King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~今の自分~

「ねぇ、どういうこと」

 思わず身構えるヒカリにミッキーが予想通りだと苦く微笑む。

「言ったろ。いきなり変わってしまったと。どういう事なのか、僕もそれが解らない」

 その表情は自分でもどうしようもないようでいつもよりも痛々しく見えた。

「この体に変わってしまった時、いままでいろんな世界に旅をして理由をいくつか考えてみたけれど、たどり着くのは一つしか考えられないんだ」

 ミッキーの表情は真剣だ。

「それは僕にも知らない力『闇の力』なんだって」

「闇の世界のって……今のミッキーの体はミッキーのモノじゃないって、こと?」

 ヒカリはミッキーに悪いと思い出来るだけ物怖じしない態度で、聞きたい事を率直に言った。

「どうかな、ヒカリの変身した体はヒカリのものじゃないって思ってる?」

「うーん。変わってしまっても自分の姿は自分には見えないからなぁ」

 私の変身した姿。背が高いし、声も低いし、何よりかっこ良くなってる。でも、女の子ってのがちょっと惜しい気がするけど。今までの自分の姿とは違くなってもそれでも私は私なのだから。

「少なくとも、今の私自身の姿だって、思っているつもり」

「変身した自分を恐いと思うかい?」

 ヒカリはふるふると首を横に振った。その仕草にミッキーはうなずく。

「その姿はどこから来たのか聞いた事は無いよね」

「それは、考えた事無かったわ。いままでの魔法の力だって私の想像力だってずっと思っているもの」

「魔法の力はどこから来ているものなのか、使える人より知る人は遥かに少ないからね」

「ミッキーはわかるの?」

「僕には専門外さ」

 意外にもさっぱりとした答えが返ってきたので少し拍子抜けしたヒカリ。

「確かに考えてみたら理屈が解らずに生活にとけ込んでしまっているものなんて沢山あるわ。グミシップとかモーグリの合成とか」

「料理がおいしくなる秘訣とか?」

「ミッキーのご飯おいしいよ?」

 シリアスな話してたのに、なんだか和やかな雰囲気になりつつある。そんな自分の心の内はきっと相手に届いているはずだ。

 届いている……はず。

「もっとおいしい料理を食べてしまったら僕のはまだまだだよ」

「それは知りたいような、今のままでも良いような……って、話が変わってきてる!」

 なんだよこの場の雰囲気!

 ヒカリの突っ込みにミッキーは微笑んだ。

 もしかして、この会話の流れを待ってたのか?

「それもそうだねやっぱりその手の専門家に意見を聞くしか無いかな」

「料理の……って言うのは愚問ね。変身の専門家ってこの近くに居るの?」

「知らなかったのかい? 君の魔法のお師匠様は変身魔術の専門家だよ」

「知りませんでした」

 どうやらそちらも愚問だったようだ。

「今まで直接見てなかったからね」

 なんだろう。弟子が師匠の得意な魔法を知らないという知識の浅さというか熱意の薄さと言うか。

「知りたいと思わなければ知る事が無い事は沢山あるものだよ、それゆえ身近だからこそ当たり前だと思い込んでしまう事も沢山ある」

「間違いや正解ははっきりとは存在しないってことね」

「確信した事でも、新たにわかった事があると考え方が変わってしまうようにね」

「でも、正しい間違っているよりも自分なりの答えは持つべきよね?」

「うん、確信が持てても僕の闇の力は実際災難が降り掛かっているモノではないから」

「あっ……」

 話しているうちにすっかり忘れてた。

「僕も今の時点で怖がる必要は無いと思っている」

「ごめんね。分けもわからず、怯えちゃって」

「言った後の覚悟は出来ていたよ、でもやっぱりいい気分じゃないね」

「でも、考えてみたら私もそんな感じなんだよね」

「?」

「私も、訳が分からず魔法使っているんだもの、ミッキーから見たら」

 今の私は、自分以外の人から見たらきっと恐い存在に違いない。

 いいや、今の私でさえも――。

「魔法は使う事が解れば向き不向きがあるにしても誰でも使う事ができるものだからね。体が覚えてくれるというのかな」

「たしかに自然に使えるようになった時から言葉ではとても表せられないけど、みんなもそんなもんなんだ」

 それを聞いてなんだか無性にほっとした。

 魔法が使えるってなんだか自分だけ特別と思っていたせいか、私って視野が狭かったのかな。

「でも、魔法の原理を知らない人から見れば魔法使いは善くも悪くも思われてしまうよ」

 そうなんだ、得体の知れないものを見ると人は恐いと思ってしまう。今起こっている事柄を目の当たりにすると。

 自分はいったいどうなってしまうのか。

 これから何が起こってしまうのか。

 よけいな事ばかりいろいろ考えてしまう。

 それはおそらく良い事よりも悪い事の方が多いだろう。

「わからない事を恐怖と思うのはやっぱりいけない事なのかな?」

「恐怖する、怯えるという行動は誰であれ持っているのだからしょうがないよ」

『しょうがない』

 私にはどうする事も出来ないのか。

 なんだかどうしようもないむなしさにため息をつく。さっきの私、本人から見たらすごく傷ついたよね。

「でも、起こってしまった誤解はすぐに解決させておく事が肝心だよ」

「解決って?」

「う~ん、そうだね。例えば誰でも始めは自分のことを名乗るだろ。敵か見方か、それだけわかるだけでも怖がるほどの事は無いだろう?」

 確かにそうだ。ならばミッキーに聞かなくてはいけない。

「じゃぁ、改めて一つ聞きたいのだけど」

「なんだい?」

 ためらいがちにヒカリはミッキーの目を見る。戸惑いのせいか彼の二つの瞳に焦点が合わせづらい。

「言うまでもないと思ったけど、これを期に…」

 なんでかな。こんな質問言うなんて逆に不安になってくる。否定してくれるなんて思っていないのにでも聞きたい。言ってほしい。

「ミッキーは私の見方?」

「もちろん!」

 言うまでもなく、むしろ、その言葉を言うのを彼が待っていたかのように力強い答えが返ってきた。

「うん、ありがとう」

 別に『ホットした』とか『言われて嬉しい』とか正直、感動じみた事なんて思わなかったけど。

 言ってくれて良かった、うん。

「で、話の趣旨がかなりずれてきたから戻すけど、闇の魔法って、私が使う変身魔法とは関係があるのかな?」

「君の変身は君自身の魔力からだよね?」

「うん、セプターにロケットを付け替えて……」

 ヒカリはおもむろにロックセプターを取り出してリンゴのロケットに付け替える。つけた瞬間セプターは消滅した。

「それで、また取り出すと」

 ヒカリは再びロックセプターを出現させた。

 すると杖が出てくるのではなく、ヒカリの体は輝き、男装の姿となった。

「はい、この通り」

 さっきより低いテノールの聞き取りやすい声。長い髪は赤いリボンですっきりとまとめられている。

「服装も変わるようにフェアリーゴットマザーが魔法をかけてくれたんだ」

「なるほど、アイテム限定の変化魔法だね。マザーが得意な魔法だよ」

「アイテム変化の魔法――興味深いな。そう言えば魔法にも向き不向きってあるんだ?」

「簡単に言えば火の魔法と水の魔法。どちらも正反対だから覚えるのに向き不向きはあるよ」

「僕は何向きなんて考えた事が無いからよくわからないよ」

「う~む。ヒカリで言えば好きな属性と嫌いな属性ってところかな。あまり使いたがらないものもあるだろ?」

「あーなるほど」

 ヒカリは微笑み顎に手を置く。自分で思うのもなんだけど、今の自分は強気な女の子ではなく、優しいお兄さんを意識していたりする。役作りではなく容姿がそうさせていると言ったほうがいい。

「――ということは、この今の姿はヒカリの理想の姿だって事になるのかな?」

「そうなるのかな。背も高いし声も低いし、それでも女の子なんだけどね」

 そうなんです、女の子なんです。自分でもこの姿はいかがなものかと思うけど。ソラとリクに言ったらびっくりするのかな。カイリに言ったらどんな表情するのかな?

「君の変身が女の子なのはきっと男の子になりきっていないからじゃないのかな?」

「……それって僕が男の子のすべてを知っていないからってこと?」

「そう言えなくもないね」

「なっ、わ、私……そこまで再現なんて思った事無いよ! むしろそんな事考えて変身したかった訳じゃない! そ、そうだ、コロシアムの試合なんだから女の子一人じゃ追い返されそうだったし。男らしく振る舞わないと一人で戦えないっていうか……相手になめられるっていうか!」

「ぷっ……その顔、今の君だととても意外だな」

 肩をふるわせて笑いをこらえるミッキー。

「なな、なんて顔させるんだよっ!」

 私の理想的な顔になんて表情させるんだ。

 と、とにかく落ち着こう。落ち着くんだ、今の自分!

 一度落ち着き改めて、表情を戻す。

「それでも、自分でない自分を演じるのはなんと言うか、とても面白いよ」

 男装した自分はいつもの不敵な笑みよりも柔らかな、それでいて何か力強い威厳がある。改めて考えてみると私は変身した姿は好きだし、何か悪い魔法で出来ているなんて思えない。

 理屈はどうであれ魔法で作り上げた『私の理想像』だってなんかそう言いきれる。

 目を閉じてヒカリは元の姿に戻った。

 じゃあ、ミッキーは今の私みたいに思っていないのか。ミッキーは今の自分は嫌いなのかな?

「やっぱ、いつもの自分の雰囲気じゃないと、なんか恥ずかしいかな」

「ほう……君にもあの姿にちょっとは抵抗はあるのか」

 なんてしみじみ言うミッキーになんかちょっとムッとした。

「なによ。さっきの私と今の私、何か問題とか疑問に思った所とかあるの?」

 さぁ言って見なさい。どんな質問でも心良く受け答えしますからね!

 腕を組むヒカリにミッキーはさらりと言った。

「さっき君は、恥ずかしいて言っていただろ?」

「はい、言ってました……うん、ちょっとはね」

 何だこの敗北感。詠唱している間に攻撃されて不発になった魔法な気分だ。

 不発魔法、何度か経験があるヒカリ。

「恥ずかしいついでに聞くけど、君が魔法を使っている時。いつもの君じゃない気がするんだ」

「魔法の発動中ね。正直いえばカッコつけてるところはあるわね」

 なんだか自分で言っててちょっと恥ずかしくなってきた。

「だってなりきらないとうまく行かないじゃない」

「そうかい?」

「折角の必殺技なんだし! 何なら服装だけ変身して参上のポーズとかも考えて――」

 なんだか悪ノリなヒカリ。目の前の相手はやれやれと苦笑する。

「ヒカリはどっちの姿が気に入ってる?」

「それは魔法使いの自分と男装した自分?」

「あとは今の自分も、ね」

 その言葉がやってくるとヒカリは即答だった。

「やっぱりいつもの自分!普段の自分じゃないと疲れるもの」

「そう言う答えになるのか」

 ふむふむとミッキー。

「自分の事は好きで居なくちゃ。実施、今の自分を信じられなくなっちゃったら、私は私じゃ居られなくなるわ。でも、何であろうが私は私!好きも嫌いもあるのは当たり前よ!」

「確かに、今の自分の姿がどうであれ、自分の体なのは変わりないからね」

「そういうこと!」

「キミって、どうしていつもそうやってすぐに答えが見つかるのかい?」

 ミッキーがそう言うとき。大抵、自分自身が予想にしていない答えを見つけた時に言ってくれる。

 ヒカリにとっては最高の褒め言葉だ。

「さぁ?」

 ヒカリはそう言ってにっこり微笑む。

「うん、そうだよね」

 うなずくミッキー。

「ミッキー?」

 ミッキーはヒカリの隣に座って息を吐いた。なんだか安堵しているようだ。

「ヒカリと話をしてよくわかった」

「?」

「僕は今の自分を信じる。今この姿でも不自由していないし悪い思いはしていないからね」

 何か吹っ切れたような晴れやかなミッキーの表情にヒカリはうれしくなった。

「じゃぁ、ミッキーに一応聞くけど。元の姿の自分は好き?」

「それはもちろん。元に戻らないと僕は愛しい人のところに帰る事が出来ないからね」

 ヒカリは思わずこう思う。

『愚問だった』

 あぁ、またこの人のろけが出た。

 なんか一気に脱力した気分こんな王様、王妃様はどう思っているんだか。

 だけど、離れた誰かを思っていられるのは素敵な事なのかもしれない思われた方は、なんであれ、きっとうれしいだろうからね。

 

 そういえばミッキーは今の自分は闇の世界の体って言ってたよね。

 それって……。

「闇の世界から来た体って……やっぱり本当の持ち主は居るのかな?」

 ぽつりと思った疑問は声に出すとより大きな波紋を描くように不安と恐れが広がっていった。

「僕の姿が変わっただけなのか、それとも僕の体と心が誰かと入れ替わったのか、そう言う事だね?」

「うん」

 今まで一人で抱えてきたミッキーはわかっていたはずだ。でも、どうして今まで気づかなかったのだろう。よく考えてみたらこの答えが一番――。

「僕もその可能性はあると思った。いいや、それが一番答えに近い」

「え?」

 ヒカリの中で不安と恐れがよりいっそう広がっていく。ミッキーの部屋なのにココがどこだか忘れてしまうほど周りが真っ白に見えてくる。

 

「ヒカリに頼みがあるんだ」

次の言葉を聞くのが――恐い。

 

「もう一度、あの時の事を思い出してほしい。アグラバーでの事」

 大きな風を一身に受けたように、ヒカリは体をこわばらせた。

 

 

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