King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
「アグラバーでの君の魔法で僕は分かったんだ『闇を操る力』君はそれを知っていた」
「私の……力?」
ここは今、ミッキーの部屋だ。さっきからここにいて話をしている――なのに何だろう。別空間に放り込まれたように空気が重い。ミッキーの目の前で立ち尽くすヒカリ。
「アグラバーでの出来事になるんだけど、君は邪悪な魔術師のジャファーを倒した」
「私が……?」
私が、誰を?
「君の放った魔法『ダークネス・バースト』で」
「ダーク、ネス……」
困惑しているヒカリにミッキーは話を続ける。
「魔法を放ったとき君が言ったんだ自分を闇の魔法使いと――」
「私が……闇の?」
はっと我に帰るヒカリ。
違う。多分、私じゃない。
そう割り切るとなぜか冷静になれた。
「僕はそれが一番驚いた、君の口から自分が魔法使いという言葉なんて聞いた事が無かったからね」
「そうね、確かに私は自分の事『魔法使い』なんて言わないわ」
そうだ。私は魔法をうまく使いたいとは思っていても自分の事は魔法使いだとは思っていない。
「だから、僕は直接聞こうとした、君の中の闇の魔法使いに直接君の精神に入って」
「私の精神? ミッキーそんなこと出来るの⁉」
「キーブレードはあらゆる閉ざされた物を開く力があるんだ。扉から宝箱。果ては、人の心までーー」
「……」
あまりに衝撃的な事が多すぎてミッキーの言葉に情報の処理が追いつかない。
「でも、あのときとっさに入ってみたものの、そこはジャファーと一緒のランプの中。ヒカリは意識を失っていたまま助け出すのが精一杯で、結局アグラバーでは聞き出せなかったんだ」
「だからって、私に内緒でそんなの……なんて」
「ヒカリ……」
「ひ、ひどいよ! 私の体なんだから、そんなの、かなりヒドイ!」
どうしてだろう、自分の声が、息が、荒い。自分でもよくわからないけどなんかむしゃくしゃする。
今まで知らないでいた事が沢山あるなんて不公平だ。むしろ早く話してほしかった。悔しいような腹立たしいような――。
どんな顔でミッキーを見返せば良いのか。正直なところどっち付かずな自分にさえ腹立たしい。
そんな態度のヒカリにミッキーは弁解の言葉を色々考えているようだ。
むしろこの状況がなんか……もうっ!
思わず握った手をさらに強く握りしめる。
何、何なの?
こんなの、私……不公平だって!
とにかくこれ以上、こんな話なんかしたくない!
ヒカリの状況にミッキーはさらに困っている。そんなミッキーの態度にさらに腹を立てる。
どうしようもない激情に冷静な感情がどんどん遠くへ置いてけぼりになっていく。今すぐにでも大声出して何かを発散させたくなる。
それを止めたのはミッキーの言葉だった。
「ヒカリごめんよ……あの時は僕もちょっとだけ冷静で居られなかったんだ」
「~~っ」
意気消沈したミッキーの声にヒカリの怒りは次第に冷めていく。
相手の言葉一つでこんなにも感情が変わっていくなんて。なんだか、コントロールできない自分が情けなくなる。
「……」
ヒカリは黙ったままうつむく。
ミッキーはしばらくヒカリを見つめている。
そんな中、ふと思った。そうだアグラバーの砂漠でミッキーは必死で私を助けてくれていた。
砂漠のど真ん中で目覚めた私を、なんだか泣きそうなくらい怒った顔で――。
何か言い返せないでいるヒカリに言葉が見つからないミッキーは、いても立ってもいられなくなったようでヒカリの前に立って両肩を押さえた。
「!」
あまりのいきなりの行動に急激に怒りが込み上げてきた。スカイブルーの強気な瞳がキッとミッキーを見返す。ミッキーは物怖じせずただ見つめる。
彼はとてもすまなそうな目をしていた。
「……」
ミッキーの瞳に写る自分は怒りに任せた表情。
今の自分の顔はあまりにも醜い。
それでも目を反らしたら負けだ!
ヒカリは口を開けたが言葉が見つからず唇をかんで再び睨みつける。
「~~っ」
「怒るのはしょうがない。でも君にその事を話した今だから……改めてちゃんとお願いするんだ」
嫌だ。いやだ。聞きたくない。
肩を怒らせてふりほどこうとするが両肩のおかれた手に力が入った。
泣いてないのに嗚咽を漏らす。
「僕に……君の心を見せてほしい」
「‼」
ミッキーのまっすぐな表情がヒカリを見つめる。迷いの無い決意のこもった表情。真剣すぎてヒカリは目が離せない。
(いやだよ。そんな強い顔。今の私には出来ない)
「お願いだ」
返答以前に戸惑うヒカリ。
感情がコントロールできないでいる自分に耐えられず。歯を食いしばって震える。
なんでか、涙は出てこない。
そうだ、これはきっと――。
私。怯えているんだ。
私の知らない誰かが私の体に眠っている。
もしかしたら私、気がついたら、ここにいられなくなるんだと、いつの間にか別の人格になっているんじゃないのかって……恐かったんだ。
理由が解ってしまうと、大粒の涙が流れていた。
「……ごめんヒカリ!」
ミッキーはそう言って腕を伸ばして引き寄せた。
ヒカリはまだ怯えている。
しがみつきたいくらい恐いのに――。
なんでだろう、体が動かない。
「君が一番恐いってわかっているのに……僕は酷い奴だ」
私、ひどいなんて思っていないし。ミッキーの口からそんな言葉聞いた事が無い。
「いつも強気な君を抱きしめるなんて今まで考えてもいなかった」
ミッキーはいつも優しいけど、こうやってスキンシップなんて絶対にしない。
「見守るだけで君は十分成長していると思ってた」
ミッキーはいつも助けてくれるけど、ここぞという時はいつも微笑んで見守ってくれていたよ。
「だけども、恐いものは誰でも恐い。僕もそうだ。君の今の恐怖よりも、はるかにちっぽけだけど」
「そ、んな……」
ミッキーだって私と同じくらい震えてる。
「それでも、僕は進みたいんだ」
「……っ!」
びくりと体が大きく飛び跳ねる。
こわい。でも、ミッキーは進もうとしている。
恐いのに、進もうとしている。
「~~っ!」
恐い、とても恐い。
でも、ミッキーが、たまらなく心強い。
憤りか恐怖か、解らない今の自分の心境に大声を出して叫びたかった。
だけども、ヒカリは声を殺して泣いた。
情けないからじゃない。
何もかも解放してしまうと、自分がとても弱い気がして――ううん、ちょと違う、何もかも解放すると、私が私でいられなくなるようだったから恐かったんだ。
自分の力を押さえつけていないと、今の自分は消えてしまうような気がしたのだから――。
☆
ぼろぼろ流れ落ちる涙の勢いがなくなったのはそれからすぐ。感情の高ぶっていたせいでヒカリは過呼吸の一歩手前だった。
「ヒカリ落ち着いて、ゆっくりベッドに座って」
言われるがまま彼の腕の中で肩を上下する。
幸い今は息を整えるのにとにかく一生懸命でよくも悪くも考えがよぎらない。つらいのに、それで今を生きているってことが実感できたんだ。
「落ち着いたら答えを聞かせてくれないかい?」
ミッキーはそう言った後はそのままだった。
腕に力は入っていないので胸を貸してくれているだけ、と言うと間違いではない。
ヒカリはしがみついたままだった。
泣き顔を見られるのも嫌だけどそれ以前に肩で息をする自分の体が言う事を聞いてくれなかった。
しばらくして息が整うと。ヒカリはぼんやりとした気分でいろんな考えを巡らした。
今の事、これからの事。
でも、つらい事だけは今のところ考えられないでいた。考えようにもツライのって今の状況に勝るものが見当たらない。
それ以前に別の考えがよぎる。
いいのかな?
好きな女の子でもないのにこんな格好で……。
そんなことを思ったが、今の状況では到底自分の口から言えない。
今の自分は泣いてばかりで幼すぎて、たぶんそんな良い雰囲気にはならないだけなんだよね。
……って、沢山涙を流したらさっきよりも意外に冷静になれた。
取り乱していたんだな、さっきの私。
情けない自分が悔しくて、最後に深呼吸ともため息ともつかない息を吐いた。
呼吸を整えてやっと考えがまとまってくる。
彼は進みたいのだ。闇の中と言う得体の知らない世界に。『消えた体』と『知らぬ自身』と向き合うために。
ならば私は『消えた記憶』と『知らぬ自分』を知るために。
「私がこうやって黙っていたら話が進まないわね」
かすれた声はミッキーにはちゃんと聞こえていたようだ。
「落ちついた?」
「うん」
ミッキーはヒカリを放した。
「ごめんヒカリ、ごめんなんて、何度も言う自分が、とても悔しい、けど……」
いつもの彼には珍しい低く小さな声色にヒカリは耳を傾ける。
「今まで黙っておくつもりは無かった。ヒカリが自分自身を恐いなんて思ってほしくなかったから。僕自身も、この話に触れるのは正直恐かったんだ。情けないよ」
沈黙。
ここで言葉を言うのは私のはずだ。
でも、何をどう言えば良いのか言葉が見つからない。
それ以前に、私の体なのに、あの時の事何も思い出せないでいる自分自身がとても悔しい。
ならば答えは一つだ。
「わかったよ」
「ヒカリ?」
「わかった。だから――」
そこに現れたのはミッキーを見つめる瞳。それは鋭いまなざしだった。
それでも先ほどとは違って怒りの色ではない。
「ミッキー私決めた! もう一人の私と話をして」
ミッキーを見るヒカリ。真っ赤な目と涙にぬれた青い瞳は弱くは無かった。
その瞳の輝きは、嵐の後、雲間から輝く光が現れた青空のよう。まつげにぬれる雫とともにキラリと光る。
「今すぐで良いわ、だって早い方がいいでしょ?」
いつもの不敵な笑みのヒカリは、 今までの彼女よりもさらに大きく一際、強く見えた。