為、其処に猫のライが好きにしてくれて良いという物だから彼女は溜まりに溜まったストレスを発散してテンションがおかしくなりそのまま変身が解けた様だ。
『なーにこの肉球!!!触り心地完全にツボ!!!超テンション上がっちゃう!!!』
誰だこいつ?
何やららんこに便乗するかの様に彼女の頭の中肉球マニアな少女の声が聞こえてきたが今はライを愛でているのを優先してその声は無視する。
「ライは可愛いだけじゃなくかっこいいわね!何処ぞの誰かさんみたいに彼女がいながらも他所の女の胸に欲情する奴と違って男らしいわ!」
「ガハッ!?」
『ひかる(君)(さん)!?』
「ひかりゅ!?」
思わず血反吐を吐き倒れるひかる。自業自得といえど彼女であるらんこから軽蔑される事はひかるの心に今までにないくらいの大ダメージを与えたのだ。ソラ達はひかるに駆け寄り彼の事を心配する。
そして、ひかるのメンタルケアが終わる頃にはらんこもある程度機嫌を良くしたところで一同はアニマルタウンへ向かったのだが、向かった先でもらんこはひかるの事は無視してひたすらにライを愛で続けるという気まずい空気がソラ達を襲う。果たして2人の中はこのアニマルタウンで改善するのだろうか。
─おまけ─
「ねえねえらんこちゃん。らんこちゃんが怒る原因って要はグランちゃんの胸にひかる君が釘付けになっていた事なんだよね」
「ええそうよ!ひかるは私という彼女がいながらもよりにもよってマッドサイエンティストの胸なんかに誘惑されて…どうせ私の胸は小さいからひかるじゃ満足できないんでしょ!」
これは少し別の世界線。らんこがグランの巨大な胸を前に自信を喪失して落ち込んでいたが其処にあげはが慰めるといった一見元の世界線となんら変わりない事をしている様に見えるが。
「そんな事ないよ。だってほら!」
「ひゃっ!?な、何するの!?」
突然あげははらんこの背後に回り込み其処から腕をらんこの胸へ伸ばしてそのままむにゅっと鷲掴みしたのだ。
「確かに大きさはグランちゃんの胸に負けちゃうけど、らんこちゃんの胸は柔らかさに張りも中々良いよ」モミモミ
「あ、あげは姉さん、貴女一応保育士目指しているんだからそんな堂々と胸を揉まないでくれない?」
顔を赤くしながらもらんこは保育士に相応しくない行動をするあげはに辞めるように言う。するとそこに「そうだそうだ!」とらんこに便乗する様にベリィベリーとエルが声を上げる。
「らんこの言う通りだ!あげは、お前には相応しくない!よって今すぐそのポジションを私に寄越せ!らんこの胸は私の物だ!」
「にゃんこのパイパイ、エルももむ!」
「べ、ベリィベリー!?それにエル!?あんた達何を言っているの!?って、あげは姉さん離してよ!」
「まぁまぁそんな事言わずにベリィベリーちゃん達のリクエストに答えなよ」
堂々とセクハラ発言をかますベリィベリー達は手をわきわきと動かしながらジリジリと詰め寄ってくるその姿にらんこは恐怖を覚える。
らんこは逃げようとするがガッチリと背後からあげはがホールドして動かない様にしていた。
「だ、ダメってこ、こんなのセクハあんっ!////」
「大丈夫大丈夫♪同性同士だからセクハラにならないよ」モミモミ
「そうだ。それにこれはマッサージだから健全な行いだ」モミモミ
「にゃんこさんの胸はグランさんと比べたら小さく見えますが14歳の女子からすれば平均よりデカく更に張りがあって素晴らしいのです」モミモミ(⩌ 、⩌ )
背後からあげは前からはベリィベリーとエルによって胸を揉まれて顔が赤面になりつつも抵抗しようとするがなすすべもなく揉まれ続けてしまう。
そしてそんなやり取りをソラ達が黙って見ている訳がなかった。
「何やっているんですか2人とも!?」
「と、兎に角らんこちゃんを助けなくちゃ!」
「ぷ、プリンセスがまたふしだらな事を…!」
らんこをベリィベリー達から救おうとソラとましろは駆け出すのに対してツバサはエルがパーティーの時の様に胸に執着を見せる姿を見て絶望してしまいその場で酷く落ち込む。
それから間もない頃にひかるがこちら側の世界にやってきて自分の彼女があげは達によりやられている姿を見てフリーズするのだが。なんやかんやでこの後はあげは達の頑張りもあり問題なくらんことの仲は改善して気まずい空気など一切なくアニマルタウンでの調査を行う事になるのだった。