King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
それでもフラグはできないよ!
物足りなかったら皆さん勝手にお話妄想して。
二人がさっきまで居たミッキーの部屋は、なんだか居心地が悪かったので今度はヒカリの部屋に二人は移動した。
私、子供のようにすっごい顔して泣いちゃってたしミッキーの服は当然着替えないとすごい事になってるし。
心を新たにヒカリは顔を洗う。その後、水を一杯飲んで落ち着いた。そうしたらやっとちゃんとした顔に……なってない。泣きはらした目が赤いけど、それはしょうがないか。
ミッキーはヒカリの目の前にいるわけではないがベッドの横にある机のイスに腰掛けていた。ヒカリが寝る前に考えている魔法ノートはミッキーのすぐ脇の机においてある。
「闇の魔法を放った時はどんな気持ちだった?」
「え?」
ヒカリがベッドに腰を下ろしたらミッキーは軽くヒカリの方に顔を向けていつものような会話から始まった。
自分が今からどうなるのか全く解らないヒカリ。特に何か用意もなく魔術じみた事をするような雰囲気ではないみたいだ。
その振る舞いに内心ほっとした。
「闇の力を放つ魔法。はっきりとした記憶がないとはいえ、その直前でも、直後でも良いから何か思った事、わかっている事はあるかい?」
「あの時は本当にいきなりでよくわかんない。でも取り返しのつかない事をしたって後悔してる」
ミッキーのいつものような会話でさえ、今の状況ではヒカリの緊張は拭えない。
「それでも、何か思った事、考えていた事。発動のきっかけがあれば何でもいいんだ」
「マーリン様に言われた時にこれが闇の魔法だったんだって思ったからなぁ」
「きっかけがなにかあるはずなんだ」
ミッキーは何か模索するようにあごに手を添える。こういう時のミッキーって何考えているのかいまだにわからない。それだけ私より色々知識があるってことなんだよね。
私だってそれなりに解ってきたと思うよ。ましてや、私がいきなり放った魔法なんだもの。
そうだ。私が使う魔法のきっかけって――。
「私が新しい魔法を使う時ってさ、いつも思っていることがあるんだ」
「いつも思っている事?」
「いま、この状況を覆すにはどんな力が必要なのか、どうなったら素敵かなって」
「素敵? 僕も必要な魔法をイメージするけど」
「うん、でもそれだけじゃつまらないもの、もっとこう、ドッカーンってなにかひらめいた時にさ、新しい魔法がきらめくの!」
魔法を考える時のヒカリは、それはもう不敵な笑顔。恐いものなんてなにも無い。
「ひらめきで、きらめく?」
「どう? 良い言葉でしょ」
知識や経験が浅いにしろ、情熱と実践で今まで見た事の無い魔法を繰り出すヒカリ。
彼以上にとても魔法が好きなことがよくわかる。
ミッキーはそんなヒカリに一種のあこがれと自分の劣等感を覚えてしまうがそれでも彼女自身の魔法に良くも悪くも圧倒される。
「君は将来どんな魔法使いになるのかな?」
まるで遠くを思いはせるようにあさっての方向を向いてさわやかに言い放つミッキー。あまりにも面白くてなんだか笑みがこぼれてしまうヒカリ。
やっぱシリアスな話ばかりなんてミッキーとは無理だよね。
ヒカリはあきれたように肩を落として答える
「さぁ? 魔法は好きだけど遠い将来は『マレフィセント』とか『マーリン様』とかになる気はないけどね?」
「なるほど。それはわかる気がするよ」
二人は笑った。ミッキーと話をするとツライ話もなんだか楽になってくる。だからこそ、もっと二人のそれぞれのツライ事、今のうちに考えなくちゃいけない。
辛かった事――。
「闇の魔法を使った時、あのとき私は特別に不利な状況だった」
「多分、ヒカリは素敵とか楽しい以前に、それはもう必死だったんだろうね」
必死だった。良い事、悪い事が考えられないくらいツライ状況。
「うん。とてもじゃないけどツライ状況だった」
「ツライってことは、いつもの魔法よりもヒカリの中で何か特別な事があったということかな?」
トクベツ。何かいつもと違う事。
あまりのツラさに記憶が飛んでしまった自分。
ツラかった。だから記憶が無い。
なんでツラかった?
素敵な魔法を考えられなかったから?
じゃぁ、なんで考えられなかった?
考えられない。覚えて、いない。真っ白?
(グラリ)
「あ、ヒカリ!」
「ごめん……これ以上わかんない」
思わずよろけた体をミッキーが飛び出して支えてくれた。倒れても自分のベッドだからかまわないんだけど。
でも、どうして?
いきなり鎖が切れたようにつながっていた思考がバラバラになった。
私の中で、何かがなくなって――何かが限界?
「ごめん、えっと、どこまで言ったかな」
焦点の合わない目でぼんやりとつぶやくヒカリ。
アグラバー。あの土地での出来事は私の記憶はほとんどない。
「ジャファーは闇の魔法を教えたと言っていた」
「え?」
「その分だとやはり覚えていないみたいだね」
「うん」
くやしいけど全く覚えていない。
「アグラバーの出来事は、どこまで覚えている?」
「あの砂漠の街につれてこられて、ミッキーとマフとソラ達と会って。ハートレスと戦って。気がついたら砂漠でミッキーに助けられていた」
爆発する樽ハートレスからソラ達を完全無視して倒した後。私はジャファーとともに薄暗い場所で歩いていた。その後覚えていないうちにミッキーが砂漠の真ん中で私を抱きとめていた。
「魔法の洞窟の中の事が、全部消えている?」
「そうね、倒れる瞬間は多分砂漠に行くところでジャファーと歩いていた。その後は全く、ない」
「歩いていたというのは、洞窟の中へ?」
ヒカリは首を横に振る。
「真っ暗なトンネルみたいなところ歩いていたけど、倒れて。気がついたら、ミッキーの顔があって……怒って」
「あっ……」
うつむくヒカリの目に涙がにじんでいる。
「ジャファーを倒したなんて、覚えてない」
「魔法の洞窟で君は闇の魔法を放った……いいや、あれはやはり『ヒカリ』ではないのかもしれない」
「じゃぁ、だれ⁉」
「!」
この問いの回答者はミッキーではない。
もう一人の私だ。
「ねぇ、私の知らない『私』――」
自分で言っていてなんだか、こわい。
知らない自分。
知らない時間。
知らない記憶。
すべてが私の解らないところで進んでいく。
「体は動いているのに、私は何にも知らない」
皆が目にしているのにも関わらず、知ることの無い今の自分。
「私、どうなっちゃうの?」
言葉にするたび、感情が、涙が止まらない。
「ヒカリ、ゴメン!」
「‼」
とめど無くあふれる涙がこぼれ落ちる前に、ヒカリの目が大きく見開かれる。
すると、ミッキーはヒカリにキーブレードを突き立てていた。
「ごめんよ……ヒカリ」
目の前が真っ白になった。
苦しむ彼女を僕は貫いていた。
僕はあまりにも残酷、彼女はあまりにも儚い。
ヒカリの頬を伝う涙が――。
彼女自身から放たれている白い輝きを受けて一緒に輝く。
この輝きはあまりにも美しく幻想的だった。
その後。
涙が止まった。
それだけは覚えている――。
気がついたら――。
今の状況を把握するのに、かなりの時間がかかった。
そして、あまりの体の苦しさに、
やっと自分のおかれている状況がわかった。
今、私は――。
ミッキーに――。
苦しいくらい抱きしめられている。
そして苦しいくらい必死な声。
「ヒカリ……ヒカリ!」
苦しい抱擁の中。何度も呼びかけるミッキー。
彼が、言葉を、単語を――。
しかも私の名前だけをただ唱えるだけしかできないなんて、いままで滅多に無い事だ。
「ミッキー……痛いよ」
「ヒカリ⁉」
一度ミッキーはヒカリを自分の腕から引きはがし彼女の顔を見た。
目と目がぶつかる。
真剣なミッキーの顔。訳が分からずただ涙目の自分の顔。どちらがみっともないのか一目瞭然だ。
ミッキーの腕を引きはがそうと思ったら――。
「ヒカリ‼」
「ぎゃっ」
また苦しくなった。
「ヒカリ……ヒカリ……」
そしてまた自分の名前を連呼する。こんなに自分の名前を乱用されるのは正直言って恥ずかしい。
「い、痛いって言ってるのに!」
「いいんだ、これで」
即答だった。
(なんだ、名前以外の言葉も言えるのか)
「だから、苦しくて恥ずかしくて迷惑だっての!」
「今は、いいんだ」
やっぱ、ほかの言葉、考えられない?
しかも何気にさらに力が強くなった。
(こんなに密着されたら……一応、わたし『女の子』なんですけど!)
自分でそう思ってしまうと、顔がみるみるうちに赤くなってくる。
「ちょっと、もうやだ~」
実力行使で振り払おうにも、なぜだか体がだるくて力が入らない。
涙目で訴えてみるが、顔が見られない(涙)
「もぅ~どこかで王妃様が見てますよ?」
言葉でなんとかさせてみようと試みたが今の彼には効果が全くない。いいや、むしろもっと強くなった気がする。
(しまった逆効果ぁ~)
「……」
しばらくヒカリは不満そうな顔をして無言で居るが、幸い辺りには誰もいない。
ふと、きつく抱きしめられているから今さらながら気がついた。
ミッキーの肩が震えている。
「ちょ……もう~」
とてもじゃないけど、どちらもみっともないがこれにはヒカリが折れた。
もういいや。気の済むまま彼に抱きしめられていよう。さっきまで、私自身の知らないところで自分の身になにかあったのだろう。
でも自分は、悔しいがさっぱり頭真っ白だ。
会話の声、話題の内容、時間の経過でさえ、私という人格はまったく記憶にとどめていない。
だけどミッキーは『私』をなんとかしてくれたのだろう。
闇の魔法使いと名乗るもう一人の私を――。
ミッキーは私自身が一番恐いはずだと言ってた。覚えていないだけでこの温度差って私だけ取り越し苦労と言ったら今のミッキーにはちょっと悪いよね。でもこんなにミッキーが取り乱すなんて、恐いけど真相はあとでちゃんと聞いておかないとなぁ。
だって抱きしめられてるだけじゃ、わたしが気になってしょうがないよ。
(ほ~んと、過保護なんだから)