先程まで休日でお客が賑わっていたショッピングモールの一角は現在戦場と化しており、爆発音が響き渡る。
「撃ちまくるのねん!」
『ランボボボボボボッ!!!』
自動販売機から作られたランボーグは口からペットボトルミサイル7本をスカイへ放つ。
「はああああっ!!!」
「おおっ⁉︎危なあっ!」
飛んでくるミサイルをスカイは殴って蹴って弾き飛ばす。その内の何本かはカバトンの元へ飛んでいき慌てて避ける。
「良いよスカイ!」
「そのままやりなさい!」
らんことましろは少し離れた建物の角からスカイとランボーグの戦いを見守って、スカイを応援していた。
「クソォッ!ならミサイルの数を増やせランボーグ!そうすればスカイの奴も反応出来ないのねん!」
『ボッボボーボッグ!』
半端な数ではスカイに当たらないと考えたカバトンはランボーグに指示を出すと先程の3倍の数つまり21本のミサイルを放たさせる。
(厄介ですね…この量は少し対応しづらい……なら!)
迫り来るミサイルにスカイは飛んで避ける。だが避けられたミサイルはそのまま通り過ぎて行かずUターンをしてスカイの方へとんでいく。
「戻ってきた⁉︎」
ミサイルは追尾するタイプの様で避けたスカイの背中を狙っている。対してスカイは直ぐに地面に降りて迫るミサイルから逃げるが、ミサイルは尚も追尾する。
「良いのねん!そのままスカイを追い詰めろ!」
「くっ…ならば!」
スカイの走る速度が少しずつだが早くなっていきそれに伴いミサイルとの距離も離れていく。そして、ミサイルも個体差かそれぞれ間も広がっていく。
「ここです!」
ミサイルとの距離をある程度取ると急ブレーキをして迫り来るミサイルの群に振り返る。
「うおおおおおっ!!!」
飛んでくるミサイルの半分を先程と同じ様に拳で弾き、その内の一個を手に取ると残るミサイルの群に向かって投げる。すると、投げられたミサイルは残りのミサイルの内一つと衝突するとそこから連鎖する様に爆発を引き起こす。
「チィッ!だったらこれはどうなのねん!」
『ランボォォォ……グウッ!!!』
多量ではあまり効果が無いとわかったのか続いてランボーグは口から一際大きなペットボトルミサイルをスカイに放つ。対してスカイはその場で動かず両手を構える。
「こんな物受け止めて見せます!」
自信満々で構えるスカイ。こんなミサイルは昨日戦ったランボーグの方がもっと大きかった。なら受け止めるのは容易いと思い彼女はその場で迫るミサイルを待ち構える。
しかし、それを見てカバトンはニヤリと笑みを浮かべる。
「っ⁉︎スカイ逃げて!」
「らんこちゃん!?」
何か企んでいる顔をしたカバトンに気づいたらんこはスカイに向かって叫ぶ。だが、スカイの耳に彼女の声は届かずその場を動かない。
そして、大型のペットボトルミサイルがスカイへある程度近づくとミサイルが回転してジェット噴射していたキャップ部分がスカイへと向き、それと同時にキャップが外れて其処から大量の水を激しい勢いで噴射される。
「うわあああああっ!?」
「「スカイ!」」
噴射された大量の水をモロに浴びたスカイはそのまま押し飛ばされ後ろの建物の壁へ叩き付かれる。
「俺TUEEEEEEEEッ!!!やっぱり昨日のはまぐれだったんだよ!」
壁に叩きつけられたスカイを見てカバトンは思わずガッポーズをして感極まる。
「ぐっ…まだです!」
水圧によるダメージは決して軽い物では無いが、それでもスカイは立ち上がるとランボーグへ再び接近する。
「ランボーグ次の攻撃だ!」
『ランボボボボボボッ!』
だが、ランボーグは何もする訳が無く先程と同様に口から大量の何かを放った。
「あれは…」
「「缶?」」
先程まで放っていたペットボトルミサイルではなく今度は大量の缶を放つが、それは先程のミサイル攻撃とは違って地面に転がっていくのみで特にスカイに向かって迫る訳でなく地面にばら撒かれるだけであった。
「不発なのかな?」
「スカイ!取り敢えず踏まない様に避けて行きなさい!」
「はい、私もこんな見え見えの攻撃には引っかかりません!」
今度は2人の忠告が聞こえた様でスカイも缶を踏まない様に缶の間に避けていく。
(本当に何も無い……なら、好都合!)
缶の間を通っても何も起きない事を見てましろの言う通り不発したのだとわかると、一気にランボーグへ距離を詰めようと足に力を入れるが、次の瞬間一斉に缶の飲み口が開き、
地雷の様にスカイの周りにあった缶が大爆発を引き起こす。
「うわああああっ!?」
「「スカイッ!!」」
爆発の中心にいたスカイは巻き込まれて吹き飛び、地面に叩きつけられる様に倒れる。その光景を見て2人は思わず声を上げる。
「な、なんで昨日は勝てたのに…⁉︎」
「……」
昨日の様にスカイが今日も勝つと信じていたましろは目の前でやられている事が信じられなかった。対して隣にいるらんこは無言で戦いの様子を眺めていると口を開く。
「……ここから戦いを見ていたけど、どうやらスカイにとってあのランボーグは相性が最悪の様ね」
「え、どう言う事?」
相性が最悪と聞いてましろはらんこに説明を求めた。
「昨日の戦いはお互いに小細工無しの肉弾戦で勝負して、ランボーグの力を上回るスカイの力と技で勝てたわ。此処まではわかるでしょ?」
「う、うん」
昨日は地面を容易く砕く怪力を持つランボーグにキュアスカイはそれにも負けぬ力と技でいなして勝った事は今でも鮮明に覚えている。ましろはその事に対して頷く。
「でも、今戦っているランボーグは昨日のランボーグとは逆に遠距離攻撃に特化している。対してスカイは飛び道具や遠距離による攻撃手段がないからランボーグに対しての攻撃できる間合いに入れず、現状決定打を与えられない…」
「そ、それって、スカイは勝てないって事⁉︎」
らんこの解説を聞いてましろはスカイにこの戦いは勝ち目がないと聞いて動揺してしまう。
(それにしても……あの豚男は煽りに弱いと思っていたから頭を使った戦い方が出来ると思わなかったわ)
一方でらんこは意外にもカバトンが昨日戦っただけで今日スカイの弱点を突いて来た事に内心驚く。先程の自身の煽りに対してキレて襲いかかった様子が見られたから、それとは裏腹に考えて戦える事に意外さを感じた。
もしカバトンがキレたまま戦っていたらミサイルをただ大量に放つ物量戦をするだろう。そうなればスカイにもまだ勝ち目はあった筈だ。
「ギャーハッハッハッ、どうだ俺の作るランボーグの強さは!!!」
「くぅ…ま、まだです!」
戦場では爆発をまともにくらってしまったスカイはふらつきながらも何とか立ち上がるもダメージは大きくいずれは倒れてしまう。
「どうしよう…このままじゃスカイが…!」
「………」
ボロボロのスカイを見たましろはこのままでは負けてしまう事を想像して何とかならないかを考えるも中々良い案が思い浮かばない。
その隣ではらんこが何か決心した顔をしていた。
「……ましろは此処で待ってて」
「らんこちゃん?」
隣に隠れていたらんこは立ち上がると捻挫で痛めた右足を庇いながら何処かへ行こうとする。ましろは彼女の表情を見て昨日自身とエルを庇ってランボーグに捕まった時の事を思い出す。
(ま、まさか…昨日みたいに……⁉︎)
また彼女が自分の身を犠牲にしようとするのでは想像する。同時にミサイル攻撃やスカイみたいに缶爆弾の爆発を受けてしまった時の事を想像してしまう。
「駄目ッ‼︎」
気がついたらましろは彼女の手を掴んでいた。
「ましろ……」
「また怪我するよ!きっと捻挫だけじゃ済まない!死んじゃうかもしれないよ!」
あのスカイが苦戦する相手だ。何の力も持たない自分達が行ったところでやられてしまう。そう思ったましろは彼女の手を離そうとしなかった。
「……いい、よく聞いて。このままだとスカイはやられる。そうなるとあの豚男とランボーグを本当に倒せなくなる。そうなったらもう打つ手が無くなるの」
そう言いながら戦場へ視線を移すとボロボロのスカイが必死にランボーグの攻撃から逃げており、このままでは倒れるのも時間の問題であった。
「だからそうなる前に私が囮になって隙を作ってスカイに逆転のチャンスを「無理だよ!らんこちゃんは足を痛めているんだから失敗しちゃうよ!」
先程の彼女の足を庇う動きを見て早く動く事は出来ないと気づいていた。このまま行くとランボーグに捕まって人質、悪くて格好の的になるとましろは思った。
「大丈夫…私これでも悪運は強い方だから……それにちゃんと作戦は考えてあるからちゃんと戻ってくる……だからましろは此処にいて」
ましろを心配させない様に自信満々で答えるらんこは腕を振り払って、戦場へ行こうとするが、
「だったら私も協力させて!」
「は?」
ましろの発言を聞いて一瞬思考が停止するもすぐに正気に戻る。
「何言っているの……ましろが行く必要はないわ」
共に戦場へ行こうとするましろを説得しようとするが、
「2人だけ戦って私だけ見ているのは嫌なの!昨日みたいにらんこちゃんとソラちゃんだけ傷ついていく姿を黙って見たくないの!!!」
「………」
涙目になりながから訴えるましろ。彼女は昨日あった自分とエルを守ろうとして傷つく2人の姿を見て辛い気持ちになり、自身がただ黙ってその場で傍観するのが嫌になり、自分も2人のために何とかしたいと思っていた。
対してらんこは彼女の顔を見た後、自身の目を少し閉じる。
「……わかった。それなら私の指示通りに動いて」
ましろの引かない姿勢に負けたらんこは彼女にも協力して貰おうとこれからやる事について話すのだった。
───────────
一方でキュアスカイはランボーグとの戦闘は現在逃げるので精一杯だ。ペットボトルミサイルで遠距離と近づけば缶爆弾による近中距離の攻撃で吹き飛ばされる。
「くっ、間合いに入れば渾身の一撃を叩けるのに……!」
このまま永遠と戦っている訳には行かない。先程の爆発のダメージも大きく、動きも鈍くなって来た。加えて飛んでくるミサイルに次第に対応できなくなっていき焦り始める。
「そろそろ諦めるのねん!お前じゃこのランボーグに勝てる訳無いのねん!」
「ヒーローは諦めたりしません!」
勝利を確信したカバトンはこれ以上は時間の無駄とスカイに降伏を勧めるが勿論スカイは降伏せず、屈しない姿勢を見せる。
「現実をよく見るのねん。お前はさっきの爆発のダメージで動きが鈍くなっているじゃねぇか。今ならガキの居場所を吐けば見逃してやるのねん!」
「まだエルちゃんを狙っているんですか⁉︎」
やはりと思ったがカバトンはエルを諦めておらず、今もこうして狙っていたのだ。
「誰がエルちゃんの居場所を教えるものですか!」
「そうか、なら教えないならお前を倒した後で逃げた脇役とフード娘から聞き出してやるのねん」
「なっ⁉︎そうはさせません‼︎私の友達に手は出させません‼︎」
2人に手を出すと聞いたスカイはランボーグに立ち向かうが缶爆弾やペットボトルミサイルの連携攻撃を前に一向に攻撃はできなかった。
カバトンもそろそろ戦いを終わらせて、隠れている2人を探しに行こうとランボーグに命令を出そうとする。
「ランボーグ!そろそろスカイの奴にトドメを「豚男!!!」はぁ!?まぁた誰か俺様を豚男って呼んだのねん……って、フード娘⁉︎」
「ら、らんこさん⁉︎ましろさんと逃げた筈では…⁉︎」
らんこの声を聞いて怒りを覚えたカバトンは彼女の方へ振り返る。そして、キュアスカイも戦場に戻って来たらんこに気付く。
「丁度いい!態々戻ってきたからには俺様が直々にボコボコにしてやるのねん!」
「なっ、そうはさせまs『ランボッ!』…くっ、どいてください!」
らんこを助けようとするがランボーグのミサイル攻撃でらんこの方へ行くことが出来ない。
一方でカバトンは拳を鳴らしながら、らんこの前に立ちはだかる。
「さぁてフード娘…お前が勇気を持って俺様の前に出てきた事に免じて土下座で謝ってあのガキの居場所を言えば許してやるのねん!」
そう言ってらんこが己に対して誠心誠意の謝罪とエルの居場所を吐けば先程まで事は水に流すと言うが、当のらんこはそんなつもりは全く無いわけで。
「……誰があんたみたいな間抜けな豚っツラに謝るもんか!」
「んなっ!俺の名前だけじゃなく顔まで馬鹿にするなんてもう謝っても許さないのねん!」
らんこの悪口に激怒したカバトンは彼女に向かって拳を振おうとする。
「らんこさん‼︎」
それを見ていたスカイはらんこの名を呼ぶが、カバトンの拳は彼女の顔に向かって振り下ろされる──────────
その直前、らんこの背後からましろが姿を表すと近くのお店から拝借したであろう消火器のノズルをカバトンへ向ける。
「へ?」
「え、えーい!」
「おわああああっ!?」
『ランッ!?』
消火器の消火剤をカバトンと後ろでキュアスカイと戦っているランボーグ目掛けて放つ。
「ま、前が見えないのねん!」
消火剤によって視界が見えなくなったカバトンは辺りを見渡すが全面真っ白で何も見えなかった。
同様にランボーグも消火剤によって先程まで戦っていたキュアスカイの姿を見失ってしまう。
『ら、ランボッ!?』
そして、辺りを見渡すランボーグも視界は消火剤しか見えておらず慌てると自身が出した缶爆弾を誤って踏み潰し、缶が暴発。
『ボオオオオオッ!?』
誤爆による爆発でランボーグはダメージが入ると怯んでしまう。その間に完全にらんこ達を見失った。
「らんこさん!ましろさん!何処ですか⁉︎」
一方でスカイはランボーグから咄嗟に離れた為、消火剤による煙幕に覆われずに済んだが、煙幕によってカバトン達だけでなくらんこ達の姿も見えなくなった事にスカイは焦る。自分が先に見つけないと2人はカバトン達と鉢合わせするかもしれない。そうなる前に自身もこの中に入って探そうと考えた時だった。煙幕の中からこちらに向かって人影が見える。
(まさかカツドン⁉︎)
こちらに向かってくる人影の正体はカバトンと思い拳を構えていつでも迎え撃てる様にして警戒していると煙幕の中からましろと彼女の肩を借りて走るらんこが出てくる。
「今よスカイ!」
「お願い!」
「はい!」
攻撃が止んだ今が絶好のチャンス、スカイは飛び上がると消火剤によって一面見えなかったが唯一ランボーグの頭から一際目立つモヒカンが見え其処に向かって跳び蹴りを喰らわせる。
『ランッ!?』
突然の攻撃にランボーグ攻撃された方向にミサイルを放つが既に其処にはスカイはおらず空振りする。
「こっちです!」
『ボオッ!?』
続いて右からやってくるスカイのパンチを喰らったランボーグは地面へと倒れ、更に泣きっ面に蜂と言わんばかりに倒れた場所に配置していた缶爆弾を潰してしまうとまた誤爆を引き起こしてランボーグの体は宙へと飛ぶ。
「今です!ヒーローガール……スカイパァァァァァァァンチッ!!!」
空中に飛んだ事により身動きが取れなくなったランボーグに向かってスカイの必殺技がランボーグの腹部へ叩き込まれた。
『スミキッタ〜』
必殺の一撃が命中するとランボーグは浄化され元の自動販売機へと戻る。それに伴って破壊された地面や建物、最初に爆発した車も元通りに戻った。
「ふぅ〜、漸く晴れたのねんって、ええええっ!?いつの間にかやられている⁉︎」
煙幕が晴れて漸く周りが見える様になったカバトンであったが、既に戦いは終了して自身のランボーグが消えている事で負けた事を理解した。
「くそぉ!こうなりゃお前らだけでも!」
「こ、こっち来るよ!」
「くっ!」
負けた腹いせにらんことましろを狙おうとするカバトンは彼女達に向かって走り出す。2人は逃げようにもらんこは捻挫でましろは彼女を担いだり消火器を持ったりと体力がもう無い為、逃げることが出来なかった。
だが、2人を守る様にスカイが前に立つとカバトンに向かって拳を構える。
「カバトン!二人を狙うのなら私が相手です!」
「ぐ…くそぉぉぉぉっ!次は負けないのねん!カバトントン!」
捨て台詞を吐くとカバトンは撤退して行った。そして、カバトンがいなくなるとスカイも変身を解除して元に戻る。
「はぁぁぁ……」
「こ、こわかったぁぁぁぁ……」
「大丈夫ですかましろさんらんこさん⁉︎」
カバトンがいなくなった事に安心したのか腰が抜けて地面に座る2人を心配するソラであった。
「ええ、大丈夫よ。でも流石に身の危険を感じた……あいつ本当に殴ろうとしていたし」
「そうだね。でも、最後の最後にソラちゃんに助けられちゃったね…ありがとねソラちゃん」
カバトンから助けてくれたソラに感謝の気持ちを伝えるが、
「……してですか?」
「「え?」」
ソラは顔を俯せながら声を震わせる。その様子に2人はキョトンとする。
「どうしてあんな無茶をしたんですか⁉︎下手すれば死んでいたのかもしれませんよ!」
「ソ、ソラちゃん……」
突然大声を上げるソラにましろはたじろぐ。
「私は未熟です。本来なら1人でランボーグを倒す筈が2人の手を煩わせる事になるなんて……!」
自身が憧れたヒーローみたいな力を手に入れたというのに彼女達を巻き込んでしまった自身の不甲斐なさに嘆く。その姿を見てらんこは話しかける。
「ソラ……あんたはその力を昨日手に入れたばかりでしょ?それとももうその力について全部わかったの?」
「……いいえ……私も無我夢中で戦っていて詳しい事は全然……」
ソラは使っている己でさえこの力について未だに理解出来ていない事をらんこに伝える。
「なら、そんな風に自分の所為にするんじゃないわよ。面倒くさい」
「で、ですが私は………え…
「ら、らんこちゃん……?」
さり気無く面倒くさいと言われたソラは思わず聞き返し、隣にいたましろも思わず彼女の発言に耳を疑った。
「昨日から思ってたけど、あんた真面目というか…面倒くさいのよ」
「め、面倒くさい⁉︎」
「らんこちゃん⁉︎それは失礼だよ!」
はっきりと面倒くさいと言われたソラは衝撃を受け、ましろもそんな発言をしたらんこを注意する。
「そうは言ってもましろ……ソラは肩の力が入り過ぎなのよ。此処で言っておかないと後々面倒くさい事になりかねないわよ」
「め、面倒くさい……3回も言われました」
「そ、ソラちゃん元気出して。らんこちゃんも悪気があって言ったんじゃ無いと思う……多分」
ショックを受けるソラをましろは元気付ける。そんなソラにらんこはある事を聞く。
「じゃあソラ、突然だけど一つ質問するわよ」
「な、何ですか…?」
質問すると言われ思わずソラは若干緊張しながらも聞く。
「……例えば料理をした事ない人間が初めて包丁を握ってレシピも見ずに料理が作れると思う?」
「……難しいと思います。経験がないと失敗してしまう可能性が高いですから」
一瞬今までの話とは全く関係のない質問に困惑をしながらもソラは思った事を口にする。対してらんこも頷きながら同意する。
「そうそれよ……それと同様にキュアスカイに変身出来るあんただけど、戦った経験はたったの2回だけ。それだけしか実際に戦った事が無いのだから普通はそう上手く戦えないでしょ。それともスカイランドでは誰かと組み手やランボーグみたいなデカイ化け物みたいなのと戦った事はあるの?」
「…いいえ、私は1人で修行をしていたので誰かと組み手をした事はないです」
「え、そうなの?」
実戦経験について問われたがソラは言い辛そうに実戦経験は無いと答える。一方でましろはソラが戦闘の経験がない事に驚く。
「はい、恥ずかしながら…私鍛えていますが組み手は一回もやった事はありません。実際に戦ったのが昨日が初めてなんです」
「そうだったんだ(そうだとすると昨日は…)」
昨日初めて戦ったと聞いてましろはランボーから自分たちを逃そうとしたソラを止めようと手を掴み、その時彼女の手が震えていた事を思い出す。最初はランボーグの様な大きな化け物と戦う恐怖によるものだと思ったが、同時に初めての戦いによる恐怖もあったのだと理解する。
「あんたは変身出来るからってまだ私達と歳は同じくらいなんだからそんな強い責任感を持たない方が良いわ。先ずはその力をゆっくりでもいいから使いこなしていきなさい」
「ゆっくりと……ですか?」
「そうよ…この先もあの豚男がエルを狙ってくるけど焦っちゃ駄目よ。ゆっくりでいいからその力を使いこなしていくのよ………まぁ、ソラみたいに変身できたり、修行なんてしてない私が言うのはおこがましいけ言い方だけど……」
戦いとは無縁のらんこがソラにアドバイスをする事に我ながら滑稽さを感じていた。
「取り敢えず何か悩みがあったら言いなさい。正直今回みたいな事はやりたく無いけど……まぁ、最低限の事は協力するわ」
「私もソラちゃんの力になるよ!……正直怖いけど」
戦う事はごめんならんこはめんどくさがりつつもソラに手を貸すと言い、ましろも便乗するように答える。
「お2人とも……ありがとうございます。私…この力を使いこなせる様に鍛錬をします!」
らんこに説かれたソラはミラージュペンを強く握り、1日でも早く自分が手に入れたこの力を使いこなす為努力していこうと決めた。
「では、早速ヒーロー手帳に今後の修行内容を……あっ、あははは……そうでしたヒーロー手帳はもう無かったんでした……」
「そ、ソラちゃん……」
「あー、その……ね」
自身が持っていたヒーロー手帳はもうない事を思い出したソラは折角これから頑張っていこうとした矢先、気が沈んでしまった。その姿を見たらんこはどう声をかけて励ませば良いか悩んでいると、
「……ねぇ、2人は此処で待ってて」
「ん?」
「ましろさん何処へ?」
「ちょっと寄って来たい店があるから行ってくる」
何か決心した様子のましろはそう言って1人で何処かへ行ってしまう。
それから10分くらいするとましろは片手に袋を持って2人の元へ帰ってくる。
「待たせてごめんね」
「いえ、そんなに待っていませんよ」
「というかましろ、その袋ってPrettyHolicの?」
彼女の手にはPrettyHolicというロゴ書かれていた袋が握られていた。
「うん、そうだよ。前から欲しかった手帳が売り切れていなかったから買える事が出来たんだよ」
そう言いながらましろは袋の中から一冊の可愛らしい手帳を取り出す。
「おお、その手帳は可愛いですね」
「そうでしょ。それで……その、良かったらこれ……ヒーロー手帳の代わりにならないかな?」
「え?」
突然ましろからの提案にソラは思わず呆気に取られる。
「ましろ良いの?その手帳お小遣い貯めて買うって言ってたんじゃ……」
「うん、でもこの手帳が今必要なのはソラちゃんだと思ってね」
そう言うとましろは買った手帳をソラへ差し出す。
「そ、そんな…住む場所やご飯だけでなく、今日新しい服も貰ったばかりなのに手帳まで…これ以上受け取れませんよ!」
この世界に来てから自分に衣食住を支援してくれる上さらに新しい手帳までくれる事にソラは遠慮する。
「ううん、私はソラちゃんに使って欲しいの。だからプレゼントさせて…」
遠慮するソラに対してましろは引かず尚も手帳を渡そうとする。
「どうして…そこまで」
「本物のヒーローを見ちゃったから…かな?」
「ヒーロー……私が……」
ましろから自身の事をヒーローと呼ばれた事に一瞬嬉しく思ったが、先程のランボーグとの戦いを思い出す。
「…ありがとうございますましろさん……ですが私はこの力を手に入れたと言うのに先程お二人の力を借りなければ倒せなかった未熟者です……ましろさんにとってのヒーローに値するとは思えません」
ランボーグを昨日の様に1人で倒す事が出来ず2人の手を借りて何とか勝てた己にヒーローと呼ばれる資格はないと思い手帳から手を引こうとする。
そんなソラを見てらんこは目を細める。
「あんたって、本当に馬鹿ね」
「馬鹿⁉︎」
面倒くさいに続き今度は馬鹿呼ばわりされた事に思わず声を上げてしまう。
「ランボーグを1人で倒せなかっただけで自分がヒーローに値しないなんて思っているの?」
「そ、それはそうですよ!」
単独でランボーグに勝てない己がヒーローと胸を張って言えるわけがないソラはそう思っている。そんな彼女の態度を見てらんこは訝しむ目で見る。
「あんた……まさかだとは思うけど……昨日あんな事を言ってもう忘れたの?」
「あんな事とは……」
心当たりがないソラの態度を見てらんこは思わず額に手を当てて深く溜め息を吐く。そんな彼女の代わりにましろが口を開く。
「昨日言ってたよね。相手がどんなに強くても、正しいことを最後までやり抜き、困っている人を救う。それが…ヒーローだって」
「あっ…」
それは昨日のボロボロの身にも関わらずランボーグに立ち向かう自身が言った台詞。ヒーローにとって1番大切な心構えであった。
「強い事は結構よ……けど、大事なのは己の信念を貫く事じゃないかしら?……全く、自分で言っておいて忘れるなんて本当呆れるわね」
「す、すいません……」
強さを求め過ぎて己のヒーローを目指す心構えを忘れていたソラはらんこの厳しい言葉を聞いて落ち込む。
「それに……私はあんたに昨日と今日命を救われたのよ……充分ヒーローじゃない」
「え…?」
先程まで自身に厳しめな事を言っていた彼女が自身の事を小声ではあったもののヒーローと呼んでくれた……そう気がした。
「今…なんて言いました?」
聞き間違いかと思ったソラは先程言った事をもう一度言う様に頼むと、らんこはソラに背を向ける。
「……2度も言わせないでよ……あんたは私を救ってくれたヒーローよ」
聞き間違いではなかった…らんこも自身の事をヒーローと呼び同時に先程までの己を恥ずかしく思った。
「……私は未熟でした。昨日は倒せたのに今日倒せなかった事に焦って強さばかりを求めて大事な事を忘れてました。先程は遠慮しましたが、やっぱり手帳を貰っても宜しいですか?」
一度は断ったがましろに手帳を譲って欲しいと頼むとましろは嬉しそうな表情を浮かべる。
「もちろん!」
そう言ってましろはソラに手帳を差し上げ、ソラは嬉しそうに手帳を受け取ると早速書いて良いか確認するとましろは拒否しなかった。そして、ミラージュペンを使って手帳に何かを書く。
「なんて書いたの?」
「ちょっと見ていいかな?」
「良いですよ」
ましろとらんこは両わきからソラが手帳に何を書いたのか見るが、そのページは日本語ではなくスカイランドの字で書かれており2人は読む事が出来なかった。
「……全然わからないわ」
「えっと、なんて書いたのかな?」
手帳をじっと見つめる嵐子を他所にましろはソラに聞いてみる。
「はい、相手がどんなに強くても、正しいことを最後までやり抜き、困っている人を救う。それが…ヒーローと己の信念を貫く事です」
「…ん?……後半の奴って……」
「さっきらんこちゃんが言っていた……」
最初に書いた方は先程ましろが思い出させてくれたソラのヒーローとしての心構えにもう片方はらんこがソラに言った台詞であった。
「別に手帳に書く程の物じゃないと思う」
「いいえ、らんこさんの言ってた事は素晴らしいと思います。力では無く己の信念を貫く事はヒーローに通ずる物を感じました……それとも駄目でしたか?」
「……好きにすれば」
ソラの表情を見てらんこは少し無言になるとぶっきらぼうに答え、ソラは彼女にお礼を言ったのだった。そして、そんな2人をましろは微笑ましそうに見るのだった。
────────────
それから暫くしてらんこはスマホの時計を見てそろそろお開きにしようと思った彼女は2人に別れの挨拶を言う。
「じゃあ私この後用g「あ、そうだ待って!」なに、ましろ?」
これから交番に行こうとしたらんこをましろに呼び止めると彼女はポケットスカートのポケットからある物を取り出した。
「それって⁉︎」
ましろが取り出した物…それは昨日街の中で無くしたらんこの音楽プレーヤーだ。
「昨日らんこちゃんが捕まった時に落としたのを拾ってね今まで持っていたんだけど、返すタイミングが無くてね。あ、大丈夫だよ調べた感じ特に壊れていないから」
「あ、ありがとう……拾ってくれて……」
ましろは壊れていない事を説明するとらんこに音楽プレーヤーを返した。対してらんこは両手で優しく包む様に音楽プレーヤーを優しく受け取ると嬉しそうに笑みを浮かべる。
「何だか大事そうに握っていますが、それは何ですか?」
音楽プレーヤーを見慣れないソラだが、らんこが大事そうに握る様子を見て気になっていた。
「……ソラの手帳と比べると大した物じゃ無い……でも……私にとって一番の宝物よ」
そう言うとらんこはパーカーのポケットにプレーヤーを入れる。
「じゃあ、私これで帰るから」
音楽プレーヤーが手元に戻って来たから交番に行く必要が無くなった為、らんこはこのまま家に帰ろうとするが、
「待って、らんこちゃんさっき足を捻挫して足を痛めているから歩き辛いでしょ?」
「へ?」
「あ、そうでした!ならヨヨさんに治療してもらいましょう」
「は?」
捻挫していた事をましろに指摘され、らんこは呆気に取られるとソラも彼女の捻挫を思い出すとらんこの肩を掴む。
「それではらんこさん一緒にましろさんの家に行きましょう。あと、歩くのが辛いのなら私が抱えていきますから」
「いや、その必要は……ん?」
この時らんこは嫌な予感がした。この既視感のあるシチュエーションからして自分にとって恥ずかしい事が起こりそうだと己の第六感が察した。
「いい、私もう治ったから大丈夫だから……それじゃあさよな、痛ァっ!?」
肩を掴むソラの手を払うと平気な事をアピールしながらその場から去ろうと一歩踏み出すが、捻挫の痛みが思ったよりも大きく彼女は思わず声を上げ、その場でしゃがみ込んでしまう。
「だ、大丈夫⁉︎」
「今思いっきり声を出しましたが、物凄く痛いのでは⁉︎」
先程のらんこのリアクションに2人は心配して駆け寄ると彼女はゆっくり立ち上がると2人の方へ振り返る。
「へ、平気だから……これくらい何とも無いから…!」
そう言ってらんこは2人に笑顔とサムズアップを見せる。
ただし、顔からは多量の脂汗を流し、サムズアップした右手は物凄く震えていた。
「いや、痩せ我慢だよね!絶対痛いよね⁉︎」
「らんこさん我慢は体に毒です‼︎もしかしたら捻挫ではなく足の骨にヒビ、最悪折れているかもしれません‼︎一刻も早くヨヨさんに見てもらいましょう‼︎」
勿論痩せ我慢だと直ぐに見破られ、ましろとソラはらんこを虹ヶ丘家へ連れて行こうとする。
「だ、大丈夫…痛く…痛くないし……!」
「「………」」
既に嘘はバレているにも関わらずらんこは捻挫は治ったと言う嘘を貫き通そうとするが、声は震え涙目になると言う痛々しい姿を見てソラとましろは互いに目を合わせ無言で頷く。
「……わかりました。らんこさんがそこまで言うのなら仕方ありません」
「そう…わかってくれてなによr「でしたら、こちらも手段を選んでいられません!」……へ?」
気づくとらんこは浮遊感を感じた。それと同時にソラとの顔が近くなっていた。何故、こんなに近いのか分からなかった。
そして、5秒ほどして気づく…今己はソラに姫様抱っこされていると。
「ま、またこの抱え方⁉︎」
「安心してください!この抱え方が一番らんこさんの体に負担は入る事はありません!」
「ひ、100歩譲ってこの抱え方は良いわよ!け、けど、せめて人目がつかない様に遠回りd「何を呑気な事を言っているんですか⁉︎もしかしたら本当に捻挫ではなく骨折しているかもしれませんよ!早く治療する為にもましろさんの家へ近道を使ってでも直行しますよ!」ちょ、ちょ⁉︎待って、ま、ましろ!見ていないでこの真面目馬鹿を止めなさいよ‼︎」
こちらの話を一切聞くつもりがないソラを説得出来ないことが分かるとましろに助けを求めようと彼女に視線をうつすが、
「さぁ、ソラちゃんこのままらんこちゃんを連れてお家帰ろう!」
「はい、わかりました!」
ましろ本人はすっかりその場で足踏みをしておりいつでも走る様に準備が出来ていた。
「ましろおおおおおっ!!!あんたもソラと同類かぁぁぁぁぁぁ!?」
頼みの綱のましろがまさか裏切るとは予想していなかった為、思わず声を上げてしまう。
「では、これから全力で走りますので舌を噛まない様にして下さい!」
「いやああああっ!?お、降ろしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
らんこは降ろす様に言うがソラはそれを聞かずましろと共に全力疾走で虹ヶ丘家へ走り出して行くのだった。
勿論その道中通行人からお姫様抱っこかれているらんこの姿を見られ、己の醜態を晒す事になり顔を赤く染めるのだった。