King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
薄暗い洞窟の奥に海の魔女の住処がある。
「こちらに錠を持つ少女が近付いて来ています」
ジェットサムが海の魔女アースラへ報告する。
「恐ろしい形相です、いかがしますか?」
フロッットサムが重ねて報告する。
「こちらには捕虜が居るからね」
アースラがそう言う横。
「ヒカリが……ヒカリはお前達が捕まえたと言ったはずだ!」
「アースラ、私たちを騙したのですね!」
ミッキーとマフの声が爆弾ウニの横の大きなたこ壷に幽閉されていた。むやみにつぼから出るとたこ壷ごと爆発する仕組みになっているようだ。
「おや、私は彼女がここにいるとは言っていかったよ? 珍しい力の杖を持っていたから娘を捕まえた途端、杖が消えてしまったから放しただけさ。あの娘が次期にここに来るだろうからあんた達を引き留めているだけさ」
さかのぼること、ヒカリがアリエルと秘密の場所に招待されていた頃、ミッキーとマフが動きの慣れない海底で苦戦していたところ、運悪くサメに遭遇し、ジェットサム、フロットサムにそそのかされ、アースラの住処まで招待されたのだった。
「私たちが策にハマってしまったのですね」
「僕たちが来ないからヒカリ、心配していたんだろうな」
「王様、とにかくココから出る方法を考えないと。ヒカリさんにアレを渡せばなんとかなるハズです」
☆
「あんたがアースラね、ミッキーとマフはどこ⁉」
言葉が少し荒々しいヒカリがやってきた。
「待っていたよ、ヒカリ。さぁ、交渉をしようじゃないか」
「交渉?」
「お前の持っている『ロック・セプター』それを私に使わせてほしいのさ」
「バカ言わないで! これは私とミッキーしか使えないものよ!」
「そうかい、じゃぁこうしよう。私のためにそのロックセプターを使うんだ『ジャファー』と同じようにね」
「くっ……」
ヒカリは悔しそうに顔をゆがめる。最近の苦い出来事だけあってあまり思い出したくない記憶だ。
「でないと、仲間がどうなるかな?」
「それだけは誰にお願いされてもできない。あの時からもう私はどんな事があってもアンタ達には手を貸さないって決めたの」
砂漠で大声出して泣いた時から決めていた。
私は私の心の甘さを思い知らされた。
だから今度あんな事があったとしても、もう私は黙ってどこにも行かない。
絶対に間違っている事だってわかっているから。
「そんなに嫌なら、もう一つ良い提案があるんだ」
「いい提案?」
「私は海の魔女。なんでも願いを叶える事が出来るんだよ。対価は何にでも替えられる。例えば……自分の『声』や『容姿』も替えられるんだよ」
得意げにアースラが黄金の誓約書を取り出した。
「ロックセプターを手放せるのは簡単さ、そして同等のお前が望んだものが手に入るんだ」
アースラがヒカリに向かって甘い声でささやく。
「私の、望み――」
困惑するヒカリ。私の望みって何?
「おやおや、キミは何を恐れているんだい?」
「恐れは誰にでもあるのさ」
ヒカリの周りでジェットサムがささやきフロットサムが言葉を拾う。
「キミは何を望むのか」
「輝く容姿。誰もがあなたに振り返る」
「素敵な歌声。誰もがあなたに聞き入ってしまう」
「皆が羨む大いなる力。誰もがあなたにひれ伏す」
ぐるぐると回り続ける二匹のウツボに催眠術でもかかったようにヒカリは目が離せない。
「さぁ言ってごらん、お前は何が望みなんだい?」
ヒカリの横からささやくアースラ
「さぁ。望みを言いなさい、ヒカリ」
アースラが猫なで声でヒカリに促す。
ヒカリはあまりの誘惑の渦に放心したようにゆっくりと口を開いた。
「わたしは――」
ヒカリの手にロックセプターが出現した。
アースラは杖に手を出そうとした。
「綺麗な容姿じゃなくていい」
ヒカリの声に呼応するように彼女の杖から白い輝きが放たれた。アースラののばした手がその輝きによって弾かれる。
「ステキな歌声なんていらない」
さらにヒカリの体が帯電するように一瞬輝く。
「力なんて、望んじゃいない!」
彼女の体から雷がほとばしる!
「私は私でかまわない! たとえ、つるぺたでも、昆布みたいなボサボサの髪でもかまわない!」
ロックセプターの白い輝きは彼女の放電に反応し真っ白く身を包んでいた。
『つるぺた』『昆布』この言葉を発すると、さらに大きな力と超放電力を与えた。
そして最後の決め手。
大爆笑であろうリクの顔。
「怒りの~~~サンダーボルト・バースト‼」
「ええ~~⁉」
たこ壷のミッキーとマフがいきなりの超絶魔法に叫ぶ。
怒りの限りに放ったヒカリの魔法はアースラの住処を一瞬輝いたかと思うと白い輝きに数秒包まれ――鈍い音が後を追って鳴り響き、大破した。
輝きが消えた周辺は見事に瓦礫の山。ジェットサム、フロットサムは黒こげで倒れていた。
ヒカリ達は――。
「三重魔法リフレク×3」
ヒカリは超絶魔法のガードはお忘れなく。サンダー、バースト。さらにリフレクと三重に魔法を同時発動。三人分張り巡らせていた。
しかもバリアではなくリフレクなので守るのではなく攻撃を近くの外野へ跳ね返したのだった。
「まったく……タイミングを教えてくれれば僕達だってちゃんとガードできたのに」
「ヒカリさん、無茶しては行けませんよ?」
ヒカリがせずともミッキーとマフはちゃんと身を守る魔法を使っていたようだ。
「そうね、でもさ、さっきリクの心ない言葉で頭が一杯だったからぁ~」
あははと爽やかに笑うヒカリは、うっぷんを晴らしたとばかりに雷雲の後の爽快な空のように晴れ渡っている。
「とにかく出られたから感謝するよ。ありがとうヒカリ」
「ヒカリさん、ご心配おかけしました」
「ううん、こちらこそ。でも私、離れていても二人の事信じていたよ」
「ヒカリ……」
「ヒカリさん……」
ミッキーとマフがヒカリに微笑んだ。
「おしゃべりはそこまでだよ!」
どこからかアースラの声が聞こえた。アースラが巨大化している。
「ヒカリさんこれを使ってください!」
「マフ、コレって……」
マフがヒカリに渡したのは新しいロケットだ。しかもこの形はアトランティカ仕様。
「どうして? ココの鍵穴閉じてないのに」
「あれはただデザインをかたどっていただけです。この世界の武器の性能は調査できましたので先ほどすぐに作りました」
「え、ココで⁉ さっきまで捕まっていたのに⁉」
「私の武器をお忘れですか? どんなところでも最高の武器を作れなければ職人失格です!」
「マフ、とても頼もしい!」
ヒカリがロケットを付け替える。そしてその手に現れたのは――。
「マフ、コレって……名前は?」
「えっと、見た目通り『ロックシェル』です!」
そう、シェル……つまりいつも錠の形のセプターが大きなホタテ貝となっていた。
「コレは一体どうやって使えばいいのか……」
「ええと、見た目はそのままですがとにかく通常攻撃の際に――」
「何をごちゃごちゃ言っているんだい? まとめてお仕置きの時間だよ!」
巨大化アースラが待ってくれなかったのでとりあえず戦闘に入る。
「とにかく使ってからが早いわ。まずは通常攻撃」
ヒカリがアースラを見つけると。巨大化したアースラがヒカリを見下ろしていた。
「でかっ!」
「ヒカリさん! ロックシェルを尾ひれあたりに向けてスイッチを押してください!」
「えっと、こうね!」
スイッチを押すと貝が勢いよく開いた。
(ドォン!)
開いた瞬間、空気砲のような衝撃が放たれてジェット噴射!
「うぉわぁ!」
ヒカリが高速移動した。一気にアースラの顔面めがけて向かって行くヒカリ。そのまま急停止できず顔面の周りをぐるりと旋回。
「スイッチを放さない限りジェット噴射です!」
マフの声が聞こえたのか聞こえていないのか、スイッチを放したヒカリはブレーキとばかりにアースラめがけてジェット噴射!
「うわっ……なんだい!」
「あれ? コレ攻撃の効果ないの?」
どうやら攻撃のためのものではないようだ。
「攻撃の時は魔法です! シェルを開く際に何か魔法を唱えてください!」
「えっと……ファイア・シェル!」
ヒカリが魔法を唱えるとロックシェルが赤く輝いた。すかさずボタンを押すと貝の口が開き――。
(ドォン!)
炎が勢いよく噴射した。
「なんか、大砲みたいね!」
「水の抵抗を考えたらこのような勢いの着いた武器になりました」
「なんか面白い~けど叩いて攻撃できないよね?」
「いいえ大丈夫です。さっきのブレーキをせずに突っ込むと結構なダメージになりますよ」
ヒカリは少し考えてマフにこう言った。
「……ちょっと、今日のマフのロケットは行き当たりばったりね」
「さすがに作業場ではない所での初挑戦でしたからすこし手荒な能力になっていますね……」
「できれば次回は工房でよろしく、ね?」
「はい……その方がいいですね」
やはり力不足だったと反省するマフだった。
「けど、コレなら……さっきのサンダーボルトくらいの魔法を放てば――威力がもっと大きくなる!」
ヒカリはマフに向かって大きな声で言った。マフが顔を上げその通りだと大きくうなずいた。
「よ~し、二人とも! 今度は私のバリア無しだからね!」
今度はちゃんと宣言するヒカリ。
つまりは最大火力である。
「お仕置きの時間だよ!」
詠唱中のヒカリにサンダーを唱えるアースラ。
ヒカリは片手を上げて詠唱中のまま、リフレクを唱えようと――。
「今度は僕!」
ミッキーがヒカリにリフレクバリアーを描けてくれた。ヒカリはミッキーに笑顔で答える。
そしてそれが一瞬で不敵な笑顔に変わりアースラへ向けて魔法を唱えた!
「凍てつく冷気、杖に宿れフリーズバーニング!」
最大限にまで高めた魔法とロックシェルの力が更に大きな力となって繰り出される!
冷気の波がアースラへ直撃するとその巨体がみるみるうちにカチコチのオブジェとなる!
「お、おのれぃ……」
アースラは黒いスミをまとって消えて行った。
☆
薄暗い洞窟から、初めのアリエルと出会た場所まで戻ってきたヒカリ達。
「ミッキーとマフったら、わたしがここの上から落っこちた時すぐに助けてくれなかったのね!」
さっきまでのリクへのうっぷんが晴れたが、まだご立腹のヒカリだった。
「ゴメンなさいです……」
「変身に時間かかかったんだ」
「変身ってそう言えばマフ人魚の姿じゃないのね」
ヒカリはマフとミッキーの姿を眺める。
「エビさんです! この長耳帽子に合う生物を探すのに時間がかかりまして~」
遊泳するマフはなんだか嬉しそうだ。
「で、ミッキーは……なに?」
「タツノオトシゴだよ♪」
「変身ってそんな希望でなれるのか……」
あらためて自分の半魚は赤いのはわかるのだが、何を思ってこうなったのかは謎である。もしかしたらこの前に見たゼペット爺さんの所の金魚鉢だったかもしれない。
「もう~二人とも普通に人魚で良かったじゃん!」
なんだか一人だけで心配して損した気分だ。
「でも、ヒカリが無事だって思っていたんだ」
「なんといいますか、そんな気がして」
「そっか、実際そうだったから今さらどうこう言っても始まらないわね~」
ヒカリがにっこりと二人に向き直った。
「とりあえず、さっきまで一緒に居たアリエル達にお礼言いに行かなくちゃ!」
☆
宮殿の近くにある海底庭園。珊瑚の生い茂る円形のくぼみにアリエルたちが居た。
「あ、やっぱりココだった」
「ヒカリ、無事だったのね!」
「こっちこそ、ハートレスは大丈夫だった?」
「ええ、今パパがココの区域なら守ってくれているわ」
「そっか」
(今、ソラ達がこっちに向かっている所だったよ)
ミッキーが耳うちした。ここのハートレスと鍵穴はソラ達に任せよう。アースラもしばらくは何も手出しはできないだろう。
「あら、なんて珍しい人魚なのかしら」
アリエルがミッキーとマフの周りを興味深げに眺めている。
「私たちと~おい海からやってきましたから~」
なんだかマフの顔がちょっと固いどうやらウソは苦手なタイプらしい。
「ここはとても綺麗な所だね。王様がきちんと守っているからハートレスをよせつけないんだ」
ミッキーが尊敬する眼差しで海底の珊瑚を眺めている。
「キレイよね……でも私、もっと綺麗な場所が、私のまだ知らない場所に沢山あるって思うの」
「アリエルは怖くないの?」
何気なくヒカリが聞いた。
「何が?」
「その、外にはハートレスとか居るし、知らない場所に行くのに不安になったりとか……」
「僕は、ちょっと怖いかな」
フランダーがアリエルの後ろで言った。
「私は、信じているの。素敵な場所がきっとその向こうにあるって」
「アリエルには怖いものが無いのね?」
島で待ってると言った私は弱気だったのかな?
私はアリエルみたいにまだ見ない世界に前向きにはなれなかったんだ。
自分の心境を憂うヒカリにアリエルはきょとんとした顔で答えた。
「あるわよ。パパに知られたらものすっごく怖い顔で怒られるんだから!」
「そ、そうなのね」
ハートレスよりも怖いものがパパなのか。
過保護な人ほどしつこく何よりガンコなのは身をもてわかっているのだが、その答えに少し笑ってしまった。
「でも、私の事すごく気にしてくれてる」
「うん」
私も島にいて三人の帰りを心から待っていようと思っていたな。
「だからかしら? パパが居ない場所に行っても私は大丈夫なんだって思ってほしいのかも」
「アリエル……」
「私は私なんだもの、少しは自分の夢を自分の力で叶えたいって思っているのかもしれないわ」
「そっか、叶うといいね。アリエルの夢!」
「ええ」
誰がなんと言おうと私の望みは私自身で叶えるものなんだ。
私が島から出たいって思わなかったのは誰かが私のかわりに夢を叶えてくれると思ったから。
そう、あの三人は島を出てそれぞれの夢を叶えようとしていたんだ。たとえその望みが小さくても、誰かと一緒なら大きな力になる。
だから私の夢は――私が島で待っている事で三人に言ってあげたかったんだ。
『おかえりなさい』って。
それだけ。私はそれが言いたかったんだ。
なんだか小さな悩みが消えて行った気がする。
青空のある空、紺碧の海、底に浮かぶ緑豊かな島をヒカリは今思い出している。
「ところでさ、私がここに来たの秘密にしてくれない?」
ヒカリがアリエルにお願いする。
「どうして?」
「んーーなんっていうか、あまりおおっぴらに語ってほしくないだけだよ」
「えーヒカリの魔法。かっこ良かったのに?」
フランダーがヒカリに向かって叫ぶ。
「そう言ってくれるとかなり嬉しいけどね~でも、やっぱダメ」
「そう……」
寂しそうなアリエルの表情に心が痛むヒカリ。
「あ、でもまた来るからさ。本当は私、泳ぎあまり得意じゃないから」
「それで本当に隠していたの? バレバレだよ」
「ううっ」
「こらこら、フランダーいじめないで。でも、そうね……ちょっと酷いわね」
「アリエルもいじめてる」
「ふふっ、そう思うのなら、すぐ来てちょうだい」
ヒカリが黙ったままのセバスチャンに声をかけようとしたが何を言えばいいのか困る。
「あの、ええと……よそ者がいきなり出てきて、ごめんなさい」
「今度はぜひとも、私の作った歌を聞いてもらいたいね」
「え? セバスチャン。私、また来ていいの?」
「ああもちろん、お目付け役の私に代わり、あなたは姫様をお守りしてくれたのだからな」
セバスチャンが去り際にヒカリへ耳打ちする。
「トリトン王も見た目とは裏腹に親バカだからきっと許してくれますよ」
その一言でヒカリはアリエルパパをちょっと見たくなってきた。
笑いをこらえるのを誤摩化すように満面の笑みでヒカリがセバスチャンに手を振る。
「ありがとう~」
最後にセバスチャンはヒカリの横に居たマフの容姿を見て、仲間意識が芽生えたのかちょっと嬉しそうだった。
「僕たちはココで」
ミッキーが容姿に似合わない意外とスムーズな動きで移動する。
「外にはハートレスが居るので、お見送りは結構です!」
マフも動揺にやっぱり動きがスマートだ。
「ううっ、二人とも待ってよ~~」
見た目は一番動きが速そうな人魚のヒカリが始めと変わらず不慣れな動きで二人の後を追う。
ヒカリは泳ぎを諦めて、ついにはロックシェルを取り出して二人よりも早く移動して行った。
「待ってるわ、ヒカリ」
アリエルの好奇心はヒカリがまた訪れに来た時も変わらないだろう。
彼女から聞き出すお土産話に胸をときめかせる日を待ち望んで――。