らそ山での出来事から1週間が経過する。今日ソラ達はソラシド市を出てバスに乗って移動している。それから暫くして一同の乗るバスはとある街のバス停へと停まり一同は降りてくる。
「くぅー!やって来ました!」
「「「「「おいしーなタウン!」」」」」
「えるっ!」
あげはの音頭に合わせて一同は元気良く答える。
彼女達は前回のヨヨの提案でおいしーなタウンと呼ばれる街でパーティーもとい、土曜と日曜を使って一泊二日の旅行をしにやって来たのだ。
一同は街のゲートへ入ると至る所に美味しそうな匂いを漂わるレストランに専門店、更には全てのお店には招き猫が置かれており、街の中心にはおいしーなタウンのシンボルとも言える巨大な招き猫が存在していた。
「テーマパークに来たみたいだね、テンションアガるねー!」
「本当にそうだね!」
自分達の街では中々見かけない光景に新鮮さを覚え興奮するあげはにましろは同意する。
「ゴクリ……周りから美味しそうな料理の匂いがして来ます!」
「ええ、世界中の料理が食べられるみたいですからね」
辺りから漂う料理の匂いにソラは思わず喉を鳴らして目を輝かせ、ツバサも興味深く見渡している。
「俺の世界にもおいしーなタウンはあるけど行った事が無いから結構楽しみにしていたんだ」
そう言ったのはひかるである。何故彼がここにいるのかと言うと、先日の戦いの時に協力してくれたお礼にらんこが誘った所、ひかるは彼女の誘いに快く応じ、こちらの世界へやって来たのだ。
「らんこさん今日は俺を誘ってくれてありがとう……だけど、何でそんな格好しているんだ?」
誘ってくれたらんこにお礼を言うが、ひかるは今日の彼女の格好を見て思わず疑問を口にする。ソラ達も先程から気になっていたのか、一斉にらんこへ視線を向ける。
今の彼女の格好は以前まで着ていた灰色のパーカーを着込み、フードを深く被って顔を隠している状態だ。
「別に…あんたには関係無いわ」
「んなっ!?」
ひかるの質問に対して冷たく答えるらんこ、それを聞いてひかるは思わずショックを受ける。その様子を先程から見ていたましろは恐る恐るひかるに話しかける。
「ひかる君……何からんこちゃんの気に触るような事でもしたの?」
「い、いや、俺も心当たりが無いんだけど……」
ひかるは心当たりは無いと答えるが、心なしか先程から彼女の態度が自分だけ冷たい様に見え、もしかして知らぬ内にやらかしたのではと不安を募らせる。
どうしてらんこがこんな態度を取る事になったのかはきっかけは少し前の出来事だ。
──────────
遡る事は一昨日の事だ。らんこは自室でベットに座りながら考え事をしていた。
らそ山から帰って来ておいしーなタウンに行く事が決まり、その後にあげはから以前の戦いで助けてくれたひかるにお礼も兼ねて誘う事を提案したのだ。らんこはその事に賛成したが並行世界にいるひかるをこちらの世界へ呼び出す方法がわからず頭を悩ませていた。
「…どうすれば呼び出せるのかしら?」
ひかるが来た時の事を思い出そうとするが、その時自身は貧血になっていた為、詳しい事は覚えておらず調子の悪いCDプレイヤーの様に所々途切れていた。
「そう言えばひかるがこっちに来た時になんかそれっぽい事を言っていたような……」
薄らと覚えているのはひかるが傷付いたらんこを抱え、その時に来た方法について聞くと、
「…ん、私の事を考えて?」
確かにひかるはそう言っていた。原理は詳しく知らないが彼の持っているスカイトーンを使ってこちらの世界へやってきた。しかも、世界を超えるには対象の人物…すなわちらんこの事を思っている。
つまり、並行世界へ飛んでいける程らんこの事考えていたという事になる。それに気づいたらんこは顔を赤く染める。
「は、はあっ!?な、なに恥ずかしい事を言っているのよ!?バ、馬ッ鹿じゃ無い!?わ、わたしのことを考えてたら来れたって……ふ、ふ、ふざけた事言わないで!」
恥ずかしさのあまりらんこはテンパる。世界を超えるほど自身の事を思うなんて考えもしなかった為、つい大声を上げてしまった。
「らんこー、どうしたの大きな声を上げて?」
「な、何でもないわよ!」
丁度らんこの部屋の前を横切った自身の母が先程のらんこの言動が聞こえ、気になって入ろうとしてくる。それに対してらんこは慌てて何でも無い事を装い、母を部屋の前から移動させると軽く深呼吸をして己を落ち着かせた。
「ふぅー……兎に角、私もひかるの事を考えていれば並行世界への穴が出来るのね」
早速らんこはひかるを呼び出そうと想像するが、思い浮かぶのは怪我を負って捕まりそうになった所を助けて貰ったり、倒れそうになった時に身体を受け止めて自身の顔とひかるの顔との距離が近かったりと──。
「って、違う‼︎私は何を想像しているのよ⁉︎」
まるで良くある少年漫画の主人公とそのヒロインの恋愛描写みたいな出来事を想像してしまった事に思わず自身にツッコミを入れる。
「そもそもこんなので並行世界へ繋がる穴が出来るわけ───」
ないと言い切ろうとしたその時、らんこの服のポケットから光が漏れ、彼女は恐る恐るポケットに手を突っ込み取り出すとその光の正体は自身のスカイトーンであった。
「え、これって……」
その光り方は以前らんこが並行世界に飛ばされた時の様に光っており、また強制的に飛ばされるのかと一瞬不安になるが、部屋の真ん中に人が通れる程の大きさの穴が出来る。それを見てらんこは呆然しているとそこから1人の人物が出てくる。
「…あれ、らんこさん?」
(き、来ちゃった…!)
現れたのは自身が呼び出そうとしていたひかる本人であった。らんこは本当に来るとは思ってもみず、更には先程まで彼に対して色々と妄想をしてしまい、なんて話しかければ良いのかわからなかった。
一方でひかるはらんこの部屋を珍しそうに見渡していた。
「此処って……もしかして、らんこさんの部屋?」
「そ、そんなに人の部屋をジロジロ見るんじゃないわよ…!」
「あ…ご、ごめん!」
確かに女の子の部屋をジロジロと見つめるのは失礼だと思ったひかるは彼女に謝罪する。
(何やってんのよ…私が呼び出しておいてそんな言い方って無いでしょ!)
対してらんこはひかるに嫌な事を言う己に嫌悪感を覚える。
「ところでらんこさん俺を呼んだって事は何か俺に用があるって事か?」
「え、あ……あーうん、実は今度の土日にちょっと一泊二日の旅行をする事になって……も、もし…良かったらあんたも……さ、さそおうかなって」
「え、なんて言ったんだ?…もう一回言ってくれないか?」
最後の所が小さくなって聞き取れなかったひかるはもう一度言う様に頼む。
「だ、だから……りょ、りょこうに…に」
「えっと、何を言っているのかわからないんだけど」
先程よりも更に小声になったらんこにひかるは首を傾げる。すると、らんこは突然目付きが鋭くなりひかるに突然距離を詰める。
「う、うおっ!?」
ひかるも慌てて下がるが壁にぶつかり動きが止まり、そんな彼にらんこは右手を壁に突き出す…所謂壁ドンをしてひかるを逃さない様にすると目を合わせながら口を開く。
「だからさっきから旅行するから来るか来ないのかって聞いているのよ!!!」
「え、えっと…旅行?」
らんこの行動にひかるは困惑し呆然となる。一方でらんこは我に返り、己がやらかしてしまった事を自覚する。
「あ……ご、ごめん!……別に強制している訳じゃ無いから都合が悪いなら断って良いから!」
ひかるから3歩距離を離すとらんこは彼に頭を下げる。同時にこれは完全に旅行に誘うのを失敗した思い込んでしまう。
「…え?…あっ、ううん!良いよ。俺もその旅行に行くよ」
「えっ?」
だが、らんこの予想とは違ってひかるは旅行の誘いに応じてくれる。それを聞いてらんこは一瞬嬉しそうな表情を浮かべる。
「はっ!……い、いやいや無理しなくて良いから!そんな気遣いしなくても大丈夫だから!」
ひかるは自身の事を気遣って誘いに応じたと思い込み、考え直す様に言う。
「いいや、寧ろ大歓迎だよ!じゃあ、俺早速荷物の準備をしてくるから、らんこさん今度の土日にね!」
「あっ、ちょ!」
しかし、当のひかるは好意的に感じるとらんこの静止の言葉を聞かずに並行世界を繋ぐ穴を通って元の世界へ帰ってしまう。ひかるがいなくなると同時に穴は閉じられ、1人部屋に残されたらんこは暫く立ち尽くした後、ベットに向かってダイブして顔を枕で埋めて何か悶えている様子だ。
(どうしよう……この調子じゃ当日満足に会話が出来ないじゃ無いの)
先程の自身のやらかしを思い出す。呼び出す為に想像した内容が内容なだけにひかるの顔を見ていると恥ずかしさのあまり変な行動を取り、会話がぎこちなくなってしまう。
「……何か対策を考えないと」
らんこは明後日に控えた旅行を楽しめる物にする為、何とか恥ずかしがらずに努力しようとノートとシャーペンを取り出すと机に座り対策を考えるのだった。
──────────
そんな出来事がありらんこが努力した結果、彼の顔を見ると恥ずかしくなるのなら顔を見ない様にすれば良いと結論し、以前までのフードを被るスタイルに戻り顔を合わせない様にするのだ。
その結果、一同はらんこが機嫌が悪いと勘違いをする事になったのだ。
(やばい…これは失敗した)
フードを被って相手の顔を見ない様にして恥ずかしがらずに済んだのは良いが、被っていた時の癖で前までのぶっきらぼうな言動も復活してしまい己の本音が言えなくなってしまった。それならこのパーカーを脱ごうと考えもしたが脱ぐ度胸が湧いてこず、ゲームでいう所の呪いの装備品を装備したような感じになりある意味最悪の選択肢を取ってしまった事にらんこは深く後悔する。
すると、らんこの先程からの言動と雰囲気が気になったソラが彼女に話しかける。
「らんこさん今日は折角の旅行だと言うのに様子が変ですけど、何があったんですか?」
「……何でも無いわよ」
事情を知らないソラや他の皆んなも昨日までは学校では普通だったらんこが今日は以前の様に近寄り難い雰囲気を放っている事に何か嫌なことでもあったのかとソラは考えると、
「…はっ!まさか、私が間違えてらんこさんのアップルパイを食べた事に気付いて怒っているんじゃ!?」
「…は?……何ですって!?」
ソラの発言を聞いてらんこは先程までまでの冷たい態度から一変して勢いよく振り返りフードが外れる。だけど、らんこはその事を気にせず彼女に迫る。
「どお〜りであの時のアップルパイが妙に少なく感じたのはソラ!あんたの所為だったのねっ!!!」
「うわあああっ!?やぶ蛇でしたごめんなさいっ!!!」
自分の分のアップルパイを食べたソラに食い物の恨みを晴らさんと彼女の身体を激しく前後に揺らすらんこ。対してソラも彼女のおっかない表情に思わず許しを乞う。するとらんこの脳内に声が響いた。
『お覚悟はよろしくて?』
誰だコイツ?
その声はプリンセスを目指し、日々励む少女の物だったが今のらんこにはそんな事はどうでも良かった。それよりもソラをシバく事が大事だからである。
「……うん、らんこちゃんは大丈夫そうだね」
「え、アレで大丈夫ですか!?」
そして、ソラを襲うらんこを見てツバサは不安を覚える。対してあげはは止めようとせず2人のやり取りを見ていた。
先程までらんこが放っていた雰囲気は皮肉にもソラのやらかしのお陰で無くなり普段と近い雰囲気になった事であげはは安心感を覚える。
(これでみんなが楽しめる旅行が出来そうだね)
あげはは漸く楽しい旅行を始められると思ったが、アップルパイを食べられたらんこはそれどころでは無い。
「アップルパイの恨みぃぃぃぃぃっ!!!」
「いだだだっ!ら、らんこさん許してぇぇぇぇぇ!!!」
「らんこちゃん強っ!?…じゃ無かった。やめて!ソラちゃんをそれ以上痛めつけないで!」
「それ以上は不味いってらんこさん!」
らんこは怒りのままにソラにアームロックを掛け、ソラは苦痛の表情を浮かべるも何とか抜け出そうとするも何故か力負け。ソラはらんこからの拘束を抜け出せず、腕にくる激痛に苦しみ、それを見ていたましろとひかるがらんこを説得する事になった。
「あれを見ても大丈夫なんですか!?」
「……さ、流石にやり過ぎかな」
目の前の光景を見て不味いと思ったあげはツバサ達と共にらんこを全力で止めるのであった。
──────────
それかららんこの怒りは治り、更にはソラに襲いかかった際に被っていたフードが外れ、その後の暴挙によって色々と吹っ切れてひかるを見ても恥ずかしがらずに済むという奇跡が起こって漸く一同はおいしーなタウンを歩き始める事が出来る。
早速食べ歩きをしようとしたかったが、先ずは先に今日泊まる予定のゲストハウスへ向かう為、一同(特にソラ)は我慢しておいしーなタウンの和食エリアを暫く歩く。
歩き始めてから十数分して目的のゲストハウスへと到着する。
「着いたね。此処が今日私達が泊まるゲストハウスだよ」
「此処が…」
あげはの言葉に釣られ一同は目の前の建物を見る。出入り口にある軒には福あんという看板が取り付けられており、建物も宿泊施設なだけあって大きく三階建てで十数人が泊まれそうだ。
「ささ、早く受付を済ませて食べに行きましょうよ」
「そうですね。では、早速入りましょう。こんにちはー!」
ソラが出入り口を最初に入ると、他の皆んなも続いて入っていく。
「いらっしゃいませ〜」
建物の中に受付に茶髪のセミロングの髪型をした若い女性がおり、ソラの挨拶に反応する。
「すいません。此処って部屋って空いていますか?」
「ええ、空いていますよ。部屋は…3部屋で宜しいですか?」
女性が泊まる部屋の数について聞くとましろは「はい」と返事をする。そして、女性から宿泊表を差し出され、代表としてましろが"虹ヶ丘"と書き込む。すると女性は宿泊表に書いた名前を見て目を丸くする。
「虹ヶ丘……って事はもしかして貴女ヨヨさんのお孫さん?」
「え、お婆ちゃんの事を知っているんですか!?」
女性の口からヨヨの名前が出た事にましろは驚きの声を上げる。
「え、本当にヨヨさんの孫!?可愛い〜!」
「か、可愛いだなんて…」
正面から可愛いと言われた事にましろは照れた表情を浮かべる。
「あ、自己紹介が遅れたね。私は品田あんよ」
「私は虹ヶ丘ましろです」
受付の女性改めてあんは自己紹介をすると、ましろも自己紹介をする。そらからソラ達もましろに続いて自己紹介をする。
「あんさんって、このゲストハウスと同じ名前ですが…此処に住んでいるんですか?」
この宿泊施設、福あんと名前が同じ事から此処を経営している人物の身内なのかとらんこは推測する。
「そうよ、こう見えても私は此処を経営しているのよ?」
「凄いですね。その若さで宿泊施設のオーナーをやっているなんて」
「あら、私の歳は──」
あんがその先の台詞を言おうとした時だ。福あんの玄関の扉が開き、全員は一斉にそちらへ視線を向けると、其処にはらんこ達と同じくらいの歳の少年が買い物袋を手に持って入ってくる。
「母さん、頼まれた物を買ってきたぞ」
『母さん!?』
「あ、たっくんお帰り」
あんと少年を除く一同は思わず驚愕の表情を浮かべる。少年から母さんと呼ばれたあんは否定せず会話をする事から本当に親子なのだろう。
見た目からして二十代に見え、親子だと知らなければ姉と弟と思ってしまうだろう。
「紹介するね、息子のたっくんよ」
「母さん…お客さんにその紹介はやめろって言ってるだろ」
初めて会う一同にあんの息子は彼女の紹介の仕方に恥ずかしく思い嫌そうな顔を浮かべる。
「初めましてタックン君、私はソラ・ハレワタールです」
「いや、俺は拓海…品田拓海って名前なんだよ」
あんに呼ばれた名前が本名であると思い込んだソラにたっくん改め、拓海は苦笑いを浮かべながら訂正する。
「拓海君初めまして、私は虹ヶ丘ましろだよ」
「風波らんこよ」
「僕はツバサです」
「俺は雷田ひかる」
「そして私は聖あげは。こっちはエルちゃんだよ。よろしくね拓海君」
「えるっ!」
それからソラに続いてらんこ達も紹介する。すると拓海はましろの名前を聞いて何かに気づいた様子だ。
「虹ヶ丘……ひょっとしてヨヨさんの孫か?」
「拓海君もお婆ちゃんの事知ってるの?」
どうやら親子揃ってヨヨの事を知っている様だ。
「ああ、と言っても最後あったのは数年前だけど…ヨヨさんは元気か?」
「うん、お婆ちゃんは元気だよ」
ヨヨについて問われるとましろは元気と答えると拓海は嬉しそうな表情を浮かべる。その様子からしてヨヨと仲が良いことがわかる。
「ところであんた達はこれからどうするんだ?」
「僕たちはこれから荷物を部屋に預けた後、おいしーなタウンを周ろうと思っています」
「それなら俺が案内を……あっ、悪りい。俺この後友達と約束があったんだ」
おいしーなタウンを案内しようと思った拓海だったが用事を思い出して、申し訳ない表情を浮かべて案内できない事を謝罪する。
「ううん、気にしなくても良いよ」
「そっか、なら代わりと言っちゃ何だがこれをやるよ」
そう言って拓海はおいしーなタウンのパンフレットを人数分ましろに渡して来た。
「わぁ、ありがとう拓海君!」
「別に礼を言われる様な事はしてねえよ」
パンフレットをくれた拓海にましろは御礼を言うが対して拓海は謙遜な態度を見せる。
(気の所為か…拓海ってましろとの距離が近いような……)
先程から自分達と比べてましろを中心的に話している様に見えるらんこはもしかしたらましろを女として見て好意を向けているのかと思ったが、それは杞憂に終わる。
「皆んなごめんね。たっくんこの後ゆいちゃんの用があるみたいだから」
「はぁ!?俺は別にゆいとは…!というか、ゆいの用事じゃねぇから」
「あらそう?」
(あ、これは絶対違うわ)
拓海の反応からしてましろには下心とかは一切無く恐らく知り合いの孫というポジションだから人一倍の親切心で接してくれているのだとらんこは理解した。
─────────
それから一同は荷物をそれぞれの部屋に置くと福あんから出てくる。
「それじゃあ、此処からは自由行動をするけど、迷子にならない様に2人1組で行動する感じでいいよね?」
「そうですね。拓海君からパンフレットを貰いましたが、初めてくる街ですから用心には越したことはないですしね」
全員はパンフレットを持っているがこの街は世界中の料理の店が建っており更にはいくつかは同じ店もある為、迷いやすかったりする。その為、一同はあげはの提案に賛成する。
「それじゃあ組み分けはソラちゃんましろんペアにらんこちゃんとひかる君ペア、最後に私と少年にエルちゃんトリオにしよっか」
「はい、よろしくお願いします。ましろさん」
「こっちこそよろしくねソラちゃん」
「僕はあげはさんとですか……まぁ、良いですけど」
あげはの組み分けにソラ達は特に不満を訴えず納得するが、
「ちょ、ちょっと!私がひかると組むの!?」
らんこだけがこの選抜に不満があるようだ。すると、彼女の発言を聞いていたひかるは悲しそうな表情を浮かべる。
「らんこさんは俺と組むのは嫌なのか?」
「い、いや、そう言うわけじゃないわよ」
ひかるの表情と言葉を聞いてらんこは拒否しづらかった。先程までは集団で行動していた事もあってからそこまで緊張はしなかったが、これからひかると2人っきりで組んだとしたらまた緊張して、テンパって何かやらかすかもしれない。いや、確実にそうなる自信がらんこにはあった。そうなってしまったら旅行を楽しみにしていたひかるの気持ちを踏み躙ってしまう。
(そうならない為にも私自身が常に心を穏やかにしないと…)
穏やかにする事で気分も晴れ、心に余裕が生まれる。そうすれば旅行は楽しい物になる筈だと彼女は思い込んでいた。
(だけど、どうやって心を穏やかにするのかが問題よ…)
普段なら緊張を和らげる為に音楽を聴いていたが、以前カバトンに壊されて以降新しい音楽プレイヤーは買っておらず、屋外で音楽を聴く事が出来ない。それならスマホで聴くって手もあるが、音楽プレイヤーに依存していた事もあって好みの音楽は入っておらず。役に立ちそうに無い。
(こうなったら最後の手段よ…!)
するとらんこは何か決心した表示を浮かべると、チラッとツバサに視線を向ける。対してツバサは彼女の視線に気付き思わずビクッと反応する。
「ねぇ、ツb「嫌です」…まだ何も言っていないんだけど」
「言いたい事は分かります。また、僕の身体を触りたいんですよね?」
「えっ?」
らんことツバサの会話を聞いていたひかるは思わず声を漏らす。
「良いじゃ無い。減るもんじゃあるまいし…此処は人助けだと思って」
「嫌ですよ。僕だって毎度身体を抱きしめられて精神的に辛いんですよ」
音楽プレイヤーがない今、可愛い物を愛でる事により心をリラックスしようと考えたらんこはツバサに頼むが、ツバサも同年代の女子に身体を触られるのは精神的に辛い為、彼女の頼みを拒否する。
一方でそのやり取りを見ていたひかるは恐る恐るソラとましろに話しかける。
「あ…あの、ソラさん、ましろさん…ふ、2人は何を言っているんだ?……ま、まさか、らんこさんとツバサってそういう仲!?」
「え、2人の仲ですか?……結構仲が良いと思いますよ」
「なん…だと…!?」
ソラの発言を聞いてひかるは思わずショックを受ける。先程の身体を触るや抱きしめられるなどの言葉の他に仲が良いって聞くと、2人は男女恋愛的な仲なのかと思い込んでしまう。
「ち、違うからね!ひかる君が想像している様な物じゃ無いからね!」
ひかるが2人の関係性を誤解している事に気づいたましろは誤解を解こうとする。
そんな中らんことツバサのやり取りは続いていた。
「それ言ったら私の方が精神的にもう限界を超えそうで何をするかわからないわよ?」
「お、脅しですか!?」
もはや手段は選んでられないと言わんばかりにらんこは目を細め、両手の指を動かしてツバサを捕まえようとする。対してツバサは身の危険を感じ後退りする。
このままでは本当に何をするかわからないらんこにツバサはこの場から逃げようかと考えるが、
「はい、ストップ」
「えるっ」
「え、エル…あげは姉さん?」
「ぷ、プリンセス?」
そんな時、あげはと彼女が抱えるエルが2人の間に入る。らんこはあげは達の姿を見て少し冷静になり動きを止める。
「らんこちゃん落ち着きなよ。エルちゃんがこれをらんこちゃんに貸すって言っているから今回はこれで我慢して」
そう言ってあげはは自身の持ってきた鞄から何かを取り出すとそれをらんこに渡した。
「え、これって……」
渡された物を見てらんこは驚愕の表情を浮かべる。彼女の手の中にあるのは前回らそ山にて手に入れた非売品グッズのソラ吾郎の人形であった。
「ソラ吾郎の人形を持ってきたの!?」
まさか家にあったソラ吾郎の人形を持ってきてらんこに渡すやり取りに思わず声上げるましろ。しかし、問題はらんこの方だ。可愛い動物を撫でたり抱き締めて癒されるが、今彼女の手の中にあるのは人形だ。果たして…。
「………」
無言でソラ吾郎の人形を見つめるらんこは暫くして、数回ソラ吾郎の頭部と腹部を揉み始めると優しく抱き締める。
すると、どうだろうか先程まで強張っていた表情は次第に幸せそうな笑みを浮かべる。
「あぁ〜、なんなの……人形なのにとても心地が良いわ〜」
らんこはすっかりソラ吾郎人形に夢中になり今度は腹部に自身の顔を埋めて感触を堪能していた。
「す、凄い…!さっきまで荒れていたらんこちゃんが幸せそうな顔に…!」
「スカイランドのプリンセスであるエルちゃんも夢中になる訳です!」
ソラ吾郎の魅力に取り憑かれたらんこを見てソラとましろは戦慄する。恐るべしソラ吾郎。
「ふぅー…よし、落ち着いたわ」
ソラ吾郎人形を暫く堪能したらんこはすっかり心に余裕が生まれ、良い表情を浮かべる。
「それじゃあ、私たちはこっちの方にある中華エリアへ向かうわ。行くわよひかる!」
「ちょ、らんこさん1人でいくなよ!」
1人道を突き進むらんこにひかるは彼女を追いかけるのであった。そして、その場に残されたソラ達は遠く離れていく2人の後ろ姿を眺めていた。
「はぁー、取り敢えずらんこちゃんが落ち着いてくれて良かったー…」
「あげはさん、ありがとうございます。お陰で助かりました。」
「ううん、気にしなくて良いよ」
らんこが襲いかかりそうな時、持ってきたソラ吾郎の人形を差し出さなければ今頃色々な意味で酷い目にあっていたかもしれない事を想像したツバサは思わず身震いを感じつつも、あげはにお礼を言う。
「じゃあ、らんこちゃん達が行ったから私達も一旦解散という事でいいかな?」
「それでは私達はこの和食エリアを歩いていきましょうか」
「それなら私達は洋食エリアだね。少年、エルちゃん行こうか」
「はい」
「えるっ」
こうして各々はそれぞれ三つのエリアへと向かって行った。そして、その先で彼女達はどんな出会いが待っているのだろうか。