King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
Another16-1~Before The Game~
たる壊しに挑むヒカリ。
「えっと、この目の前のタルをどんな手段でもいいから壊せばいいんだよね?」
「その通りだ。ほら、ちゃっちゃと早くすまさんか!」
フィルがいつものせっかちな言動をそのままに楽しそうに叫んでいる。
「ええと、じゃあ……はいっ!」
ヒカリが新しい武器の使い方を確かめるようにぎこちなく『普通のロック・セプター』で本当に、かるーく振り上げると――。
(パァン!)
すべてのタルが同時に爆ぜた。
フィルはあんぐりと口を開けているだけ。
その間、新たなタルが出現する。
出現すると同時にヒカリはまたロックセプターを今度はヒュンと音がするくらい軽快に振るう。
(バカン!)
今度は新たに出現した大きな樽が爆ぜた。
フィルが今度は目が飛び出るぐらい驚いた。
その間、今度は新たな樽が大小これでもかと出現した。もう全て出してしまえと言わんばかりの敷き詰めようだ。
ヒカリは1たす1は2だと、分かりきったような乾いた笑いを浮かべながら勢いよく体をひねって一回転しながら炎の光球の魔法を放った。
「こーんなに出したらこうするしかないじゃない!バーストとファイアの混合魔法。ええと、呪文の名前はバーニング!」
(ドォオン!)
先端から最後の最後の全体へ、どこかボーリングのストライクのような爆発をして真っ白い灰と煙となった樽。
(なんか用意してくれたのに一瞬で片付いてしまった)
人知れずもうしわけなさそうに手を合わせたヒカリだった。
「これで出場できるんでしょ?」
タルがなければ腕試しも終わりだ。もうなにもやることもない。
ヒカリが退場するまでフィルが何も言わずに「ムムム…」と睨んでいたのをちらりと見たが、これは見物客もいない中でさえ文句なしの合格だった。
退場時にはかなり身構えていたヒカリだったが呼び止める声は聞こえてこなかった。
「なんか、フィルだったらインチキだ!の一言も考えていたんだけどな~」
ここでインチキだといったのならば、すかさず一番初めの樽をひとつ復元☆させて、樽の空洞の部分から空気の魔法を使って爆発☆させ、さらに証明できるよう、スローモーションで再現☆できる魔法をかけてやろうと思っていたのだったが、さすがはHEROの指南役。ちゃんと不正かどうかは見極められるようだ。
ちなみに復元魔法『パストラ』
数分だけ物をもとに戻せる。
空気爆発の魔法『バスター』
空気の圧を一気に変えて破裂させる。しかし、物限定。
スロー再生魔法『レコード』
スロー再生できるが長い時間ほど魔法発動時の決めポーズを維持しないといけない
最後は少し恥ずかしい魔法だ。
ここまでいままで男装して挑む前からさかのぼることずっとヒカリは樽壊しのために用意していたのに残念だ。
そう、何を間違ってか、もとはといえばあの金髪ツンツンお兄さんのせいだ。
そういえば初めてクラウドさんと顔を合わせたとき一体私を誰と間違ったんだろう?
せっかくヒカリのままで戦うんだ。今回はこの姿が多いから面と向かって話聞いてみよう。
「ちょっと早めに終わりすぎたかな」
まだ太陽が東を向いている爽やかなオリンポスコロシアム。
ヒカリは走り出した。
☆
自分達の船コスモステラに戻るとヒカリの男装姿の――つまりもう一人のトーナメント出場者のミッキーがそこにいた。
もちろんそのコロシアムの『ミッキー』はヒカリの男装した姿が本物となるので目の前の人物は男装ヒカリの女装をしている王様という図なのだが。
「早かったね、どうだった?」
見た目も、声も、ちゃんとコロシアムの王子様という『ミッキー』とほぼ一緒だった。
「ほぼ」というのは髪の毛が短いことと、あとは若干、彼のほうが、背が高いのだった。
はじめはヒカリ自身が彼に似せて男装しているのだから当然なのだが、こうやって見るとなんだかちょっと不思議だった。
「試験は文句なしの合格。あのうるさいご指南役はもっと粘るもんかと思ったけど」
「実力が認められたのだから素直に喜ぶべきだと思うけど?」
「まぁ、そうね。せっかくの別の魔法も覚えてたのに使えなかったのが少し心残りね~」
拍子抜けのようなヒカリの姿にミッキーは楽しいことを思いついたようにこう切り出した。
「あ、それならレコードの魔法はそのうちどこかでみんなに見せてよ」
「それって私のとき? それとも男装のとき?」
「う~む悩むな」
「悩まないで! むしろ私はみんなの前でかっこいいポーズずっとしてるのは嫌だから!」
「それもふくめて楽しい気がしたんだけどな」
「私は楽しくない!」
そう言って外へ出ようとするヒカリ。
「まだ試合まで時間があるけど、どこへ行くの?」
「練習がてらコロシアムの広間と周辺まで」
「僕はここで待機のほうが良いのかい?」
「その姿でミッキーのフリするんだったら出ていても大丈夫じゃないかな?」
「いや、有名人だから僕が出歩くとまずい事にならないかって聞いてるんだけど」
「そんなこと……ないと思うけど」
「君はいつも変身を解いて出歩くから女の子たちの出待ちを知らないんだね」
「え⁉」
驚くヒカリ。
「謎の王子様の素顔とか巷ではプライベートがわからないってファンには話が持ちきりだよ」
ミッキーはなぜかキリッとした表情でヒカリに言った。どうやらファンサービスの練習らしい。
「そういえば、あの姿に変身するのは別の星でソラたちと合うときぐらいだもんなぁ。控え室出るときには即、変身解いちゃうし」
「目立つ行動を取るのはコロシアムの試合ぐらいだから、逆に謎が深いキャラになっているんだよ」
それは初耳だった。そうか、ファンが付くとそんなフラグが立つのか。
そもそもファンって見たことがないヒカリ。
まぁ、ソラくらいしか知らないけど。
「いいよ? ミッキーに似せてるから普通にしててよ。そしたらみんなにプライベートなところ見せられるんだよね」
「そういう意味じゃなくて」
「じゃあどういう意味?」
キョトンとしているヒカリにミッキーは少し頭を抑える。
「せめてイメージのことを確認したいなぁ。外のオフィシャルショップでグッズも売れてるみたいだよ。ほら、試合前に写真を撮るだろ。ブロマイドになって売られているんだ。この前優勝したから今回からフィギュアも出るはずだよ」
「そうなの? へぇ~人気が出るのも悪くは無いわね~」
ヒカリはまんざらでも無いように微笑む横でミッキーは逆だった。
「ヘラクレスと戦って勝ったら次はCMも来るかもしれない。ううっ……これ以上人気が出てしまったら、一般人が追いかけてくるかも。そうしたらどうやって君と交代しよう。それより君の理想のヒーロー像のコンセプトから聞いておこうか、初め写真も取られるし、試合中イメージは崩したくないし」
「イメージってミッキーのことだから場外乱闘とか暗殺目的で襲撃されても返り討ちにはできるでしょ?」
「怖いこと言うなぁ。そもそも、一般人のファンに対してだったら事件になりかねないよ。君はコロシアムの王子様をなんだと思っているんだい」
「イメージならミッキーの普段のまんまでいいよ。それに、ファンの女の子にたくさん囲まれても全員一気にスマートかつエレガントにエスコートしてる図くらいは考えていますよ」
「えらくハードルが高い位置に僕がいるんだね。ボディガードもつけずに身一つで僕を放り込む気だな。ヒカリは善意の名の下で迷惑行為を気付かすにしている一般人の怖さを知らないんだね」
更に頭を下げるミッキーにヒカリは楽しそうに笑って扉を開けた。
「全員そんな人とは限らないわよ~それに人気者のHEROさんはちゃんと全ての人を笑顔にすることぐらい当然できるわよね。あ、私もそのうちの一人だから。ミッキーならできるって。ほら、時間あるんだしかっこいいポーズとか考えてみんなの期待に答えてちょうだいよね! じゃ、時間きたらコロシアム集合だからね~」
ひらひらと手を降ってヒカリはコスモステラに王子様を置き去りにした。
(ミッキーのことだから外に出たらさっきの口頭で言ったミッションをすべてクリアしてくれるに違いない)
そして、後にその話を『レコード』の魔法で上映することになるであろう。
少し楽しみが増えたヒカリであった。
☆
ヒカリはコロシアムの外れの広間に向かった。
ここでは出場時、たたずむクラウドをよく見かけたものだ。
「あ、いたいた!」
「もう終わったのか」
「木片残らず一発粉砕で見事合格ですよ!」
「……まぁいい」
怖い熟語を聞かなかったことにしたクラウドにヒカリは話を続ける。
「試合前に聞きたいことがあったんだ」
「弱点か?」
「そんなのわざわざ聞く意味あるの~? 違うっての。初めてわたし、じゃなかったミッキーと試合前の場外で一戦交えたときにクラウドさんは誰かと勘違いしてたよね? あ、これはミッキーに後で聞いた話だけど」
慌てて自分ではなくミッキーから聞いたと前置きにしたが、クラウドにスルーされた。
「そんなのを聞いてどうする」
「クラウドさんの弱点聞くより気になったからここまで来たんですけど」
どこまでも表情のない彼にヒカリはコロコロ怒ったり不敵な笑顔を見せたりする。
「そもそも女、男どっちだって思ったの?」
「女だ」
「あら? 意外な返答」
「リボンの付いたポニーテールの女だ」
「ポニーテール……メガラかしら?」
「この星の住人ではない」
「そっか、クラウドさんハデスの雇われだったわね。それにメガラだったら叩いたりしないわね」
「そもそも女だったら叩かないだろ普通は」
この声はクラウドではなく、その横から聞こえた。彼の今回の相棒、レオンだった。
「あ、レオンさんだ」
「ヒカリ、なんの話だ?」
「コロシアムの王子様の初試合前にクラウドさんが戦ってたの偶然通りかかって見たんですよ。その理由を聞きたくて」
さっきのミッキーから聞いたと言う設定から早くも話が変わったヒカリにクラウドはまたしてもスルーした。それよりも別のことに反論する。
「だから、人違いだと言っているんだ。一瞬、俺の探している男にも見えたから……」
「え~~女だと思っていたら男⁉ ところでミッキーってどっちなのか分かる? 知りたい?」
「そういえば、興味深い。ヒカリは知っているんだな」
レオンが興味深い表情でヒカリを見る。
「それはもちろん、たまに一緒にいますから。初めて出会ったのはトラヴァースタウンだよ」
これ見よがしに他人のふりをするヒカリにクラウドは咳払いをして話を変えた。もしかしたらむせるの間違いかもしれない。
「俺は、あいつを探しているんだ。セフィロスに」
「なんだと……世界最強と呼ばれている剣士か」
「レオンさんも知ってるの? その、セフィロス」
「名前だけな」
「それと、ミッキーが。ポニテの女の人に?」
「セフィロスは銀の長髪と長い刀だと聞く。ポニテの女?」
ヒカリの発言にわけがわからないレオン。
クラウドは険しい顔をして言った。
「あの時はいろいろと迷惑かけた。先走りすぎた、とミッキーには後で誤っておく」
「なんだかいろいろと悩んでいた時期だったわね。みんなが見ても根暗モード全開だったもんね」
「根暗か、はは……そうだな。俺が初めて誘った時は素通りだったからな」
「そうだったのレオン⁉」
「トラヴァースタウンで出会った時、あてがないならコロシアムはどうだと聞いたんだ。まさか俺より先に試合に出ていたなんてな」
「へぇー、レオンが初めに誘ってたなんて、知らなかった。もしかしてユフィから聞いたけどこの前はその話してたんだ」
「ユフィから聞いたのか。ご名答。ハートレスの調査と銘打っているが腕試しも兼ねている。それにミッキーのような強者にも出会える。もちろん今回はソラ達とヒカリ達も同様だ」
「うん、そうだね。私も負けないよ!」
レオンにミッキーと同じように言われて少し誇らしい気分になる。
「この際一つ聞くがヒカリはなんのために出場するんだ?」
レオンがふと気になって質問するとヒカリはありったけのわくわくをこめて答えた。
「もちろん私も腕試しだよ! あと、ひとつだけ言うなら――」
「言う、なら?」
レオンとクラウドの声がかぶった。
「いっちばんってかっこいいじゃない!」
満面の笑みで自分よりも背の低い年下の少女が言う。
その笑顔は、レオンに言わせれば『私以外一番なんてありえない』と言い張る強い女性のような。
クラウドに言わせれば『私の王子様が一番かっこいい』と言い張る幼い少女のようにも見える。
「そ……そう、だな。女は強し、だな」
女性への偏見だと言い聞かせながらも、この小さな悪魔(予定)に少なからずの危機感を抱いた青年二人であった。
「そろそろ時間だな。ヒカリ、ユフィはコロシアムのロビーで待っているぞ」
「うん。その約束だったもん。クラウドさんとレオンさん、貴重な瞑想時間をありがとう」
「瞑想どころじゃない、危機感しか持てない時間だった」
クラウドがずばり言うもんだから大笑い。
「あはは……お腹痛い!」
「おたがい手加減なしだ、ヒカリ」
「うん、わかったレオン! ユフィもそう言うよ」
そう言ってかけていく少女をあとにして、
「さて、俺達も行くか」
レオンがこの上なくシリアスに表情が変わる。
「周りのコイツラを片づけたらな」
クラウドが更に表情を固くして周りに潜むハートレスたちを見渡す。
「この量を見るに、ヒカリはコロシアムに無事にたどり着けるだろうか?」
「レオン、何を言ってるかわからないな」
バスターソードを握るクラウド。
それが戦闘の合図だった。
「あいつの次に強い女はあいつだ」
戦闘の合間、クラウドの見据える先では遠くだが輝く光が数発見えた。