King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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完結した後に書いたものです。ターザンの世界行ってなかったのであえて短編で書いてみたものです。


Another14 ディープジャングル~No Pain, No Gain~

14章 特別短編 ディープジャングル

Another14~No Pain, No Gain~

 

 アトランティカの海から陸に上がった後、ヒカリはすぐに熱を出した。

 

「なんか……体だるい。寝てるのにクラクラする」

 すぐに自室のベッドで横になるが未だヒカリの顔は険しい顔のままだった。

「ええと、37度ぐらいですね。そこまで我慢していたんですね」

 マフがヒカリに薄い金属の板を額に当てると色が変わった。温度変化で色が変わる金属らしい。

「すごくいい体験だったから我慢ではなかったんだけど……体が先に音を上げるなんて我ながらショックだわ」

「気を張っていた反動だろうね。お水だよ、飲めるかい?」

「うん、ありがとう」

 数回に分けてゆっくりと水を飲むヒカリはぼんやりと焦点の定まらない視線で窓辺の大海原を眺めていた。

 その傍ら、マフとミッキーがその様子をうかがう。

「ヒカリさんの環境にあった場所でどこかゆっくり休める場所があればいいのですが」

「ヒカリは島で遊んでいたって言っていたな。アトランティカの世界では無人島は見当たらないし」

「そういえばソラさんから聞きました。自分の故郷に似ている世界があったと、ワンダーランドとオリンポスの近くだそうです」

「マフ、よく覚えていたね?」

「ツタが沢山あって大声でツタ渡りをしたと聞きまして。いいなぁと思ってたのです。街では出来ませんので」

「……そうだね、よし、そこへ出発しよう」

 少女の奥ゆかしい願望に彼は驚きつつ目的地が決まった。

 その顔を見たマフは、はっとして慌てた。

「べ、別に……私が行きたかったわけでは無いんですよ! ちょっといいなって思っただけなんですからね! ええと~先に座ってます!」

 そう言いながらコックピットへ向かうマフの足取りは浮き足立っていたのをヒカリは薄目で確認し弱々しく微笑んだ。

「ヒカリ、出発するけどベッドで寝ていても大丈夫だよ? トラヴァースタウンの近くだからフライトプランは難しいルートではなさそうだから」

「ううん、水飲んだら気分が大分良くなったよ。海水ならさっきまで浴びるほど浸っていたのに、なんだか不思議ね。大丈夫、コックピットの座席には座れるよ」

 いつものように笑ってみせるヒカリ。しかし、足取りはいつもよりスローペースだ。

「そう言うなら……」

 ミッキーは申し訳なさそうにその顔を眺めていた。

 

 ☆

 

「思っていた故郷の島とは全く違うわね。むしろこっちの方が本格的な島」

 山あり滝あり原生林。おまけにりっぱな竹やぶ。

 着陸する前に見えた星の外観にはツリーハウスもあるようだった。

「ヒカリさんは船の中に居てもよかったのに」

 新たな船【コスモステラ】は船が小さくなる魔法がかかっている。持ち運びの利便性もあるが、『船に乗った人物も小さくする』事が出来る。あまり使い勝手は無いが奥の手でもある。例えば前回クジラの体内に入るときにはこの機能が使われた。

「めまいは無くなったから、外を歩きたかっただけ。ちょーっと歩きにくいけど」

 そう言いつつ立ち止まってぼんやりと頭上を眺めているヒカリに、ミッキーとマフは思わず顔を見合わせ参ったとばかりに苦笑した。

「ヒカリさん、今日は無理しても良いことはありませんよ! おとなしく船の部屋で寝ていて……」

 

「やっぱり……何か来る!」

 

 マフの言葉を遮るヒカリは頭上の木々の向こうからやってくる何かに備えロックセプターを出現させた。

「ヒカリ! 今の君では無茶だ下がって……」

 ミッキーが言い切る前にそれはやってきた。

 木々の間から素早く、それでいてスムーズな動きで現れたのは、ハートレスでも動物でも無く、人だった。それも二人。一人は体格のがっしりとした人物。そしてそれに対する細身の女性。

 ヒカリを見た女性は開口一番大きな声で叫んだ。

「あら……まぁソラ!しばらく見ないうちにかわいくなっちゃったわね~」

「えっ?」

 訳のわからない顔をするヒカリに女性の横にいる男性が片言で彼女に言った。

「ジェーン、この人、ソラ、ちがう」

「えっ?」

 ジェーンという女性がヒカリを不思議そうに眺めている。この状況を解決させるためにミッキーが二人の間に割り込んだ。

「僕はミッキー。彼女はヒカリ。もう一人の彼女はマフ、僕たちは旅すがらこの島に休養をしに来たんだ」

「あ、ああ! ごめんなさい、ソラ達以外の人間はめったに来なかったからつい……ね」

「いいえ……」

 ジェーンが愛想良く笑うのだがヒカリは無表情でそれだけ言って何も反論はしなかった。むしろいつもなら元気良く反論するのに、それがないのでそれが怖い。

「ヒカリ無理しないでくれよ。大丈夫じゃ無いなら僕の背に乗って?」

 見かねたミッキーがヒカリの前でかがむがヒカリは動かなかった。

 さらにそれを見ていたジェーンがひらめいた。

「ヒカリは今、具合が悪いのね。それなら彼に頼んでみようかしら、ターザン」

「わかった」

「わっ⁉」

 ターザンは軽々とヒカリを担いだ。彼にかかればぬいぐるみを持ち上げるように造作も無い。

 屈強な体躯にもたれるような形のヒカリは抵抗することなく、こうなってしまっては広い肩幅に体を委ねるしか無かった。

 ミッキーは今の状況に気まずそうに立ち上がる。自分の身体とターザンの体から見ては適任なのは一目瞭然だった。

「私もよく担がれてるから何も心配しないで。安心して休んでいなさい。結構快適なのは立証済み」

「で、では……よろしく」

 弱々しくそれだけ言うヒカリは目をつむって何も言わなくなった。むしろ、立って歩いているよりも良くなったことに、それだけしか出来なかった。

 

「近道があるの。ついてきて」

 目を閉じているヒカリの隣でジェーンが案内する声が聞こえた。

 

 

 その後、重力を感じる気配。上下の反動がゆらゆらと感じてはたまにふわりと浮いていく感覚。今自分の置かれている状況がわからないままヒカリは次第にゆりかごのような感覚に意識が回復してくる。

 そして、気になるこの重力の謎が知りたくて、一瞬、目を見開いてしまった。

 

 目の前は――地面が無かった。

 

「いっ……いやぁ~~~!」

 

 ターザンに担がれて地面の見えない樹木の幹をスライダーのようになめらかに滑っていた。実際滑っていたのはターザンで、ターザンに担がれていたヒカリは後ろしか見ることが出来ない。

 

『担いでいる=ヒカリはターザンの背後しか見えない』ので、

「いやぁ~! 落ちる~~!」

 とても恐い。

 

「ご、ごめん……ヒカリ。なんか、懐かしい映像、思い出しちゃって……ははっ」

「ヒカリさん! 落ち着いてください~みんな大丈夫ですから~」

 頑張って落ち着かせようとするマフが華麗に木々を飛び越える。

「あ、見ちゃった? あはは……お気の毒ね」

 ジェーンも慣れているようで最後尾で笑いを堪えていた。この状況では今ここで怖いと感じている自分がなんだか場違いのように見えてくる。いろんな恥ずかしい思いにさいなまれるヒカリ。

「目を開けるんじゃ無かった……そして後ろに居るミッキーも見るんじゃ無かった!」

 これ以上自分に追い打ちをかけないでくれとヒカリは顔を手で覆って今の光景と状況を完全に否定していた。

「そろそろキャンプに着くわ、もう少しの辛抱よ」

 最後尾のジェーンが指さす地点へ一同は華麗に着地した。言わずもがな、担がれているヒカリ以外だけど。

 

「パパ、お客様と急患よ」

「おお、ようこそ我がキャンプへ!お嬢さんが急患か、どこかで見た顔じゃ無いか……ん?他人のそら似?そうかすまなかった。では少し顔を見せておくれ」

「驚いたわ! ソラ達もだったけれど、あなた達ジャングルでその動きはたいしたものね。次はもっと難易度のある場所へ案内しましょうか」

 ジェーンは始終楽しそうだった。

 

 ☆

 

 次の日。薬草の粉末のすこし苦い薬を飲んだ後、ヒカリは木陰に腰掛けて休んでいた。

 ミッキーとマフはターザンに連れられてツタわたりを体験するそうだ。落ちても下は水辺なので気にすることは無いと言われ。かなり気にするヒカリはご遠慮することにしました。

 

 ここはキャンプ地の向こう側。滝の音が聞こえる岩場の木陰。最近大きな岩崩れが起きたせいか平坦で散歩するには歩きやすかった。

 遠くで鳥のさえずりが聞こえる。

 そのまた遠くでヒヒの声が聞こえる。

 それからそれから――。

「まって~ヒカリのスケッチ返して~」

 盗撮し、スケッチを奪われたジェーンの声が遠くに消えていった。

 

 しばらくヒヒとジェーンの葛藤が聞こえたがそれも決着してジェーンがやってくる気配を感じた。もちろん彼女の独り言が聞こえるからなのだが。

「あら、あっちと……こっちにもヒカリがいるわ?」

 不思議な言葉にヒカリは目を開けると――。

「ちがうよジェーン! オレだよ、ソラだよ!」

「ソラ! また会えてうれしいわ。ちょうどあなたのこと話していたの。ヒカリとは知り合いなのよね?」

「えっ……わぁ⁉ ヒカリ、なんでこんな所に?」

「りょうよう……」

 けだるそうにそれだけ言ってヒカリは目を閉じた。

「療養? どこか具合悪い……ように見えるよな、バッチリ」

 ソラがいつもの勢いが見えないヒカリを眺めて気まずそうにそれだけ言ってジェーンに向かって話し出した。

「オレ、ハートレスが悪さしていないか見に来たんだ。ドナルドとグーフィーはキャンプの場所に現れたハートレスまだ退治してるけど、こっちは大丈夫そうだな」

「そうだったのね、ハートレスもだけどたまに面倒な連中が来るのよ。でもターザンがなんとかしてくれているわ。ソラも手伝ってくれるなら大歓迎よ。そうね、一番厄介なのは……ヒョウのサボーが居なくなってから頭角を現してきた双子の黒豹のヌルとシータかしらね」

「サボーって、オレがここに来てすぐに襲ってきたアイツか、今度は黒豹?」

「獰猛な黒ヒョウたちよ。サボーが居なくなってから沢山の動物を襲っているみたい」

「そうか……サボーはこの前のクレイトンが従えていた姿が消えるハートレスより早くてなんか、強かったかも」

「ゴリラたちも恐れているわ。私もパパもキャンプの近くで見かけたからターザンに見張ってもらっているの。ついでに彼の学習もかねているけど、どうやら最近はターザンに目をつけているみたいで気が気でないの」

「そうだったんだ……俺たちでなんとかしてみるよ。な、ヒカリ!」

「え、私……?」

 思わぬ誘いにヒカリは話半分で聞いていたのでぼんやりしていた。

 それを見たソラとジェーンは顔を見合わせて苦笑い。

「あ……やっぱ、ごめん。ヒカリはいいかな。なんだかいつもと調子違うし」

 珍しくソラは遠慮がちにヒカリに謝った。

「ん……」

 ヒカリはそれだけ言って起き上がった頭を再度、けだるげに腕の中へ納めた。

「ヒカリ昨日出会ってからずっとこの調子なのよ」

 ジェーンがスケッチブックの似顔絵をソラに見せる。

 眉をハの字にしている表情とうつろな目のヒカリが描かれていた。

「なんかいつもの雰囲気全くないな~」

 ソラのつぶやきにヒカリはもう一度顔を上げる。

 その顔はスケッチの表情を遙かに超えるほど、不機嫌極まりなかった。

「たまにはこういうときもあるのですよ~」

「そ、そうなのか……そうだ、向こう側に滝があるんだけど、その奥にすごいきれいな蝶が居るんだ。あれ見たら元気出るよ!」

 ソラはそう言ってヒカリに岩場を指さして目を輝かせる。

 薄曇りの空を思わせる相反するような瞳のヒカリに炎天下の太陽を宿したソラの表情はかなりまぶしい。

 思わずヒカリがジェーンの顔を伺うと彼女は笑って手を振った。

「いってらっしゃい?とてもきれいよ。気分転換はとっても大事。何もしないより、とにかく行動せよ。絶対良いことが起こるから。まぁ、悪いことも無きにしろあらずだけど、何もしないよりは良いことよね」

 その言葉にヒカリは無言で立ち上がって岩場を軽々と登った。

「まぁ! ヒカリもすごいのね~みんな揃って本当に身軽ね~」

 あまりにも大げさな褒め言葉に聞こえるが、今朝から付き合っている彼女を見るに、本当にジェーンは驚いて感動していることは明白だった。

 それもあってかヒカリは気恥ずかしそうに。

「ありがとう……行ってみるね」

 それだけ言って手を振った。

「ジェーンすごいな……あの落ち込んだヒカリが元気になった」

「いえいえ、これぐらい……私も落ち込んだらやりたいことたくさんやってみることにしてるのよ。ただ何もしないよりもずっと良いもの」

「ふ~ん、じゃあ俺も一緒に行ってくる」

「みんなには後で迎えに行ってと言っておくわね」

 そう言って彼女はキャンプまで戻っていった。

 

 ☆

 

「……って言ってたら、お約束のように来たな黒豹!」

 滝の流れる裏に二匹の黒豹がソラの周りをゆっくりと威嚇しながらグルグル間合いを詰めている。

 その表情と言ったら、黒い体にギラギラとした目。それがほぼうり二つの二匹に囲まれるからどちらから仕掛けてくるのかよくわからない。

 二匹は一度滝へ身を潜めソラへと襲いかかった!

 が――。

「フリーズ!」

「え? あっ……えっ?」

 ヒカリの魔法で滝の流水もろとも凍る二匹の獰猛な表情が、一枚のオブジェのようにきれいに凍り付いていた。

 それから次第に滝の氷が溶け始め、やがて粉々に氷が砕けると、解凍された二匹の黒豹が訳もわからずソラを見る。

「お、オレじゃ無い、あっち!」

 ソラは拍子抜けした二匹に答えるように魔法の言葉を発した張本人。ソラの少し上に居た彼女の方に視線を向けた。

 黒豹達は訳もわからず標的を彼女に変えた。

 その一匹ヌルが数段上の岩場を軽々と飛び越え、ヒカリの上に陣取るとそのまま彼女へ襲いかかる!

「まだわからないの……?」

 冷めた目つきでそれだけ言うと容赦なく杖を振り上げる!

「フリーズ!」

 滝の水が氷柱(つらら)のように瞬時に折れ曲がり、襲いかかったヌルとの間に障壁を作る。

 飛びかかった相手はその氷の壁に体当たり。下まで落ちていった。

 次いでもう一匹の黒豹シータは隙を見てヒカリの背後から襲いかかる!

「ヒカリ!」

 ソラがブリザラを黒豹に当てるとさっきの氷漬けが効いたのか一瞬シータがひるんだ。

「!」

 ヒカリの杖にかみつくシータ。

 魔法を瞬時には使えなかった相手に目の前の黒豹は一瞬で勝利を思い浮かべる。

 力負けするヒカリにソラが叫ぶ。

「ストプラ!」

 ソラがヒカリの場所まで上がって魔法を唱えるとシータの動きが止まった。

「今だ、ヒカリ!」

「凍てつく冷気……周囲を極寒へ変えろ、フリーズ!」

 ヒカリの渾身の詠唱で、目の前の杖に食らいつくシータと、気がつかないソラの背後から飛びかかろうとしていたヌルが一瞬に凍り付く!

 さらに滝の水しぶきも粒の霰となってバラバラと音を立てて転がっていく。

 

 そして、数秒――静寂が訪れた。

 一面凍り付いた滝は轟音すら聞こえない。

 

「うわ………一面、氷の世界だ」

「さて、この黒豹どうする?そのうちまた解凍するけど、さっきよりはしっかり凍らせたわ」

「はは……」

 あまりの貫禄に氷の女王を連想するソラ。会ったことは無いけど。

 

「ヒカリ~~! ソラ~~! これは何事?」

 ターザン、ミッキー、マフ。それからドナルドとグーフィーがこの状況に驚きつつやってきた。

「あ、見ての通り黒豹が襲ってきたんだ」

 ソラがヒカリの杖に食らいついて凍っているシータと見事な飛躍を遂げるヌルを指さす。

「ヌル、シータ、水、縄張り」

「ターザンからそれを聞いて駆けつけたんだけど……これは取り越し苦労だったかな?」

 ターザンがそう言うとその横でミッキー(ソラ達の前ではマスター)がソラとヒカリの状況を確認して微笑んだ。

「僕たちジェーンからソラとヒカリが滝に向かったって聞いてすぐに駆けつけたんだ」

「そうだったんだ、ま、このとおり! でもさ、ヒカリ。この噛みつかれた杖どうするの?」

「どうもこうも無いわ」

 それだけ言うとヒカリはロックセプターを消失。

「あ、その杖、消えるんだ。へぇ~~」

「ソラだって消してるじゃん!グワ……」

 今まで見たことが無かったソラが感心するとドナルドがあきれた顔でため息をつく。

 

「ヒカリさん、まだご機嫌斜めですか?」

 ヒカリの顔をのぞき込むマフにヒカリは微笑んだ。

「いいや、なんかこれだけの魔法使ったらすっきりしたかも」

「みんな~大丈夫?」

 ジェーンが駆けつけた時、氷は流氷のようにジャングルの河川へ流れていった頃だった。もちろん氷漬けの黒豹は固まったまま流れ去った。

「あれって天変地異? それとも天罰? あの黒豹達が流れているところ、ゴリラたちが喜んでいたわよ」

 ジェーンは事の顛末を大方察したのだろう、楽しそうだった。

「ヒカリとソラの似顔絵をキャンプの周りに貼りだしたら、しばらくは黒豹たちがおとなしくしてくれそうね」

 名付けて『氷の女王肖像画作戦』今後の解決策も大方確約された。

 

 ☆

 

「さぁて……お待ちかねの場所よ! ゆっくり静かにご覧あれ~」

 ジェーンが小声でみんなに手招きする。滝の裏の洞窟を進むと青く輝く蝶の群れが一点に集中して群生していた。

 

 青く青く、澄み切った羽の色。

 海の青より、空の青よりも鮮やかな色。

 洞窟の天井に切り出た隙間から太陽の光が差し込むとキラキラと輝く青い宝石が、静かに寄り添い舞い踊るように羽を動かし、見るものを幻想の中へいざなう。

 

「ターザン、ジェーン、ゴリラ、心、ここに、ある」

 ターザンがヒカリに言う。

「ソラ達に案内した時もターザンはこう言ったの。姿は違うけど、みんな同じ。生きているって意味。落ち込んだ日もケンカした日もあるけど、今のこの素晴らしい景色を忘れないで」

 ジェーンはそう言ってソラとドナルドを眺める。

「ドナルドとソラはここに来た時はケンカしていたんだったよね」

 グーフィーがヒカリ達に補足すると二人は気恥ずかしそうにお互いを見て苦笑していた。

「そういえばオレたちヒカリ以上に不機嫌だったな」

「グワ、そんなに?」

「ヒカリのスケッチ見る? このようなかんじですがいかが?」

 ジェーンはヒカリのスケッチを見せるとドナルドは小さく声を出して顔を背けた。

 そのやりとりは全く眼中にないほど、ヒカリはゆっくりと蝶の群れに近づく。羽ばたいていかないギリギリで止まるとヒカリの頭に乗っかっている赤いリボンに青い蝶が留まった。

「ちょうちょ結びに蝶が留まったわね。ふふっ」

「ちょうちょ結び、ちょう、とまる」

「あ、ターザンにはちょっと難しいわね」

「あの……私まだ動かない方が良いの?」

 いつの間にかヒカリの頭の上には青い蝶がさらに数匹、留まりつつある。

「あ~ずるいです~私もちょうちょさん、とまってください~」

 マフがヒカリの側までゆっくりと近づくと長耳帽子の両耳に数匹留まってくれた。

「わぁ~かわいい~」

 グーフィーが大声を出したせいで数匹飛んでいった。

「ぶぁ~くしっ!」

 ドナルドがマフの隣でくしゃみをしてマフの帽子からは全て逃げていった。

 それを見てマフが涙目になるとドナルドのくちばしに逃げていった蝶が留まって一同笑った。

 

 ☆

 

 キャンプへ戻るとゴリラたちが出迎えてくれた。

「こんなに野生のゴリラたちが集まるなんて……」

 初めて見たミッキーは驚く。

「ジェーンはここに来る前は何をしていたの? その……普通の生活だったとか」

 ヒカリは気まずそうにしながら聞いた。

「お茶もダンスもしていたわ。ここに来る時はワンピースにバッスルだったし」

「バッスル……」

 ヒカリは聞き慣れないドレス用語だったが、おしゃれをして来たことならわかった。

「ええまぁ……長いこと過ごしていたら今までのマナーも気にしなくなったわ。ターザンにはこの場所とは違う、私の知るもう一つの世界を教えてあげたいけれど」

「ジェーンはそこに帰りたいって思う?」

「う~ん、そう思うこともあるけど……私はここの生活を選んだから、彼の側に居たい」

「そっか、ジェーンが決めたんだね」

「ヒカリは、会ってすぐの時は大丈夫かしらって思ったけれど。もう大丈夫みたいね」

「……うん」

「良かった~あなたの表情を見てると仏頂面の彼にはない強さが見える。素敵。それに面白い!」

「面白いって?」

「あ、気を悪くしたならごめんなさい。なんて言うのかしら、恐いのにかわいい、それでいてあどけなくて、んん~たくさんあって面白いのよ!」

「面白いの意味は、大体わかったわ」

「あはは~わかってくれたようで何より。でもね、出来たら毎日その顔で居てほしいわ。近くに居る人はそう思っているはずだもの」

「……覚えとく」

 短く答えたヒカリの言葉にジェーンが笑顔になってゴリラたちに向かっていった。

「あら~カーラ、ドナルドが来てくれて、またしおらしくなったのね~ほんとかわいいわ」

「ほーんとジェーンってすごいな。ゴリラの言葉覚えたの?」

 ドナルドが通訳するジェーンに感心する。

「カーラはゴリラ女子なんだっけ。一目ではわからないよな」

 ソラの言葉にカーラがジェーンに向き直る。

 するとジェーンが通訳する。

「ゴリラ女子って素敵な言葉だね! だって。カーラも喜んでいるわよ」

「ソレ良いの?」

 ドナルドがかわいいのかけらも無いワードに首をかしげる。隣に居るマフがゴリラ女子カーラにオレンジ色の花を髪飾りのようにつけてあげる。紛れもなく女子に見えた。

「ところでヒカリ。ハイポーション、エーテルどっち作る?オレが料理か実験してあげる!」

 楽しそうにソラがヒカリに向かって言うので「じゃぁエリクサーで」と言うと、「実験は終わった……」ソラはそれだけ言った。

「モーグリさんが言うにはエリクサーはお料理でも実験でもなく合成なのです」

「お料理はともかく、実験では無いってことは?」

 グーフィーがマフに聞く。

「お料理は足し算。実験は引き算、合成はどちらもなのだそうです」

「う~ん。僕にはよくわからないなぁ。でもお料理も実験もみんな出来るけど合成はモーグリにしか出来ないんだよね?」

「これに関しては奥が深いんだと思うんですよ~私もアクセサリーなら作れるんですけど……」

「僕にはマフも不思議だよ。お料理も実験も僕にはわからないからね。合成も彫金も同じだと思っちゃうよね」

「それもちょっと違うのですけど……」

 オチも無い話は堂々巡りだった。

 

 

「カーラ、ドナルドの冷たい花、好き、ヒカリも、好き」

 カーラの通訳をしてくれたターザンがヒカリに言った。

「ゴリラ女子に好かれるなんて光栄だわ!」

 この言葉は今日イチでうれしいヒカリであった。

「えっ、俺も魔法使えるよ?」

「ソラのは、好き、じゃない」

「え、なんで?」

「冷たい花じゃない石、すぐなくなる、ヒカリの、まだ冷たい」

「なんだよ!」

「あの流氷、ここでは氷は見たことないものね。珍しいわよね」

 ジェーンがターザンに言う。

「水、こおり、なる?」

「そうだよ。凍れ~!」

 ソラが魔法を放つと水が氷になる。

「ソラ、つよい」

「えっ、なんかうれしいな」

 ソラがこそばゆいような感じに笑う。

「ヒカリ、もっと、つよい」

「う、うれしい……かな」

 ヒカリは純粋に褒められたはずなのだが屈強な体躯の彼に言われると大げさなような気がして素直に喜べなかった。

「ヒカリ、ゴリラ女子、つよい!」

 ソラが隣でそう言うと冷めた目でにらみつけた。

「な、なんだよ~冗談だって!」

「ターザンとソラが言うのとは訳が違う~!」

「わぁ~~ごめんって~~」

 この後疲れるまで二人は走り回り。

「そ、それじゃぁ俺たちもう行くね!」

 グミシップに逃げ込んだソラがそう言って逃げていった。

「相変わらずせわしないのぅ」

「パパ……今までどこに居たの?」

「流氷がジャングルにおける生態に及ぼす影響を調べようとしたのだが……消えてなくなってしまったので帰ってきた」

「ああ……それは、残念だったわね」

 一人の少女の仕業だったことはこの際言わなかったことにしておこう。

 

 彼女がここに及ぼした影響は計り知れなかったのだから。

 

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